TWO-OVER-ONE
by Eric Rodwell
道草なしの原則
2/1 GF 応答の一つの大きな利点は,ペアの間に十分な時間の余裕があり,それを使って,スラムを目指す強さがあるか/無いかを調べられる点にあります。ペアのどちらも,ゲームの代以下で ビッドがパスされる心配がありません。
それなら,2/1 応答の後で,どちらかがゲームにジャンプして,余分のビッド余地を使い果たすことがあるのは,なぜでしょうか ? これは "道草なしの原則" と関連します。 この興味深い (同時に議論の分かれる) 主題を見てみましょう。
1. 道草無しの原則 (Principle of Fast Arrival)
道草無しの基本的な指針は:
道草無しの原則
ペアが切り札のフィットを見つけて,ゲームの代を請け合った場合に:
・ さっさと ゲームをビッドするのは,スラムに関心が無いことを示す。
・ ゆっくりと ゲームに向かってビッドするのは,スラムへの関心を示す。
実際のところ,これは KISS
(Keep It Simple Sweetie, 「簡単にして頂戴」) の延長に
過ぎません。
どこ に
どの代 の ゲームが
あるかを知っていれば,間違いの起こらないうちに,さっさとそこへ行くべきです。"分かっている者が行く
!"
余計なビッドをせずに直ちにゲームに行けば,相手に与える情報が少ないという利点があります。相手側は 最善のオープニング・リードに ありつけないでしょうし, その後のディフェンスをうまくやるのも,難しいでしょう。さらにまた,締め出しの効果もあります。こちらが真っ直ぐにゲームにジャンプすれば,相手側はオーバー
コールやダブルにより オークションに参入するのが
一段と難しくなります。
こういう手の組み合わせを考えてみましょう:
(1) | West
| | A Q 10 8 7 5
| | A K 8
| | 8
| | J 8 4
|
| |
East
J 6 3
| 9 3
| K Q J 7 5
| K Q 6
|
| |
|
West が 1
オープンして,East の 2
が ゲームの代を保証します。West は 実は良い手なのですが,単にスペードを重ねてビッドして,スペードの 《長さ》を伝えます。 時間のゆとりがあるので,《強さ》の方は 後からでも示せます。
この時点で,East は
どこに ゲームがあるかを
知ります:スペードです。さらにまた, 2/1 GF をビッドする下限の手 (12 HCP + 1 LP = 13pts) なので,
どの代 かも
知ります:ゲームです。West が かなりの強さを持っているのでない限り,スラムは無さそうです。
道草なしの原則に従えば,East に遊んでいる暇はありません。道草せずに,ジャンプして,ゲームをビッドします。
一方 West は もっとビッドしたい気がしますが,East が 直にゲームにジャンプしてしまい,スラムに関心を示さなかったので 警戒します。これで 二人は うまく
ゲームに納まります。実際,この手に スラムのチャンスはありません。スペードのフィネスが
不成功なら,5
さえダウンします。
では 次に,East の手を強くしてみましょう。
(2) | West
| | A Q 10 8 7 5
| | A K 8
| | 8
| | J 8 4
|
| |
East
K 6 3
| 9 3
| A Q J 7 5
| K Q 6
|
| |
West | East
| 1 | 2
| 2 | 3
| 4 | 4NT
| 5 | 6
| Pass
|
|
オークションの始まりは同じですが,West の 2
に対して East は
ゆっくり法により 3
にしか上げません。なぜなら,ビッドが未だゲームの代に達していないので,West がパスしないことを知っているから安心なのです。East はコントラクトが
どこに あるかを知っています:スペードです。でも,
どの代 かは定かでありません。East は余分の強さを十分に持っているので,スラムの可能性があります。
East が 3
に上げると,West は喜んでスラム探しに協力します。West が 4
キュービッドして ハートの強みを示すと うまく進みます。以後のビッドは,スラム・ビッドにどういう取り決めをしているかに依りますが,ぴったりの 6
コントラクトに到達するでしょう。
もう 1 つ見てみましょう。
(3) | West
| | 8 3
| | A K 8 7 3
| | A 5
| | Q 10 7 4
|
| |
East
J 6
| Q J 4
| 9 7 3
| A K J 6 2
|
| |
|
West が 1
オープンすると,East は 4
に行くまでの計画を立てます。
ここで直ちにジャンプして 4
は,プリエンプトの意味になってしまいます。
また,切り札が 4 枚あれば ジャコビ 2NT が使えますが,今は 3 枚なので使えません。そこで,回り道
(temporize) して,新しいスートをビッドします。もちろん,クラブでプレイする積もりはありません。
West がクラブをサポートすると,East は ハートのゲームという計画を遂行し終えます。East が 道草せずに 4
にジャンプしたので,その手は 2/1 GF 応答する下限であり,ハートとクラブ以外に助けになるカードがありません。そこで,West はパスで満足します。
今度も,East の手を強くしてみます。ダイヤモンドに絵札を揃えました。
(4) | West
| | 8 3
| | A K 8 7 3
| | A 5
| | Q 10 7 4
|
| |
East
J 6
| Q J 4
| K Q J
| A K J 6 2
|
| |
|
West が 3
に上げると,East は今度は ゆっくりと 3
をコールして スラムまでのビッド余地を稼ぎます。
これに協力して West は
4 キュービッドします。
East は スペードが気懸かりなので,ゲームを越えてビッドできません (もしも West が
A を持っていれば,3
キュービッドした筈です)。こうして 二人は ゲームの代で止まります。スラムはありませんでしたが,その可能性を調べることは ちゃんと やりました。
2. 道草無しとサインオフは別物
道草なしのビッドは,パートナーが かなりの強さを持つ場合に スラムの可能性を排除するものではありません。すなわち,道草なしは,パートナーにパスを強制するビッド
(サインオフ=黙れ!) ではありません。
West
| K Q 8 7 6 4 3
| K 3
| A 9
| K 7
|
| |
East
A J 2
| A Q J 6 2
| 8 4 2
| 9 5
|
| |
West | East
| 1 | 2
| 2 | 4
| 4NT | 5
| 6 | Pass
|
|
East は,2/1 GF をする下限の手なので,2 回目には道草なしに 4
にジャンプします。こうして スペードのフィットが分かると,East の手が下限であっても West は
スラムの可能性を調べます。
3. オープナーも道草無しにビッドする
道草なしのビッドをするのは,レスポンダだけとは限りません。オープナーも,下限の手を持つ場合,
ゆっくりルートを取らず,道草なしにゲームをビッドします。
West
| A K J 7 5
| K J 6 2
| 8 4
| 9 8
|
| |
East
8 2
| A Q 10 7 4
| K Q 6
| Q 7 4
|
| |
|
East の 2
を West は歓迎します。しかし,オープンする下限の手であり,ハートとスペード以外に助けの札がありません。そこで,さっさとゲームに行きます。
ここで もしも 3
をビッドすると,スラム探索のために ビッド余地を稼いだと East に誤解されます。
West のゲームへのジャンプを ときどき
鮮やかビッド (picture bid) と呼びます。West の手の内容が オープンする下限であり,絵札がスペードとハートに集中している様子が 手に取るように分かるからです。
もしも余分の強さや
,
の高い札があれば,3
をビッドできた筈です。
また ,
が
短ければ,スプリンター (4
, 4
) した筈です。
道草なしビッド と
鮮やかビッド には概念の上で重なりがあるので,道草無しは 論議を招くことがあります。ゲームにジャンプするビッドをどう使うのが良いかについては,専門家の間でも 合意は取れていません。
専門家については そうであっても,パートナーとの間では,ゲームへのジャンプが
下限を意味するのか/それとも余分の強さを示すのかをきちんと取り決めておくのが良いでしょう。そのとき,道草無しの原則は一つの方針として役に立ちます。
4. 道草無しの他の使い方
道草無しの概念は,2/1 とは無関係の場面にも 数多く現れます。
たとえば,右のオークションで 4
をビッドした West は何を伝えたかったのでしょうか ?
West は,3
で スラム・トライをしていたのです。
(1) もしも East の 2
を受けて,オープナーが ゲームでプレイしたいと思うなら, 2 回目に 道草なしに 4
をビッドした筈です。
(2) もしも 3
がゲーム・トライだったのなら,East が 3
により それを拒否したのだから (おまけの強さを示さなかったから),West はパスする筈です。
A K 8 7 5 2
|
—
|
Q 10 7 3
|
A K 7
|
(3) したがって,West の
ゆっくり法 は,ゲームより上の代を狙っていると解釈されます。たとえば,こんな手を持っているでしょう。 3
に対して,もしも East が何か (3
以外の) 関心を示してくれたなら,そのときには,スラムを狙うつもりだったのです。でも,East がそんな関心を示さなかったので,ゲームで止まります。
最後の例は,競り合いの局面です。
West
K Q 9 7 3
| K Q 4
| Q 7 3
| 4 2
|
| |
East
A J 7 4
| A 10 2
| 6 2
| Q 10 9 5
|
| |
West
| North
| East
| South
|
1
| 2
| 3
| Double
| ?
|
|
North の 2
オーバーコールに続いて,East のキュービッド 3
は リミット・レイズ (切り札 4 枚と 10〜12 pts) 以上を示します。これに対し,West は誘いを断るならば 3
を,誘いを受け入れるならば ジャンプして 4
をビッドします。
West の手は下限であり,しかも
Q の値打ちに首を傾げると,誘いを断って
3 をビッドする予定でした。ところが そこへ,South のダブルです。
どうしますか ?
このダブルは,おそらく
に何かを示していますが,それとは別に,West に別の選択肢を与えます。すなわち,パスできます。確かに パスは 3
よりも弱い感じを伝えます。これを選ぶ人は多いでしょう。しかし,道草なしの信奉者は,全く別の考え方をします。
East の 3
キュービッドが 3
以上を請け合っているのだから,ここで道草無しに
さっさと 3
をビッドするのは,それ以上への関心が無いことを
示し,他方,
ゆっくりと パスするのは,何かの関心を示すと解釈されます。
お分かりのように,道草なしの原則は 魅惑的な概念です。
あなたのパートナーと議論して,うまく波長が合うかどうかを試してみましょう。
Eric Rodwell:
"Principle of Fast Arrival" (2008 March/April)