評価p 書名 著者 出版社
★★★ 心は量子で語れるか ロジャー・ペンローズ 講談社(ブルーバックス)
 ブルーバックスの割にはちょっと難しいかもしれませんが、理系の人でなくてもなんとか読めると思います。量子力学にはファインマン積分という手法で理論を展開する考え方がありますが、このスタイルでも理解していた人にはより興味深いでしょう。でもこの本を眺めるのに必須の知識だとは思いません。
 本書は勇気ある著作だと思います。物理学の道具で精神の問題に切り込もういうのですから。★3つにしたのは正しいのかどうかわからないからです。でもひょっとしたらすごい本かもと思います。本書の紹介前に、まずはこれまでの勇気ある提案をあげます。
 アインシュタインの特殊相対性理論が提出される前、世の中にエーテルという物質が満ち満ちているという学説がまことしやかに語られていました。アインシュタインの革命によって、エーテルは物理学の論壇から完全に駆逐され、いまではファイナルファンタジーの魔力回復アイテムにまで落ちぶれてしまいました。
 コペルニクスが地球が太陽のまわりを真円上に回っているといったときも、(正確には楕円でしたが、)天動説がまことしやかに語られていました。
 ダーウィンだって、進化論を教会に逆らって唱えました。「ご先祖がお猿さんだということですが、それはあなたのおじいさんですかそれともひいおじいさんですか」と手紙で皮肉られたということです。
 物理学者や数学者が精神の問題にへたに切り込むのは、自殺行為です。真実であろうがなかろうが本当に新しいことをいうのは勇気が要ります。アインシュタインくらいですかね。すごいとすぐ認められたのは。でも既存概念がエーテルなんていかがわしいものだったから、ああもうまく行ったとも思います。(いきなり理論が完璧だったのも理由でしょうが。)
 著者ロジャー・ペンローズはフィールズ賞とった有名な数学者でスティーブン・ホーキングと共同研究をしていたこともあります。(この本の中でホーキングは単なる批判者として登場します。)
 ペンローズは相対論と量子力学をさっとおさらいして、量子力学に対する科学者の立場をいくつかに分けます。量子力学を信じている人、物理にまじめでまだ量子力学を信じてない(反対している)人、・・・。こういわれると僕は信じている人です。あまりまじめに考えた人じゃないです。
 彼が客観的収縮と呼んでいるものが人間の脳や何かで起きているかどうかわかりません。が、超伝導みたいな量子力学的な現象として起こり得ると思いますし、光の速さを超えて情報が非局所的に伝わるとか、非決定論的な特徴とか「心」を扱う未来の物理学が量子力学に変わるものとして生まれてくるのかもしれないと思います。量子力学をまじめに構築しなおせばそういう成果があるかもしれないと思わせるところは立派です。
 ひょっとしたら、100年位経ってから、ものすごい評価されるのかもしれませんね。今は興味本位で眺めておくしかありませんが。
 ペンローズは類書を幾つか出しています。
  • 皇帝の新しい心/みすず書房
  • 心の影/みすず書房
 日本にも影響されてクオリアなんていう概念を提唱している人がいますが、ペンローズの方がやっぱり緻密ですね。脳の方に思考を持っていくんじゃなくて物理学をまじめに考える方が近道かもしれません。
 心が自然科学のまな板に乗るのはずっとさきだと思います。いつか乗るような気にさせてくれるペンローズさんはえらい。的を得ていたかどうか別として後の歴史が必ず評価してくれるでしょう。人文科学へのアプローチとしてコペルニクス的展開を成し遂げたとかなんとか言われるでしょう。
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