~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~        「JCSの最終案の核心」 の 「補足(続)」        ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~      目次      ・ 地名字の不足      ・ 戦前の文書のデジタル化      ・ 機種依存文字の人名例      ・ 国語審議会との関係      ・ 13万字のTRON      ・ 文字化けと指定席券    ※ 追記の箇所には ☆ を入れた。(検索すれば見つかる)      再追記した分は ◇ を入れた。(99.09.26.)      再々追記の分は ▽ を入れた。(99.10.08.)      おまけとしては ◎ を入れた。(99.10.15.)      つけたしの分は Θ を入れた。(99.11.15.)      補充情報の分は ♭ を入れた。(99.12.10.)  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  【 地名字の不足 】  JCS案では、地名字をすべて採択した、とのことだが、重要な地名字がい くつか漏れていることが判明した。  この漏れは、単純な注意ミスによるものではなく、JCSの独自の包摂概念 による、意図的な漏れであろう。  漏れた文字は次の二つである。   ・「鯖」の正字   ・「はしご高」  以下では、詳しく説明する。(読者からのご教示による)   *  *  *  *  *  *  (1) 「鯖」の正字  「鯖」の正字は、「青」の部分が旧字体になっている。つまり、「青」の 「月」が「円」になっている。  ところが、一般に、JCS案では、「青」の部分字形が旧字体のものは採択 されない。    ※ 現JISの「倩,猜,睛,菁,蜻,d」はすべて正字体である      (78JISの「錆」「鯖」も正字体である)。また、現JIS      の「静,靜」は、新旧の両字体がともにある。だから、JCS      の独特の見解は、JISに由来するものではなくて、あくまで、      現在のJCSの独特の見解である。  こういう独特の見解により、JCS案では「鯖」の正字がないようだ。  ところが、である。地名では福井県の福井市の南に「さばえ」市という市が ある。この「さばえ」は「鯖江」だが、「鯖」が正字である。  JCSでは  「旧字体と正字体は包摂される」  との見解のようだが、実をいうと、当の"鯖"江市の当局がそれを否定してい る。つまり、市名の「鯖」は、右下を「月」でなく「円」で書かなくてはなら ない、と明示している。  この事実は、下記の二つの公文書でも、明示されている。   ・「市町村要覧(自治省行政局振興課)、福井県鯖江市の公式名称」   ・「郵政省告示 平成6年度 告示番号601号 鯖江局改称の件」  つまり、JCS案は、政府の公的方針を真っ向から否定しているわけだ。  (2) 「はしご高」  「はしご高」も同様である。(Windowsの機種依存文字では「」)  これはWindowsの機種依存文字としてある(したがって Unicode にもある) のだが、なぜか、JCS案でははずされてしまった。どこかの一企業の外字 システムに実装されている略字は「実装例あり」として優先して採択される くせに、Unicode にある文字は「実装例がない」と見なされるらしい。奇妙 な話だが。  さて、この文字は、地名字としては、やはり例がある。  この文字は、百貨店の「高島屋」の文字として使われる。ところで、高島屋 内に「店内郵便局」というものが設置される場合があり、その郵便局の名称で は、必然的に、「はしご高」の文字が使われることとなる。  具体的な名称は、次のもの。    ・ 埼玉県大宮市の「大宮高島屋内郵便局」    ・ 千葉県の「柏高島屋内郵便局」  この二つの郵便局の名前は、郵政省から、最初は普通の「高」で告示された が、のちに、「はしご高」に改められたのだそうだ。  以上、(1) (2) の二つの件を示した。この二つの件(地名字情報)について は、読者からご教示をいただいた。当の読者のホームページは、下記の通り。       http://www2u.biglobe.ne.jp/~keshiin   *  *  *  *  *  *   ☆ 【 追記 】  「ほら貝」のページの作者から、「はしご高」について、追加情報を得た。  「はしご高」は、法務省の方針でも、別字と見なされているようだ。  詳細は、下記の通り。  法務省の「誤字俗字一覧」という通達がある。ここでは、訂正しないことに なっている誤字俗字が、百五十字ほどリストアップされている。そのなかに、 「はしご高」が入っている。  さて、省庁の通達は、官報にも載らないのが普通だが、市町村役場の需要が あるので、この件は、文書化されている。  「人名用漢字関連通達集」(日本加除協会 刊。3000円程度。)  という書籍がそうだ。かなりぶ厚い。大きな図書館に行けばあるそうだ。  なお、ここには、訂正すべき誤字俗字のリストというのもあって、興味深い そうだ。   -------------------   ◇ 【 再追記 】  「はしご高」については、もっと広範な用例を得た。地名ではなく人名だが。  「学士会名簿」を見ると、「はしご高」の例が広範に見つかる。   *  *  *  *  *  *  さて。そこで、である。  以上では、JCS案における、文字の漏れを具体的に示した。  では、どう対処すればいいのだろうか?   「この二字だけを、JCS案に追加すればよい」  と思うかもしれないが、それではダメである。    まず、「鯖」の正字だが、この正字だけを追加しても、そんな個別的なご都 合主義ではダメである。話は、「鯖」だけでなく、「錆」も同様だし、その他、 「青」の正字を部分字形としてもつ多くの文字も同様だからだ。(特に「青」 という文字の正字が必要である。)それらすべてに対処する必要がある。  つまりは、JCSの方針それ自体を否定するべきだ。JCSの方針は、国家 の方針や、漢和字典の方針に反するような、ごく奇妙なものであるから、当然、 この方針自体を根本的に否定するべきだ。  すなわち、正字については、妙な包摂概念にとらわれず、すべて採択するべ きだ。  「はしご高」も同様である。「はしご高」と「高」とは、画数が異なる。    (前者は後者よりも1画多い)  画数が異なるものを包摂するのは、無理がある。もしそんなことをしたら、 画数順の漢和字典も作れなくなってしまう。(だからJCS案では、画数に、 やたらと間違えがあるのだろうか。……福田雅史氏のページを参照。)  一般に、画数の異なる異体字は、別字として採択するべきである。特に、そ れが一般に流布している場合には、そうするのが当然だ。   ※ 一般に流布しているか否かは、多くの人がそれを読めるか否かで、     わかる。「はしご高」なら、かなり多くの人が読めるはずだ。一     方、JCS案の人名異体字には、たいていの人が読めないものが     多くある。これらはほとんど流布していない文字だ。  余談だが、次のような主張をしたJCSの人がいた。  「(もしJISに地名文字がなければ)『JIS漢字』では我が子の通う小学 校名すら書けないという体たらくになっていただろう」  と。( http://www.linelabo.com/eureka31.htm より孫引き)   ¶  これはなかなかおもしろい主張である。日本人のほとんどが読めないような、 田舎の小学校の文字が書けないことを、さも大問題のように扱う。そのくせ、 「"鯖"江」が書けなくてもいい、というわけだ。こちらは、国民のかなり多く が知っているような有名な市名であるし、JRの駅名にもなっている。そうい う大問題を無視して、田舎の小学校の名前ばかりにこだわるわけだ。  ついでに言えば、「"鯖"」の正字は、寿司屋の湯飲みには、たいてい書いて あるはずだ。「"錆"」の正字だって、たいていの人が読めるはずだ。そういう 事実を無視するのだとしたら、JCSは、どこかで鯖読みしているのかもしれ ず、どこかが錆びているのかもしれない。  ※ 参考までに言うと、「木+青」(「青」は正字)という文字はJCS案    にもある。この文字は、機種依存文字として 区点 8908 ,11537にあり、    Unicode として 68C8 にあるが、そのせいだろうか。この文字を略字に    作り直すことは、さすがにしなかったようだ。(JCSの方針としては    不統一だが。なにしろ「木」へんでなく、「日」へんや、「さんずい」    ならば、排除しているのだから。)  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  【 戦前の文書のデジタル化 】  「正字は、戦前の文書の OCR 読み取りで、必要だ」  と本論では主張した。  これに対し、  「戦前の文書のデジタル化なんていうプロジェクトがあるのか」  という批判が、JCSの周辺から届いた。  しかし、そんなプロジェクトがあってもなくても、話は変わらないはずだ。 なぜなら、個人の範囲で、戦前の文書を OCR 読み取りすることがよくあるか らだ。  ただ、上記のような大規模なプロジェクトが公的に開始されたことが報道さ れたので、ここに書き留めておく。  読売新聞 1999-09-20 夕刊によれば、概ね、次のとおり。 「国立国会図書館では、所蔵する昭和前期の社会科学分野の出版物約八万冊を、 デジタル化して、出版する計画が進んでいるそうだ。マイクロフィルム化して から、デジタル化するのだという。文書の時期は、昭和元年〜昭和24年」  ここではたぶん OCR を使うのだろう。となると、先に述べた問題( OCR の 読み取りミス)が生じそうだ。(本論 codelast.htm を参照。)  また、OCR を使おうと使うまいと、デジタル化したとき、必然的に正字を 使うことになりそうだ。なぜなら、元の文書はほとんどが正字(旧字)であ るはずだからだ。   ※ 仮にデジタル化したとき、正字でなく略字を使うとしたら、資料に     勝手に手を加えることになり、資料としての価値が大幅に減じてし     まう。国会図書館ともあろうものが、そんな愚かなことをするとは     思えない。国会図書館は誰かと違って、常識的分別があるはずだ。  というわけで、公的システムで、正字を使うことになるわけだ。  一方、新JISでは、これらの正字がないので、これらの正字を正しく扱え ない。(欠字になるか、もしくは、略字に文字化けする)。  というわけで、新JISは、ここでも欠陥を露呈しているわけだ。  ◎ 【 補記 】  戦前の文書の電子化としては、新たな実例が得られた。  1999-10-09 の読売新聞朝刊1面によると、読売新聞社は同社の明治時代の 新聞記事を電子化して発売するそうだ。期間は明治7〜明治45。記事本数は 約60万。CD-ROM 39枚。88万円。  さて、これは、紙面イメージをそのまま画像化したものであり、テキスト化 したわけではない。私の推定では、記事本体だけをテキスト化すれば、CD-ROM 2枚程度になるはずだ。  それが、なぜ CD-ROM 39枚になるかといえば、テキスト化しないからだが、 その理由は、次の二点によるのだろう。  (1) 戦前の文書は旧字なので、OCR で読み取れない。  (2) たとえ OCR で読み取っても、パソコンに旧字がないので、正しく表示    できない。  では、新JISで正字(旧字)が採択されたら、上の点はどうなるか?   ・ (2)の点は、もちろん大丈夫。(正字があるので。)   ・ (1)の点は、OCR の認識能力が99%ぐらいなので、一応、大丈夫。     一部でOCR の誤認識があるだろうが、その場合は、画像に戻って、     正しい文字を確認すればよい。( OCR によるテキストは、高速表     示とか検索のためにのみ、簡易的に用いるだけ。)  このように、新JISに正字があれば、いろいろと便利になる。戦前の文書 をコンピュータでまさしく電子的に処理することができる。  しかるに、JCS案は、その道を閉ざしてしまった。JCS案のJISは、 「日本語を扱うための規格」とはなっていない、あまりに不完全な規格である。 こんなものは、「人名処理用規格」としてのみ定めるべきであろう。  そして、別途、新たに「日本語用規格」を定めるべきであろう。そこでは、 戦前の文書を含めて、日本語の文書をまともに扱えるようになるはずだ。  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  【 機種依存文字の人名例 】  機種依存文字について、ちょっとしたおもしろい話題を聞いたので、ここに 述べてみよう。新たに判明した問題というよりは、すでに述べた問題の具体的 な例といったものである。  SMAPに「草〓」(くさなぎ)という人物がいる。その「弓+剪」(なぎ) という字が、MS社のテレビ広告で、「Windows98ではこの字が使えます」と 示されているのだそうだ。(仄聞した話。私は未確認。)  この「なぎ」の字は、     Unicode   5F45     JCS案  1-84-26  にある。一方、     機種依存文字 8912 , 11540 (区点)  にもある。このうち前者は、新JISで、同じコードポイントの     JCS案  1-89-12  の文字に文字化けする。その文字は「石+渠」で、読みは「キョ」。  つまり、「くさなぎ」くんは、新JISでは「くさきょ」くんになってしま うわけだ。  MS社は「Windows98では『草なぎ』も使えます」と言っているようだが、 「ただし新JISを使うと別の字になります」と注釈するべきだろう。  なお、このような文字化けが生じるのは、新JISが現在のWindowsで使わ れているコードポイントとはわざと異なるコードポイントに、「なぎ」の字を 割り当てたからである。    ※ 後述のTRONのページでは、この「なぎ」が使えることを得々と      して示している。さて、このTRONの文書を、JISの形式で保      存すると、どうなるか?       もちろん、現JIS形式で保存した場合と、新JIS形式で保存      した場合とでは、同じ字でも、コードポイントが異なる。となると、      現JISと新JISは、「たがいに互換性のない別の規格」となる      のかもしれない。(ひどい話だが。)  以上は、既存の機種依存文字を使った場合の文字化けだが、逆方向の場合も、 話は同様である。すなわち、新JISで機種依存文字領域の文字を使えば、現 JISのフォントで読み取ると、文字化けが生じる。  たとえば、「視」の正字がある。この正字は、JCS案では 1-91-89 に ある。それを現JISのフォントで読み取れば、当然ながら、機種依存文字の 別字(「しんにょう+章」という字)に化けてしまう。  「警視庁」の建物の入口を見ると、「警視庁」の「視」が新字でなく、正字 となっている。しかるに電子化すると、「警"視"庁」が「けいしょうちょう」 になってしまう。「けいしょうちょうから呼び出しがあったよ」と連絡を受け て、わけがわからずにいると、いつのまにか逮捕されてしまう、ということも ありそうだ。  83JISでは、略字と正字を交換した。(たとえば「濤」と「涛」)。そこ では、字体の混同は生じたが、少なくとも意味の混同は生じなかった。(たと えば「波濤」が「波涛」に化けても、意味は変わらず。)  しかるに今回、機種依存文字の領域で、「完全なる文字化け」が生じること となった。これは史上初のことだろう。人類史上、このような文字化けを起こ そうとした者は、かつて一人もいないだろう。その独創性(?)は、たぐいま れなものである。  とにかく、こういうふうに、JCSはよほど文字化けを起こしたいらしい。 あちこちで。  仮定の話だが、日本に敵国のスパイがいて、日本を混乱させようと思ったら、 きっとJCSと同じことをやるだろう。2000年問題は、わずか一日限りだが、 JCS案を導入すれば、日本を数十年にわたって混乱させることができるから だ。これほど効果的な日本錯乱計画は、まずあるまい。まったく、その巧妙な 奸計には、脱帽する。  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  【 国語審議会との関係 】  「国語審議会で示した 215字は、その大部分が採択されているようだ」  と、すでに本論で記述した。  それはそうなのだが、すでに述べたとおり、いくらかは漏れている、と判明 したことになる。つまり、次の3字がない。(らしい)      淫 鯖 錆  もちろん、この3字に限られているわけではない。まだはっきりと確認はし てはいないが、「羽」の部分字形を持つ次の7字(正字)も、ないらしい。      溺 翰 翫 摺 煽 謬 翠  以上の計10字は、「国語審議会で示した 215字」に含まれる。つまり、国語 審議会が「こうせよ」と示した文字である。  JCSは、それを真っ向から否定しているわけだ。つまり、「国語審議会の 方針なんか、間違いだ。」というわけだ。( codejcs1.htm にも記述したが。)    ◇ 〈 再追記 〉      JCSでは、これらの文字の正字を「包摂」で扱うつもりらしいが、     国語審議会では印刷標準字体を示して、「そのようなこと(包摂)を     してはいけない」と、はっきり明示している。(それが、国語審議会     の報告の要点である)      なのに、JCSは、「包摂」などを持ち出して、それを真っ向から     否定する。      では、それならそれで、そのことを明示するべきだ。国語審議会は     自らの考えを、報告として公開した。「印刷標準字体 215字」という     形で。JCSも、それに応じる自己流の主張を、(その分だけ抜き出     して)「JCS版 標準字体 215字」というような形で公開するべき     だ。(ジョークのようだが、ジョークではない。なお、約1万字もあ     るデータの中にこっそり埋め込んでも、そんなやり方ではダメだ)      JCSは、「国語問題は自分たちで決める」と言い張りたいのだろ     う。それならそれで、その主張をはっきりと明示するべきだ。そこに     おいて、包摂でも何でも、勝手に主張すればよい。たとえば「『鯖』     の新字と旧字は包摂すべきだ。国語審議会の見解は誤りだ。自治省も     郵政省も誤りだ。"鯖"江市の見解も誤りだ。日本中の漢和字典も、み     んな誤りだ」と。      また、JCSは委員長の言葉として、「国語審議会は偏向している」     と新聞上で公言している。( codejcs1.htm を参照 ) ならばJCS     は、「国語審議会は間違っている!」と、文書で示すがいい。         ※  なお、JCS委員長の批判の大意は「国語審議会は、新聞         を漢字調査の対象としないので、偏向している」。          しかし、国語審議会の方針は、当然である。新聞は、漢字         制限しているからだ。漢字制限しているものを、漢字の調査         対象にするのでは、本末転倒だ。          委員長の主張に沿えば、次のようになる。          “新聞では、「日食」と書く。ゆえに「日蝕」の「蝕」は、           正字でなく略字にするべきだ”          ……私にはその論理が全然理解できない。  さて、付言すると、国語審議会の示した報告は、まだ試案にすぎず、正式に 決定したわけではない。しかし、すでに「試案」という形で、正式に公示され ているのである。  しかるに、JCSは、それを無視する。「自分たちは、文字の決定にあたっ て、各種の公的文書を参照にした」というが、一番肝心な国語審議会の報告だ けは無視するわけだ。まったく、ものが言えなくなる。  なお、追記しておく。国語審議会の方針が、まだ正式に決定していない。し かし、それは、1年以上にわたって準備期間を置いているからである。その間、 国民の議論を待っているわけだ。  ひるがえって、JCS案は、そうではない。最終案が姿を現してから、わず か1カ月かそこらで、正式に決定しよう、ということになる。つまり、国民の 議論など、聞く暇さえないし、聞くつもりもない。  国語審議会の方針が、まだ正式に決定していないのは、上のような事情にあ るのであって、決して「無視してよい」というようなものではない。(ただ、 JCSとしては、どうしても無視したいのであろうが。……)   ※ ついでに言えば、南堂私案では、これらの正字は追加されず、既存の     コードポイントのまま、「字形の変更」で対処される。     もしかしたら、JCSも、そうするつもりだ、というのかもしれない     が、その方針を示していない。(南堂私案と異なる。)     また、南堂私案では、「羽」や「青」など、常用漢字に対応する正字     は、新たに追加される。この点でも、JCS案は南堂私案と異なる。   ※ ついでに言えば、国語審議会では「食」へんの略字を[簡易慣用字体     として ]認めることを、検討しているのだそうだ。( codeknk2.txt     を参照)     ところが、JCS最終案では、「飯,飼,館」の正字がない。(本論     codelast.htm を参照。)つまり、包摂扱いしているらしい。     この点でも、JCSは国語審議会と見解が異なるようだ。   余談だが、先のJCSの人の主張( ¶印の箇所)は、正しくは次の通り。 「何かの字典の文字を全部入れればよいなどという安直な姿勢で『JIS漢字』が 作られていたなら、『JIS漢字』では我が子の通う小学校名すら書けないという 体たらくになっていたはずなのである。現今でも、こうした『ある字典の文字 を全部』という安易な文字コード論を散見するが、寒心に堪えない」  で、こういう方針で、確信犯的に、既存の字書を無視してきたわけだ。  そこで、ほとんどの人が読めるような平易な文字(もちろん漢和字典にもあ る)を、あえて排除したわけだ。字書無視の方針も、こういうふうに信念にも とづいてのことなのだろう。「国語審議会を無視する」というのも、「政府を 無視する」というのも、「国民を無視する」というのも、同様の信念にもとづ くのであろう。(「正字犯」的信念?)  「寒心に堪えない」  と誰かが言い出しそうだ。  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  【 13万字のTRON 】  1999-09-22 の読売朝刊によると、13万字(外国語含む)のTRONが 11月 中旬ごろ、発売されるとのこと。商品名は「超漢字」。価格は1万円ほど。  システムはOSプラスアルファらしい。漢字のほか、メールソフトもあると いう。その他、付属のソフトもいろいろとあるようだ。  発売元は「パーソナルメディア」だが、そのURLは下記。    http://www.personal-media.co.jp/  どこまで実用性があるかは、よくわからないが、「楽しいオモチャ」ぐらい にはなるだろう。AIBO よりは安いし。Linux に比べれば、素人でも大丈夫だ ろう。  なお、私の個人的な見解では、Windows や Mac のかわりになるとは とても 思えない。ただし、WindowsCE[家電版]のライバルだと思えば、それよりは マシだろう。問題は、Linux のライバルになれるか否か。さらに、ISO 2022 拡張 とのライバル関係も気になる。……このあたり、私としては、まったく 見通しが立たない。興味津々、というところ。  なお、TRONでは、次のように言っている。( 後述の press.html )   「あらゆる文字を使えます」   「ない文字は追加する制度があります」  しかし、たとえば、次の記号はどうか。   ・ 家紋 , 紋章  (これは個人的な記号。数は数百万か?)   ・ 企業のマーク (登録商標として、他者利用を禁じた場合)  このどちらも、現在、ユーザ外字として、各人が Windows などで利用可能 だが、TRONではまず無理。  もっと典型的な例もある。   ・ 架空の(バコド星の公用語)「バコド語」の、バーコードふうの     結合文字1兆字のうち、サンプルとしての、任意の50字。  これも、そのたびにサンプル文字を考えれば、現在、ユーザ外字として使え る。SF小説を書くことも可能。  一方、TRONでは、あらかじめ(!) 全文字を用意しておく必要がある。 だが、この1兆字を入れれば、パソコンのHDからあふれてしまうだろう。 本当にこんな文字まで、TRONに入れるのだろうか。利用者は世界でたった 一人しかいないはずだが。   ※ 余談だが、「バコド語」の文字にいくらか似たものとして、「源氏香」     という記号がある。各種辞典・事典などを参照。   ◇ スタートレックに出てくる「クリゴン文字」が、Unicode に入ること     が検討されたことがあるらしい。(TRON関係の情報より)     このような人工的な文字は、Windows 環境では、ユーザ外字として、     いくらでも使える。(フォント切り替えをすれば事実上、無限個。)     しかるに、TRONでは、登録されない限り、1個も使えない。  ともあれ、ユーザ外字が使えないという点で、TRONは無責任であるわけ だが、実は、この点は、新JISも同罪である。  「愚か者はそろってみな同じ穴に落ちる」  という格言を聞いたことがあるような気もするが。……  なお、TRONでは、「諸橋や康煕字典の文字を全部」(さらに、流布して いる略字なども大幅に取り入れる)──という方針が取られているようだ。  これはこれで、なかなか筋の通った考え方である。  ただ、先のJCS関係者は、こういうふうに「字書全部」というのを否定し ている。では、TRONからどの文字を落とすべきなのか、聞いてみたいとこ ろだ。もしかしたら、「TRONから正字だけ落とせ」と言うのかもしれない。 ところが、正字を落とそうとして、自分が穴に落ちる、とか。……  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ☆ 【 追記 】  ユーザ外字の必要性について、若干、追記しておく。  TRONでは、ユーザ外字を禁止しているようだ。  だが、そもそもの話、「世界で利用者がたった一人しかいない」とわかって いる「発明された記号」のために、なぜ、わざわざコードポイントを用意する のか、さっぱりわけがわからない。  「文字化けの恐れ」というのかもしれないが、他人が使わないとわかってる 人工的な記号なら、そもそも伝達されない。だから、文字化けの恐れもない。 話が本末転倒に思える。  また、そもそも、「個人が勝手に自分一人で使いたい」という記号を、なぜ 「お上(?)の許可がなくては禁止」と統制するのか、それもわけがわからな い。TRONの画像ソフトでは、絵を描く際にも、「許可されていない図画は 描画禁止」とするのだろうか? それとまったく同様な話なのだが。 ◇ 【 再追記 】  ユーザ外字の必要性について、もう一言。  TRONでは「13万字使える」とか言っているが、それをもって「たくさん 使える」と思ってはならない。「たったの13万字にすぎない」というのが正し い。  なぜなら、Windows にせよ、ワープロ専用機にせよ、ユーザ外字を使うこと によって、事実上、「無限個」の文字を使えるからだ。(どんな文字であれ、 自分で作って使える。)  「無限個」と「13万字」では、月とスッポンである。TRONとは、ほんの ちょっとの文字しか使えない体系なのだ。  ついでに言えば、JCS案も同様だ。「新JISではたくさんの文字が使え るようになった」などと思い込んではならない。丸数字(丸つきの 30 など) や、「つち吉」や、点字など、従来はユーザ外字で利用できたものが、ことご とく使えなくなる。また、漢字もそうだ。JCS案では、「さんずい + 勞 」 のように、抜けている文字がある。( codemail.txt を参照。)TRONでは あらゆる漢字が使えるようだが、JISでは使える漢字が限定されているのだ から、JISではどうしてもユーザ外字が必要となる。ユーザ外字さえあれば、 どんな漢字であれ、一応使えるからだ。  なのにJCS案では、そのユーザ外字が使えなくなる。以前は無限個の文字 を使えたのに、今後は一定限度のものしか使えなくなる。新JISでは、使用 可能な文字数が、大幅に減少してしまうのだ。その点、間違えてはならない。 「たくさん使えるようになる」というのは、一種の詭弁か、誇大宣伝である。     〈 注 〉TRONは、システムとしては無限個の文字を使えるように         なっているが、それを自由に使えるわけではない。自由に使         うことは禁じられている。(いちいち登録・許可が必要。) ◇ 【 再追記 】  ユーザ外字の問題について、もう一言。  TRONでユーザ外字が使えないとしても、それは単に使えないだけの話で あり、特にトラブルが生じるわけではない。  JCS案では、異なる。JCSでは、「ユーザ外字は使用禁止」としている が、意味不明な主張である。ユーザ外字を使うか否かは、JISが決めるべき ことではなく、OSが決めることである。(†)  では、OSの方はどうするか? 「今まで使えたユーザ外字が、今日から使えなくなります。今までは『つち吉』 を使えたけれど、今日からはダメ」  なんていう方針を、もし打ち出せば、ユーザから苦情が殺到する。だから、 ユーザ外字を廃止することはありえない。つまり、同じ領域を、新JISとユ ーザ外字で、共用することになる。当然、文字化けは必然である。JCS案は、 いわば、 「同じコードポイントに二つの文字が割り当てる文字コードを作る」  というのと同様である。あまりにも馬鹿げているとしか言いようがない。  なお、正確に言えば、「外字の使用は禁止」と言っても、それはJISの範 囲内だけのことだ。つまり、フォントだけの話だ。しかるに、ユーザ外字は、 フォントに優先して決まる。どんなフォントを使って、どんな文字を割り当て ようと、その上に、ユーザ外字が上書きされる。OSがそういう仕組みになっ ているのだ。( ※1)  「そんなことはダメだ。ユーザ外字は使わないようなOSにしろ」  とJCSは言うのかもしれないが、JISは、OSを決める機関ではない。 どうしてもそう主張したければ、TRONのように、OSの側でユーザ外字を 禁止するしかない。JCSはOSの開発までするつもりがあるのだろうか。 (そのうち「Windowsの改変にはJCSの許可が必要だ」と言い出したりして。)    ( ※1) 「どんなフォントについても」というのは、通常の場合。         その他、フォントごとに指定する方法もある。    〈 参考 〉 ……ついでに言えば、私の私案では、ユーザ外字領域は、         範囲を縮小した領域で、残る。この方式ならば、OSの側に         変更を依頼することもできる。私は、自惚れ屋の誰かと違っ         て、「OSまでおれが統制するのだ」とは思わないので。 Θ 【 つけたし 】  外字の必要性について、付け足して言う。  外字は、ユーザが個人的に利用するだけではない。アプリが利用することも ある。  「JISにない文字」を、辞書などのアプリが扱う場合がある。たとえば、 資料「国語辞典の外字」にあるブックシェルフの外字には、次のようなものが 見られる。   ・  ○+公 (マル秘ならぬマル公。「まるこう」の項目にあり)   ・ 「上」と「レ」を合成した、返り点   ・ 「い字の三点」の項目にある、特殊な記号  集英社の事典「IMIDAS」2000年版の 付録 CD-ROM にも、外字が見られる。   ・ ハーケンクロイツ  ( 卍 に似ている。)  さて、このような特殊な文字は、上記の辞書では、どう扱っているか? そ こでは、   「ユーザ外字領域の文字を、フォント切り替えで利用する」  というやり方を取っている。なお、別のやり方として、   「通常のJISの記号領域のまま、フォント切り替えで利用する」  というのもある。だが、これは、文字化けが起こるので、好ましくない。    ※ 前者ならば、単に文字が消えるだけなので、消えたことがわかる。      後者では、別の文字に化けるが、文字化けしたことは一見しただけ      ではわからない。  というわけで、辞書などのアプリが、JISにない文字を利用するには、外 字領域がどうしても必要なのである。この旨、強調しておく。  仮に、外字領域を用意しておかなければ、上の後者の方法を取らざるを得な い。しかしこれは、世の中に多大な混乱を引き起こすのだ。  「外字を使うと、文字情報が正しく伝わらないので、問題だ」  という意見もあるが、話がおかしい。外字を使わなければ、通常のJISの まま、フォント切り替えで対応することになる。それでは、「正しい情報が伝 わらない」どころか、「誤った情報が伝わる」のである。それは困る。  「文字が化けるくらいなら、文字が消える方がいい」  「嘘を付くくらいなら、黙っていてもらいたい」  というのが、私の立場である。たとえば新聞で、大本営発表の嘘情報ばかり 出すくらいなら、白紙で出すべきだ。私はそう思う。(異論もあるかも……) ◇ 【 再追記 】  外字による「点字」の利用について、追記しておく。  点字は、ユーザ外字で使ってもいいし、私案のように専門外字で使ってもい い。あるいは、JISの本体に組み込んでもいい。実装の方法は、さまざまに 考えられるが、とにかく使えるに越したことはない。ところが、  「点字なんか、コンピュータで使うことに意味があるのか!」  という声が寄せられた。その傲慢さには呆れる。思いやりのかけらもない。 点字を使うか否かは、点字を使わない人が決めることではない。点字を使う人 が決めることだ。ぎゃーぎゃーと口を開くよりは、まず聞く耳を開いてもらい たいものだ。  ただ、一応、使い方の一つを示そう。次のような使い方がある。    < 音声の自動点字化 >      ・ まず、音声を「音声認識ソフト」で、ひらがなにする。      ・ コンピュータ上のひらがなを、置換処理で、点字に置換する。        (素人でもできる簡単なプログラムで済む。)      ・ 点字プリンタで(もしくは立体インクで)、点字印刷する。     ※ 点字プリンタとは、物理的に、紙に点字を形成するもの。       立体インクとは、過熱すると発泡して膨らむインク。       これらは、音声認識ソフトなしでの、普通の点字印刷もできる。  ♭ 【 補充情報 】  点字の必要性について、新たな情報を得たので、追記しておく。  (1) 朝日新聞 1999-12-10 社会面より  「ソフト違法コピーに罰金 最高で1億円」  という見出しの記事がある。ここに点字の情報が記述されている。概要は、 下記の通り。(原文通りではない。)  文化庁の著作権審議会が報告書をまとめた。それによると、 「活字メディアの文章を、パソコン上の点字データに変換し、インターネット を通じて、視覚障害者に無償で配信する」  のだそうだ。これにより、 「配信されたデータを点字プリンターで印字すれば、自由に新聞・雑誌、書籍 を読めるようになる」  ということになるのだそうだ。    ……  さて、一読して明らかなとおり、ここでは、点字が文字コードとして使われ ることが前提となっている。ゆえに、次のようになる。  ・ 現JISは外字領域を使うしかないので、不適である。  ・ JCS案は、どの領域でも使えないので、根本的に不可である。  上記二点を、指摘しておく。  (2) 朝日新聞 1999-12-10 政治関係解説面(東京版6面)より  日本IBM(株)は、企業による社会福祉援助を行っていることで以前から 有名である。(どこかの文字コード委員会とは正反対だが。)  さて、「変革のサポーター 個性ある貢献を重視」という表題の、上記記事 によると、日本IBMは点訳のデータベース化を行なっているのだそうだ。  点訳ソフトを開発し、点字図書館などとの協力で点訳を勧め、データを蓄積 してきた。今では三万点以上の点訳本を全国70箇所の端末で複製できるように なったのだという。(記事の概略。)  まことに喜ばしいことだ。ただ、少々残念なのは、これがおそらくは同社の システム上でしか働かない、ということだ。  もし新JISに点字が採択されれば、(簡単な文字コンバータにより)同社 の点字データを新JIS上に移植できる。[上の(1)の著作権法の規定により、 無償で点字化されるようになるからだ。]  こうして、誰でもパソコン上で多くの点字データを扱えるし、印刷もできる。 たとえば、次のように。 「遠隔地の離島にいる人が、点字図書館のホームページを通じて、点字データ  を入手し、自宅の点字プリンタで印刷する。」  新JISに点字が採択されれば、このようなことが楽々とできるわけである。 コンピュータによる社会的貢献としては、非常に大きな意義がある。  ───────────────────  ☆ 【 追記 】  TRONについて、若干、情報を追加しておく。  http://www.personal-media.co.jp/btron/catalog/cho-kanji/press.html    これは、「超漢字」のページ。      ここには「文字の内訳」があり、Unicode と今昔文字鏡から文字を     とったことがわかる。外国語の文字は Unicode にないものはやはり     ない[字数を見ればわかる]ので、実際にはかなり文字不足。  http://www.personal-media.co.jp/btron/catalog/cho-kanji/jiscomp/jiscomp.html    これは、「超漢字」の「JISにない文字のサンプル」のページ。      これはなかなかおもしろい。たいていの人が読めるような文字が     多いが、JCS案ではそのうちいくつかが漏れている。「JCS案     への皮肉か?」と思ったが、時期的に、そうではなさそうだ。つま     り、単純に「現JISにない文字」を拾っただけだが、それでも、     JCS案では漏れるものが多い、ということ。      漏れた文字の例:        はしご高。つち吉。「間」の正字。      食へんの文字もある。「飯,飼,館」の3字の正字は、JCS案      で抜けていることがすでに判明しているが、次の7字の正字も抜      けているかもしれない。(未確認)        餌 餓 飢 飾 飽 蝕 飴      このうち、最後の2字は、国語審議会の215字に含まれる。      「餠」の俗字も同様。( cf. 略字「餅」)  ♭ (参考)   http://www.horagai.com/www/den/kanken.htm      これは、「ほら貝」のページにある、「超漢字」の使用批評。      とても有益な情報があるので、TRONに興味がある人は、ぜひ      お読みになるといいだろう。  ◇ 【 再追記 】  でしゃばりな話を少々。(余談として)  TRONは、Windows などの対抗馬をめざすよりは、まず、WindowsCE のラ イバルをめざすべきだと思う。(個人的な意見)  第一に、高速・軽量というTRONのメリットを生かしやすい。  第二に、もともとマシンに組み込んだOSとなるので、参入しやすい。  第三に、アプリがたくさんそろっていなくても、さして問題とならない。  第四に、WindowsCE もTRONも、ともに家電市場を視野に入れている。  第五に、WindowsCE はレベルの低いOSなので、容易に勝てる。  というわけで、HDのないタイプの、携帯端末型のTRONが出たら、私も ぜひほしいと思う。(前にあったセイコーエプソンのものよりは高度のもの。 サイズは A5 と B5 の中間ぐらい。フルキーボードつき。原則 モノクロ画面。 現時点で、これに一番近いのは、WindowsCE のマシンだが、およそ使う気にな れないようなものばかり。携帯型のワープロ専用機の方がマシ。)  ……なお、反論などは不要。あくまで私の個人的な見解です。   携帯端末の話は、始めるとキリがなくなるので、これで終わり。   モバイルの話をもっと聞きたい、という暇な人は、下記を参照。     http://www.asahi-net.or.jp/~FV6N-TNSK/gates/mobile2.html  ◇ 【 再追記 】  余談だが、JCSは、自分たちの歌を作るとよさそうだ。こんなのを。   「いつも正しい JCS。いつも正しい JCS。We are the world!」  なんてのを。……ただし、英語は、2バイトの英字でね。    ※ この歌、JCSを誉めているんですよ、もちろん。  ▽ 【 再々追記 】  TRONとJCSの関連について、ちょっと提案しておく。  JCSはやたらと人名字を優先しようとする。ところが実際には、ほとんど の人名字は漏れる。(15000字のうち、JIS外は約8000字。うち、JCS案 では、3685字を取る。[日本語としても取る分が3000字前後だから、人名字専 用としては600字前後か。] で、残りの5000字弱は、JCS案から漏れる。)  このように多量の人名字が漏れていては、企業での人名利用には、とうてい 適しない。となると企業では、新JISでは足りずに、XKP などを利用するこ とになりそうだ。  ところが、ここで、TRONというものが出た。さて、TRONは、 「ない字はいくらでも追加します」  と言っている。つまり、人名字をいくらでも追加できる。だから、人名字は、 すべてTRONで扱うことにすればよい。企業ごとに別々の文字コードを使う XKP よりはマシだろう。(各企業の XKP の翻訳用としてTRONを使っても よい。)  さて、そこで、提案する。  「人名字を管理する団体」を創設すべきだ、という点だ。このことは、いち いち説明するまでもなく、当然だろう。  ただ、そのことを、どこの団体がやるか、が問題となる。  TRONでは原則として、追加分の文字は文字鏡研究会が担当するらしいが、 人名字については、荷が重そうだ。  そこで私は、JCSをその団体として指定することを、提案したい。  「人名字を管理する団体」  としては、JCSはおそらく最適であろう。彼らは正字は大嫌いだが、人名 字は大好きなのだから。  ついでに、略字についても、彼らに管理してもらうとよさそうだ。朝日字体 とか、N&O体とか、手書き体(「前」の「則」を「の」のように書く)など、 さまざまな略字があるのだから、まとめて管理する団体があってもいい。また、 ペットの犬の名前の異体字(犬名異体字?)も、JCSに管理してもらうとい い。  ただ、注意してほしいことがある。それは、  「勝手にやたらと包摂するな」  ということだ。なぜなら、ほうっておくと、変に言い出しかねないからだ。   “みな包摂するべきだ。「辺」も「邊」も「邉」も包摂するべきだ。”   “だから、人名異体字は、一切不要だ。”  と。     ※ 私がこのような提案をするのは、「新JISに人名字を」       という主張の、ばからしさを知ってもらいたいからだ。       そして、現在のJCS案のばからしさを、来るべき「人       名字管理団体」に指摘してもらいたいのだ。     ※ 以上、ジョークのように書いているが、大まじめである。  ☆ 【 追記 】  「やたらとJCS案への悪口ばかり言いやがって、南堂ってのは、なんて  イヤミなやつなんだ」  と思われそうなので、一言。  私は別に、他人の悪口は、あまり言いたくありません。(ホントかね)  私は、JCSの方々の努力には敬意を感じていますし、通常のミスが生じた くらいでは批判しません。人間はミスをするものですし、ミスがあったからと いってアラ探しするつもりはありません。悪口を言うつもりなんかないんです。  私が期待するのは、    「せめて、中学生向け漢和字典にある文字ぐらいは、採択してくれ」  ということです。換言すれば、    「中学生・高校生ぐらいの漢字レベルには達してくれ」  ということです。それだけで、いいんです。  もう一つ言えば、新字と正字の違いに気づいてくれ、ということ。小学校1 年生ですら、「青」の下半分は「月」と書くべきであり、「円」ではいけない、 と知っています。「どっちでもいい」なんて、思っていません。だからJCS も、せめて小学校1年生レベルの漢字知識をもってほしいのです。   ※ なお、文字化けの件でいえば……     「中学生」レベルではなく、「常識人」レベルに達してくれれ     ば、それで十分。「狂人」レベルでなければ、いいんです。     とにかく、悪口を言うつもりなんかないんです。ほんとに。  ◇ 【 再追記 】  悪口ばかり言っていると思われると心外なので、誉め言葉も加えておく。  TRONの「超漢字」は、立派なものである。ユーザ外字の問題はさておき、 その基本方針は立派の一語に尽きる。ここに初めて、10万字レベルの漢字類を、 文字コードによって利用する方法が確立した。  TRONの立派なところは、自己流の規格(東大明朝?)を、さっさと打ち 捨てて、「諸橋 プラス 今昔文字鏡」を基本に据えたことである。  このように、独自規格にこだわらず、すでに確立している規格を利用した。 おのれの独自性を強く主張しようとはせず、すでに普及しているものに従った。 ここには、一種の自己犠牲が見られる。他の誰かとは、雲泥の違いだ。ここに、 TRONの立派さがある。(本気で誉めています。最新版については。)  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ▽ 【 再々追記 】 文字化けと指定席券 「文字化けを起こしてもいい」 「既存の外字を無視しても構わない」  ということの根拠として、JCSは、(公開レビューの「本規格案の考え方 について」で)、次のように述べている。  「指定席券がないのに指定席に座っている場合に,指定券を持っている人が   来たら席をあける必要があるのと同じことであると理解していただきたい。」  これはなかなかおもしろい考え方である。  さて、上記の文章は、ユーザ外字を無視してよいことの理由として述べている が、機種依存文字についても、同様のことを言い立てたいのであろう。  そこで、この二つの場合について、別々に考察してみる。  (1) ユーザ外字と指定席券  もし上の指定席券の話を、ユーザ外字に当てはめるとすれば、話はずれてい る。ユーザ外字とは、単なる外字ではない。「ユーザごとに別々の文字を使う システム」、つまり、「無限個の文字を使うシステム」のことを言う。  JCSでは、「その外字が"一般に必要なら"新JISに登録する」などと言 っているが、どうやって無限個の文字を登録できるのか。(TRONではある まいし。)  また、話が根本的におかしい。ユーザ外字とは、「一般には必要でないが、 その個人にとってはどうしても必要な文字」のことだ。なのに、「一般には 必要でない文字が、"一般に必要なら"……」と言明しているわけで、論理的 に矛盾している。  となると、ユーザ外字を排除する理由は、何か? 「個人の自由を認めない。すべては公的に管理する」  という、強権的な思想だけだろう。それを、堂々と主張すればいいのだ。 羊の皮などかぶらず狼の本性をむき出しにすればいいのだ。  そもそもの話、「指定席券」のたとえは成立しない。なぜなら、JCSは、 ユーザ外字の指定席を販売する権利をもたないからだ。  よく考えてみよう。JISでは、JISの文字の配置を決めることはできる。 だが、ユーザ外字を使うか否かは、決定できない。それを決定するのは、OS の方である。  通常は、JISで余った領域を、OSの側でユーザ外字として使う。しかる に、JISでそのための領域を残しておかなければ、OSの側は領域の設定に 迷う。仕方なく、JISの領域に上書きする形で、ユーザ外字を使うしかない。 (前述 † を参照。)  JCSは「指定席券がないから、どいてくれ」と言うのだろう。だが、そう いう本人こそ、指定席券をもっていない。JCSのもっているのは(東京から 終点までのような)全区間の指定席券ではない。ただの「JIS区間」の指定 席券にすぎない。それとは別の「ユーザ外字区間」の指定席券ではないのだ。 そちらの販売者は、JCSではなく、OS開発者である。無効な指定席券で、 正当な指定席券をもっている人を、追い立てることはできないのだ。  先に述べたことを、繰り返し言おう。JISはOSを決める体系ではない。 JISの側で、「ユーザ外字を使うな」などと言うことはできないのだ。権限 の逸脱も甚だしい。OSの構造を決めたいのなら、OS決定の場で発言するべ きだ。(どうせならJCSが、独自のOSを開発するがいい。バグがどのくら いあるかは、おおよそ想像がつくが。)   ※ 私案では、JISとOSが衝突しないように、調整している。このよ     うに「相互調整」するわけだ。自分の立場を一方的に押しつけずに。     私案は、誰かのように、唯我独尊の立場を取らない。   ※ 「点字」は、現JIS環境で、ユーザ外字として使える。だがJCS     案は、そういう利用法を禁じてしまった。     「点字なんか必要ない。"絶対に"点字を使ってはならない」     ということなのだろう。JCSの慈悲深い(?) 性向がよく現れている。  ◎※  なお、点字フォントは、すでに公開されている。        「Eudc.tte」(Windows95,98用点字フォント)      というソフトである。入手先は Vector で。          http://www.vector.co.jp/      ここで、       「その他」→「データ」→「文書作成」→「各種OS用フォント」      とたどればよい。無料。Windowsのユーザ外字として使う。      なお、このソフトについては、すでに「私案」でも紹介した。また、      点字の必要性も私案で述べた。JCSはそれでも、点字を排除した。   ◎※ 点字と指定席券の件、たとえて言えば、次の通り。      車掌が言う。     「ちょっと。おまえ、指定席券をもっていないな。そこ、どけ」     「ここはシルバーシートじゃないんですか? 私は盲人なんです。      シルバーシートに座っていいはずです」     「昨日まではシルバーシートがあったが、今日からすべて指定席にな      ったんだ」     「じゃ、指定席券を売ってください」     「ダメだ。盲人には席を与えない。盲人の席なんか無い」     「誰がそう決めたんですか?」     「おれさまだ。わかったか。車掌のおれが、どけと言ったら、どけ」     「席がないのに、どこに行ったらいいんですか?」     「とにかく、どけ。どかなかきゃ、どかしてやる!」      車掌は盲人を強引に立たせて、列車から放り出してしまった。     「ふん。素直に従っていれば、長生きできたものを。馬鹿なやつだ」      そしてまわりの乗客を睥睨(へいげい)して、言い放った。     「いいか。席はすべておれさまが決めるんだ。おれさまの規則に逆ら      うと、こうなるぞ。規則を守れよ」     # JCSはシフトJISを「自分のもの」と思っているようだが、       そうではない。「シフトJIS」はMSなどに由来するのだ。         cf.  http://www.horagai.com/www/moji/code3.htm       そのMSのOS上で、歴史的にユーザ外字が使われてきたのだ。       JCSの態度は、民衆のものを取り上げる悪代官のようだ。       「もともとおまえのものでも、おれが取り上げたから、おれのも        の。もうおまえには使わせない。『お触れ書き』を守れよ」  (2) 機種依存文字と指定席券  指定席券を、機種依存文字を排除する理由として持ち出すのなら、たとえは うまい。なかなかぴったりな感じのするたとえである。 「あんた、勝手に使っているけど、公的な指定席券をもっていないんでしょ。 だったら、どいて」  というわけだ。そうやって、すでに席に着いている人をどかすわけだ。  ただし、である。私案の考え方では、こうなる。  ──立っている客が、座っている客に話しかける。 「あの、もしもし。その席は私の席なんですが」  すると、そばにいる介助人が告げる。 「どうも、すみません。本人の席じゃないのはわかっているんですが、席があ いているんで、ついつい、使ってしまいました。この人、病気なので」 「どいてもらえますか?」 「どくべきなんでしょうが、寝ているのを起こすと、病気がひどくなってしま うかもしれません。どうしても、どかなくちゃダメですか?」 「あ、いや、その……」 「この人、ほんとは、一つ前の席なんですよね。ほら、これ。そっちの指定席 券はもっているんです。ですから、よかったら、席を交換していただけません か?」 「むむむ……」 「そちらに何か不都合がありますか?」 「いえ、全然。気分の問題だけです。席を交換しても、何も実害はありません」 「では、いいんですね?」 「私はいいんですけど……」 「何か、問題が?」 「車掌(JCS)が、それを許さないんです。……あ、車掌が来ました」  車掌が現れて、病人を起こそうとした。 「ここはおまえの席じゃない。起きろ! 規則に従え! 言っても聞かないの か! このやろ!」  車掌は無理やり病人を起こして、席を移そうとした。と、病人は死んでしま った。 「ふん、死んじまったか。規則を守らない方が悪いんだ」  そして彼は立ち去っていった。  要するに、私の言いたいことは、こうだ。  たしかに、理屈としては、規則や建前に従うべきである。しかし、それによ って文字が死ぬ(化ける)のなら、規則を改めた方がよい。規則を改めて、現 状を追認したとしても、別に問題はないのだから。  本物の列車の指定席は、偶然的に決まったものにすぎない。文字コード表で も、文字を部首順に並べる必要などはまったくない。だったら、そんな無意味 な配列にとらわれるよりは、もっと柔軟に対応していいはずだ。  JCSの言い分は、上のむごい車掌と同様である。 「規則を守るためなら、乗客(文字)を殺してもいい」 「おれさまの決めた気まぐれな規則が最優先だ!」  ※ JCS案では、文字を部首別に並べているが、そのメリットは何もない。    たとえば、漢字を探すなら、[第三・第四水準の分だけでなく]第一・    第二水準の分もあわせて、次のような表を作ればよい。(テキストファ    イルで)     「革靫靭靱靴靹靺靼鞁鞄鞅鞆鞋鞍鞏鞐鞘鞜鞠鞣鞦鞨鞫鞭鞳鞴韃韆韈」     これなら、「革」の部首にあたるものが(第一・第二水準の分も含め    て)一括して見出される。「革」以外の部首でも同様である。     「そんな表は誰が作るんだ」と言うのなら、「誰でも簡単に作れる」    と答える。実は、上の表は、JISの文字を Unicode の文字順に並べ    たものにすぎない。 Unicode の文字は、康煕字典順に並べたものであ    るから、JISの文字を Unicode 順に並べただけで、康煕字典の部首    順になる。そのうち、「革」の箇所だけを取り出せば、上の表が得られ    る。     新JISでは、私の対案(大漢語林の文字だけ)では、Unicode 以外    の文字はごくわずかである。その分を補えば、部首順の表が得られる。    それを漢和字典のかわりに使えばいいのだ。あえてJISのこんぐらが    った表を使うことはないのだ。     JCS案の文字コード表では、第一・第二水準,改訂追加分,第三・    第四水準の分が別々に並んでいる。その別々の領域のなかで、音訓別や    部首別で並べても、使いようがない。たとえば、「鞭」はどこにあるか    と思って、第一,第二,改訂追加分,第三,第四水準の、それぞれの領    域を別々に探すのは、面倒だ。一方、上述のような表を見れば、一発で    わかるのだ。(部首別に区切りを入れると見やすい。)     なお、コード番号を知るには、別に、漢字とコードとの一覧表を用意    すればよい。次のように。 (区点, シフトJIS, JIS,Unicode)       鞭, 04260, 95DA, 4A56, 97AD       :  :  :  :  :     これも、検索一発で、その漢字のコードを見出される。      ※ このコード表は誰が作るのか? それも心配は要らない。そん        なものは、プログラムで、ごく簡単に作れる。そのうちフリー        ソフトでばらまかれるだろう。私の資料「文字一覧」のような        ものだ。     はっきり言うが、「文字コード表を漢和字典のかわりに使おう」なん    ていうのは、愚か者のすることである。世の中にはアプリというものが    あるのだ。便利なアプリがあるなら、便利なアプリを使えばよい。      (アプリといっても、上述のものは、ただのテキストファイル。)      (アプリとしては、IMEの付属の漢字検索ツールもある。一般的       には、こちらを使うことが好ましい。ATOKなどに付属しているし。       Windows98に付属する MS-IME98 にも、手書き認識ツールがある。       初心者ならこれらを使えばいいのであって、他の方法は不要だ。)  ※ 上述の Unicode 順のテキストファイルは、現JISのレベルでも、簡単    に得られる。次の (1) または (2) の手順で。[(1)の方が簡単]     (1)      ・ 表紙ページの資料 "unicode の漢字一覧" (codeunia.lzh)を        ダウンロードして、解凍する。      ・ Word97 以降で開く。(# Word97以降が必要。注意!)      ・ テキストファイル形式(シフトJIS)で保存する。      ・ そうしてできたファイルを開く。        シフトJISの文字だけが残るので、それを見ればよい。        ( Unicode の文字は化ける。適当に置換削除してもよい)     (2)      ・ 表紙ページの資料 "同 [ HTML 版]" (codeunib.lzh)を        ダウンロードして、解凍する。      ・ MS-IE 4.0 以降で開く。(Windows98環境が必要かも。不明。)      ・ MS-IE で、「名前を付けて保存」を実行。ただし、次のように        設定する。          ファイルの種類 …… Text ファイル          言語      …… シフトJIS      ・ そうしてできたファイルを、エディタ等で開く。        シフトJISの文字だけが残るので、それを見ればよい。        ( Unicode の文字は化ける。適当に置換削除してもよい)     こうしてできた「現JIS漢字の部首別一覧」は14KB。私の手元にあ    るが、公開はしない。上の方法で簡単に自作できるので。         ただ、漢字を検索するなら、(文字コード表よりは便利だとしても)    こんなものを使うよりは、IMEのツールを使うことをお勧めする。  ※ 参考に言うと、Unicode 順だと妙な箇所もいくらかある。次の2点。     ・ CJK互換漢字。       (CJK統合漢字とは別にチェックすれば問題ない。)     ・ まったく不規則に並ぶ文字。       (たとえば、「亀」という文字。これは最初の方にある。また、        「龝」「龜」は最後の方にある。一方、「穐」は「のぎへん」        の箇所にある。……「亀」「龜」の部首が康煕字典にないの        かもしれない、と想像したが、未調査で、不明。)  ※ ついでに、JCSの二枚舌を指摘しておく。   ・「機種依存文字なんてものは、無視してよい。"大量に使われている"と     いう証拠は見出されないからだ」(公開レビューの上記ファイルより)   ・「『妛』という文字は、誤字らしいが、字形を修正しない。"世の中で     まったく使われていない"という保証はないからだ。」(最終案)    前者では、使われているのが「大量だ」という証拠がないという理由   で、無視する。(実際は用例多数。特に、正字。)    後者では、使われているのが「ゼロではない」という証拠がない」と   いう理由で、重大視する。    同じような現象を見ても、まったく反対の言葉を突き出す。たとえれ   ば、ほとんど黒のような暗い灰色を見て、「真っ黒ではないから白だ」   と言いくるめ、ほとんど白のような明るい灰色を見て、「真っ白ではな   いから黒だ」と言いくるめるようなものだ。理屈をその場その場で、ご   都合主義に使う。詭弁である。    なぜか? 理由はただ一つ。彼らは、正しい文字が嫌いで、誤字が好   きなのである。人名字や地名などで、誤字が現れれば、捨てることがで   きず、ホイホイ取り上げる。「諸橋にもない文字を取り上げたぞ。どう   だ。すごいだろ。おれたちって、本当に偉いなあ。諸橋よりも偉いぞ」   というわけだ。    しかし、彼らが喜んで採択するのは、ゴミのようなものばかりである。   なぜなら、それらは、字書の編纂者が、あえて捨てたものばかりだから   だ。    彼らが誤字を好きなのは、ちゃんと理由があるのだ。類は友を呼ぶ。   だからこそ、機種依存文字としての正字など、まっとうな文字を、どん   どん落とすのだ。    というわけで、彼らの偉大なる成果である新JISは、いにしえの五   重の塔のように、史上に燦然と残り、長く長く語り継がれるであろう。   「誤字の塔」と呼ばれて。  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ◎ 【 結語 】  ともあれ、新JISは、ここまで述べてきたように、ひどいものとなるこ とになった。遠からず、施行されることになりそうだ。  となると、ユーザとしては、次のいずれかを取るしかない。    ・ 不便を忍びつつ、78JISとのフォント切り替えで対応する。    ・ TRONを使う。アプリの不足などは我慢する。互換性の不足も我慢     する。データが一般に流布しないのは諦めて、自分の環境で使えれば     よしとする。      ( → Windows が新JISを採択すれば、将来シェアが下がるかも。         とすれば、JCS案はTRONにとって、よき援軍か?)    ・ いっさい、諦める。正字など、まともな日本語を使うことはしない。     現代の文書やビジネス文書だけに専念して、古典文学などは捨てる。     戦前の文書や、三島・鴎外の文学全集なども、いっさい読まない。  JCSのお勧めは、最後のことであるようだ。なるほど、これなら、日本は 文学を捨て、過去の歴史も捨てて、現代のビジネスだけに集中できる。かくて 金儲けに邁進できる。「世の中、万事、カネ、カネ、カネ」  それが目的だとすれば、新JISというのは、いかにも日本にふさわしい規 格である。新JISがさしたる反対もなく施行されたとすれば、それは日本が それにふさわしい国であるからだろう。  思えば、バブル期にも、日本のほとんどが浮かれていた。「こんな浮ついた 調子はやがて冷める。宴のあとには借金が残るだけ」と私が言っても、誰も聞 く耳を持たなかった。日本という国は、何を言っても、しょせんは無駄なので あろう。やがて来る混乱の後始末は、日本が自分でするしかあるまい。                               [ 以上 ]