評価p 書名 著者 出版社
★★★★★ 秘密 東野 圭吾 文春文庫
 このコーナで褒めちぎりまくったある本があります。その書評を書いたときには、この本「秘密」の存在を知りませんでした。ある人(←どうも知人じゃないらしい。)からこの「秘密」とネタが同じ(かぶる)という指摘を受けました。メールで指摘されて早速読んだのでした。あー恥ずかしい。ほんとうだ。ネタがかぶる位のこと言っておくべきだった。取りこぼしている本がたくさんあることを露呈させてます。本作は98年の大ヒットらしいですね。
 文春文庫版の巻末解説に我が尊師、皆川博子 大先生となぜか広末涼子ちゃんが寄稿している。ヒロスエちゃん、ワセダを一芸入試&中退で六本木でホストどもと遊びまくってたアナタ(←内緒、みちゃった。スーパーフリーとかろくなことないなアソコ。)がなぜ大皆川先生の前座を勤めるのじゃ? 俺にも許されてない幸せじゃぞ。 ・・・と奇妙に思い読むと・・・。何と、「広末涼子の主演で映画化されてた。」だぁー全然しらんかった。
 僕はちょっと心配になるほど東野圭吾さんのこととその作品を知らなかった(すみません)。「ひがしの」じゃなく、「とーの」とか平気で呼んでたし・・・(しかも白昼堂々本屋で友達と・・・。)。おまけに冒頭に述べたようにこの「秘密」とネタのかぶる某作品の書評では、この作品まったく知らなかったので(後発の方を)褒めちぎりまくったし。まあ、いいや、その本が傑作であることに変わらないし、この「秘密」も傑作です。ネタの料理方法は相当違うので、もう一作の方が盗作だと言う人がいたとしても無視です。僕はあの作品も擁護しますし、本作「秘密」もすばらしいと思います。皆さんに両方とも勧めます。僕が★5つつけたら何が起ころうと面白いと信じてるものです。評価は変えません。誹謗中傷を受けようとも・・・。
 さて本作、主人公とその奥さんの奇妙な生活が書かれます。「もう一度、人生がやり直せたら・・・」社会人になったら、脳内にやたら響く悲しい言葉。奥さんの身(いや身ではないのか、心か?)にはからずもそれが起こってしまう。小学生の算数の文章題を解くのが覚束ない奥さんが、もう一度青春をまっしぐらに突っ走るチャンスを得てしまいます。夫婦の間にどうしようもなく埋められない隙間も生じてしまう。お互いの嫉妬や逡巡。盗聴。裏切りの一歩手前。・・・。脳裏に展開する場面から目が離せません。忙しいのに一気に読んでしまいました。(あああ、なんてことしてしまったんだ。あの仕事を終えないと殺される・・・とその穴埋めを命削ってやりました。)
 接触が絶たれた関係で、人を好きで居続けるって難しいですね。主人公も奥さんも悪くない・・・(と僕は思いました)でもどうしようもなく悲しくて哀れな決心と別れがラストに訪れる。僕がオトコだから、主人公にとても感情移入できるのだと思いますが、はつらつと生きる奥さんが可愛らしいとも素直に思います。だからこそ主人公の悲しさも痛いほど伝わる。男は脆い存在だ。ホンマに可愛そう。いい人なのに・・・。他の終わりはなかったのかと思いつつも、これ以上に印象的な終わり方のない着地点。小説のラストのカタルシスは(←煮え切らないってことのつもり。)一種の美学みたいなものを感じます。
 嫉妬って生々しいですね。本作では他人がやったとしたらゾッとするようなことが、「そうなってしまうのもしょうもないよね。」と思わさせられるように書かれてます。嫉妬は愛の本質かもしれんなどとアホなことを考えながら本作の叙述が描き出すシーンを眺めとりました。でも、主人公に同情するな。(僕だったらそこまでなったら風俗のシーンのとこで一発やるか、別れるなぁ。だのに主人公が潔癖だから、小説になるんだな。うん。)
 正直なところ、読後感はネタかぶりと言われてしまった作品の方が圧倒的にさわやかで良いのです。が、本作「秘密」の方がしたたかに心に根を張っています。(これだけ印象が別ならネタかぶったりしてもいいじゃんと思いましたが、新人のデビューでは許されないでしょうね。不勉強の露呈ですから。厳しい。)
 ネタの肝は「秘密」の方が早く出てきます。読後感はこっちの方が(ちょっとわるい)後味が残ります。話題になる傑作なのは良くわかります。誰が読んでもそう思うでしょう。東野圭吾さんか、マークしておこう。本格ミステリの人かと思ってたのでそのうち読もうと無視してました。他の作品の袋帯など見ると、もろ自分の好みのストーリーですね。不勉強ですみません。(こるぁ、誰にあやまっとんじゃ、おどれ。)
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