釣師 サダ吉さん 北海道を語りき...。(取材日:09/03/1997 なまらーのサダ吉さん)

【日高Tダム湖に棲む幻の魚】

日高山脈は、知床半島と並び日本で数少ない手付かずの自然が残されている、最後の 楽園である。

1994年 7月。友人のS君と私を乗せたデリカスターワゴンは、最近簡易的に作られ たと思われる、路肩の弱い林道を高度を上げながら上っている。

車窓から下を覗くと100Mはあると思われる谷底が見え隠れする。その年は、例年よ り雨の降る日が多く、幹線林道が土砂崩れで通行止め。日高山脈のど真ん中「Tダム 湖」まで行くには、遠回りの作業用林道を通らなければならない。

入口まで行ってみる と幸運にもゲートチェーンがはずれている。先を見ると旧林道をブルでならしただけ の、普通乗用車では、腹がつかえてしまうような悪路だった。私達は、意を決して進む 事にした。
いつもは、30分で行けるところを、遠回りしたためか1時間走っても目的地に着か ない。途中、何度もZ字のカーブを一度で曲がりきれず、バックをしてハンドルをおも い切り回すといった具合にひどい路である。本当にこの道で良かったのであろか・・・・。 不安をよそに、間もなく幹線林道に出られ、ホッとする。あと少しでTダム湖だ。

いつものポイントに着く。我々の他に誰もいない。運転をしてきたS君は、少し休ん でから釣をするとのこと。この広いダム湖は、私の貸し切り状態である。

T湖の7月の朝方は、里に比べひんやりと空気が冷たく、木々もまだ新緑の淡い色合 いだ。水面は鏡のように静かで対岸の山をシンメトリーに映し出す。ここまで来て本当 に良かった・・・・。

支度を整え湖岸から少し離れ一投目、ルアーロッドをしならせサミングをし、静かに 水面にプレゼンテーション。そしてゆっくりリトリーブ。水中に何かが走った。いる ぞ!。少しポジションを変え、二投目をキャスト。微妙にアクションを加え、ストッ プ。来た!! 慎重に合わせるが・・・・が?、しまった!ドラグを締め忘れていたジーッ、 ジーーーーー・・・・。慌てて締めようとするが、かなり強い引きなので、ラインが切れそ うで締められない。あれっ・・・・?。レレレ・・・。急に軽くなった。バレた!さびしくルアーだ けが、手元に戻ってきた。愛用のラパラCD12B/Gを見てビックリ。胴体部分に大 きな歯形がくっきり付いている。アメマスなら70cmクラスだろう。残念だ!

気を取り直して、何度もキャストを繰り返すが何の反応もない。この場は少し休ませ ることにしよう。少し移動しルアーを代えいろいろ試してみるが、先ほどのことが悔し くて集中できない。岸辺の丸太に腰をおろし軽い朝食を取る事にした。足元を見ると鹿 の足跡でいっぱいだ。先ほどから、「きー、きー」と鹿の警戒音が響いている。オスだ ろうか。あの大きな角で襲われたら、いくら鹿とは言え恐ろしい。この辺りは、熊も出 没しているらしい。自然の中は、のびのびと開放感を味わえるが、同時に人間の弱さも 改めて思い知らされる。

先ほどの方角から、S君の叫び! 「オーイ、タスケテクレ!!」SOSだ。いつの まにか起きだして、岸辺に降り立っていたのだ。慌てて駆けつけてみると、S君のウエ ダのロッドが、しなっている。大物がかかったのだった!ランディングネットを差し出 しアシスト。無事つり上げる事が出来た。悔しい!先ほどの奴か?しかし思ったより小 さい。計って見ると59cmのアメマス。違う・・・奴でない。歯を見るが明らかに違 う。もっと大 きいはずだ。写真を撮りリリース。ランディングが長かったせいか、少 し元気がなかったが、時間を掛け水に慣らして上げる。間もなく回復し自力で泳ぎ湖底 に消えて行った。それにしても、私の逃がした魚は大きかった。

その後は、全く反応がなくなり、不気味に空が暗くなり湖面にパラパラと雨が落ちて きた。雨足が速くなりそうだ。土砂崩れが心配で、引き上げる事にした。帰り道恐かっ た。稲光が走り、時折前が見えなくなるぐらいの強い雨。林道が川の様になり、所々大 きな石が転がっている。やっとの思いで林道の入口まで戻って来たが、ゲートが閉まっ ていた。なんてことだ。しょうがないのでハンマーで南京錠にショックを与え無事脱出 する事が出来た。(ごめんなさい)

その後、林道は そのシーズン通行止めになった事は、言うまでもない。

あれから、未だあのクラスのアメマスが上がったと言う話しは聞いてはいない・・・。

写真は、 Tダム湖  サダ吉さん撮影