「歴史的仮名遣ひ」のすすめ
パソコンで歴史的仮名遣いの文章を入力するのは面倒・困難であると言われたのは過去のことです。今では容易に入力できます。その方法を紹介しましょう。
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Windowsパソコンの場合はMS-IME用のシステム辞書「歴史的仮名遣い用変換辞書基本版」(無料)を利用します。
Zipファイルをダウンロードして展開し、新漢字版sin.dicか旧漢字版kyu.dicをインストールします。
手順は 言語バーの[プロパティ]→[詳細設定]→[辞書/学習]タブの[システム辞書]の[追加]で目的のdicを選択→[開く]→チェックボックスにチェックを入れ[OK]。この変換辞書の主な特徴は次の通りです。
変換対象は基本的に和語・準和語の動詞、形容詞である。漢語を字音仮名遣いで入力する必要はない。
普通体・会話体・文語体・漢文訓読体・候文体に対応している。
ハ行四段活用動詞にも対応している。
促音・拗音文字の大小を選択的に入力できる。
新漢字版と旧漢字版がある。変換例
おもはない⇒思はない
よまう⇒読まう
ひきうぃよう⇒率ゐよう
ひきゐよう⇒率ゐよう
きつちやはう⇒切つちやはう
きっちゃはう⇒切っちゃはう
たううぇ⇒田植ゑ
たうゑ⇒田植ゑ
あをからう⇒青からう
きびしう⇒厳しう
をしへん⇒教へん
あづくれば⇒預くれば
いはばしる⇒石走る
あをかりける⇒青かりける
したがはざりき⇒従はざりき⇒隨はざりき⇒順はざりき
さうらひたまひけり⇒候ひ給ひけり
さふらひたまひけり⇒候ひ給ひけり
さぶらひたまひけり⇒候ひ給ひけり⇒侍ひ給ひけり
あをによし⇒青丹よし
いはんや⇒言はんや⇒況や⇒況
ござなくさうらふ⇒御座なく候⇒無御座候
いはば⇒言はば⇒言はゞ上のように、正しい歴史的仮名遣いで入力したものだけが正しく変換されます。したがってその意味では初級者向けではなく中・上級者向けといってよいかもしれません。
内容は極めてオーソドックスで堅実です。現代語の動詞・形容詞については十分な語彙数を確保する一方、一般的な国語辞典に採録されないような性格の語(ネットスラング、ジャーゴン、サブカルチャー用語など)は採録せず、また不正確な入力での変換を排除しているので業務・研究・学習用などとして安心して使えます。
注意点は、変換結果に問題のない普通の名詞・漢語などは現代仮名遣いで入力する仕様となっていることです。しかしこれが却って大方にとっては使いやすい理由となっているとも言えます。OSがWindowsでない場合は、入力ソフトとして「Google日本語入力」(無料)を導入すると「快適仮名遣ひ」のGoogle日本語入力版を使用することができます。
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有償でも入力環境を整えたいという人には「歴史的仮名遣い用変換辞書拡大版」があります。
活用する語以外も歴史的仮名遣いで打鍵でき、また同音異義熟語、日本史や国文学分野の語も収録されています。
(天皇諡号や和年号、全国の市名などが網羅されています。)
他に有料の入力ソフトとしてはATOKの「文語モード」が歴史的仮名遣いの入力に対応しています。
ATOKインストール後、ATOKパレットの[般]をクリック→表現モードのメニュー→[文語]を選択。オプションとして「っ」「ゃ」などの小書き文字をすべて「つ」「や」など通常の大きさの文字に変換することができます。
例: フロツクコートをまとつた老紳士が
また通常ひらがなで表示されるところ(付属語を含む)をすべてカタカナに変換することができます。
例: 雨ニモマケズ風ニモマケズ
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ワープロやパソコンの出現によって歴史的仮名遣いは一旦は完全に過去のものになったと言われましたが、その後の環境変化によって今では全く逆の様相を呈しています。古文の研究・学習や俳句・短歌の趣味のみならず、個人の普段の私的文章作成にも歴史的仮名遣いが使用されている現状はネット上でよく確認できます。
そうした中でしかるべき変換法は存在しないものと最初から諦めてしまい、未だ不便を託つ向きは多いかも知れません。参考となれば幸いです。