アダルト・チルドレンの叫び  第15回  身体の傷と心の傷  あれは1月13日のことだった。湯たんぽに足をつけたまま寝てしま い、その場所がジリジリと痛みだした。すぐに低温やけどと気づき、親 が止めるのも無視して病院へ駆け込んだ。おそらく適切な判断だったと 思う。その証拠に、2月初め頃には完治した。風呂が大好きな私にとっ ては短い治療期間はとてもありがたかった(注:やけどの場合熱湯は厳 禁である)。完治してから風呂に全身つかった時の感動は忘れられない。  実は、湯たんぽの低温やけどは初経験ではない。前に患った時、親は 10カ月も病院に連れて行かなかった。当然、化膿してなかなか治らず ひどい目にあった。まあ、それはいいがそんな経験があったにもかかわ らず病院へ行くのを止める神経がわからない。病院へ行ったとき第2度 のやけどと診断されただろうが。第1度ならともかく、第2度以上なら 病院行きだと思う(いや、思うを通り越して真実である)。低温やけど は見かけによらず傷は深いんだから。  …と、身体の傷に関しては親が不適当な方法をとっておかしくなった 経験はこれくらいである。しかもこの場合、仮に同じ経験をもう1度や ったりしたら今度は病院行きを止めないであろう。  ところが、心の傷となるとそうはいかない。不適切な方法ばかりで、 適切な方法をとった経験の方がはるかに少ない。ないに等しいと言って もいいかもしれない。あったとしても、私が覚えていない小さいころの 話だったりする。私の記憶がはっきりしているころには、傷を癒された どころか広げられた記憶しかない。  先程の低温やけどの例を使うと、10カ月たってからでも病院に連れ て行っただけまだいい。心の傷に関しては、病院行きを邪魔され、医者 の指示には従わず、化膿した傷をますますひどくするようなことばかり しているのである。低温やけどは見かけがどうであれたいてい深い傷だ が、私の心の傷もそうである。にもかかわらず親は見かけだけで勝手に 判断し、自己流の方法でなおさら悪化させたりするのである。ちょうど やけどにはみそやしょうゆを塗るとかいった、昔の方法のように(こう いう方法はかえって化膿のもとになる)。  おそらく生まれもったものだと思うが、私の自尊心ははっきりいって デリケートである。にもかかわらず、学校に行くようになってからは教 師やクラスメートたちから自尊心を傷つけるようなことをたくさんされ た。ほんとに、ほんとにたくさんされた。向こうは忠告のつもりだった らしいが、それでいじめるなんてのは忠告の度を越えている。しかも私 にはわからないのも多かった。私にとって、「皆がこうしているんだか ら…」といった類の忠告は理解できない。だからどうだっていうのとし か思わない。これは前に書いたエニアグラムからすぐ出てくる。という ことは、似たような人が必ず他にいるはずだということになる。それで も、理解できない私は責められた。何も悪いことはしていないのに、悪 者にされた。クラスメートだけなら許すが教師まで同じことをするあり さまである。当然私は学校でデリケートな自尊心をガタガタにされて家 に帰っていくことになる。  それだけなら、まだ良い。もっと嫌だったのは、家に帰ってまで親が 同じことをやることである。やはり「皆がこうしているんだから…」と いった類の私には理解できない忠告をして、理解できなければ怒鳴る嫌 みを言う卑下する(私のほうを)殴る蹴る…のひどさである。しかも私 には弟がいる。ここまでひどいと、弟が知らず知らずのうちに私を馬鹿 に思ってしまう。そうして家庭は私を否定する雰囲気に包まれ、私の自 尊心はますますガタガタになる。  それでどうしようもなくなり、外のどこかで「家庭は地獄だ」なんて 言えばガタガタに責められる。体裁が悪いから外で家の悪口を言うなと いうのである。親はそうせざるをえないほど追い込まれているというこ とをまず理解していない。私のためを思って言った忠告が実は理解でき ず、それがものすごく悪いことのように責められたという追い込まれた 理由はもっと理解していない。  親はすぐ「あんたのためを思って言ったのに…」という言葉を使う。 しかし、理解できない忠告は押し付けでしかない。理解できないのをな ぜ責めたのか。理解できなければ社会で生きていけないと思ったからで ある。しかし、もう少し違った言い方をしてほしかった。私にとって、 「皆がこうしているんだから…」という言葉ほど理解できない言葉はな い。悲しいことにそんな私を親は、受け入れられなかったのだ。