Larry and the Law
by Larry Cohen
バランシング
私は,ブリッジをできるだけ楽しくプレイしたいという堅い信念を持つ者であるが,だからといって,ビッドの段階で,相手に楽をさせるつもりは全く無い。実際,それはアメリカ・ブリッジ連盟の倫理綱領に違反する。
そのため,下記のようなオークションで私が North または South に座っていることは,ほとんどあり得ない。
West | North | East | South
|
| | 1 | Pass
|
2 | Pass | Pass | Pass
|
その理由を 説明しよう。
1. 切り札の枚数を数える.
2. バランシング.
3. アンユージュアル ノートランプ.
4. 直接位置でのバランシング.
5. バランシングすべきでない場合.
6. パートナーがバランシングした場合.
1. 切り札の枚数を数える.
競り合いのオークションで使われる基本的な指針は,これである:
法則による競り合いの指針
パートナーと自分の合計切り札枚数に相当する代まで 競り合いに努めよ
法則を適用するためには,味方の切り札の合計枚数に加えて,相手方の切り札の合計枚数も知る必要がある。上のオークションの場合,相手方には少なくとも 8枚のフィットがある:East の 1
オープンは 5+ 枚のハートを示し,West のシングル・レイズ 2
は,3+ 枚のサポートを示す。
この場合,相手方は,"法則により保護されている"。彼らは,切り札の合計枚数に相当する代までビッドした。このまま何ごとも無ければ,彼らは 2
で楽をすることができ,満足である。2
をメイクできれば 素晴らしい。もし 2
をメイク
できないとしても,どうということはない。その場合には,何か別のコントラクトが こちら側にあっただろう。
そこで,こちらの目標は,"
それをさせない" ことである。向こうに 2
をメイクされたとき,デュプリケート・ブリッジ
あるいは チーム・ブリッジでのスコアは,−110 点である。これは受け入れ難いスコアである。こんなことでは,勝負に勝てない。そこで,下記の目標を目指して,どうすべきかを考える。
競り合いの考えかた
8枚カードのフィットを持つ相手方に,2の代でプレイさせるな!
2. バランシング.
この考え方を適用する一つの状況は,バランシング位置でのビッドである。"バランシング位置" とは,そこで もしもパスすれば,オークションが終了となる位置である。たとえば,自分が South にいるとして,オークションがこのように進んだ場合を考えよう。
West | North | East | South
|
| | 1 | Pass
|
2 | Pass | Pass | ?
|
2順目の South は,ここでパスするとオークションが終わるので,バランシング位置にいる。
もう昔の話になるが,Marty Bergen とパートナーを組んでいた頃,彼はこういう状況で South に座っていると,よく目を閉じて何かビッドしたものだ。
あなたもここで Marty Bergen のように目を閉じる必要は無いけれど,でもパス以外の何かを
したいと思うだろう。私のお勧めの指針は,これだ:
バランシングの指針
相手方スートが短い (2枚以下の) 場合には,スートをビッドするか または テイクアウトダブルを掛けよ!
ここで,HCP は関係ない。もしも相手方が 2
で止まったのであれば,味方もほゞ同じくらい (全体の半分) の HCP を持っているはずだ。さもなければ,向こうは ゲームを狙っただろう。
自分の手の HCP が 6とか7であっても,パートナーと合計すれば,全部で 40 HCP の半分 20 HCP くらいを持っているはずだ。だから,こちらが 6とか7ならば,パートナーは 13 とか 14 HCP を持っていて,でも 条件が悪かったためにビッドできなかったと考えられる。
さらに,もしも自分がビッドすれば,パートナーは,相手方に8枚フィットで2の代のプレイをさせないように こちらが [無理して] ビッドしていることを理解するから,パートナーが,オープンできるくらいの手を持っていて,ゲームにジャンプするというようなことは無い。
直接位置では不適当な5枚カードのスートでも,バランシング位置ではビッドする。5枚以上のスートが無くても ハートが短ければ,テイクアウト・ダブルを掛ける。たとえば
West | North | East | South
| | | 1 | Pass
| 2 | Pass | Pass | ?
|
|
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2.
ここで 2
は危険かな? そう,危険です。ダブルを掛けられて大損をするかな? はい。あり得ます。ただし,相手方が8枚カードのフィットを見つけて 2の代でプレイしようとするとき,トップ・プレイヤーたちは,リスクを冒しても,そのコントラクトで相手をプレイさせても大丈夫だ ・・・ とは考えない。
ダブル.
ダブルはちょっぴり危険だが,目標は同じであって,相手方を 2
から追い出すことを狙う。
この位置でバランシング・コールをするとき,うまいことが 次の3つのうち一つくらいは起こりうる:
(1). 味方が,メイクできるコントラクトに到達する。
(2). 味方は ダウンするが,その損失は 50 とか 100 であって,相手方が 2の代のコントラクトをメイクして得る得点 110 より 失点が少ない。10 点の差は小さいが, マッチ・ポイントのデュプリケートでは重要である。
(3). 相手方を高い代に押し上げて,負かす。
直接位置では夢にも考えないような手でも,バランシング位置では 積極的にビッドする。相手スートがハートの場合,これは特に気楽にできる。なぜならこちらには,2の代でスペードのフィットが見つかる可能性が高いからだ。
これに対して相手スートがスペードならば,こちらは3の代に上がる必要がある。だが,考え方は同じである。得られる利益の見込みの方が,リスクを上回る。
マッチポイント・デュプリケートやチーム・ゲームの場合には,同じ戦略を使える。ただし,バルの場合には,少し慎重になろう。相手が 110 点を取るという場合に,こちらが 失点 200 というのは, 割りに合わない。ただし,バルネラビリティーを過度に心配してはならない。
3. アンユージュアル ノートランプ.
West | North | East | South
| | | 1 | Pass
| 2 | Pass | Pass | ?
|
|
|
バランシング位置では,(1) 1 スートでオーバーコールするか (2) ビッドされていない3スートにサポートがあれば,テイクアウト・ダブルを掛ける。
では,2スーターの手ではどうするか? 答は,"アンユージュアル" 2NT ビッドである。このビッドは,ノートランプでのプレイを望むものではない。単に2スーターの手であることを伝えるビッドであり,典型的には,マイナーの2スートを
指す。
West | North | East | South
| | | 1 | Pass
| 2 | Pass | Pass | ?
|
|
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2NT.
South が初回にパスしたので,1NT オーバーコールできるような強さの手でないことを North は知っている。したがって,この 2NT は アンユージュアル・ノートランプであり,パートナー North に クラブ
または ダイヤモンドのどちらか長い方を
ビッドするよう求めている。うまくいけば,こちらが 3
または 3
をプレイするか
あるいは 相手方を 3
に押し上げる。
4. 直接位置でのバランシング.
上にも述べたように,"バランシング位置" の そもそもの定義は,そこでパスするとオークションが終了する位置を指すのだが,これとは少し違って,直接位置でのバランシングを考える場合もある。たとえば,オークションがこのように進んで,South にいるものとして考えよう。
West | North | East | South
|
1 | Pass | 2 | ?
|
ここで もしも,South が パスして,さらに West もパスすれば,North がバランシング位置にいることになる。ところが 万一 North のハートが 3枚とか4枚と
いうことがあれば,North は,少し良い手でもバランシングは しにくい。そこで,South のハートが短い場合には,直接位置であっても,South は なるべくビッドするよう心掛ける。
Marty Bergen は,これに気の利いたニーモニックを考案し,"OBAR BIDS" と呼んだ。その意味は,if the
Opponents
Bid
And
Raise,
Balance
In
Direct
Seat. (もしもオポーネントがビッドして,しかも レイズすれば,直接位置ではバランスせよ) というものである。
ここで筆者が言いたいのは,この位置では通常のガイドラインを放り投げて,"真にクレージーになれ" ということだ。非常に攻撃的なビッドを考えよ。相手は既にフィットを見つけたのだ。だから もしも味方がパスすれば, 2つのことが起こりうる。そのどちらもが 味方にとって悪いことだ:
(1) 全員がパスすることになろう。これは大失敗だ。8枚カードの相手を2の代で 気楽にプレイさせ,"競り合いの考えかた" を破ってしまったからだ。
(2) あるいは,向こうは ゲームまで行くかもしれない。そうなれば,こちらは "
リードを指示するコール" さえもしなかったことになるし,有効なサクリファイスも見つけられなかったことになる。
West | North | East | South
| 1 | Pass | 2 | ?
|
|
|
2.
ブリッジの教本は,わずか 6 pts で 2の代のオーバーコールを直接位置で してはいけないと言うだろう。それはナンセンスだ。これは OBAR ビッドである。これを使う場合には,相手側にアラートして今の状況ではこれが弱いビッドであることを伝えねばならない。
ダブル.
ここでもしもパスすると,相手方は おそらく 2
で止まるだろう。
だから,ここでダブルを掛ける。これは軽いダブルである。攻撃的なビッドである。これは良いブリッジだ。
バランシングの全体的な思想は,標準的な格言 ・・・ 良いスートでオーバーコールせよ とか,オープニング・ビッド相当の手でテイクアウト・ダブルせよ ・・・ などに逆らうところがある。しかしながら,バランシングは証明済みの勝利戦略である。相手方が8枚カードのフィットを2の代で見つけたならば,こちらは 行動を起こす必要がある。そして,誰が行動すべきかと言えば,相手スートが短いプレイヤーが,その仕事に当たる必要がある。
5. バランシングすべきでない場合.
ただし,相手方が8枚カードのフィットを見つけていない場合には,余りに攻撃的になってはいけない。例として,このオークションを考えてみよう。
West | North | East | South
|
1 | Pass | 1NT | Pass
|
2 | Pass | Pass | ?
|
相手方は 2の代で止まった。したがって,おそらく こちらも半分の点数を持っているだろう。しかしながら,相手側は8枚カードのフィットを見つけられなかった。 West は 6枚を示したが,East の枚数は不明であり,スペードが 1 枚も無いこともありうる。この種の状況では,余りに攻撃的になって オークションに参入しては
ならない。相手にフィットが無ければ,こちらにもフィットは無い。
West | North | East | South
|
1 | Pass | 1 | Pass
|
2 | Pass | Pass | ?
|
この場合には,相手方はおそらく 8枚カードのフィットを発見した。だが,危険があることを知っておく必要がある。West は 3枚のサポートで レイズした可能性がある。その場合には,7枚カードのフィットになる。また,相手方は2スートを
ビッドしたので,こちらにフィットがある可能性が下がる。
6. パートナーがバランシングした場合.
競り合いの考え方に沿って 相手側に2の代のコントラクトを 8枚カードで 気楽にプレイさせないように努めるとき,味方のプレイヤー同士が このスタイルを取っていることをよく認識している必要がある。パートナーがバランシング・ビッドをした場合,自分は パートナーの努力を無にしないように心がける。
West | North | East | South
| 1 | Pass | 2 | Pass
| Pass | 2 | Pass | ?
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パス.
相手方が2の代で止まったので,パートナーは South の手に期待して,バランシング・オーバーコール 2
をした。この手は,おそらく 4人の中で一番良い手だろう。ここで注意すべきは,パートナーが 初回に 1
オーバーコールをしなかったことだ。したがって,6~7 pts で お粗末な5枚カードのスペードを持っていると思われる。
Larry Cohen:
"Balancing" (2005, January/February)