評価p 書名 著者 出版社
★★★★★ 川の深さは 福井晴敏 講談社文庫
 福井晴敏さんの作品、もしどれか一冊というならこれできまりです。
 「才能」かつ「ワンパターン」の作家です。が、ワンパターンだからと言ってもつまらない訳じゃない。華奢で超人的戦闘能力をもつ主人公(保)と人情味あふれる中年(本作の場合は桃山)は他著でも類似のパターン。でもどれも、ワンパターンを承知で読んでいくと男泣きに泣けてしまっている自分がいるのです。
 僕の場合は幸運にも処女作である本作のハードカバーが最初でした。何の先入観もなしにこれを読めたのはラッキーだった。
 少女を護る「使命」のためにひたむきに戦う主人公と彼を支える桃山とのやりとりはじわじわと読者の感情を揺さぶっていきます。さらに(好き嫌いや評価がわかれるでしょうが)膨大な兵器の知識に支えられたアクションシーンのリアリティがさらに物語に迫真性を与えて、やくざの事務所に一人で乗り込んでいくとか「ムチャな」話をしっかりと読ませてくれます。
 そして思いやり深い中年男が魅力的に思われる瞬間がやってきます。
 多少の変化球はありますが、「使命のために戦う(華奢な超人)」と「迫真の戦闘」と「中年の人情」が福井作品の本質です。この三つのアジェンダは現代に結実したヒロイズムの到達点です。読めばきっと分かってもらえると思います。男心を揺さぶる黄金律といってよいでしょう。(そう、どれもあまり女性に理解されない作品なんじゃないかなとよく思います。男心のGスポットは突けるけど...。そういえば直木賞を逃したときに林真理子さんに「才能は認めるけど好きになれない」とか言われてました。)
 その中で敢えて本作を薦める理由も書かせてください。もちろんこれがディテールの雰囲気も含めて最高傑作だと思っているのですが、分析すると次のような理由が想起されます。
 @主人公の戦う理由が、少女を護るという感性でわかりやすいモノでよくハートに響く。
 (他のは主人公の動機つけがちょっと不十分だったり、陰謀を働く悪者の論理、主張がむちゃくちゃだったりする。)
 A福井作品の中で比較的短い。他著のように長い導入部がない。
  (亡国のイージスの導入部は僕はあまり苦じゃなかったですが。むしろあれがうまく効果だしてたような印象あります。)
 Bグソーとかアポトーシスという福井アイテムがでてこない。
  (まだ初めての方は福井作品にハマるといずれ分かります。「ターンAガンダム」にまでグソーかよって僕はちょっとあきれています。)
 福井作品がはじめての方!この本です。女性も読んで欲しいな。男ってものが解ります。
 処女作が最高というのは失礼と思いますが、戦う動機は国家でなく人間のサイズの方がいいです。ちなみに上のBは福井作品の唯一の欠点。作品は一期一会だと思います。
 僕の付けた福井作品順位表
 @川の深さは   A亡国のイージス  B終戦のローレライ CターンAガンダム DTwelveY.O.
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