初めて部屋を借りた話 先日、部屋探しのために何件かの不動産屋を巡ったのだけれど 部屋を借りるどころか不動産屋に入ることさえ初めての経験だったので、右も左も分からず困ってしまった。 前もって相場や気を付けるべき要素についてはネットで一通り情報収集してからいったけれど 同時に検索結果には、本当に良い物件は出し渋るとか、アテにならなかった販売員の話とか、 騙された体験談なんかもたくさん出てきて 「自分はそういう外れに引っかかるまい」とがちがちに心理武装してから臨んだ。 そうして不動産屋を回るうち「ああ、これは冒険者を探す依頼人の気分にとても近いな」と、ひとりで納得した。 自分はいま、荒くれ者のたむろする宿の門を叩く依頼人なんだ。 今までの人生順調に厄介ごとから縁遠い生活を送って来たはずなのに 自力で解決できない厄介ごとを抱え、それを見ず知らずの荒事のプロに託すしかない。 しかし、報酬を吹っかけられやしないか、この人たちは信用に足る人物だろうか、 運悪く騙された人の話も聞く、自分の問題は解決するだろうか……等々。 依頼人はそんな不信不安や心細さを感じているに違いない。 依頼人と冒険者が茶呑み友達のような、もっとライトな世界設定のシナリオもあるけれど 敢えてこれぐらいドライな関係にしてしまうことで、見えてくる光景はずいぶんと違ってくる。 少なくとも依頼人の描写を深める機会には十分なるだろう。 ところで、私はそうやって数日かけて数件を回った後にある店を再訪したのだが その際前回私を担当した人は出払っており、その上司らしき男性が私にこう言った。 「××はまだ若いけど、この辺の不動産屋でも抜群に物件に詳しくて、  自分も教えてもらうことがあるくらいだから、お任せいただいてきっと大丈夫ですよ」 きっと宿の亭主も、若い冒険者を斡旋するときそう言うのだろう。 「あいつらはまだ若いが、ここらの宿の冒険者じゃ一番の有望株だ。  お嬢さん、あんたの依頼もまず間違いないさ」 時にはその言葉に実力が追いついていないこともあるだろうが それは依頼人を騙そうと悪気あってのことではなく 亭主なりに仕事の円滑な進行を願ってのセールストークに違いない。 そう考えると、まあ少しはその大風呂敷も許してやろうかという気になる。 2013/03/31