アダルト・チルドレンの叫び  第22回  親の適性試験  私はかって、こんな言葉を聞いたことがある。  「親であることは一つの重要な職業だ。しかしいまだかって、子供の ために、この職業の適性検査が行われたことはない。」 (ショー/イギリスの劇作家)  そう言われれば就職の時の適性試験というのはよくあるが、親の適性 試験というのは聞いたことがない。いま親子関係についての本を書く人 はたくさんいるが、親の適性試験を作る人はいない。もしそういうのが あったら、不幸な家庭の親などはことごとく落第になってしまいそうだ。 私の両親あたりも落第点になりそうである。  まず私の両親は自分の性格・価値観を押し付けようとする。それだけ ならまだしも、そういう性格・価値観でなければ生きていけないように 言い、ところかまわず責め立てるのはたまらない。ただ私は器用な(?) ことに本やらテレビやらあちこちからいろいろな人の考えを拾ってきて、 しまいにはどこぞの野球選手の応援にはまって自分の生まれ持った性格 ・価値観を肯定してしまったのでそこで影響が止まって済んでしまった。 しかし、自分の持って生まれた性格・価値観を強く否定し続けられたダ メージは思ったより相当大きく、今もその後遺症に悩まされている。特 にただ性格・価値観が違うがために父親に身体的・精神的暴力を受け、 それを母親が否定しなかったことに対するダメージは大きい。  それに、子供が生まれるということは新しい人格を迎えることだとい う自覚が両親にあったのかどうか相当疑わしい。もちろん、自覚があっ てもそれを実行に移すことは難しい。それでも自覚があれば子供にはそ の、新しい人格を迎えようという一生懸命さは伝わる。まあ私の両親の 場合、おそらくその気はなかったのだが出会ってきた人間の幅が狭く、 しかも子供というのは親と性格・価値観が同じか似たようなものだとい う妙な先入観があったため自覚の持ちようがなかったのであろうが。  あと嫌だったのが、私がまだ幼いころから、子供は聞きたくないよう なさまざまな愚痴を聞かされたことである。例えば近所の奥さんに関す る悪口を聞かされたことがある。それが原因で近所付き合いとはうっと うしいものだという先入観念ができあがってしまった。また歯科医につ いて「ここはヤブ」「あそこはヤブ」という悪い評判だけを聞かされ、 怖くて10年も歯科医に行けなかったことがある。結局このことは私が 歯に激痛が走ったときに自分のカンで良く合った歯科医に駆け込み、多 額の治療費がかかったが良い歯科医にきちんと治してもらえたからまあ よかったが。一番たちが悪いのは、子供なら良くあるような失敗を私が したときの親の愚痴である。そりゃ大変だろうが、そんなつらい思いは どこの親でも経験するだろうから、親同士で愚痴り合えばいいのである。 しまいには母親が「私はこんなに苦労しているのに、あんたは…」とい う言い方をするからたまらない。家事に関しても「だれも私みたいには できないでしょう、ふふふ」という態度をする。…どう考えても、子供 や若い人が主婦歴の長い母親のようにできる訳がないじゃないか。何で そんなことで責められなきゃならないんだ!!  …と、ここまで書いてきたが、正直言うとこれまでのことは何とか許 せる。親の方だって初めてゆえいろいろ失敗があるだろうと思うからだ。 一番許せないのは、その失敗を認めないことである。  両親に反発してあちこちから自分の性格・価値観を作りあげた(ごく 普通のことだと思うのだが…)私に対して両親は殴ったり蹴ったり責め 続けたりという虐待を繰り返し、そのせいで弟は両親の性格・価値観を ほぼそのまま受け入れ、そうでない私を馬鹿にして虐待をするようにな ったという感覚がないことである。父親が暴力的なので、弟から受ける 虐待はひどいものがある。ところが両親はその事実を否定するのだ。  まあ私のような自我が強い人間ならば、落第点の親に育てられても何 とかなるだろう。つまり家庭が不幸だからといって、その子供が不幸に なるとは限らないのだ。親の適性試験がない理由はそこにあるのかもし れない。しかし問題は、私の弟である。親の価値観を疑わずに成人して しまい、視野も狭く家庭の病的な部分にまったく気づいていない。そん な病的な家庭を疑問もなく受け継いでいくことを考えるとぞっとする。 父親の悪い点を疑いもなく受け継ぎ、母親をいつまでも頼り続け…とも かく私は、今までの経験を生かして良い点だけを受け継ごうと思ってい るが。