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★★★★ 新規開拓のためのIT営業プロセスマネジメント 川嶋 謙 日経BP
 岡山のパソコンショップから経営のコンサルティングができるまでに成長した会社の物語です。この著者が創業者ですが、経営に対して頑固に守り通してきたポリシーと確かな着眼点に脱帽します。僕もこんな会社を作ってみたい。
 この本に出てくるアスクラボ社は20年前はNEC系のパソコンショップだったそうです。借入金をゼロにするという目標と長期の成長をにらんで、いくつかのルールを立てたそうです。
 いまでは当たり前ですが、パソコンの在庫を減らすために先入れ先だしの仕組みとして古いPCを前におき、新しいのを後ろにおくとか、2週間かかって出していた決算を締め日一日ででるようにするとかまずインフラを整え、会社の状態を透明化するところからはじめます。(笑っちゃうかもしれませんが、小さなお客さんや関連のIT会社が今でもこれできてないことあります。赤字だとコンペに入れないのでうその予算を上げて見通しを黒くして、なにかの受注コンペのあと、年末期末に化けのカワがはがれる会社だってあります。工業製品の質はさておき、日本はまだまだ後進国なんじゃないかと耳疑うような話たくさん聞きました。)
 そして、偉大だと思うのはその当時はパソコンおいて設定してくるだけで月に7−80万円の稼ぎになる下請けを受けられる商売が存在していたようですが、この下請けを一切やらなかったのだそうです。そんな仕事すぐに需要なくなるし、何より従業員の付加価値が上がらないと判断したようです。
 また、仕事してない部長職たちの経営における負担を冷静に見極められたようです。かなり初期からソリューション営業のようなことを指向して、大手のハード・ソフト見積もりには含まれない投資効果の試算を持ち込んで販路を拡大してきたようです。
 その頃SE35歳定年説というのがまことしやかに言われていたようです。パソコン設置してくるだけの仕事が35超のビジネスマンの収入を支えるのに適当な価格で折り合うはずも無い。鋭敏に見抜かれた川嶋さんは40歳くらいでソリューション提案ができる業務コンサルタント化するようにビジネスモデルを構築しはじめます。会社と周囲の環境をにらみ十年二十年の計で組織を盛り上げていくのはオーケストラの指揮者のごとき構築の業。
 付加価値を生み出さないものは決して市場から歓迎されることはない。この当たり前の真言をじっくりかみ締めて経営のかじとりをされてきたのが分かります。「財務の知識がコンサルティングに必須。」「営業にノルマ課してアウトプットを管理するだけでは結局実現性のない予算立てて経営が不透明化する。」など・・・
 経験に裏打ちされた、そういう人にしか書けない話がたくさん書かれています。これは経営戦略の本なんぼよんでも得られない真実です。僕も実感として知っています。ビジネスの世界では本当の情報がしっかりとれるまでの仕組みづくりの段階を得て、きっちりと市場に価値を訴求していく段階があるのです。システム導入なんてとくにその辺が難しい。在庫滞留などはっきりわかる業務停滞の指標がないから、ばたばた人が動くと本当に価値を生み出している人が誰だか分からないことあるんです。ITの会社で外部からTOPが来ると特に混乱するでしょう。だれのやってることも理解できないですから。
 経営って、長い航海なんですね。理論で割り切れないものがたくさんあると思いました。この本は現実を教えてくれているように思います。
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