Schizopharenia(295.xx)

 それまで早発性痴呆や精神分裂病と呼ばれていたが、2002年に「統合失調症」と改名された。「症」ということはその症状は一過性のもので、治るものであるということだ。しかし、改名したからと言ってどうとなるものでもなく、厄介な病であることに変わりはない。近年の向精神薬の発達によりこの比率はかなり変わっているとは思われるが、統計的に見て全患者数の1/3は治療を施すまでもなく自然治癒し、1/3は薬を飲みながらなら日常生活を送れるほどに快復し、1/3は一生を病院で暮らすことになる、と言われている。統合失調症が精神医学に与えた影響は計り知れない。それはこの病気の研究をする学者が多いことからもわかる。精神分析においては、Freudはこの病気の治療を諦めたと言われているが、後に続く分析家たちは積極的に治療に取り組んだ。その成果はSechehayの症例ルネ、Schwingのシュビング接近、Klein派の業績、などに見ることが出来る。

【診断基準】

A.特徴的症状:以下のうち2つ(またはそれ以上)、おのおのは、1ヶ月の期間(治療が成功した場合はより短い)ほとんどいつも存在:

注:妄想が奇異なものであったり、幻聴がその人の行動や思考を逐一説明するか、または2つ以上の声が互いに会話しているようなものであるときには基準Aの症状を一つ満たすだけでよい。
B.社会的または職業的機能の低下:障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能が以前に獲得していた水準より著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)
C.期間:障害の持続的な徴候が少なくとも6ヶ月間存在する。この6ヶ月の期間には、基準Aを満たす各症状(すなわち、活動期の症状)は少なくとも1ヶ月(または、治療が成功した場合はより短い)存在しなければならないが、前駆期または残遺期の期間では、障害の徴候は陰性症状のみか、もしくは基準Aにあげられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例:風変わりな信念、異常な知覚体験)で表されることがある。
D.分裂感情障害と気分障害の除外:分裂感情障害と「気分障害、精神病性の特徴を伴うもの」が以下の理由で除外されていること

E.物質や一般身体疾患の除外:障害は物質(例:乱用薬物、投薬)または一般身体疾患の直接的な生理学的作用によるものではない。
F.広汎性発達障害との関係:自閉性障害や他の広汎性発達障害の既往歴があれば、統合失調症の追加診断は、顕著な幻覚や妄想が少なくとも1ヶ月(または、治療が成功した場合は、より短い)存在する場合のみ与えられる。

 


妄想型(295.30)

以下の各基準を満たす精神分裂病の一病型:

A.1つ、またはそれ以上の妄想、または頻繁に起こる幻聴にとらわれていること
B.以下のどれも顕著ではない:解体した会話、解体したまたは緊張病性の行動、平板化したまたは不適切な感情


解体型(295.10)

以下の各基準を満たす精神分裂病の一病型:

A.以下のすべてが顕著に見られる。

B.緊張型の基準を満たさない。

 


緊張型(295.20)

以下の少なくとも2つが優勢である臨床像をもつ統合失調症の一病型:

(1)カタプレシー(鑞屈症を含む)または昏迷として示される無動症
(2)廉の運動活動性(明らかに無目的で外的刺激に影響されないもの)
(3)極度の拒絶症(あらゆる指示に対する明らかに動機のない抵抗、あるいは動かそうとする試みに対する硬直した姿勢の保持)あるいは無言症
(4)姿勢(意図的に不適切または奇異な姿勢をとること)、常同運動、顕著な衒奇症、顕著なしかめ面などとして示される自発運動の奇妙さ
(5)反響言語または反響動作


鑑別不能型(295.90)

基準Aを満たす症状が存在するが、妄想型、解体型、緊張型の基準は満たさない統合失調症の一病型


残遺型(295.60)

以下の基準を満たす統合失調症の一病型:

A.顕著な妄想、幻覚、解体した会話、ひどく解体したまたは緊張病性の行動の欠如
B.陰性症状の存在、または統合失調症の基準Aの症状が2つ以上、弱められた形(例:風変わりな信念、普通ではない知覚体験)で存在することによって示される障害の持続的証拠がある。

 

【病因】

 Freudはその病因を退行であると考えた。対象との関わりを持った段階から、自体愛期への退行である。そしてその過程で撤収されたリビドーは外界から自我へと撤収され、再備給されるというのである。これが二次ナルシズムの状態である。Freudはこの欠損モデルを述べつつも、精神病は自我と外界の葛藤であるとも考えた。つまり精神病とは現実を否認し、改変するものであるという考えである。
 これに対しFedernは異論を唱え、自我心理学的統合失調症理解の記念碑的体系を確立した。統合失調症の患者は自我備給が欠乏しており、自我機能が弱化し前意識の機能が障害されているとする。この自我備給の欠乏には自我備給そのものの障害と、自我備給の分配障害のに種類があり、前者の場合には「疾患としての精神分裂病」、後者の場合には「症候群としての精神分裂病」と考えられ。備給の欠如によりesからの無秩序な表象に対しての二次過程的な逆備給が働かず、内的自我境界が脆弱化する。また自我の末梢感覚器官として働くべき外的自我境界も障害され、外部と内部との区別が不鮮明となる。Federnはこのような自我境界のエネルギー備給の喪失により生ずる特徴として、@思考(観念)と対象の識別力の障害、A思考(観念)の誤った現実性の獲得、B判断や推理の誤った確信(確信性)の獲得、C一般化された誤った確信が行動を特徴づけること、を挙げた。そしてFedrenの統合失調症へ考えは次の言葉に集約されている「あらゆる精神分裂病の症例は、現実喪失とともに発症するのではなく、誤りの現実に関する観念の創造(観念と現実が未分化になって精神的産物の形成)およびそれらの産物の現実への混合とともに発症するのである」
 Mahlarは母子間の適切な関係がこの自我境界を形作ると考えたが、それに失敗し融合願望と解体の恐怖に患者はさらされているとした。
 Sullivanは対人関係論の立場から統合失調症を考えた。発達早期の母親との関係において、不適切な対応を受けた乳幼児は欲求が満たされず不安にさいなまれる。その体験は、その時は意識から分離されるが、それが消えずに残っている。統合失調症の発症はその時の解離した自己が再現されたものであるという。
 前述の通り統合失調症の研究を最も積極的に行い、業績をあげたのはKlein派の分析家たちである。Kleinは統合失調症の起源を生後3〜4ヶ月の「妄想・分裂ポジション」に求めた。そこに患者は退行し、あらゆる対象関係において分裂、投影同一化、迫害不安、絶滅の不安、などを働かせていると考えた。