「ことえり」のネーミングの由来

源氏物語/帚木
雨夜の品定め(理想の女性像について)

まだ純朴な源氏の中将に、五月雨のなか頭の中将を中心とする好き者が「女性論」なるものを展開するのです。このシーンは「雨夜の品定め」として名高いです。千年経っても「男と女」の関係は変わらず、そしていつの世も男の会話の行き着く果ては変わらず。

(原文)左馬の頭の論、良妻難の説より
…されど、なにか、世のありさまを見給へ集むるまゝに、心に及ばず、いとゆかし事もなきや。君だちの上なき御選びには、ましていかばかりの人かはたらひ給はむ。
 かたちきたなげなく若やかなるほどの、おのがじゝは塵もつかじと身をもてなし、文を書けど、おほどかに言選りをし、墨つきほのかに、心もとなく思はせつゝ、またさやかにも見てしがな、とすべなく待たせ、わづかなる声聞くばかり言い寄れど、息のしたにひきいれ、言少ななるが、いとよくもてかくすなりけり。

(訳文)
 しかし、なんですな、夫婦というものをいろいろ見てまいりましたが、想像を絶した羨ましい限り、というのもありませんな。若様がたの最高のご選択には、ましてどれほどの方が及第なさいましょうやら。
 容貌も悪くなく、若々しい年ごろで、本人は塵もつかぬように注意し、手紙を書いても上品な言い廻しをして、墨色もかすかに、男に気をもたせて、次にははっきりした所を見たいものだと、じらすほど待たせ、ようやく一言二言を聞く程度に近づいても、息より細い声で言い、言葉数も少ない、そういうのがたいそううまく難点をかくすものですね。
(引用はすべて角川文庫「源氏物語第一巻」)

ここで原文に「言選り(ことえり)」と言う単語が出てきます。Macintoshの「ことえり」はここから来ています。意味は「言い廻し」。「その割には使えないじゃないか!?」という声が聞こえてきそうですが、事実、基本辞書に登録されている単語数が絶対的に足りません。しかし、登録可能品詞は27もあるのです。「普通名詞」「サ変名詞」「人名」「地名」「形容詞」「形容動詞」「数字列接尾語」「無品詞」の8つは鉛筆メニューの「単語登録」から登録できますが、辞書ツールを使えばこの他に名詞では「その他の固有名詞」、動詞は活用別に一段動詞」「サ変動詞」「ザ変動詞」「カ行五段」「ガ行五段」「サ行五段」「タ行五段」「バ行五段」「マ行五段」「ワ行五段」、活用のない単語では「連体詞」「副詞」「接続詞」「感動詞」、その他「数字列接頭語」「組織名接尾語」「人名接尾語」「地名接尾語」

これらを駆使して登録単語を増やせば「おほどかに言選り」ができるのです。山葵辞書は特に「組織名接尾語」「副詞」「各種活用動詞」に力点を置いています。

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