アダルト・チルドレンの叫び  第14回  完璧でない魅力  今年元日、「炎のチャレンジャー」を見た人はどのくらいいるだろう か。実はその番組で現デトロイト・タイガースの木田優夫投手がものす ごい(?)カタコト英語で苦労していた。それに対して他の出演者はほ めこそすれけなしはしなかった。  私はそれを見てとても気が楽になった。なんだ、あれでも外国で生活 できるのかと思った。というのは、完璧主義を押しつけられて育った私 にとっては旅立つ前にはしっかりと英語を勉強して・・・としか思いつ かないからだ。そんなことしなくても、なんとかやっていけるんだなと いう見本になった。加えて、それであざ笑われはしないということも。  また、1年近く前の話だが、長野オリンピックのスキージャンプ競技 を覚えている人は多いと思う。ではその団体の4人の中で一番好きなの は誰だろう。この質問をすると、おそらく一番多い答えは原田雅彦選手 だろう。それが私にはすごく救いになる。  私は原田選手の気持ちがとてもよくわかる。完璧を要求されると、か えって失敗してしまうのだ。「なるようになるさ」と考えると、楽にな って失敗しなくなる。悪いが、これは同じジャンプ団体でも船木選手に はわかりにくい感情だと思う。なぜなら、彼は冷静沈着であることが魅 力だからだ。よほどのプレッシャーがかからないと緊張して失敗するこ とはないだろう。  船木選手のように冷静沈着な魅力もあるが、原田選手のような完璧で ない魅力もある。それを私は無視していたのではないだろうか。  無理もない。私は冷静沈着な魅力しか知らなかった。親が船木選手タ イプだからだ。しかも自分の子供は自分と同じ性格だろうと勝手に決め つけてしまう。したがって、完璧を要求されてつぶれるという悲劇が起 こるのだ。自分は完璧を要求されてもつぶれない。だからつぶれやしな いだろうと思ってしまうのだ。  しかし、原田は船木にはなれない。なる必要もない。違う魅力がある からだ。にもかかわらず私は冷静沈着を要求された。つぶれて当然だろ う。そのせいで失ったものはたくさんある。それはこれまでずいぶん書 いてきた。  たとえば、何か失敗するとすぐ「自分には価値がない」と思い込んで しまうクセだ。それに対して親はすぐ「考えるな」と言うが、そう言っ たって思い込みの原因を作っておいて何を言うと思ってしまう。それは おいといても、考えるなんて止めようがない。いかに考えを切り替える かのほうがよほど重要なことなのだ。瞬間的に考えを切り替えられれば それでいいのだから。落ち込んだって、はいあがればいいだけの話だ。 失敗したら、反省して繰り返さなければいい。何があろうと、虐待して はいけない。ましてや人の価値をなくすようなことはもってのほかだ。  「家事ができない」という悩みだって、つっこんでみると家庭のかな り病的な部分が現れてくる。原因は大きく分けて三つある。  一つは、「家事は男のためにつくすもの」という変な考えがあること だ。あんな身勝手な男どもにつくして、何が楽しいんだって思ってしま う。ほんとに身勝手なんだもの。というより、母親が勝手に世話をつく して身勝手にしてしまっている感じ。他の人がやろうと思う前に、やっ てしまっている。だからやりたくてもできない。  二つめは、先程も少し書いたが、やろうとするとすぐ手を出したり、 うまくできないと「どうせ、あんたにはできないんだから」と言ったり するのである。そして、ぶつぶつ言いながらやったりすると「そんなら やんなくていいっ!!」と怒鳴られたりするのである。これでは、積極 的にできなくなって当たり前である。その上、「なんでやってくれない んだろうね」と言われるのだからたまらない。どこかの本に書いてあっ た最悪のパターンである。過干渉で積極的にできなくなってしまった子 供に、今度は頭ごなしに叱り付けるという。ひたすら叱られ続けるから、 余計できなくなってしまうのである。  最後の一つは、家事最中の母親のものすごいグチである。何を言って いるかはなぜか記憶にないのだが、そばで他のことをするのが悪いこと のように思えるのである。私がしているんだから、あんたもしなさい。 でも、都合があるときだってあるのに。  「完璧でなくてもよい」などというアファメーションの言葉が、今ま でよりすっと心に入る最近の私である。