【関手】
定義3.1
圏$C$から圏$D$への対象、射の間の対応$F$が次の条件をみ
たすとき、これを関手(functor)と呼ぶ。
$\bullet$ $C$の射$X \overset{f}\rightarrow Y$を$D$の射$F(X) \overset{F(f)}\rightarrow F(Y)$に
対応させる。
$\bullet$ $C$の射$f,g$について
$F(g\circ f)=F(g)\circ F(f)$である
$\bullet$ $C$の対象$X$に付随する恒等射$1_{X}$について
$F(1_{X})=1_{{F}(X)}$である。
「ベーシック圏論の定義」)
定義1.2.1
$\mathscr{A},\mathscr{B}$を圏とする。関手(functor)$F:\mathscr{A}\to \mathscr{B}$とは、
$\bullet$ $A \longmapsto F(A)$と書かれる関数
$ob(\mathscr{A})\to ob(\mathscr{B})$
$\bullet$ $A,A'\in \mathscr{A}$について$f \longmapsto F(f)$と書かれる関数
$\mathscr{A}(A,A')\to \mathscr{B}(F(A),F(A'))$
からなり、以下の公理を満たすもののことである。
$\bullet$ $\mathscr{A}$で$A\overset{f}{\longrightarrow} A' \overset{f'}{\longrightarrow}A''$となるものについて$F(f'\circ f)=F(f')\circ F(f)$
$\bullet$ $A\in \mathscr{A}$について$F(1_{A})=1_{F(A)}$
\[
\boxed{\mathscr{A}\ \ \
\xymatrix{
A \ar[r]^{f} \ar[rd]_{f'\circ f} & A' \ar[d]^{f'}\\
& A''
}}
\;\overset{F}{\longrightarrow}\;
\boxed{\mathscr{B}\ \ \
\xymatrix{
F(A) \ar[r]^{F(f)} \ar[rd]_{F(f'\circ f)} & F(A') \ar[d]^{F(f')}\\
& F(A'')
}}
\]
S氏<付け加えれば、・・・「関手」は、「圏の圏」とでもいうべき圏における射に相当するものと捉えられる。
抽象化が一層深まった感がある。前回持ち出したホモロジー代数$II$には、同様の定義のあと
「このとき、関手$F:C\rightarrow D$と表す。」とし、関手$F$によって$C$における可換
な図式は、すべて$F$を対象および射に施すことによって、$D$における可換な図式を生じる。
とかき、次のような図式を載せている。使用記号が違うため誤りがあればご容赦
\[
\begin{xy}
\xymatrix {
X \ar@{|->}[r]^{F} \ar[d]_{f} & F(X) \ar[d]^{F(f)} \\
Y \ar@{|->}[r]_{F} & F(Y)
}
\end{xy}
\hspace{2cm}
\begin{xy}
\xymatrix {
X \ar@{|->}[r]^{F} \ar[dr]^{f} \ar[dd]_{h} & F(X) \ar[dr]^{F(f)}
\ar@/_/[dd]_{F(h)} & \\
& Y \ar@{|->}[r]^{F} \ar[dl]_{g}
& F(Y) \ar[dl]^{F(g)} \\
Z \ar@{|->}[r]_{F} & F(Z) &
}
\end{xy}
\]
関手の例:
「定義. 圏 $\mathscr{C}$ に対し, 射の向きを逆にした圏を双対圏 ( dual category) ないしは逆圏 (opposite category) という。
この文章では$\mathscr{C}^{op}$と書く。
正確には次のような圏。」($\mathscr{C}$は圏$C$のこと。圏の右肩の$o$は"opposide"の"op"、)
$Ob(\mathscr{C}^{op})=Ob(\mathscr{C}),\ \ Hom_{\mathscr{C}^{o}}(X,Y)=Hom_{\mathscr{C}}(X,Y)$
$\mathscr{C}^{op}$での$1_{X}$は$\mathscr{C}$での$1_{X}$
$\mathscr{C}^{op}$での$g\circ f$は$\mathscr{C}$での$f\circ g$
双対圏の定義が可能であるのも, 射の概念を抽象化したお陰と言える。
(「圏と関手」、千葉大学大学院理学研究科 松田茂樹氏、\url{http://www.math.s.chiba-u.ac.jp/~matsu/math/})・・・
(講義録:以降、「千葉大・松田氏」と略記、
$Ob(\mathscr{C})$などは本サイトでは、$Ob\mathscr{C}$とあったもの。)
S氏<双対圏からの関手を元の圏からの反変関手と呼ぶ。また、
反変関手との対比から通常の関手のことを共変関手と呼ぶこともある。(「圏論の道案内」)
以下、「千葉大・松田氏」から、
圏論における関手とは, ある意味集合論における写像にあたるものだが, 写像とは異なり, 対象と射の両方を写す対応になっている。
定義. $\mathscr{C} , \mathscr{C}'$を圏とするとき, 共変関手 (covariant functor) $F : \mathscr{C} \rightarrow \mathscr{C}'$ とは次のものの組。
(1)写像 $F : Ob(\mathscr{C}) \rightarrow Ob(\mathscr{C}'); X \rightarrow F(X)$.
(2a) 各 $X, Y \in Ob(\mathscr{C})$ に対し, 写像 $F : Hom_{\mathscr{C}}(X, Y ) \rightarrow Hom_{\mathscr{C′}} (F(X), F(Y )); f \mapsto F(f)$ であって次を満たすもの。
(i) $F(1_{X}) = 1_{F (X)}$.
(ii) $F(f \circ g) = F(f) \circ F(g)$.
\[
\begin{xy}
\xymatrix {
X \ar[dr]_{f} \ar[rr]^{g\circ f}
& & Z \\
& Y \ar[ur]_{g} &
}
\end{xy}
\hspace{2cm}
\begin{xy}
\xymatrix {
F(X) \ar[dr]_{F(f)} \ar[rr]^{F(g\circ f)}
& & F(Z) \\
& F(Y) \ar[ur]_{F(g)} &
}
\end{xy}
\]
同様に, 反変関手 (contravariant functor) とは, 次のものの組である。
(1) 写像 $F : Ob(\mathscr{C})\rightarrow Ob(\mathscr{C′}); X \rightarrow F(X)$.
(2b) 各 $X, Y \in Ob(\mathscr{C})$ に対し, 写像 $F : Hom_{\mathscr{C}} (X, Y ) \rightarrow Hom_{\mathscr{C′}} (F(Y ), F(X)); f \mapsto F(f)$ であって次を満たすもの。
(i) $F(1_{X}) = 1_{F (X)}$.
(ii) $F(f \circ g) = F(g) \circ F(f)$.
共変関手と違い, 射の向きが逆になることに注意。
集合の写像 $f : A \rightarrow B$ が次のようなイメージであるとすると,
圏の関手 $F : \mathscr{C} \rightarrow \mathscr{C′}$ は次のようなイメージになる。
関手の例(2)
$\bullet$圏 $C$ に対して, $Id_{C} : C \rightarrow C$ を $a \in C$ に対して $Id_{C} (a) = a, f \in Mor(C)$( $C$の射の集合)
に対して
$Id_{C}(f) = f$ と定めると関手になる. これを $C$ の恒等関手 (identity
functor) という.
$\bullet$小さい群 $G = (G_{0} , \cdot)$ (ただし $G_{0}$ は $G$ の基底集合, $\cdot$ は $G$ の積) に対
して, $F (G) = G_{0}$ を対応させ,
群準同型 $f : G \rightarrow G_{0}$ には写像 $F (f ) = f$ を対
応させると,$ F : \underline{Grp} \rightarrow \underline{Set}$ は関手である.
$F$ は群としての構造を忘れるの
で, 忘却関手 (forgetful functor) または忘れっぽ関手という.
$\bullet$群 $G$ にそのアーベル化 $F (G) = G/[G, G]$ を対応させる. 群準同型
$f : G \rightarrow G_{0}$ に対しては,
$f ([G, G]) \subset [G_{0} , G_{0} ]$ であることから引き起こされる
準同型 $F (f ) : G/[G, G] \rightarrow G' /[G' , G' ]$ が対応し, 関手 $F : \underline{Grp} \rightarrow \underline{Ab}$ が定義される.
(「圏と関手入門」名古屋大学大学院多元数理科学研究科、橋本 光靖氏
www.math.nagoya-u.ac.jp/~hasimoto/、以下、「名大、橋本氏」)
など、関手の例は多数ありますが、
ここで、高校教師、「コロちゃんぬ」さんのブログ
(http://corollary2525.hatenablog.com/entry/2018/11/23/235900)
から少々拝借します。
『感覚的な説明をすると、関手というのは、圏$\mathscr{A}$における射の構造は写った先の圏$\mathscr{B}$でも同じような構造を保つものと言えます。』
そして、次、自然変換の定義も借りました。
自然変換はある意味で関手を対象とみなし、“関手と関手の間の射”を考えることもできます。
戻る>