アダルト・チルドレンの叫び  第5回  尽くさない家事とは  休日の朝というのは正直言ってゆううつです。それはなぜかというと、 母親が朝ごはんも食べずに家事を始めるからです。そして2〜3時間く らいやってます。なぜかというと、わがままな男どもがそれを望むから です。母親は毎日疲れ切った顔で家事をしていました。少なくとも私に はそう見えました。それがいやなのです。私には真似できないからです。 私が同じことをしたら、おなかがすいてふらふらになってしまうことで しょう。しかし母親にそれを言っても相手にしてくれません。  結局同じことをしてほしいのです。苦しみのうちにやらなければなら ないという自分と同じ不幸を味わってほしいのです。身勝手な男どもの 世話をしてほしいのです。自分で作った家族なのに、人に責任を押し付 けたいのです。これでは母親と同じ道をおしつけられてしまう。そう思 ったときから、家事がほとんどできなくなりました。そのときから、 「家事」というと、暗く、片寄った連想ばかりが出てくるようになって しまったのです。  そんな矢先、予想もつかなかった言葉が私の耳に入ってきました。  「家事はリハビリよ」 つまり、精神的に悪い状態から立ち上がるときに、家事はよい治療にな る、自分のためにすることだ、ということです。とりあえず、私の 「家事=虐待」というイメージをひっくりかえすには十分でした。そし て、家事を以前より抵抗なくすることができるようになりました。  ところが、だからといって母親がかわるわけではありません。悪い意 味で調子に乗るのです。何回も喜ばれたとき、私は思わず叫びたくなり ました。  「あんたのためにやってるんじゃない!」  それから、ほっとくとやはり自分のようなことを求める。例えば、ご 飯を食べている途中に洗濯機の水を止めなさいだとか。母親はこのよう なとき「ご飯くらい落ち着いて食べたい」とぶつぶつ言いながら、飛ん で行くのが常である。男どもなんて、人がご飯食べてようがなにしてよ うが、自分のやってもらいたいことは言い出すのが常だから。  私の場合、そんなことでイライラする位ならご飯中に洗濯したりしな い。正直な所、母親も本当はそうしたいのだろう。しかし夫と姑がああ いう人だからできなかったと、人のせいにして逃げるのである。そのく せ「人が選んだ男にけちつけるな」と言う。なら自分で選んだ男の責任 は自分で取るのが筋でしょうが。  かなり前に「尽くす女にはなりたくない」と言ったことがある。その とき母親が何と言ったか。「結婚できないね」と言ったのである。尽く す女になって結婚して娘に不幸を押し付けているのはどこの誰か。それ に時代錯誤だ。戦前の女じゃあるまいに(大正生まれの姑そのままだ)。 しかもこの言葉を人前で言うのである。許せなかった。まるで、尽くせ ない女は価値がないと言ってるのと一緒である。  つい最近同じことを聞いても、「それを認めてくれる男の人がいるか ね」という調子である。破鍋に綴蓋というではないか(通じないか。ど んな人にもふさわしい結婚相手はいるものだという意味です)。それに、 いつだったかテレビで誰かが「100万人の男にもてたって、1人とし か結婚できない」と言っていた。母親はこれに思いっきりうなずいてい たくせに、それが目の前の娘にも当てはまるのだということを忘れてい る。ちなみに、この前花王のCD−ROM倶楽部の「男と女の心理テス ト」というのがおもしろそうなのでやってみた(付録ソフトなのだが)。 「あなたは、まさにいい女。妖しい魅力を持っています。妖婦(ようふ) のように、周囲の男の心を片っ端から虜(とりこ)にして、あなたの魔 力で意のままに操っているのではないですか。あなたならねらった獲物 は逃がさないでしょう。」 というのが診断結果であった。すごくいいことが書いてあるが、結構当 たっているのが怖い。ところが父親ときたら、「おまえは相変わらず嫌 われてばかりいるんだろ」などとひどい発言。母親は「心配だからそう 言うのよ」と肩を持つ。それで母親は私の家事のあら捜しをする。ひど いことも言う。それも心配だからだと言う。しかし、「親心だから」何 をやっても許されるのか。「それは親であることに甘えている」と言っ た人がいるが、全くそのとおりだと思う。  あの親から、尽くさない家事を身につけ、旅立って行くことは本当に 大変です。私ならできると信じていますが。