評価p 書名 著者 出版社
★★★★★ 屍鬼 小野 不由美 新潮文庫
 いつも昔読んだものばかり紹介しています。たまに読みたてのほやほやをご紹介です。作品の発表年は古いですが。
 長く緻密な村の描写をじっくり読んでいくと、事件がおきます。いつの間にか「タルイ」小説が途中で止められない小説になっていました。おかげで週の中日に徹夜ブッコいてしまいました。
 厚手の文庫で5分冊なのですが、ある日第3巻を会社の通勤時にもっていって朝読み始め、ビルにつく途中に人を気配で交わしながら読み歩いて、帰りの電車で400ページくらいまで読んでいました。(今、長期出張先が自宅から電車通勤25分と短いので驚異的です。)帰宅した日はそのまま明け方まで一気に4巻と5巻を片付けてしまいました。ひさしぶりにハマレました。
 ひょっとしたら今でもまだどこかにあるかも知れないそんな田舎の村がでてきます。限りなく田舎のその村に、個性的な村人がたくさんいます。彼らは納得のいく自然さで丁寧に描写されています。子供から大人まで一緒に暮らしている家族がちょっといがみ合っていたり、こんな村嫌だから外の都会に出たいと切実に願う少年がいたりします。その村でショッキングな事件が起こり、村人たちはポツリポツリと死んでいって物語が加速していきます。
 あまりネタをばらしたくないのですが村が事件に巻き込まれていく過程が丁寧に描写されているのがいいですね。(覚えきれないくらい)たくさんの登場人物が一人づつじっくり死んでいく。だんだんと異常に気づく人たち、冒頭から繰り返される「村は死によって包囲されている。」のフレーズが作品の雰囲気を格調高く構築していってるように思えます。
 登場人物のキャラも面白いですね。お坊さんとお医者さんが事件に挑むのですが、どちらも知恵者で格好いいです。僕はお医者さんの方が好きですが、世の中にはお坊さんにヒロイズム感じる人が多いかもしれません。
 ちょっと長すぎるなとも思うのが残念です。ホラーは短いほうが怖いように思えるのですが、最近のはどれも長編ですね。
 本作では怪物(未読の方のためにそう言っておきます)たちの社会のようなものが結構詳細にかかれているのがマイナスのようにも思います。怖いものは不可解で身近でないものだという印象がありますから。怪異が謎に包まれている前半部分と後半とのギャップがあります。でもそういう残念さを感じつつも前半でじっくり世界にはまっているので後半になったら読むのをやめられなかったです。いずれにせよ傑作なのだと思います。
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