評価p | 書名 | 著者 | 出版社 |
★★★★★ | 天使 | 佐藤亜紀 | 文春文庫 |
昔、新潮からファンタジーノベル大賞で出た人だったとおもいます。「バルダザールの遍歴」、「モンティニーの狼男爵」、「鏡の園」、「1809」。どれも硬派の小説でヨーロッパの文化や文物に通じてないと絶対に書けない独特の作風をお持ちの方です。 すごくとっつきにくい感じもしてたのですが、これらの作品では、狂言回しというか少しおしゃべりの登場人物から説明めいたものが得られていたのです。で何とか状況つかめる感じで読めていたのですが、今回の「天使」はある意味読者を突放しまくって作品の舞台がどんな時代場所なのか、登場人物がどうやら一種のエスパーらしいといういうことも途中まで読まないと全くつかめません。 ただ異能者に生まれついた主人公に密着した視点でどんどんと進む物語に舞台の説明が必要かというとそうでもなく、読者はただついていくだけで孤独なエスパーの戦いが迫真のスリルで味わえるわけです。 「セルビアで皇太子様が暗殺されます。」とかボリシェビキに関する記述で1900年代初頭にオーストリアで国際諜報活動を行ったエスパー集団がいた・・・という設定とわかります。主人公ジョルジュは行き先に応じてゲオルグ、ゲオロギーと名を変えて、方々に潜伏し、裏切りをして友を失ったり・・・とすったもんだがあるんですがその雰囲気を味わうには別に19××年のどこそこの情報は確かにいらない。むしろジョルジュの内面を描きつくすこの書き方がいい味だと思います。 以前の作風をずっと突き詰めるとこの文体になったんですね。品格ある堂々とした作風で余人に書けない凄い硬派の文学です。SF?なのかもしれませんが、ちょっとこれまでにない雰囲気。女性の方がこういう文学をすきかも知れません。ジョルジュ萌えとかする人でてくるんじゃないでしょうか? かっこいいんでお奨めです。 |