評価p | 書名 | 著者 | 出版社 |
★★★★★ | 慟哭 | 貫井 徳郎 | 創元推理文庫 |
鮎川哲也賞だそうです。これも本格ミステリなのかな。でもいいです。いまでもまだ平積みで本屋にあります。いずれ古典になるでしょう。貫井さんも近々直木賞かなんかにノミネートされるかもしれないです。実力派ですね。間違いなく。 例えジュニア小説でもその世界観でのリアルな世界に引きずり込んで欲しい。僕は常々そう思ってます。その意味で僕は本格推理と言われるものに特に抵抗を感じやすい人間です。「リアリティとか、人間のドラマみたいなのが欠落して、殺人などの犯罪が描かれる」そういう印象をもっています。しかし、予想に反してこの作品の描く人物像はまっとうな人も異常人物もなかなかのリアルさです。 連続幼女殺人事件を追う切れ者の刑事と新興宗教にのめり込んでいく異常な人物の話が交互に繰り広げられます。己に厳しく、部下に煙たがられる刑事とじわじわと宗教の怪しげな教義に絡め取られていく異常な人物がとてもリアルです。 「本格」を謎解き小説と簡潔に割り切れば、ちょっとカテゴリと離れるのではないかと思います。本作は謎が何なのか見抜く小説です。そして小説が醸し出すリアリティは人間らしいドラマを形づくっています。普通「本格」というと謎解きにばかり走ってドラマがおろそかになりがちと思われるでしょうが、これは本物のドラマです。鮎川哲也賞ってやっぱりわかんない。本格って何? でも、こういう作品を持ち上げるのは好きです。募集要項の書き方要検討ですね。 本格だろうがなんだろうが人間が書かれて無いと小説でないです。それがまっとうな人間でも、悪人でも、異常な人間でも構わないですが、リアルな人間が小説の唯一の素材です。そして最後はタイトルどおりの慟哭です。熱い感情が伝わってくる名作だと思います。 ところで、まんなかあたりの「娘を返してくれ。」が利いています。終わりくらいで話のからくりがはっきりわかると著者のストーリーテリングの素晴らしさに舌を巻くことでしょう。(前半で僕なんとなくネタわかっちゃいました。でも話が合わないなと思ったけど。)とにかくお奨めです。 |