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★★★★★ 神のふたつの貌 貫井徳朗 文春文庫
 のっけから、ぞっとする行動でびっくりさせてくれる牧師の息子「早乙女」。ページが進むにつれて案外まともなところもあるように感じられます。
 父も本人もその子もちょっと異常。牧師として周囲の人たちの尊敬を勝ち得ているのにここ一番のときにとんでもない犯罪をこともなげに犯します。しかも、とても大切な人に対して・・・。
 「慟哭」以来、ちょこちょこと読ませてもらいましたが、やはりこの人はこういうおどろおどろしい人がでてくる作品で光ります。「慟哭」もそうでしたが、異常な人間(と周囲の人が思うであろう人間)を案外当たり前に描写して不自然さを感じさせないのが凄い。前に引っかかったトリックに何度でも引っ掛けられるのもストーリィ・テリングの達者さです。(僕は今回すっかりだまされました。)
 「神の存在を確かめたい。」早乙女少年は仲の悪い両親とその母の不遇な死から、その思いを強めていきます。牧師である父よりも尊敬し、敬愛する青年から「死も、喜びも、不幸も神によって予定されている」そういう言葉を聴かされ悩みます。(ならばこの青年を高みから突き落とせば彼は従容として黄泉への旅路へつくのか・・・。)と思ったか、「どん」とやってほくそ笑む。彼はおそるべき冷酷さと同時にとても豊かな思いやりを併せ持っています。
 神学というものはあまり興味なかったのですが、この本読んでちょっと興味出てきました。人生あらゆる問題の答えが聖書にあるとは一切思いませんが、そう信じて悩む牧師たちは物語になりえるなあと思います。
 じわじわとわけの分からない異常な世界に巻き込まれ、ああ一杯食わされたと思わされる本書は貫井さんならではの逸品です。
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