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★★★★★ プライシング戦略 トーマス・T・ネイゲル,リード・K・ホールデン  (訳)株式会社ヘッドストロング・ジャパン ピアソンエデュケーション・ジャパン社
 すばらしい本ですね。儲かってないSIerとか、ITベンダーの経営者にこれを読ませて横っ面をひっぱたいてやりたいです。(我が社、インテンシアジャパンの経営者どもかもしれませんが・・・。)
 マーケティングの本でよく読まれているのはコトラーさんの本だと思います。マーケの基本事項はそこに書いてあるとして、(高い本なので)図書館から借りて読んでもいいし、別途、解説本や図解本で「これがコトラーのマーケティング理論だ」みたいな本がたくさんでてるのでそれで勉強するべきでしょう。そして、みなさんコトラーで満足しちゃってるかもしれません。ですが、僕はこっちの方がマーケティングの初心者でも、すぐによめて、効果が大きい戦略が埋もれているように思います。
 価格を決定すること(プライシング)は会社の構造づくりと無縁ではいけない。いわれてみるとごもっともなお話ですがなかなかできてない会社多いですよね。自社が必要とするコストをもって上乗せする値決めは結局だめだと本書は説きます。高額なワープロ専用機がPCワープロソフトに駆逐された歴史を示してそれを思い知らしてくれます。
 「お客が認める価値−売価」。これが顧客に提供した価値だ。そういう言葉を聞いたことがありました。この本を読むとそれを思い出します。たいていの場合、その売価は企業が思っているよりはるかに低い。そう感じました。
 本書が取り上げる例に昔、スポーツ車がとても高級で手が出なかった頃、見かけだけがかっこいい車でエンジンとかの内部パーツが(技術者からみると)物足りない車が安価で馬鹿売れしたという話があります。これはパーツを手抜きしたのじゃなくて、顧客が認める「外観」という価値のみにコストの重点を絞ったのだという論法のようです。僕はまったくただしいと思います。翻って今まで自分の売って来た物があれでよかったのだろうかと悩みます。
 僕はERPというソフトウェア製品を販売するためのプレゼンテーションを本業としています。ですが、このERPは、「どこの会社でも使えるように」多機能で重厚なデータベースを持っています。ですが、もっとも多く機能を使うお客さんでも会社全体ですら、その15%も活用しないのではないかと思います。
 いってみれば残り85%以上は「余計な物」のように思うのです。また使ってもらっているたかだか15%の部分もお客が要求することの何%をカバーできているか怪しいのです。日本の市場になんとなく頓珍漢な外資系のソフトウェアを持ってきても売れません。市場を見つめてほしがられているものを安価にしないと売れないのです。
 多くの顧客に共通の機能だと信じている製品であっても時とともに市場が変化しますし、市場が国境を越えると通用しないかもしれません。そもそも万人向けの「出来上がっているもの売る」という考えは「お客さまが欲しいものを売る」という基本からは外れているように思います。
 まったく新しいものは市場が欲しがっているなら売れるでしょう。ではじめのWindows95しかり、ではじめの携帯電話しかり。出揃ってくると携帯電話も差別化して、値下げして競争になり、競争に負けた会社が市場から追い出されるわけです。
 「お客が認める価値−売価」。この原理から行くと、お客の欲しいという要望を聞いて価値を維持するか、より良いものを提示してより高く価値を認めてもらわねば、自社のコストがナンボになろうと売価を下げるしかないのです。これが分かってほしくて色々会社にモノを言ってきたのですがだめですね。でも本書を読んで僕の信ずるところは正しかったと確信できました。
 本書は自分の都合でリスクをとってコスト計算をして、利益を上乗せするいわゆる「貢献利益ベースの価格決定」をすばり否定します。それどころか、会社全体で採算が取れている状態が確保できていたら、単品では貢献利益割ってでも売れる廉価品を増発してさらに稼げ(スチューデント・ラッシュ)と発破をかけます。要は一品一品の単価決めではだめだというのです。(もっとも沢山の品物を扱えなければ、差別化を図るしかないので結局ニッチ戦略になるのでしょうが・・・)。
 ケーススタディの事例はいちいち数字つきの例でどっかのへなちょこコンサルティングファームが入社面接でやるような児戯に等しいものとは一線を隔しています。(数字の出てこないケーススタディは単なるとんち問答ですね。担当者の思いつきで茶飲み話されてしまう。経営力養成には数字です。)
 ある有名戦略コンサルファームの米国人パートナーが出している本に「何か質問されたら、「それには3つの理由が考えられます・・・」とまず答えて、その後3つ考えながら答えなさい。」(MECEとか言うそうです。)とわけのわからんことを言ってました。こんなとんち坊主どものコンサルティングがなんで売れるのかよくわかりません。そこいくと顧客にとっての価値の把握から、全社の問題としての価格決定、それに向けた会社の体制づくりと筆を進める本書は本質を感じさせます。
 経営の本質は「価値を届けたものが生き残る」それだけです。価値を見出す顧客層なのか、価値のある商品・サービスなのか、売値が下がったのか。自社のリソースでベストのポートフォリオを組む。細かな業務改善はその下に展開されるものしかありえません。それに尽きると本書から学びました。
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