評価p | 書名 | 著者 | 出版社 |
★★★★★ | 重力ピエロ | 伊坂幸太郎 | 新潮社 |
直木賞決まるとオール讀物で選評を読むことにしています。石田衣良さんらが決まったとき、選外にもれたところで伊坂幸太郎さんと宇江佐真理さんに対する評価が興味深かったので手にとって見ました。 「石田衣良さんよりいいんじゃない?」=僕の感想です。 主人公の弟の雰囲気がとても好感です。題材をみれば犯罪小説なのですが、そんなカテゴリに入れられません。とても現代的でしゃれている小説だと思います。 本の帯にキャッチで書いてあるように本当に新しいタイプの小説なのかどうかわかりません。なんとなくですが、村上春樹小説を最初読んだときみたいな感覚を呼び戻されました。(これをいうとある種の友達にぼこぼこにされることあるんですが、でも、僕には、村上春樹さんってあんまり合わなかったんですよね。なーんか鼻につくんだよな。いやーなインテリぶった雰囲気を...。ファン多いからやめときます。)僕の感覚でいって、伊坂幸太郎さんが決定的に違うのは、難しい話が入っていても、読みやすく話しの筋に関係ない四方山知識的な会話がないこと。すなわちすべて話の伏線になっている。思いっきり正攻法で書き抜いているように感じます。 重力ピエロは読み味の軽快さ(文章の読みやすさというべきか)に比べてテーマは重いです。 末期がんのお父さん、お母さんがレイプされて生まれた弟、遺伝子関連のベンチャー企業に勤める主人公、下手な人が書くと屁理屈がぽこぽこ出てきてうんざりしそうな遺伝コードの話(リングにありましたねA/T/C/Gコドン)、英単語の落書き、などなどが事件を追っかける重要なカギになってます。 結構難しいストーリーなのかなと思いながら、追っかけていくと最後にうまく絡み合って話がつながるところは圧巻です。変な予定調和のどたばた話よりずんとハートにきます。話しの筋の見えない前半は、上手に満遍なく伏線が張られています。理屈がたんたんと語られていく様子は単純に面白い読み物として、まるで切れのよい短編小説のオムニバスのように読者を引っ張っていってくれる。重力ピエロが鼻につくという人はあまりいないでしょう。 主人公「泉水(いずみ)」のように割と普通の人間を狂言回しに用いたのが成功してるんでしょうね。父の違ういわくつきのその弟は思いっきり変わり者なんだけど、主人公からも、父からも愛されているし、死んでしまった母からも愛されている。それが良くわかるので、現代風の軽い語り口でも軽薄じゃないし、かといってまったりと醜い重厚な文章に陥っているわけでもない。テーマと文体の絶妙なバランスが本作の魅力だと思います。 著者はしたたかにも、作品中に「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ。」と弟に言わせます。クライマックスともいうべき主人公と弟の事件の清算のシーンでもこのことばが甦りますが、その深刻さとシーンの軽快さが本当にしゃれていると思います。 この作品は映画に出来ないでしょう。小説として読まないとここまでは面白くないです。ある程度色んな小説読みあさった人の方が感動できるんじゃないでしょうか? 他の書評でもさんざんほめられているのでいまさらという感じです。あんまり売れてる本は皆が忘れたときに「忘れてた..」の書評コーナーにだそうかなと思ったのですが、ひょっとして、身近な友達とあの本よかったよねと話せたらなと思ってupしました。 こういう小説を楽しめる感性は持ちつづけたいものですね。きれいな話だと思います。 伊坂さんの本って、実はこれしか読んだこと無かったです。「カカシの話...つまんなそ。」とか思って買いませんでした。でもデビュー作から遡って読んで見ることにします。まだ一作しか読んでないのでとても言い切れませんが、優しさと鼻につかないおしゃれさを感じます。 ちなみに石田いらさんを嫌いなわけじゃないです。「4TEEN」より、「娼年」の方が好きですね。(あのときもご本人は相当、直木賞意識して書いたと思いますが...。)最近、少年心理の専門家みたいな感じで新聞に石田さんの文章のりますけど、僕は違和感ありますね。 「娼年」を読んだときはこの人って絶対いつか直木賞取ると思いました。あれを超える作品でとって欲しかった。 |