【東京見聞録】(Part2)
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『 夜の新宿東口 』


さて一行は ,ふたたび新宿の構内へ戻って,東口を出て南へ向かった。南へ向かうのなら新宿駅の南口から出れば良いのだろうが,じつは南口へ出るルートを忘れてしまっていたのである。途中居酒屋へ入ろうとしたら「すいませんねー,もう閉めますから」とキッパリ断られ、十二時半までやっていると言う店を教えて貰ったのだが,行けど探せど一向に見当たらない,どこでもいいやとネオンのついているビルの二階の比較的大きな居酒屋へ入ったのだが,忙しそうでなかなか注文を取りにが来ないのである。「いらっしゃい」とも言ってくれない,随分待って「コリャ出た方がいいかな」と思っていると、やっと注文を取りに来てくれた。しかし,いきなり「お客さんラストオーダーです」と言われてしまった。

我々はファーストオーダーもしていないのである,お茶も水もオシボリも無いのに、やっと注文に来たと思ったら「最後」だと言うのである。しかし「忍耐」と言う尊き言葉を知っている我々は、にこやかに、そして落ち着いてメニューの蟹コロッケ、ホッケ、甘エビ、漬け物、刺身などを一気に注文した。暫くしてやっと「お通し」がやっと出て来たが、ビールがなかなか出てこない。

厨房から恐そうな顔をした店員さんが、恐い顔をしてこちらの方へやって来たので、「注文した品が未だ来ないよ」と催促・・・しようかと、恐そうな店員さんの顔を見た。恐そうな店員さんは、我々の方に近づいて来るのだが注文したビールも甘エビも持ってはいない。それどころか、恐そうな顔をした店員さんは恐い顔をして我々の前に立ち,私に「レジを閉めるから会計を先にしてくれ」と言ったのであった。これにはさすがに「仏のたくぶん」と言われている私もムッとしてしまった。

しかしムッとする以外に抵抗する術が無かった。何故なら店員の人相が、とっても怖いのである。わたしは気が小さいのだ。象のからだにノミの心臓と自他共に認める「A型血液のサラブレッド」の性格なのだ。だから心ではムッとしながらも表情はにこやかに「・・・お幾らですか?」と聞いてしまうのである。これが「仏の」と言われる理由であろう、情けない。人相の悪い、不機嫌で恐そうな顔をした店員さんは、面倒臭そうに「7800円です」と申された。この店に入る前に「会計係り」に就任していた私はズボンのポケットから一人2000円づつ集めた本日最後の飲み代8000円を、人相が悪くて、不機嫌で、面倒臭そうな態度の、恐い顔をした店員さんに渡した。



注文した品も食べ終わり、我々は12時半頃その店を出た。夜風が肌に心地よい。ビルの外では「酔っぱらいの展示会」が開催されていた。道ばたの新聞紙を脇に挟んで心地よさそうに寝ている人,青くて大きなポリ容器の上に座り「考える人」。男同士で肩を組みラインダンスを踊る人々など,そこには酔っぱらいの世界が広がっていた。「おおぅ,これが都会の夜だぁー!」と,我々もその人々と同化して新宿の夜の街を歩きまわった。・・・というか,正確にいうと私達、道に迷ってしまったのである。

いつもの地元の駅前通りなら,かなり酔っていても知らない間に家に着いているのだが,ここは新宿,大都会である。360度、ビルしか無いのである。立ち小便をする茶畑なんて存在しない。しばらく歩いて「腹すいたわー,ラーメン食べたぁない?」と内海氏が言い出したので、会計の私は「今の店でお預かりしたお金は丁度無くなりましたー」とポケットのお釣りを見せようと手を入れた。ところが、何故か指先に何枚かのお札の感触。
「・・・おかしい、8000円入っていて,今の店の勘定が7800円だったのに」・・・と、ポケットのおカネを出して数えてみると,なんと8200円も入っていたのだった。

そうです、実は8000円渡してお釣りを8200円貰っていたのでした。そう言えば、お釣りを貰ったときにお札を握った記憶がありました。ポケットから出した札束を見て、「おおー!ラッキーやん!」と、皆さん何故か大阪弁で口を揃えて叫ぶのでありました。その叫び声は新宿のビルの間にこだまして、歩行中のカップル3組がこちらを振り向かせる事になるのでした。しかし誰一人として「さっき入った店に返しに行こう」と言う奴は居ないのです。それもその筈、この酔っぱらい達は、場所どころか店の名前すら覚えていなかったのである。

本当のことを言うと私だけはそのビルを見れば入った店くらいは判ったのであったが,あの人相の悪い不機嫌で面倒臭そうな態度の恐い顔の店員さんの顔を思い出した瞬間に、私の記憶からあの店のデータは完全に消去されてしまったのであった。(しかしその罪悪感か,この先の表現が「です・ます」調になってしまうのである)



4人は思いがけない恵みに上機嫌で一番初めに見つけたラーメン屋に入り、目玉焼きの乗ったラーメンを食べたのでした。食べ終わると3200円のところを「いやー美味しかったです,お釣りはいりません,ご馳走様」と4000円払い、ついでにホテルへの帰り道をこのラーメン屋のオヤジさんに聞いたのでした。オヤジさんは実に丁寧に帰る道を教えてくれました。

ラーメン屋さん を出るやいなや「わっはっは!これが東京だよ!これがぁー!」と訳のわからない奇声を上げて今度は歩行者2名を振り向かせました。酔っぱらい四人組は新宿の町を夜風に吹かれ都庁の前を通り,ホテルへとゆっくりとした千鳥足で向かったのでありました。

途中, 四人組の内の一人,鈴木氏が都内の弟の家に泊まる予定だったので、弟の所へ電話をする為電話ボックスに入りました。しばらくして怪しい張り紙だらけの電話ボックスから、険しい顔をした鈴木氏が出て来ました。弟の家に電話したところ、留守番電話になっていて「家には居りません」とメッセージが入っていたというのです。さーて困った。ホテルには3人しか部屋を確保してありません。酔っぱらい達は緊急会議を怪しい張り紙のペタペタ貼ってある電話ボックスの前ではじめました。「一人増えたから・・」とフロントでシングルをもう一室頼めば良いと言うオーソドックスな提案は,ホテルのメンバーでは無いので8000円以上お金が掛かる、という理由で却下されました。

本人が 「ソファーでもいい」と言うので、急きょ「3人部屋に4名宿泊作戦」が計画されました。夜も更けてタクシーくらいしか通らない新宿の街の一角の怪しい張り紙だらけの電話ボックスの前で、ヒソヒソと円陣を組む怪しい4人組みの後ろを一陣の風が通りすぎて行くのでありました。

つづく


 

 


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