JCSの最終案の核心   [ 1999.9. ]
 
 
 JCSから、新JISの「最終案」が公開された。

      http://jcs.aa.tufs.ac.jp/fdis-an.htm
 
 これが、ほぼそのまま、次期のJISになるらしい。(2000年初めに制定の予定だという)
 しかし、この案には、問題がいろいろとある。そのことについて、簡潔に説明する。
 ※ JCS案に多大な問題がある、ということは、すでに別のページでも記した。
   「JISの新規格の試案」(codesian.lzh)
   「私案」の「補足」(codesia2.htm)
   などでだ。
   ただ、最終案についてよく調べた末、新たに詳しく記述し直すことする。



【 修正履歴 】   [ 2000.8.01. ]
   絶対温度記号について、付記した。  → [そこへジャンプ]


 


 
 要点

 
 今回の最終案について簡単に評価すれば、次のようになる。
 
 ・ 基本的な面では、以前の「公開レビュー」と、ほとんど変わっていない。
 ・ したがって、公開レビューについて述べた数多くの批判(私が指摘したこと)は、
   最終案についても、そのまま当てはまる。
 ・ 個々の文字を細かく見ると、予想したほど「メチャクチャ」ではないが、やはり
   不十分としか言いようがない。(当然あるべき文字がたくさん欠けている。)
 ・ 規格として未熟な(熟成不足な)点がたくさん見られる。
 
 結論をいえば、この最終案は、そのまま流通するには、非常に問題が多い。
 もっと世間の批判や調査を受けて大修正してからでなくては、施行するべきではない。
 



   
 諸点
 

 この最終案には、すでに私案でも述べたように、大きな問題がある。では、その問題とは、具体的には何か。そのことを、以下に示そう。
 この「文字講堂」の読者なら、公開レビューについては数多くの問題があることを、すでに知っているはずだろう。
 ただ、それらを知らないまま、この文章を読んでいるような、初歩の読者もいるだろう。そこで、重複を厭わず、すでに述べた批判を、ここにふたたび列挙する。

 JCSの最終案には、次のような大きな問題がある。
 
   (1) 外字が使えないという問題
   (2) 文字化けが発生するという問題
   (3) 正字が不足しているという問題
   (4) 規格としてデータが不足してるという問題
 
 
 これらについて、もう少し詳しく説明を加えよう。
 
 
 (1) 外字が使えないという問題
 
 JCSの最終案を見ると、外字領域がない、ということがわかる。
 
  ※ そのことを知るには、JCSの資料のうち、csv形式の表(100KB)を見るとよい。
    これを見ると、文字の総数は、4383字。つまり、若干の保留領域を除いて、
    4401字の所定領域をすべてつぶしてしまっている。当然、外字領域はない。
    ( pdf ファイルを見ても、領域のほとんどがつぶされていることはわかる。)
 
 さて、外字が使えなければ、(JISにない)特殊な文字を使うことはできなくなる。
 具体的には、次のようなものだ。
 
   ・ 点字
   ・ 今後生じる新たな学問における記号
   ・ 丸数字などで、JISの上限を突破した分
   ・ 特殊な難読文字をもつ人の、自分専用の漢字
 
 このようなさまざまな文字(記号・漢字)は、一般的ではないが、しかし、個人的に「どうしても使いたい」という人もいるはずだ。それらの人にとっては、どうしても必要な文字であり、なくては困る。

 さて、そもそも、外字とは何か? 
    「一般的ではないが、個人的にどうしても必要だ」
 という文字に対して、
    「それならそれで、個人的に勝手にご利用ください」
 という方法を提供したものだ。

 これに対して、
    「外字は文字化けするから禁止する」
 と主張する人もいるが、話がおかしい。
 「世間一般では正常に使えない」というわけだが、そもそも、「個人的に使う」とされたものが、「個人的でない場合は使えない」のは当たり前のことだ。
 たとえて言えば、「個人的な用途」に限定されたオートバイが、「多数の人間が同時に使う」バスとしては能力不足だ、というようなものだ。そこで、「オートバイはバスとしては使えない、だからオートバイをすべて廃止してしまえ」というようなものだ。
 つまり、JCSの方針は、このような支離滅裂な理屈によって、外字を廃止しているわけだ。
 
 さて、このように外字が廃止されれば、あまりにも不便なことになる。
 たとえば、ごく安価なワープロ専用機でさえ、外字を使えるようになっている。それほどにも、情報機器にとって、外字は必要なものなのである。なのに、それをあえて禁じるわけだ。
 もしかしたら、JCSは、「外字を使いたければ、パソコンなんか使わないで、ワープロ専用機を使いなさい」と主張するのかもしれない。……というのは、ほとんどジョークであるが、これがジョークではなくなるかもしれない。それほどにもJCS案はメチャクチャなものである。

 なお、外字が使えなければ、点字は使えなくなる。現JISでは使えるが、新JISでは使えなくなる。実に情け知らずの、手ひどい仕打ちといえよう。
  【 付記 】 現JISを残しての外字利用
 JCSがいかに独自の思想によって外字を禁じても、実際に使う必要のある人はいる。
 となると、どうしても使いたい人は、新JISでなく、古いシステムの上で使うことになりそうだ。
 つまり、新JISの環境から離れて、現JIS のもとで(既存の外字システムの併用で)、外字を使うことになる。
 この方法は、別に禁じられているわけではない。新JISができても、現JISが禁止されるわけではないから、こういう方法も、立派に生き残る。(必要性に迫られて、やむなく生き残らせざるを得ない。)
 となると、結局、現JISと新JISとの両方が流通することになるわけだ。JCS案のもとでは、新JISに統一することは不可能となり、両者を併用せざるを得なくなる。
 しかしそうなれば、当然、二つの規格の併存により、混乱をもたらす。(後述の文字化けの問題)
 というわけで、JCS案の方針は、およそ論外といえるものである。
 
 
  【 付記 】 単語登録との類似
 「外字」という機能は、IMEの「単語登録」機能に似ている。
 IMEの辞書は、一般的な用途にはいいが、個人の特殊な用途まで網羅しているわけではない。そこで、足りない言葉を補うために、「単語登録」機能を使う。
 外字も、同様だ。既存の文字セットは、一般的な用途にはいいが、個人の特殊な用途まで網羅しているわけではない。そこで、足りない文字を補うために、「外字」機能を使うわけだ。
 「外字」機能は、「単語登録」機能と同様に、重要なものである。

 
 
  【 付記 】 私案における外字の扱い
 私案の方式では、JCS案のような問題は生じない。なぜなら:
 (1) 外字領域がある
 したがって、個人的な用途で、必要な外字を使いたければ、使える。
 たとえば、点字を使いたければ、使える。
 また、マンガの「え゛」のような文字も使える。
 
 (2) 外字領域が小さい
 外字領域は小さく限定されている。ユーザが外字として使うのはこの領域だけである。
 だから、文字化けが生じるとしても、この領域に限られている。比較的、問題が少ない。
 一方、JCS案の場合は、新JISのかわりに現JISの外字領域を使うことを強いられるが、この場合、現在のWindows の広い外字領域をすべて使うことになる。(特定の狭い領域を使え、とは限定されないので。)……となると、文字化けするとしても、広い領域のどこで文字化けが起こるかも予測がしづらく、混乱は多大なものとなる。
 
 (3) 第五水準
 私案では、Windows の外字領域は、当面は新JISでは使わないこととしている。(第五水準)
 一定の経過期間を経て、これらの新JIS領域を使うわけだから、もちろん、文字化けの恐れはない。というわけで、その間は、既存の外字を使うことのトラブルを避けることができる。
 ……結局、以上のような対策法を取っているので、私案では外字の問題はない。

 (2) 文字化けが発生するという問題
 
 JCS案では、文字化けが大量に発生する。
 このことは、非常に大きな問題である。そこで、「私案」に詳しくあれこれと述べた。細かなことは、そちらを参照してほしい。
 
 さて、「文字化けが生じる」とは、つまり、「文字伝達で間違ったデータが通用する」ということだ。換言すれば、「虚偽の情報が広く出回る」ということだ。
 こうなれば、世の中では多大な混乱が生じる。したがって、文字化けは、可能な限り避けねばならない。文字コードの制定者には、それだけの配慮が必要とされる。
 ところが、JCS最終案では、文字化けについて、まったく考慮されていない。これは途方もない無思慮である。
 
 特に問題なのは、機種依存文字領域での文字化けだ。これは非常に深刻な問題をもたらすだろう。
 JCS案では、機種依存文字領域にも、平然として別の文字を割り振っている。となると、現JIS環境と新JIS環境とで文書をやりとりすれば、大幅に文字化けが発生する。
【 例示 】 文字化けの例 その1
 たとえば、「黒」の正字を見よう。
 これは、次のように配置される。
    シフトJIS ── 区点 9278 (16進で eeec )
              区点 11912 (16進で fc4b )
    JCS案   ── 区点 9482 (16進で eff0 )
 すると、どうなるか? 
 現JISフォントのWindows環境でこの文字を書いて、新JISでその文書を開いたとする。
 この場合、次のように
文字化けする
    「黒」の正字( eeec ) →  「〓」(焉+おおざと)  (UCS 9122)
    「黒」の正字( fc4b ) →  「〓」(金+且)
 とんでもない文字化けである。そして、このようなことは、Windowsの機種依存文字を使ったあらゆる文字について成立する。
 逆も同様である。
 Windowsの機種依存文字の領域にある、新JISの文字を使えば、それを現JIS + Windows で開いたとき、文字化けする。

 たとえば、「社」の正字(JCS最終案で区点 8919) がそうだ。これを新JISで書いて、現JISフォントのWindows環境で開いたとき、「社」の正字であったのが、「〓」(にんべん+必)に文字化けする。
 以上のように、恐ろしい文字化けが生じるわけだ。
 しかも、文字化けしたかどうかが、まったく判別できない。新JISと現JISとは、フォント切り替えによって区別されるだけであり、原理的には何の区別の方法がないからだ。
 つまり、JCS案の方法では、途方もない混乱が引き起こされるわけだ。
 
 そもそも、JCS案は根本的におかしい。
 「黒」の正字は、すでに現在流通しているフォントには、もともと備わっている。そしてそのコードポイントがある。なのに、なぜ、新たに別のコードポイントを割り当てるのか? あまりにも馬鹿げているとしか言いようがない。同じ文字に、現JISと新JISで、別々のコードポイントを割り当てれば、混乱は必然である。
 実際、83JIS改訂時には、そういうひどいことをして、世間に多大な迷惑をまき散らした。
 今回、また、JCSはその轍を踏もうとしているわけだ。神経を疑う。
 

 【 付記 】 文字化けの例 その2
 機種依存文字なんか、めったに使わない……と思い込んでいる人もいるかもしれない。
 しかし、さにあらず。115区のローマ数字や省略記号は、かなり使われている。JISの字形で真似て示せば、次のような記号だ。
  i, ii, … , v, …, x,… , I, II, …,V ,…, X,…
 
 さらに言えば、JCS案におけるこれらの文字の配置も、またメチャクチャである。
 ローマ数字小文字は、既存の機種依存文字では 92区と 115区にあるのに、JCS案では、そのどちらでもない 12区に移動して置いている。
 ローマ数字大文字は、それよりはいくらかマシである。既存の機種依存文字では 13区と 115区にあるが、JCS案ではそのうち13区の方の領域に重ねている。その点ではいくらかマシだが、やはり問題がある。
 というのは、Windowsでは、「ローマ数字大文字は原則として 13区でなく 115区を使う」ことになっているのだ。MS-IME やATOK でローマ数字大文字を出力すれば、(たとえ画面で13区の文字を選択したとしても、)自動的に115区の文字が使われる。つまり、世間で流通しているローマ数字のほとんどは、115区の文字なのだ。 (そのように統一されている。)
 にもかかわらず、それとは異なる 13区の領域をJCSは指定する。このことは、次のような問題をもたらす。

  ・ 同じ文字を使うのに、二つのコードポイントがともに使われることの問題。(検索など)
  ・ 文字化けする問題。(現JISで書いたローマ数字が新JISで漢字に化ける。)
 この2点は、ローマ数字だけでなく、 (株) や No.  TEL でも同様である。

      【 追記 】 正誤 修正
     上記の最後で、「……も同様である」と記したのは、誤りであった。
     これらの No. KK. (株) などは、ローマ数字とは事情が異なる。
     Windows では、115区の文字ではなく、13区の文字が使われる。
     したがって、これらの文字は、JCS案のままで、別に問題ない。
     (ローマ数字については、前述の通り、問題がある。)

 

 【 付記 】 トラブルに対するメーカのサポート
 ついでに言えば、このようなトラブルにともない、初心者は混乱する。
となると、パソコンメーカには、サポートの電話がいっぱいかかってくるだろう。
そうしたサポートのためにメーカ側は多大な出費を強いられることになる。
JCSはいくらか費用を補償してくれるのだろうか?
  【 追記 】 トラブルの例
 メーカに寄せられるトラブル報告としては、次のような例が考えられる。
 「 文書を HTML にしたら、文字化けしてしまった。漢字がローマ数字に。ローマ数字が漢字に。……全然別の字になってしまった! 会社の名前も化けてしまった! 大変だあ!」 → 「社の名誉失墜で、おまえはクビ! リストラだ!」
 「 おい、貴社の『×××』という IME はバグがあるぞ! IMEのツールで、『ローマ数字』という一覧表があるが、そこにある文字は、ローマ数字じゃなくて、漢字じゃないか! ローマ数字を探しても、記号一覧のどこにも見つからない。こんなバグソフトで金取るな! 金返せ! インターネットのホームページで、訴えてやるぞ! 『貴社の製品はバグだらけだ』と画像つきで」

 【 付記 】 私案における対処
 私案では、これらの文字化けの問題は生じない。どういう方法によるかは、私案で詳しく説明したので、そちらを参照。
 このように、文字化けの問題を解消する方法が、(私案の形で)ずっと前から知られているわけだ。にもかかわらず、JCSはあえて、問題を起こす方式を採用しているわけだ。まともな判断力があるのかどうか、疑いたくなる。
 

 【 付記 】 JCSの言い分
 ここで、JCSの言い分を少し推測してみよう。JCSは次のように考えているのかもしれない。
 「機種依存文字のトラブルは、やむをえない。機種依存文字というものは、メーカが規格外の文字を勝手に使っているから起こるだけだ。JISの関知することではない。」
 これは、理屈の上から言えば、もっともである。
 しかしこれは、現実を無視している。現在、Windows がデファクトスタンダードとなっている。規格があるか否かが問題なのではない。現実に世の中のコンピュータがどうなっているかが問題なのだ。
 紙に書かれた規則ばかりを重視して、現実を無視するのを、「官僚主義」という。
 「法律ではこうなっておりますので、できかねます」
 「前例がありませんので、できかねます」
 こういう理屈を並べて、国民に大迷惑をかけるわけだ。
 JCSは民間団体のくせに、へんなところばかり、官僚的で困る。
 なお、ついでに一言。
 機種依存文字の領域のほか、外字の領域でも、文字化けは生じる。この件については、すでに先に述べた。
 

 【 付記 】 文字コード表との関係
 JCSは、もしかしたら、「文字コード表をきれいに整えたい」と思っているのかもしれない。
 しかし、これは、初心者の考えそうな勘違いである。
 文字コード表というのは、規格の制定時には使うが、制定したあとは、普通のユーザはまったく使わないものだ。(一部の頭が固いユーザは除く。)
 普通のユーザは、IMEのツールを使う。これによって、部首順とか、音読みとか、訓読みとか、画数順とか、あるいはそれらの組み合わせとか、または手書き自動認識ツールとか、そういった方法で漢字を出す。同時に、文字コードを知ることもできる。
 また、このようなIMEのツールがなければ、単なるテキストファイルに「画数順」とかのデータをまとめて、それを見ればよい。 (そのあと別のテキストファイルで文字コード番号を知ることもできる。)
 はっきり言って、文字コード表を使って漢字を出すのは、賢明な方法ではない。そうした賢明でない方法をあえて行なう場合の便宜のために、大多数の人が文字化けのトラブルを耐えねばならないいわれはない。

 (3) 正字が不足しているという問題
 
 外字の問題や文字化けの問題も大きいが、もっと大きな問題がある。
 それは、正字が不足しているという問題だ。
 たとえ文字が化けても、ある種の環境では使えるのならば、まだ我慢ができる。(ネットワークから遮断された、スタンドアローンな環境。メールもやりとりしない環境。そんな環境にいる人がどれだけいるかは疑問だが。)
 だが、しかし、文字が元々なければ、たとえ逆立ちしたって、使いたい文字が使えない。これは絶対に困る。 (JCS案では、外字領域が削除されたから、外字で使うこともできない。)
 
 では、JCS案では、どのような正字が不足しているだろうか? 
 実は、初めに調査したころは、正字がまったく不足しているように見えた。というのは、ひとつひとつの正字について、大辞林の番号を調べて、JCSの csv ファイルで探すと、相当多くが欠落していたからである。国語審議会で示した215字のざっと半数ほどが抜けているように思えた。(大辞林の番号なし)
 しかし、そのあと、pdf ファイルを眺めてみると、そのような「ないはずの文字」が見つかることに気づいた。
 となると、抜けているのは、正字ではなかったのかもしれない。(csv ファイルで)JCSの「注意」か「間」が抜けていただけかもしれない。
 そこで、いちいちざっと眺めてみると、どうやら、国語審議会で示した215字の大部分は採用されているようだ。この点では、予想したほどひどくはなかった、といえそうだ。
 
 そこで私は安心して、「JCSもなかなかやるわい。愚かではないな。たいしたもんだ。」と思ったのであるが、これは浅はかであった。
 たまたま調べた文字がいくつかあるぐらいで安心してはいけないのである。もうちょっと細かく調べてみると、上記の215字はともかく、当然あるべき必要な正字がかなり多く欠けている。

 国語審議会で示した215字以外の、83JIS改訂 299+2字について調べてみよう。すると、必ずしもすべての正字が採択されてはいないようだ。これらの文字は、資料「略字&正字」の betu-hyo.htm の右上の欄にある。そうした正字がいくらか抜けているようだ。つまり、83JIS改悪のなごりをひきずっているようだ。
 たとえば、「湮」の正字(右上が「西」になっている)が抜けているようだ。(……私の見落としでなければ。 : ただし、私の見落としの可能性もあるので、断言はしない。)

 さらに、特に問題なのは、「常用漢字に対応する正字」は、かなり多くが欠落している ことだ。
 では、「かなり」とはどのくらいか、というと、それを調べようとしても、元の csv ファイルのデータが間抜けなので、簡単にはわからない。(もしかしたら調査をされるのがイヤで、わざとデータを抜いているのかもしれないが。)
 
 ただ、とりあえず、簡単に目で探したところ、次のような文字が欠落しているのがわかった。
  ・ 「青」の正字
  ・ 「間」の正字
 後者が抜けているのは、まさしく「間」抜けである。
 
 もちろん、これは氷山の一角に過ぎず、ざっと調べても、「常用漢字」で抜けているものはかなりあるようだ。ここで「ようだ」というふうに曖昧に書いたのは、私の注意不足で見間違えた分もあるかもしれないので、少しぼかしておくわけだ。具体的には、各人が探してみてほしい。簡単に、「常用漢字に対応する正字」の漏れは見つかるだろう。(漏れていないのも多数あるが、漏れがかなりある、ということが問題。必要な文字がないのだから。)
     → 実は、後日、どのくらい漏れているか、わかった。
        このページの最後に記した 【 参考資料 】 を参照。

 
 なお、ついでに言うと、「朗」の左半分[へん]のような、部首[字形記述要素]も抜けているようだ。ここにも正字軽視が窺える。こんなことでは、まともに文字を説明することもできない。
 (もっとも、「青」「間」の正字がないだけでも、文字の説明には不足するが。)
 【 付記 】 Unicode の番号
 上の「青」「間」の正字という2字は、Unicode にある。だから、この2字がないことは、csv 表から確認できる。Unicode の番号はそれぞれ、9751, 9592 である。
 なお、Unicode 番号 9AD9 には、「はしご高」があるが、これもJCS案にはない。

 
 【 付記 】 正字のかわりに採択したもの
 JCS案では、正字がかなり不足しているが、そのわりには、余計なものがたくさん入っている。このような変なものを入れてまで、なぜ正字を排除するのか、疑問である。
 余計な文字としては、次のようなものがある。
 
 (a) 略字
 正字については原則として採択しないくせに、たいていの人が見たこともないような略字は採択されている。それは次の4字である。( 福田雅史氏の調査 による)
   ・ 「月+斉」 (1字)
   ・ 「齟」「齧」「齬」の「齒」のところを「歯」にした文字 (3字)
 これらは採択の根拠が不可思議である。
   ・ なぜこれらの略字だけを選んだのか?
   ・ これらは公開レビューでは示されない文字なのに、なぜ採択したのか?
 「朝日新聞でよく使われる略字」かとも思ったが、そんなこともないようだ。
 
 (b) 珍妙な人名字
 「一般向けの漢和字典には掲載されていないような人名漢字」
 というものがやたらとたくさん採択されている。
 これらは、漢和字典に載っていないのだから、普通の人には、読みようがない。また、これらの文字は、中国に典拠がなくて、日本で作られた個人的用途の文字、つまり、勝手に発明された文字である。
 たとえば、「百合」の2字を上下に並べて1字にした文字(f1a8)がある。「ユリ」と読むのだそうだ。まず間違いなく、「百合」の2字を勝手に合成した文字だろう。こんなものまで採択する理由がわからない。
 
 なお、次のような意見があるかもしれない。
 「人名字を採択すれば、コンピュータで業務用に人名のデータ処理をするのに便利だ」
 しかし、これは間違いである。
 JISにいくらたくさんの人名漢字を採択しても、すべてを漏らさず網羅することはとうていできない。となると、業務用の処理には、(すべてを漏らさず網羅するため)独自の外字システムが必要となる。たとえば XKP など。というわけで、JISにいくらたくさんの人名字を入れても、業務用には何の意味もない。

 だから、使うことがあるとすれば、せいぜい、その人が個人的に使うぐらいだろう。これは、本来、外字などでも代用できるはずであるが。
 なお、「その人の知人が使う」ということは、あまり考えられない。第一に、そんな特殊な文字は、他人には、読み方も書き方もわからず、使いにくい。第二に、当の本人が、普通はひらがなで書くものである。というのは、漢字で書いても、読んでもらえないからだ。私の周辺でも、難読の氏名文字の人は、名刺などで、ひらがな書きにすることが多いようだ。つまり、漢和字典にもないような風変わりな人名文字は、当の本人でさえ、あまり使わない。要するに、用途がほとんどない。
 こういう珍妙な文字がたくさんあるわけだから、新JISは、一種の「珍字字典」の趣を呈している。
 まともな正字はろくになくて、珍字は盛りだくさんなわけだ。珍字がたくさんあるから、「珍字s」となる。したがって、「新JIS」転じて、「珍JIS」となりそうだ。
 
 (c) 2バイトの欧文特殊文字
 珍妙な文字は、他にもある。
 漢字ではなく、非漢字の領域で、2バイトの欧文特殊文字が多量に採択されている。
 しかし、これは、誰も使わない文字である。というより、使ってはならない文字である。使うとしたら、せいぜい、その文字を示す「画像」のかわりだろう。これは文字ではなくて、一種の絵である。つまり、雪だるまのマークと同じようなものだ。
 こんな珍妙なものを採択するのもおかしな話だ。
   ※ 2バイト欧文特殊文字は、使い道がない、ということは、すでに示した。
     「私案」および「私案をめぐるQ&A」を参照。

 
 (d) 特殊分野の文字
 歯科用の変な記号があるが、点字など、いろいろと必要な文字がない。
 特に、雪だるまや太陽の絵文字があるくせに、気象記号がない。これもおかしな話だ。気象記号は個人の日記などで非常に多く使われる。小学校でもそうさせることがある。普通の新聞の紙面にも載っている。また、ジャストシステムの日記用のソフトでは、これらの気象記号をフォント変換方式で利用できる。
 このような平易な記号を排除して、かわりに、日本人にはなじみのない変な絵記号を採用する。「Unicode にもあるぞ」と主張するのかもしれないが、頭が外国かぶれしているんじゃないの? 雪だるまの絵があるようだが、あれは雪だるまではなくて、snowman である。JISは英米の人々のためにあるわけではないのだが。

 さて、正字が不足している、ということは、すでに述べたが、
  「正字が不足するとどうして困るか」
 を、示そう。
 理由をいくつか列挙すれば、次の通り。
 
  ・ そもそも、「常用漢字に対応する正字」は、「常用漢字に対応する」わけで、
   非常に重要度が高い。
  ・ 古典や文学などを含む多くの文献では、当然、正字が必要。
  ・ 正字は、古典で使われるだけでなく、現代の小説でもひんぱんに使われる。
     (例:三島由紀夫、丸谷才一、などの初版。
       井上ひさしの最新刊「東京セブンローズ」。
       昭和20年〜40ごろに刊行されたかなりの数の書籍一般。)
  ・ 正字を含む書籍を OCR で読み込むときに、処理や表示に必要。
     (もし正字がないと、戦前の文献を OCR で読んで電子処理することが不可能。
     もちろん、OCR を使わず、単に書くだけでも、戦前の文献には必要。) 

  ・ 文学全集などの資料を公開するときには、正字が必要。
  ・ 正字は、人名でもしばしば使われる。( 内田百「間」。など。)
  ・ 文字を示すときの部首として必要。 (難しい字の部首はたいてい正字)

      ※ こうした正字の必要性については、私案その他でも詳しく示した。

 
 (4) 規格としてデータが不足しているという問題
 
 JCSの最終案は、データがまったく不足している。公開されたのは、結論としての、ただの文字一覧だけである。
 これではとても、適否の判断を下せない。なのに、こんなものを示すだけで、「承認を求める」のだそうだ。ひどすぎないだろうか? こんな状態で、「承認を求める」としたら、他人の判断を拒み、「つべこべ言わず、おれたちの決めた通りにしろ」ということになる。
 それとも、こんな文字一覧だけをぶっきらぼうに並べて、「いちいち読め。あとは自分で調べろ」というのだろうか。冗談も休み休みにしてほしい。
 だいたい、自分たちでその字を決めるとき、字形だけではなくて、いろいろと調査データをつけていたはずだ。それらを自分たちだけのところにこっそり隠したりせず、ちゃんと公開してもらいたい。
 
 (1) 正字の対応
 
 少なくともすでにJISに略字がある分については、新たに採択した正字について、JISの略字を付すべきである。たとえば、「蝉」の正字を採択したら、そのわきにJISの「蝉」という文字をつけておくべきだ。
 このような最小限の情報も提供しないで、「この案がいいんだ、この案にしろ」とは、データの出し渋りも甚だしい。ちゃんと情報を出してもらいたいものだ。
   (ただし、そうすると、どんな正字が抜けているか、バレてしまう。だから、
   わざと隠しているのかもしれない。JCSは何でも隠すのが上手。)
 
 (2) 選定基準について
 
 JCS最終案では、採択文字の選定基準が示されていない。勝手に自分たちで採否を決めて、押しつけているだけだ。こんなことでは困る。なぜその文字を採択したか、ちゃんと理由を示すべきだ。(南堂私案では、選定基準をちゃんと示している。JCSも、そのくらいのことはやってほしい。)
 そのようなことをしなければ、
 「基準なんかなくて、個別に行き当たりばったりで決めた」
 とか
 「委員の好き勝手で決めた」
 とか言われても仕方あるまい。
 
 なお、JCSは「公開レビューで示した」と言い立てるかもしれない。しかし、それには、難点がある。
 第一は、公開レビューにはない文字が、かなり多く採択されていることである。
   (前述の 福田雅史氏の調査 を参照。)
 第二は、次に述べる。
 
 (3) 用例採集について
 
 JCSは、公開レビューの公開時に、自己の漢字調査を示している。
 この調査は、これはこれで、尊重するべきである。労作でもある。
 ただし、問題がある。この自己流の調査を絶対視していることだ。
 
 JCSはかねて、「世の中の字書はたいして信用できない」と言い張っている。
 なるほど、実際、そうかもしれない。世の中の字書は、どれも、神ならぬ人間の手になる以上、どこかに瑕疵があるのは避けがたい。
 しかし、だからといって、JCSの調査が、神様のように完璧だ、ということにはならない。他人の誤りにいっぱい気づいたからといって、自分が誤らないということにはならない。そこのところを、JCSは誤解しているようだ。
 「他の字書は間違いがいっぱいある。他人はバカばっかりだ。頭のいいのはおれたちだけだ」
 と思っているのかもしれない。
 
 JCSは、公開レビューで、自己の用例採集を示している。たとえば、「人名用例がある」とか、「書誌用例がある」とか、「一般用例がある」などと。
 それ自体は、別に、構わない。しかし、この自己流の調査だけを重視して、他人の調査をすべて無視するとしたら、問題である。
 これは、いわば、自己流の字書を作っているのと同じだ。そして、この字書を、他の既存の辞書のすべてのかわりの、神様のような字書として扱っているわけだ。
 
 つまり、自分たちの貧弱な用例採集だけを絶対視して、
 「この文字は用例が多いから、採択しよう」
 「この文字は用例がないから、採択をやめよう」
 と勝手に決めているわけだ。
 もちろん、ここには問題がある。JCSの字書では、「間」の正字がもともと抜けている。(これは独自の 偏見=包摂規準 によるらしい)
 そこで、
 「『間』の正字はおれたちの字書にないから、用例も見出されないことになる、だから、採択をやめよう」
 となるわけだ。
 同様にして、「間」の正字を部分字形としてもつ文字は、どれも排除されるらしい。(この件、調査は不十分。)
 
 ここで、ひとこと付け加えておく。
 JCSが、文字コードの規格の制定者としての立場を取るなら、つまり、一種の審判(判定者)としての立場を取るなら、自分自身はプレーヤーになってはならない、ということだ。
 一般に、審判とプレーヤーは、別でなくてはならない。JCSが審判の立場をとるなら、自らは言語学的な意見を主張してはならない。
 審判たるものは、自分の判断や、自作の字書などは、わきにのけなくてはならない。それだけの謙虚さが必要だ。さもなくば、いったい誰が、審判の誤りを正すのか?
 JCSはこのような節度や謙虚さをわきまえていない。だからこそ、最終案は、世間の常識を無視した、唯我独尊のものとなるのだ。
 
 なお、JCSの調査は、それはそれで立派な労作である。ただしそれを使うのは、あくまで、他人の資料を補充するために限定するべきだ。自己流の字書を最優先して、これだけが正しい、などと思い込んではならない。他の字書にない字をたくさん採集したからといって、それをもって自分の字書が最優秀だなどと思い込んではならない。(誰も採集する気のない珍字をいくらたくさん拾っても、「最も優秀だ」とはならず、「最も珍なる」にすぎない。)
 たとえこのような調査をしたとしても、それは補充という副次的な目的に使うべきであって、漢字の採択基準という主目的に使ってはならない。それだけの謙虚さをもつべきだ。

  ※ 以上の点、JCSとして不服があるのなら、ちゃんと漢字選定基準を公開するべきだ。
    私案のように。 そして、さらにまた、個別の適用を明示するべきだ。 (内部資料では、
    そういうものが必ずできているはずだ。「好き嫌い」で決めているのでなければ。)

  ※ 「珍なる文字」にも、もちろん、用途はあるだろう。しかし、私が言いたいのは、そんな
    文字よりも、むしろ、まともな文字(正字など)こそを採択すべきだ、ということだ。JCS
    の選定基準はおかしい、と思える。大切な文字が全然不足し、珍字が多いのだから。

  ※ ついでだが、JCS案に多大な間違いが含まれている、という点については、前述の

     福田雅史氏の調査 を参照。

 
 ついでに、イヤミを一言。
 JCSでは、今回の調査に当たって、詳細な用例の調査(1次資料の調査)をしたが、それを「かつてないすばらしいこと」と思い込んでいるようだ。
 しかし、である。このくらいのことは、他の漢和字典も、もちろんやっている。たとえば、「新字源」の前書きを読めば、漢文資料のほか、各種の国語資料や国字資料を調査した、と出ている。「大漢語林」にしても、同様の調査をした、と出ている。
 ここでは、常識的に言って、次のようなことはしたはずだ。
  ・ 十年以上の調査期間
  ・ 数人の、(余業でない)専任調査員
  ・ 調査完了後、別人による、別方面からの、再チェック
 一方、JCSの調査はどうか? 
 仄聞したところによると、どうも、はるかに小規模な調査しかしていないようだ。 (上の3項目はいずれも満たしていないらしい。予算 ・人員の都合で。)
 ま、人名や地名などはともかく、一般用例を見る限り、JCSの用例調査がまったくずさんであることは間違いない。何しろ、戦前の「普通の文章」がごっそり抜けているのだから。(だから正字がたくさん漏れている。)
 それにしても、先人の詳細な調査を無視して、自分たちだけの粗い調査だけに頼る、というのは、まったく理解できないことだ。普通に漢和字典に頼れば、先人の詳細な調査を利用したことになるのに、なぜ漢和字典をことごとく無視するのだろう。「大漢語林よりも自分たちの方が漢字知識がある」と思っているのだろうか。ま、珍字に関する限りは、たしかにそうだろうが。

 
 
    (5) その他の問題 (誤字の扱い)
 
 何かと批判される83JISだが、実は、良い点もある。
 それは、78JISの誤字を修正した、という点である。(詳しくは資料「略字&正字」の「別表」の右下の欄を参照。)
 78JISはかなりの誤字があった。それを83JISは修正した。おかげで、今日、混乱なく、昔の文書を開くこともできるし、文字コード表のなかの誤字を使ったりしないで済む。
 ところが、今回の最終案は、そうなっていない。誤字を残したまま、正しい字を追加している。
 これは 83JISに比べて、はるかに劣る方針である。
 「正字を追加したからそれでいいじゃないか」というのかもしれないが、誤字がそのまま残って流通するというのでは、困ったことになる。また、これまでJISのせいで、仕方なく誤字で代用していた文書について、いちいち正字に直さなくてはならない。気の遠くなるような手間がかかる。
 結局は、世の中に、誤字と、正しい文字の、両方が流通することになる。
 (83JIS改訂者の爪の垢でも煎じて、飲ませてあげたくなる。)
 
 なお、このように誤字が残ると、今後、OCRの処理や入力ミスなどで、やたらと誤字が出回ることになる。まったく困った話だ。
 
 
 総評

 
 今度のJCS最終案を見て、点数をつければ、どのくらいとなるだろうか? 
 それには、「平凡な案とは何か」を想定してみるといい。
 平凡な人ならば、次のようにするだろう。

  ・ 「新字源」クラスの小型漢和字典の最新版(JISコードつき)を取る。
  ・ そこにある文字を順々に見て、JISコードのないものを列挙する。
  ・ その数は、 約3000字(3000字 〜 3500字)である。
       ( 字書漢字総数 − JIS漢字総数 = 9000字強 − 6355字 )
  ・ こうして列挙されたものを、「JISにない漢和字典の文字」として採択。
  ・ 残りの分は、適当に記号を入れたり、外字領域にしたりする。

 さて、この案を評価すれば、どのくらいになるだろう。文字化けへの配慮はないし、地名字が不足しているが、とりあえず正字はすべて入っているので、70点か。
 一方、JCS最終案は、どのくらいになるだろう。正字が全然足りない。常用漢字 ・人名漢字に対応する分[青 ・間 ・靖など]がないし、 83JIS改訂のウソ字に対応する分[「いんめつ」の「湮」など]もない。) また、外字領域もない。というわけで、JCS最終案は、50点ぐらいか。
 となると、平凡な高校生にでも任せた方が、よほどマシだった、と結論できる。




 
  【 参考 】
  csv ファイルの読み方

   JCS 最終案は、pdf ファイルと csv ファイルで示されている。
 このうち、 csv ファイルの読み方について、若干、説明を加えておく。
 
 (1) 二つの平面
 pdf ファイルは二つあり、二つの平面に対応している。
 csv ファイルは、ひとつである。ここには、二つの平面のデータがともにある。
 そこで、単に区点番号を見ると、どちらの平面か、勘違いすることもあるかもしれない。
 csv ファイルの前半は、第一平面であり、後半は、第二平面である。この点、勘違いしないよう、注意した方がいいだろう。……老婆心ながら。
 
 (2) 正字の調査
 今回の csv ファイルでは、データが大幅に欠落しているので、調査はできなかったが、そのうち、ちゃんとデータを補充した csv ファイルも公開されるだろう。たぶん。……
 その時点で、正字は、次のようにして調査できる。
 
 ・ データを並べ替えて、「補助漢字にない文字」を探す。(約500字 : 非漢字を含む)
 ・ そのうち、「大漢語林」には番号のあるものを探す。
 
 この文書を書いている現時点での csv ファイルでは、以上の調査では、見つかる文字は一つもない。
 ただ、「補助漢字にない正字」があれば、上の方法で見つかるはずだから、正字をざっと探すことができるだろう。
 (現時点では、これはできない。「大漢語林」の番号が欠落しているので。たとえば「蝉」「嘘」の正字は、実際にはJCS最終案にあるが、csv ファイルでは「大漢語林」の番号が欠落しているので、見つからない。)  

  【 参考資料 】
  機種依存文字の収録

 JCS最終案における機種依存文字の収録について、コンピュータでざっと調査した結果は、次の通り。 (機種依存文字を使っているので、Windows 環境でないと、見えない。)
 ( データの作成にはJCSの csv ファイルを利用した。)

 JCS最終案にあると判明したもの

 漢字(UCS)
h(4E28) i(4EE1) k(4F00) l(4F03) n(4F56) 
p(4F8A) o(4F92) r(4F94) q(4F9A) a(4FC9) 
w(501E) u(5022) t(5040) z(5042) x(5046) 
y(5070) {(5094) ~(514A) =i519D) пi5215) 
(52A6) w(52AF) (52DB) 堰i5300) 梶i5307) 
求i5324) 香i5393) 氏i53B2) 秩i548A) 早i549C) 
刀i54A9) 煤i54FF) 普i5586) (57AC) 噤i57C7) 
凵i57C8) 掾i589E) 氈i590B) 。(595B) 「(595D) 
、(59A4) ヲ(5B56) ァ(5BC0) ゥ(5BD8) ェ(5BEC) 
ォ(5C1E) ャ(5CA6) ュ(5CBA) ッ(5D27) イ(5D42) 
ー(5D53) ウ(5D6D) エ(5DB8) オ(5DB9) ク(5F34) 
g(5F45) ケ(5F67) コ(5FB7) サ(5FDE) セ(608A) 
タ(60D5) ツ(60F2) ナ(6130) ト(6137) ニ(6198) 
ネ(62A6) ノ(63F5) ハ(6460) ヒ(649D) フ(64CE) 
ホ(6600) ム(6609) マ(6615) モ(661E) ヤ(6624) 
c(6631) ヨ(6657) ラ(6659) ユ(6665) ル(6673) 
レ(6699) ロ(66A0) ワ(66B2) ン(66BF) ゙(66FA) 
f(66FB) 瘁i6766) 竅i67BB) 艨i67C0) 蛛i6801) 
諱i6844) 縺i6852) d(68C8) 轣i68CF) 驕i6968) 
(6998) (69E2) (6A30) (6A46) (6A6B) 
(6A73) (6A7E) (6AE4) (6BD6) (6C3F) 
(6C5C) (6C86) (6CDA) (6D04) (6D87) 
A(6DAC) B(6DCF) E(6DFC) H(6E27) I(6E3C) 
G(6E5C) J(6EBF) K(6F88) L(6FB5) M(6FF5) 
N(7005) O(7007) P(7028) Q(7085) R(70AB) 
b(70BB) T(7104) S(710F) V(7146) W(7147) 
U(715C) Y(71C1) Z(71FE) [(72B1) \(72BE) 
_(7377) a(73C9) b(73D6) c(73E3) e(7407) 
g(7426) h(742A) j(742E) k(7462) l(7489) 
m(749F) n(7501) ィ(752F) o(756F) s(769B) 
q(769C) r(769E) t(76A6) v(7746) x(7821) 
y(784E) z(7864) |(7930) =i7994) メi799B) 
пi7AD1) (7AE7) (7AEB) (7B9E) 梶i7D48) 
求i7D5C) 香i7DA0) 戟i7DB7) 氏i7DD6) 潤i7E52) 
\(7E8A) 吹i7F47) 刀i8301) 煤i8362) 普i837F) 
磨i83C7) (8448) 凵i84B4) `(84DC) 噤i8553) 
宦i8559) 栫i85B0) 「(88F5) ](891C) 」(8A12) 
、(8A37) ・(8A79) ヲ(8AA7) ァ(8ABE) ィ(8ADF) 
ェ(8AF6) ャ(8B7F) ュ(8CF0) ョ(8CF4) ッ(8D12) 
カ(90DE) ク(9115) ケ(9127) サ(91D7) コ(91DA) 
ソ(91E4) タ(91E5) ス(91ED) セ(91EE) テ(920A) 
ツ(9210) ハ(9239) ト(923A) ニ(923C) ナ(9240) 
ヌ(924E) ノ(9251) ネ(9259) ヒ(9267) ホ(9278) 
_(9288) フ(92A7) メ(92D0) ヨ(92D3) ミ(92D7) 
ム(92D9) ユ(92E0) マ(92E7) e(92F9) ル(92FB) 
ワ(92FF) ゙(9302) ン(931D) ロ(931E) リ(9321) 
ラ(9325) ^(9348) 焉i9357) ゚(9370) 竅i93C6) 
縺i93DE) 諱i9445) (969D) (96AF) (9733) 
(973B) (974D) (974F) (9755) (9857) 
(9865) (999E) (9A4E) @(9ADC) B(9B72) 
A(9B75) C(9B8F) D(9BB1) F(9C00) H(9D6B) 
G(9D70) J(9E19) K(9ED1) 焉iF929) 驕iF9DC) 
宦iFA0F) 怐iFA10) ア(FA11) 閨iFA13) 黶iFA14) 
X(FA15) ^(FA16) ~(FA19) (FA1A) aiFA1B) 
掾iFA1F) 氈iFA20) ゥ(FA22) ウ(FA24) キ(FA26) 

 JCS最終案にないもの

j(4EFC) m(4F39) s(4FCD) v(4FFF) }(50D8) 
|(50F4) (5164) ai51BE) メi51EC) (529C) 
(52C0) 戟i5372) 潤i53DD) 磨i5759) 浴i5765) 
栫i58B2) (5953) 」(5963) ・(59BA) ョ(5CF5) 
カ(5DD0) キ(5F21) シ(605D) ス(6085) ソ(60DE) 
テ(6111) チ(6120) ヌ(6213) ヘ(654E) メ(662E) 
ミ(663B) ゚(670E) (6AE2) (6C6F) (6D6F) 
@(6D96) D(6DF2) C(6DF8) F(6E39) ](7324) 
`(73BD) d(73D2) f(73F5) i(7429) p(7682) 
{(787A) 早i7FA1) 浴i83F6) 怐i856B) 。(8807) 
ォ(8B53) ー(8D76) イ(8ECF) オ(9067) シ(91DE) 
チ(9206) ヘ(9277) ヤ(92D5) 瘁i93A4) 艨i93F8) 
蛛i9431) 轣i9448) 閨i9592) (9743) (9751) 
(9927) (9AD9) E(9BBB) 吹iFA0E) リ(FA12) 
u(FA17) }(FA18) (FA1C) 堰iFA1D) 秩iFA1E) 
(FA21) ア(FA23) エ(FA25) モ(FA27) レ(FA28) 
黶iFA29) (FA2A) (FA2B) (FA2C) I(FA2D) 

 これらを番号なしで単純に列挙すれば、次の通り。

j m s v } |  a@メ@   戟@潤@磨@浴@栫@ 」 ・ ョ  カ キ シ ス ソ テ チ ヌ ヘ メ  ミ ゚    @ D C F ]  ` d f i p { 早@浴@怐@。  ォ ー イ オ シ チ ヘ ヤ 瘁@艨@ 蛛@轣@閨@    E 吹@リ  u }  堰@秩@ ア エ モ レ  黶@   I 

 ここにある文字のうちで、VJE-Delta の「人名字辞書」に含まれるものは、次の 17字。
 ( 私案の「VJE」の箇所も参照。これらは世間ですでに使われていると思える文字。)

    m  潤@・ リ @ C ]  秩@ チ    E I 

 ここにはいくつかの正字が見られる。 (「リC蹄」の4字 )(「」は人名漢字に対応。)
 常用漢字に対応する正字を人名に使うことは、「当分の間」ということで、法律的に許容されている(いた)。 ( cf.  書籍版「小学館国語大辞典」巻末付録)
 なのに、そうした文字が使えないというのは、一種の法律無視になる。困ったことだ。 (つまり、人名用の珍字はたくさん採択するが、よく使う人名用の正字は排除する、というわけ。)


 漏れたうち、次の文字は、常用漢字に対応する正字。(計8字)

   ス ヘ 閨@} 堰@  


 結局、残りは、次の 59字だけ。 (これらだけが、特に必要性を指摘できなかった機種依存文字。)

 j s v } |  a@メ@ 戟@浴@栫@ 」 ョ カ キ シ ソ テ
 チ ヌ メ ミ ゚    D F ` d f i p { 早@浴@怐@。
 ォ ー イ オ シ ヘ ヤ 瘁@艨@蛛@轣@ 吹@u ア エ モ レ 黶@


   *  *  *  *  *  *  *

 さて、ついでにちょっと、別方面から調べよう。もちろん、対象は機種依存文字とする。
 JCS最終案にある「常用漢字に対応する正字」は、私の見落としがなければ、次の16字。

   香@氏@潤@栫@ョ カ ク K 焉@怐@^ ~  a@ゥ キ

 一方、JCS最終案にない「常用漢字に対応する正字」は、先の 4字+8字で、計12字。

   リ C 秩@ ス ヘ 閨@} 堰@  

 16字と12字をあわせて、28字。これが正字の総数。
 JCS案に収録された正字は、28字中の16字だから、約6割となる。つまり、残りの4割が漏れている。これは、機種依存文字における割合だが、常用漢字全体について調べても、同じようになりそうだ。つまり、だいたい4割ぐらいの正字が漏れていると推定される。
 なお、「常用漢字に対応する正字」の総数は、1945字のうち、500〜600字程度と推定される。その4割というと、200字あまりとなる。
 結局、200字あまりの正字がJCS最終案から漏れている、と推定されるわけだ。
 (誤差を考えると、170字〜250字、と見ていい。) 
 (「2バイト欧文特殊文字」など、無意味なものを排除すれば、これらの正字は収録できる。)

  【 追記 】 ( 再訂正 !)
 「 」という文字(部首)がない、と以前は記したが、これは正しくなかった。
 「經」の右半分の字形は、下側が「土」でなく「工」になる。そのような字形 ( UCS で 5DE0 ) は、JCS最終案にある。
 一方、機種依存文字の「 」 という文字は、UCS で 5759 。これはJCS最終案にないが、特に必要性は高くないので、問題ない。 (人名用の誤字か ? )
 なお、上述の「4割」というのは少な目に概算した数字なので(正確には 43% )、以前の結論から差は生じない。

  ※ なお、「磨vという字の下側が「土」か「工」かは、拡大しないとよくわから
    ないことが多いので、注意。

  ※ 余談だが、「巛」は、「川」の正字で、JISにある。 5DE0 は部首ではない。



 最後に

 いろいろと駄弁をつらねてきたが、浅学非才の身ゆえ、間違いがあるかも
 しれない。もし間違いを見つけたら、ご連絡をくださるよう、お願いします。 

 また、JCSへの誹謗と読める文章もありますが、これは悪口ではなくて、
 一般読者向けの「お遊び」ふうの軽口なので、悪意と曲解しないよう、
 関係者にお願いします。また、非礼をお詫びします。



  【 後日記 】   [2000年末]

 表紙ページにも記したことですが、この文書を書いた時点では、X 0213 は制定・実施されると予想されました。そのため、かなり激烈な悪口を書いてしまいました。
 ところが、予想に反して、X 0213 は実施されないことになったようです。となると、本文書の悪口は、きつすぎたと反省します。
 きつい悪口は、いくらか効果を波及したのかもしれませんが、あとになって読み直すと、逆に、「死者に鞭打つ」というふうにも感じられます。
 今さら書き直すことはできないので、このまま公開しますが、とりあえず、悪口が過ぎたことについては、お詫びします。

※ とはいっても、この文書を公開した時点では、
  「そこらの市民が勝手に、何言っているんだ。しょせん『犬の遠吠え』に
  すぎない。こっちは天下の公的機関だ。蟻の声など無視してしまえ!」
  「略字万歳! 正字なんていう古くさいものは消してしまえ!」
  という意見が圧倒的に優勢だったんですけどね。政治的には。
    (今から思えば、あとで「悪口ばかりで下品だ」なんて批判される
    くらいなら、私も当時、黙っていればよかったかも。世間の大半は、
    「長いものには巻かれろ」と黙ったなかで、出る杭は打たれるし。)
    (また、「悪口を言わずに、上品に指摘するだけ」という手もあった。
    それなら、本文書は「学術的」と見なされて、尊敬されていたかも。
    でも、そのかわり、「ご意見は拝聴いたします」と言われただけで、
    JCS案は可決されていたでしょうね。きっと。……その証明 :悪口
    なしで学術的に述べた「私案」は、まるっきり無視された。)
※ 念のために当時の事情を説明しておくと:
  JCSの最終案が公開されたのは、1999-08 のころ。予告もなしに、突然
  公開されたので、知らなかった人も多い。
  私が気づいて、あわてて最終案を調査し、この文書を公開したのが、同年
  9月初め。以後、9月 〜 10月にかけて、少しずつ、調査と追記を加えた。
  一方、JCS案の正式決定の日取りは 10月。あっという間である。その短
  期間中に、意見を述べたのは、WWW上ではこの文書のほかは、前述の
  「福田氏のページ」だけだったと思える。
    (他にも、感想などを述べた人もいるかもしれないが、私は知らない。
     実際、それが狙いで、検証期間が短かったのかも。)
    (マスコミはどうかというと、朝日新聞が、JCS礼賛一辺倒であった。
     『次期JISはすばらしい! 使える文字が増える! 万歳!』と。
     ほとんど御用新聞状態であった。大政翼賛会ふうに。)
  当然、10月中には、JCS案がそのまま正式決定されるはずだった。私さえ
  黙っていれば、欠点を指摘する人はろくにいなかったのだから、正式決定
  されるのは当然である。 (もしそうなったら、多くの正字は排除されたまま
  となる。かくて日本語は略字に征服される。朝日新聞も大喜び。)
   ……ところが、突然、JCS案は上位機関で、実質的に否決された。この
  ようなことは、前代未聞のことであって、多くの人が不審に思ったようだ。
      (この上位機関は、JISの規格を細かく審議するところではなくて、
      単に承認するためだけの機関であるから、否決などということは、
      通常、ありえない。)
   ただ、略字派の人は、事の意外な展開が、腹に据えかねたらしい。私の
  ところに非難が寄せられたりした。今もときどき、チラホラと非難が。……
  (だから私は安眠できない。)

※ なお、一般的に言えば、
    「権力をもつ組織は批判されるのが当然」
  と私は考える。政府や権力は、世間からの批判をたえず受けねばならない。
  さもなくば、独裁者と化してしまうだろう。
  JCSという「権力組織」は、批判や悪口を言われるべき立場にあるはずだ。
       (でも、「お上の悪口を言ってはいかん! お上には敬意を払え!」
       と怒る人もいますけどね。……ま、「南堂の悪口を言え! 南堂には
       敬意を払うな!」というのは、別に、構わないんですけどね。)


               [ この「後日記」は、2000年12月末 に記す。]




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  作 者 名  南堂久史
  E メール  nando@js2.so-net.ne.jp
   U R L   http://hp.vector.co.jp/authors/VA011700/moji/code00.htm

[ 以上 ]