ごがつのそら。二次創作ショートショート
〜しちがつのあまずっぱいできごと。〜



 ――7月。みのりと再会し、曲がりなりにも「恋人同士」となってから一ヶ月強が過ぎた。

 ……にもかかわらず。俺達はまだ一度たりとも"デート"なるものを体験していなかった。

 いや、別にうまくいってないとか、忙しくて時間的にすれ違いが、とかそういう話じゃない。

 まぁ、確かにあの頃に比べたら俺は休日出勤という日もある。だが、基本的に俺達は週末はいつも一緒にいる。

 そう、俺達が出会い、別れ、再会した、神明神社に。

 ……もったいぶった言い方の後で申し訳ないが、とどのつまり。

 俺、溝口春樹と神明みのりの関係は、実質去年の5月とあまり変わっていないのである。

 ……先に認めておこう。男の俺から誘わない非は充分理解している。まして年上。

 もちろん男女平等を否定する気は無いし、こと恋愛において年齢と優劣は必ずしも比例しないのは承知の上だが、それでもこの調子では男が、否、“漢”がすたる。

 しかし弁解の余地を頂きたい。週末は常に、みのりは仮にもアルバイト中だ。そのアルバイトとは、神明神社の巫女。たとえアルバイトでも巫女は巫女だ。神社の管理を無視してむやみに連れ回すわけにもいくまい。

 ……いや。くだらない言い訳はよそう。みのりが特別な行事の日を除いて「神社の管理」にあまり関わっていないのは今更言うまでもない、というか言ったらみのりの手刀あたりが飛んできそうだ。……逆にさらりと認めて流す可能性もあるが。

 まぁ、冗談はさておき。正直なところ、みのりと"恋人同士"として何処かへ遊びに行く、というイメージが浮かびにくいのだ。

 話を持ち掛けようにも、行く当てのヴィジョンが浮かばないのである。

 俺達はいつも神社の拝殿前の石段で語り合い、時折ピアノの音色に耳を傾けてきた。それが俺達のスタンスであり、起源だからだ。

 そして「他人以上、友達未満の恋人」という、独特の距離感と確かな信頼を持つがゆえに、こんな関係が永久(とこしえ)に続いていくかのような錯覚に至る。

 ……だが。それに縛られていては進展などあり得ない。この一歩は些細なようでいて、これからの二人の未来を左右する重大な一歩なのだ。それはもう、アポロ11号から月面へと踏み出す一歩のように!

 と、いうわけで。

「みのり。何処かへ出掛けないか?」

「ん? お茶うけでも買いに行くの?」



 ずず〜。



 風流の名の元にわざわざポリエチレンテレフタレートボトルから湯飲みに移された緑茶をすすりながら、みのりがきょとんとして答える。そういえば今日のお茶うけの黒糖かりんとうは既に食べ尽くしていたなって

「ち が う ! そうじゃなくてだな、その……まったりもいいんだが、あ〜……その、たまには普通のカップルが遊びに行くような所にだな……」

 むぅ、不意打ちボケで勢いが削がれてしまったじゃないか。

「まぁ、要は一般的なデートの誘いなわけだが……ってどうした、みのり?」

 みのりは呆気にとられたというか、ぽかんとした目を俺に向けている。

「……でぇと? 溝口さんと、私が?」

「他に誰がいる?」

「いや、まぁそうなんだけど、う〜ん……」

 眉を寄せて考えこみ始めたみのりを見て、朧な不安が首をもたげる。あまり乗り気ではないのだろうか。

「……別に気が乗らないなら……」

「ち、違う違う! 行くのは大賛成なんだよ?」

 俺が思わず弱気な発言をしかけた所で、みのりはハッとしたような顔をするや否や俺に急接近してそう言っ……

 って。こ、これわ……! かつて造物主の怒りに触れ、封印されたと伝えられている……


 “ラヴァーズ・ディスタンス”!?


 不味い。この状況は実にマズイ。このままでは造物主が俺を刺しに……!!

「だからね、別に嫌だとかじゃなくてね……」

 根が真面目ゆえに、なおも一生懸命に弁解するみのり。

 というか近い、近いんですよみのりサン。こんなに頬に吐息がかかったり肩にぬくもりを感じたりしたら……。

 ……たとえ造物主に逆らおうと、この幸せを噛み締めたいと思ってしまうじゃないか。

「……あ! や、やだ私ってば!」

 ようやく自分の密着ぶりに気付き、真っ赤になって飛びすさるように離れるみのり。

 ……少し残念だが、照れるみのりも可愛

 ……いや、このあたりで止めておこう。造物主に限らず数千数万の高次生命体の方々の怒りを買いそうだ。

 ……言ってる意味がわからない? 安心してくれ。俺自身まったく理解不能だ。どうも動揺しすぎたらしい。

 そのまま微妙にギクシャクした空気が流れる。

 落ち着かないが、居心地が悪いかというとそうとも言えない、気恥ずかしさだけが万物を支配しているような空間。

 ……が、みのりが赤い顔でこちらをちらちら見ながら言った次の一言で一切の懸念は消失し、同時にこの少女に対する一層の親近感を得ることとなった。

「……こほん。だ、だから、デート行くの自体は大賛成なんだよ? ……でも、さ。溝口さんとデートって、なぁ〜んかヴィジョンが浮かばないんだよね。……神社でまったりするのに慣れすぎちゃったかな?」

 ――ぶるぅたす、おまえもか――

 そんな名ゼリフを浮かべてしまった夏の土曜日の午後だった。厳密にはこの状況とはニュアンスが違うのだが。

 ……そういえば、俺がはじめに「どこか行かないか」と言ったとき、みのりは珍しく音を立ててお茶を飲んだな。

 実は最初から気付いていて、最初から照れ隠しでとぼけたのかもしれない。

 ……ああ、駄目だ。にやけてしょうがない。



 議論を重ねた結果、無難に映画鑑賞ということになった。善は急げで日時は明日。

 突然のバイト巫女のサボり……もとい、休暇申請にも、水穂さんは理由を話したら快く了承してくれた。

 ……ちょっとばかり茶化されたが。

 あのタイミング・言葉選び・表情・声色全てが“嫌味を感じさせず、ひたすら照れを刺激する”絶妙なバランスで調和した茶化しかた……あの人はタダ者じゃない。



 さて、そんなわけで日曜日。俺はとある映画館前で約束の時間を待っていた。こういう絵に描いたような待ち合わせもデートのうちだ、とのみのりの言葉によるものだ。形式美というやつか。

 いつもは俺が神社に行くとみのりがいる、というのがほとんどなので、待つというのはなかなか新鮮だった。

 ……肝心のデート内容だが、それは企業秘密ということでひとつ。

 『みのりが何故か巫女服で現れたり、映画を見ながら一つのジュースを交代で飲んだり、何故か去年五月に会社を辞めた俺の同期が銀幕スタァとして登場しててドキモを抜かれたり()』したかもしれない、とだけ言っておこう。


 了。

(※むきりょくかん。絵版過去ログNo.28ひらりまんとさんの投稿参照)


 

あまずっぱくないあとがき。

   ↓造物主でばーーさん(現 吉村 麻之さん)
    _, ,_  パーン
 ( ‘д‘)
   ⊂彡☆))Д´) ←Crus-Ade


   ↓造物主ジャムる?さん
    _, ,_  パーン
 ( ‘д‘)
   ⊂彡☆))Д´) ←Crus-Ade


   ↓ひらりまんとさん
    _, ,_  パーン
 ( ‘д‘)
   ⊂彡☆))Д´) ←Crus-Ade


  ↓溝口さんにとっての高次生命体の方々(みのりんファンの方々)
     パーン _, ,_  パーン
 パーン_, ,_  ( ・д・)  _, ,_パーン
   ( ・д・) U☆ミ (・д・ )
    ⊂彡☆))Д´) ☆ミ⊃  パーン  ←Crus-Ade(中央)
     , ,∩彡☆ ☆ミ∩, ,
   (   )  パーン (   )
  パーン      パーン


「大胆みのりん」にインスパイアされ、勢いだけで書きました。とりあえずごめんなさい(ぇ
(詳細は"むきりょくかん。"『ごがつのそら。1周年記念イベント』の元参加者専用ページ設定資料集参照)

 最初は本文通り7月まで公開を待とうかとも思いましたが、元ネタページへのリンクが目に付きやすい位置にあるうちのほうがいいと思い公開を早めました。

 しかしみのりんはあくまで純情っ子なので、大胆みのりんではパラレルワールドになってしまいます。なので代わりの理由をつけました。少々無理があるかもしれませんが。

 水穂さんに妙なキャラ付けをしたのもノリです(何)。

 終わり方が少々強引なのは、本当は長めの話のプロローグとして作った試作ネタを骨組みにしたからだとは遅筆ゆえに口が裂けても言えません。期待しないでください(何)。

 最後に、このショートショートを書くきっかけを作ってくださった吉村 麻之さん(旧名でばーーさん)、ジャムる?さん、ひらりまんとさんに感謝いたします。



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