市販の英単語帳〜向き不向きがあるみたい

 「○○大学を目指しています。英単語帳は□□で足りますか?」
 大学受験生がこういうことを尋ねてくる背景には、まず間違いなく安心感を得たいという心理が働いている。英語という教科の場合、勉強が進んでいるかの指標として覚えた単語の数、というのが考えやすい。というわけでついついせっせと単語を覚えるというのが目標となってしまい、単語を覚えることの優先順位が高くなった結果、覚えている単語の数と大学の合格見込みの度合いが強い相関関係を持つと思い込むにいたり、ついには単語帳を消化することが目的と化し
「□□という単語帳が終わりました。次は何をやるべきでしょう」
という「まあ、単語を覚えようという意欲は認めるけどね。で長文読解とかはできるようになったわけ?」と反応したくなるような質問が出てくる。

 自分が受験するわけでもなく、また学校関係者でもない自分としては「まあせいぜいがんばりな」で終わらせてもいいのだけども確かに「英語を共通テストしか受けないとすれば2000も3000も単語覚える必要ないかもしれないなあ」とは思う。

 ちょっとしたきっかけはあった。立教大学が自ら英語の入試問題を作らなくなっている。立教大学の建学の精神ってイギリスにルーツがあったのでは?(ウィリアムズ主教の国籍はUSAだが。)英語をとても重視していなければならない。が、今や外部試験ないし共通テストの英語にすべてを頼っている。

 脱(落)GMARCHしそうなところではあるが、ひょっとして受けるのが楽になったってことじゃないか?共通テストの難易度で英語を突破すればいいわけだから。ならば何か単語帳を選ぶ目安があったほうがいいだろう。
 というわけで、実験。過去問に使われた単語についてはEigo Loveというサイトに頼り、3年分を対象とした。
 手元にあったTarget1900という英単語帳、および神戸大学石川慎一郎研究室がまとめてくれた中学基本英単語の一覧を使用し、プログラム書いて、処理してみた。

 単語帳と中学基本英単語で重複する単語はどう扱うか、とか、最終的にはどういう見せ方がいいかとか、まあいろいろ悩むことがあったが、そういう些細なことはどうでもいいくらい出力結果に面食らうことになった。テストはさっさと終わらせたつもりだが、あまりに直感と反する結果に「どこかで根本的なミスをしているのではないか?」と頭を抱え、ついには使用全単語がどの単語帳のどのセクションに入っているかを一覧にしてチェックした。
 つまりだなあ、三年間の共通テストに出てきた単語(代名詞や接続詞、感嘆詞は除く)のべ12003語のうち、単語帳1冊と中学基本単語でカバーされてない語は1310語、のべ3105回にもなってしまったのだ。のべでみたカバー率はやっと74%。しかも限界効用逓減の法則がそんなにはっきりと働いてそうもない。

 ああ、これなら受験生がひたすら単語を覚えたくなるのも無理ないわ。
 さらにカバーされてない単語は、たとえばcreate(16回)、seem(15回)、pay(14回)と確かによく使うものが多い。センター試験というか、共通テストを受ける際に単語帳に頼るなら、この辺の微妙な立ち位置の単語がしっかりと記載されたものがほしい、と皆さん思うことだとう。
 単に頻出単語を単語帳にするなら、私が作った大学&学部に特化した単語帳を使うのが一番効率がいい。ただしあまりにも最適化しすぎると出題傾向が大きく変わったときに撃沈するリスクがある。それを避けるためにはある程度「汎用的な」単語帳を使ったほうがいいというのは私だって賛同する。しかし1900語もおぼえて、それでもセンター試験レベルだというのに4分の3しかカバーしてないというのはあまりじゃないか?
 しかも単語帳のセクション1、つまり最初の100語で覚えたとしても出てこなかった単語が13個はいいとして、セクション5の100語だとこれが59個となり、セクション10だと84個というのは「頭では理解していてもモチベーションが下がる」レベルだろう。

 でもターゲット1900という単語帳はよろしくないかと言うとそうではない。中央大理工学部の問題を対象にして処理すると800語くらいでヒット率がぐぐっと下がり限界効用逓減の法則が働いているのがよく分かる。カバー率も悪くない。つまり私立の独自試験にはあっている、と言えそうなのだ。つまり向き不向きは確実にあるわけだ。

 こういう状況を見たとき、問題文を読み込ませて、頻度別に並べる単語帳を作成するプログラムを書いた実績を持つ身としては「それみたことか」と威張り散らしてもいいような気がするが、現実の問題はあまり解決しない。それに頻度別単語帳を実際に作るとなれば「問題文にあたってピッタリの訳語を選ぶ」という結構高い壁がある。
 しかしながら「この単語帳がどの大学の入試問題に合うのか?」ということなら、OCRで読ませたあとスペルチェックしたり、あるいは直接タイプしたり、と手間はかかるがある程度機械的な作業で済む。コンピュータプログラムの教育に力を入れており、人数も多いN高校あたりでやるとおもしろいかもしれない。ドワンゴがプログラミングの指導をする必要があるかもしれないが、結局は「よく使われる単語」をいろんな単語帳からあつめて一つにまとめることになると思う。こうして出来上がったオリジナル単語帳(単語ガイド)、出版できるレベルまでもっていきたいよね。そうすれば角川が取り扱って、利益の一部は頑張った生徒に「奨学金」という形で還元できれば…そんなに儲からないかな?でも話題にはなるよ。

 え、もうちょっと早く言ってくれれば「夏休みの自由研究」で県立高校の問題を対象に単語帳作ってみたかったって?
 そんなことを考えついた人、私は好きだなあ。

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