超暇人MSX

史上最大のミスジャッジ

速くて遅い「MSXturboR」

MSXシリーズとして最後の規格となった「turboR」マシンの初代機「A1ST」は、1990年12月に松下電器産業から発売されました。殆どの8ビットパソコンに使用されたZ80という8ビットCPUの内部演算を16ビットにして高速化したR800というCPUを搭載し、今までより格段に速いというのが売りでした。データバスその他は従来のZ80と同じ8ビットなので、8088とかMC68008とか「PC‐エンジン」のグラフィックチップ等と同様の、まあ16ビットっぽい8ビットCPUです。「turboR」上では7.16MHz(Z80換算で28.64MHz相当)で動作します。私もよく分からないんですけどね、LSIの事。

ベンチマークテスト(「バッ活」より、分割・並び順を変更。結果の数字そのまま
機種 定価 CPU A B C D TOTAL PC-9801RA2 498000 386SX 20MHz 118 23 29 19 189 PC-9801NOTE SX 298000 386SX 12MHz 128 30 32 22 212 PC-286BOOK 258000 i80286 12MHz 149 29 25 24 227 PC-286C 168000 i80286 10MHz 162 35 32 24 253 MSXturboR A1ST 87800 R800 7.16MHz 83 66 99 10 258 PC-9801DO+ 278000 V33A 16MHz 179 63 44 26 312 98DO+と286CとA1STは、ほぼ同時発売

このベンチマークテストは、画面表示を行わないで計算するテスト、今で言う「CPUベンチマーク」という類に相当します。上記の場合は数字が少ない方が速いのです。当たり前ですがPC-****同士では、ほぼ搭載CPU通りの速さ順になっています。意外に386機が速くないなぁという感じです。
 16ビット以上のマシンの群れに一人立ち向かう我が8ビットMSXturboRの結果はというと、これがなんと、トータルではPC-98DO+より速く、PC-286C注1と同等。個別ではPC-9801RA2より速い演算もあるという相当なものになっています。ある意味あてにならない「バッ活」ではなく、アスキーや松下の業界向けR800広報資料 (私は持っていません、一般配布のパンフではPC-****との比較は掲載されていません) でも同じような結果が掲載されているそうで、R800は当時の8ビットCPUとしては最速の部類に入ったでしょう。

しかし、CPU周り以外はメモリが多いだけで実質「MSX2+」規格そのまんまの「turboR」は、グラフィックチップの描画速度も5年前の8ビット機「MSX2」そのまんまで、同時期発売の16ビット機とは比べるべくもありません。つまり「turboR」とは、演算能力は16ビットのPC-98**同等なものの、すでに家庭用ゲーム専用機ですら16ビットに移行する時期においては、過去を引きずった中途半端なマシンなのでした。私自身としては、BASICはMSX2より激速だし、メモリも多いし、MSX-DOSはバージョンアップしてるし、イロイロいじって面白かったですけど。

では、画面表示を掌る大本であるグラフィックチップの新型は用意されていなかったのか?というと、「V9978」というYAMAHAの試作グラフィックチップや、その製品版の「V9990」が載る予定だったのではないか?と言われています。「MSX1」の「TMS9918」、「MSX2」の「V9938」、「MSX2+」の「V9958」と来れば次は「V9978」でしょう。なにしろエレクトロニクスショー等でこの「V9978」試作チップを展示していたのが製造元のYAMAHAではなくアスキーだったのですから、当然に・・・注2

ところが、このLSIはMSXシリーズの画面と互換性が無く、「永久に上位互換性がある」ことをウリにしていたMSXの新規格「MSX3」注3に、これをそのまま搭載する訳には行かなかったのでしょう。よく言う“「MSX3」に間に合わなかった”のは「V9978」の“生産”ではなくて“上位互換性を持たせる工夫”のことであり、「V9978」を搭載した「MSX3」に上位互換性を持たせる事について、何かメドがあったのか無かったのか?注4「MSX2+」や「turboR」でお茶を濁して足踏みしている内に数年たち、その間も世の中はドンドン進み、とうとう「MSX3」は発売の時機を逸してしまいました。

注1.当時最安のPC-98互換機。キーボード1体型でFM音源を載せてあり、どう見ても     ゲームユーザー狙いなのに、なぜかジョイスティック端子が無い。意味不明

注2.「TMS9918」等の数字の後ろ2桁は開発された年数の逆並び。81年に作られた     「TMS9918」が84年の「MSX1」に載り、「V9938」→86年の「MSX2」、「V9958」     →88年の「MSX2+」と全て開発より数年遅れで実機に搭載され発売になっている。     「V9990」マニュアルには、MSX/PC98/IBMPC用の評価ボードの項目がある

注3.某雑誌に85年頃「Z280」「V9948」「MSX-AUDIO」で「MSX3」を考えていたという     1関係者の発言が有るが、当時なら定価20万円超だよね?それじゃ

注4.もし互換性を持たせるなら方法は「MSX2+」カスタムチップと「V9978」の共存か     「MSX3」で「MSX2+」をエミュるかであり、その前者を目指したものと思われる

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上位互換性はいつまで必要か?

V9990の性能
パターンモード 解像度 色数 機能 P1 256x212(424) 32768色中16色 2重画面独立全方向スクロール x4パレットセットで 16x16スプライト256枚中 64色同時表示 1画面に125枚1ラインに16枚 SPの色はパレットセットの1つ P2 512x212(424) 同上 1画面全方向スクロール 同上 ビットマップモード 解像度 最大色数 特記 B0 192x240(480) 32768色同時 フチ無し全画面表示 B1 256x212(424) 同上 B2 384x240(480) 同上 フチ無し全画面表示 B3 512x212(424) 同上 B4 768x240(480) 32768色中16色 フチ無し全画面表示 B5 640x400 同上 25.3KHz B6 640x480 同上 31.5KHz B7 1024x212(424) 同上 B0〜B3は32768中4、16、64色と、256色、19268色モードを他に B4〜B7は32768中4色モードを他にもつ 括弧内はインターレースモードの縦 VRAMは128K、256K、512Kの3種の容量を管理できる 512K実装の場合640x480の32768中16色で2ページ有る

「V9978」の製品版である「V9990」、1987年開発のグラフィックチップとしては、なかなかのシロモノだと思いませんか? しかもマニュアルの数値では「MSX2」の「V9938」より20倍くらいコピーが速いそうです注1。上位互換性などうっちゃって、もしこの「V9990」と「R800」が搭載された「MSX3」が発売されていたら、大ヒットしたと思います。「MSX2」と完全な互換性が無くとも、Cコンパイラやアセンブラ等の各種CUIツールはDOSのバージョンアップでそのまま使えたハズですし、BASICも少しのソース改造で動かせるハズですし、互換性を持たせるために無理やり「turboR」に載せた “ややこしい仕組み” は全て不要注2ですから、その分シンプルになり更に速くなり、恐らく価格も10万円を切れたことでしょうし。そうなると、PC-9801のゲームはそのまんま(以上の画像)のクオリティで移植可能な上、スーパーファミコンと同じ年に、スーパーファミコンを高速にしたようなゲームが遊べて(あるいは作れて)十分実用にもなるPCが10万円以下で買えたワケですからね。

MS-DOSやWindowsも大体5年前後置きに互換性を半ば無くして新しくなってる注3んですよね。だからと言って、どこかのテレビの様に即古いのが使えなくなる訳でもないですし。MSXは元々高価なPCじゃないのだから、互換性なんて「MSX2」と「MSX3」両方持ってたら済むこと注4で、同じお茶を濁すなら「+」とか「turboR」ではなく、「MSX2」までのソフトを「MSX3」上のエミュで(動かす環境を)提供すれば良かったのに。偉い人が「MSX3は互換性無くてすみません」と謝っちゃえば済む事だったのになぁ・・・

まあ、今振り返ってみればということで、後出しジャンケンでどうこう言ってもしょうがないですけれど。関係者のどこの誰がどう言ったのか一般には一切知らされていませんが注5「V9990」搭載で上位互換性の鎖を断ち切った「MSX3」を発売しなかった事は、MSXシリーズの寿命を5年縮め、販売台数を百万単位で減らした、MSXの歴史上最大のミスジャッジだったことは間違いないでしょう。

注1.この「V9990」を搭載して欧州で発売された「MSX2」用拡張カートリッジの     「GFX9000」では実測値約9倍速。内蔵して「R800」CPU直結ならもっと速い?

注2.「MSX3」にこの仕組みを載せれば定価15万円を越えたのではないか?

注3.余談だが、一時、ビル・ゲイツがメディア上で悪者扱いされた理由は2つ。     1.彼が同じユダヤ系のアップルではなくIBMとくっ付いて成功したため、     一部ユダヤ系の不興を買った。ちなみにハリウッドがアップルばかり使ってい     るのも同じユダヤ系だから。今やIBMもユダヤオーナーだが     2.彼を世に出した2つの自社ソフト、MSBASICとMS−DOSは、何     れも他人のソースを換骨奪胎したり、寄せ集めて作った物だったから。      70〜80年代初頭まではソフトに関する法律も無く、コンピュータを扱う     のはプロだけであり、流通するソフトは作者の厚意で自由に提供されるものが     多かったが、ビルGはそれをまとめて自家の物とし、商品にして大成功。正に     ユダヤの商人であるナ

注4.「MSX2」「+」ユーザーはそのままキープすればいいし、90年なら某大手電気     店でいつも24800円でドライブ付「MSX2」を販売していた。中古はさらに安い

注5.某雑誌に「V9978」は互換性の問題から結局「MSX3」に使わない事になり、     型番を変えた「V9990」になったという1関係者の発言が有るが、当時どこの     誰が何と言ったか(つまり、誰が反対したか?)については記載無し

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このページは、1024×768画面に合わせて作りました。ちゃんと見えなかったらスミマセン