評価p 書名 著者 出版社
★★★★★ 象られた力 飛浩隆 早川書房
 SFマガジンを80−90年代に読んでいた人でこの「飛浩隆」さんの作品が載った号が忘れられない人が多いのではないでしょうか?最近長編を書き始めた人ですが短篇で他の人が決して真似のできない作風で佳作をいくつか残されています。
 本書「象(かたど)られた力」は表題作の他3作を集めた好短編集。僕の場合はこの中の「デュオ」という作品を10年以上前にSFマガジンで読んで完全にその世界の虜にされてしまいました。
 収録されている作品のモチーフをさっと並べますと・・・。
 ・「デュオ」:テレパスのシャム双生児の天才ピアニストと調律師の話。(もうちょっとネタばれさあせたいがここは書けないな。)音楽で霊魂を殺す・・・という驚愕のプロットにつながる傑作。「名無し」って存在がすごいGood。
 ・「呪界のほとり」:内宇宙と外宇宙とでもいうべき二つの世界が交錯する話。内宇宙にあたる「呪界」から、肩にドラゴンを乗せた男がやってくる。外宇宙(僕らの宇宙に近い感じ)に世捨て人のようにすまう老哲学者と男が出会う話。
 ・「夜と泥の」:未来に人間が地球をでて他の惑星を「地球化(テラフォーミング)」している。ある星で、とうにこの世の者でない天才科学者の娘が毎年春分の日だけ現れては消える現象が起こる。・・・
 ・「象られた力」:消滅してしまった文明の残した図形をめぐる話。図形はとても意味を持っていて、その図を見ると世界にとんでもない異変が起こりうる・・という話。

 とにかくどれも荒唐無稽かつ美しい。舞台が通常の人間社会なのでデュオが一番すっと入る話かもしれませんが、この荒唐無稽な話を読ませきる筆力はすごい。惚れ惚れします。このSFが読みたい・・・とかで絶賛されていましたが、この作品だけは狼少年でなく、本当の傑作と思います。
 SFはその作品世界の構築から始まるセンスオブワンダーの文学。いずれも短い作品なのにこれだけ重厚なしかも別々の世界を作り上げてしまうところは天才的です。もし「いまさらSFなんて・・・」と思う人は(やっぱり駄目かもしれませんが)、少し偏見すてて本書のデュオだけでも読んで見ません? 受け皿が広がったら他の3つも面白いと思うけどな。お勧めですよ。
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