ネット取引の後ろ盾

 インターネットで入札を行って、従来の取引関係に縛られず低コストで商品を調達する。
 本気かよー、と思う。日本経済新聞が最近力を入れて特集記事によく書いているが。

 継続的な取引関係が、取引先の身元保証/アフターサービスという点で、いかにコストを削減しているか分かってやっているのであろうか。
 それでも仕方がない。本当にそういう風潮なんだったらな。そんなわけでオンライン取引関係の成立と拡大は少なくとも1つの社会的インフラを生み、1つのインフラを拡大させた。コンビニ決済と宅急便のことである。
 うちのニョーボも最近オンラインショッピングをはじめ、双方に世話になっている。まあニョーボも多くの時間は「こんなものをオークションに出しているなんて」と笑っているが。(^^;

 個人レベルの取引ならこれだけでも何とかなろうが、企業間となるとそうもいかない。
 取引先の信用を保証し、いざとなれば支払いを代行するサービスが必要となる。ところが今のところ、このサービスの業界標準を巡って複数業態のバトルが行われているという記事は、さすがの日経新聞にも載っていない。
 でもやるとすれば、保険会社と商社と銀行の戦いになりそうだ。

 「取引を保険する」わけだから、これはいかにも保険会社のホームグラウンドである。個人的には80年代合衆国のセキュリタイゼーションをイメージしている。
 事業会社が債券を発行する際、保険料を払って格付けを上げた方が、そのまま起債するよりも低コストになるという話だった。同様に、保険料を払ってもネットで取引先を募った方が低コストになるというのなら保険会社の活躍場所はどんどん増えそうだ。

 あるいはこれは「商社金融」の分野かもしれない。ここを見ると信用調査・代金取立代行サービスは立ち上げる方針らしい。でも、取引先破綻に対し、どの程度コミットするかは不明である。
 もともと商社はカネになりそうな産業を導入し、それについての資金もある程度面倒見るところ、というイメージがあったので、ネットでビジネスチャンスを探す手伝いをし、資金を手当てし、あるいは取引仲介をしても、本業からはさほど離れていないような気がする。活動分野をサイバースペースに拡大し、現実世界との橋渡しをするといったところだろうか。

 銀行からみれば海外貿易を保証してきた「信用状」のネットワーク取引版を作ればよいことになる。これは海外のよくわからない取引先の代金支払いを手数料をとって保証するという制度である。でもこれは代金回収を保証するわけだからちょっとずれるかな。ともかく海外支払い保証をサイバースペース支払い保証に適用するということで進出可能かもしれない。

 まあ、このバトルが展開すると今度は囲い込み運動かなあ。商社がアレンジするネット取引に参加するには提携銀行の信用状を発行してもらうことが条件になり、それを保険で担保するといったことになるかも。そうなると手数料・保険料がかさんで、どうしてネット取引をしているか分からない状況になるかもしれませんな。
 意地の悪い見方をすれば、ネット取引というのは、価格に現れないコストを計算しないので安上がりに見える、というだけのことかもしれない。

 それでも似たようなことをビジネスモデル特許として出願するやつがいそうだなあ。私はビジネスモデル特許というのがどうも好きになれない。というのは、世のビジネスモデル特許、どう考えても自然現象を利用した高度なこと、には思えないからである。上のことのようにさらっと書けば、当たり前のことなのに、弁理士さんに頼むともっともらしく特許になってしまうというのもね。

 継続的取引を持つことが大切な理由がもう一つある。品質の問題だ。
 求められる精度が0.1mmであったとしても、お得意先に対しては0.01mmのオーダーまで仕上げて納入するのだ。これが日本人なのである。この気持ちが日本製品の品質を支えてきたのだと思っている。ネット取引にこのような職人気質を評価できる仕組みが整うのだろうか。もっとも次の世代にはこのような職人気質が受け継がれなくなっているという話も聞きはするが。

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