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★★★★★ 妖櫻記(上・下) 皆川 博子 文春文庫
 皆川博子さん。本当にすごい作家だと思ってます。長編で是非押さえておいて欲しいのが本作です。
 舞台は南北朝時代。ものすごい色んな人が出てきてます。まずは将軍足利義教を謀殺する悪徳矮躯の大名、赤松満祐(小三尺)。のっけから、陰謀をめぐらす小人のような悪役大名にすっかり幻惑されます。そして小三尺にすっかり魅了されている美女、野分御前。それに付き従う従者もかっこいい。そして神器は本物をついだ南朝の正統後継の阿麻丸が主人公(なのかな?)です。(書いてて相当複雑な気がしてきた。まだまだ出てきます。)ものすごい密度で人物が絡み合う。どの人物も一生懸命生きていて、不思議な魔性の出来事に人生を左右されます。
 さて、野分御前は小三尺の愛妾である玉琴が子供を身ごもったことを知って殺してしまいます。玉琴の頭蓋骨は真言立川流(もう絶滅した宗教です。本作を読むか、図書館で調べよう。おもろいよ。)のこじき坊主に呪詛されて、ご本尊として死霊の霊力を持ち、野分の娘、櫻姫を襲います。それと野分の従者と阿麻丸らが戦います。壮絶な冒険たっぷりの物語を終えて、最後に阿麻丸と櫻姫が神器を持って生き残ります。
 皆川さんの小説はどれもお奨めです。ですがデビューが遅かったせいか、はたまた一作一作凄すぎるせいかあまり長編がありません。妖櫻記と同系統なら「戦国幻野:講談社(今川義元とか山本勘助なんかがでてきます。勘助をこんな風に扱うのは他の人にはできないでしょう。)」とか「瀧夜叉:文春文庫(こちらは平将門から安部晴明くらいまでを扱ってます。もっとも陰明師はそのライバルの方に焦点あたってますが。)」なんてのもお奨め。手を抜いてる作品が一個もないので気合がいりますがどれも無駄なく伏線がはられ、ストーリーが縦横無尽に展開されます。敢えてどれといえば妖櫻記かな。
 長編で外国扱ったものに「死の泉」とか「冬の旅人」というのがあります。これらだったら「死の泉かな」。これはどこか別のところでご案内しましょう。(<=すごいです。)
 皆川博子さんの小説の特徴は登場人物たちが運命に絡め取られていくやるせなさがとてもリアルにかかれていること。そのやるせなさが美学のようなものに昇華されている。一昔前だと、赤江爆さんなんかに似ていると思います。ですが、赤江爆さんよりも女性的で繊細な雰囲気を感じ取れます。あとテーマがいろいろあって京都一本やりの赤江爆さんより、空想を遠くにぶっ飛ばしてくれます。赤江さんにハマレタ人ならますますお奨めです。
 ところで一つだけ恥ずかしい告白。(みなさんは大丈夫かも。)皆川さんの小説って、難しい言葉がごく自然に使われていてなんとも言えない雰囲気を醸します。雰囲気はつたわるんでさらっと読むのもいいです。それはある意味魅力になってます。・・・・ですが気になっちゃって、僕は辞書引いて内容確認したところがあります。小林秀雄と彼女の本は辞書ひいて読むことにしてます。例えば「烏鷺」って碁のことってわかります?それとか「一カ(あー「カ」の漢字でてこない。JIS第3水準だぞ。これ。)の鞠」ってそういう数え方したことあります? 手持ちの辞書に意味載ってなくて国語辞典を買いなおしちゃいました。お嫁さんに「無駄遣いすんな」って怒られましたが。。。。。
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