民兵との対話

 イラクで邦人が現地武装勢力に拉致されたらしい。
 ちなみに私は拉致した皆様を「テロ」とは呼ばない。正規兵でないのは確かだが、それは合衆国が正規兵を認定する政府を言いがかりをつけて潰してしまったからであり、やむを得ない事情がある。また「非戦闘地域だから戦闘員はいないはずであり従ってテロである」という主張もあるが、非戦闘地域とはこちらが勝手に決めた線引きであり彼らがそれに縛られる筋合いはない。だから民兵と呼んであげたい。規律ある民兵は民主主義の基盤であると合衆国憲法(第二修正)でも奨励している。まあ規律あるかどうかというのは問題だが、銃を支給するなどすれば自ずから規律が生まれてくるはずだ(合衆国で銃の所有が自由化されているのはこの論理に基づいているようだ)。

 さてイラクの民兵の皆さん、お怒りはごもっともである。大量破壊兵器を持っているだろうと言いがかりをつけられて、攻め込まれ、さらには関係ない国の軍隊まで駐留しているのだ。怒って当たり前だ。しかも暴力的手段を使われたのだ。侵略に対して武器を取って立ち上がる愛国心を非難するわけにはいかない。その際にそのとばっちりで殺される人が出ても、それはありうることである。(合衆国がイラクの民間人を何人殺した?)
 殺されたくなければ危ないところには行かないことである。でも行ったということは、ある程度のリスクは想定しているということであり、ある程度あきらめもつけなければなるまい。
 ここまでは常識の再確認。でも何とか助けたいよね。だからそのためにいろいろ考えてみた。

 拉致した民兵側に常識があるとするならば、3人程度の人質で自衛隊が撤退しないのは承知しているだろうから、簡単に殺してしまうのは得策ではないことは分かってくれるだろう。自らの主張を広めることを意図して釈放する方がずっといい。ではどうやって彼らの面子を保たせるか、彼らの主張にどうやって耳を貸してやるか、が重要になる。(説得力のある理由をつけて釈放しないと、今度は彼らがイラクの他の武装勢力から「裏切り者」と言われるかもしれない。)
 ボランティアのおばさんを釈放する理由を見つけるのは簡単だ。合衆国との戦闘で傷ついた民兵をあてがい、看病していただくのだ。ならば「彼女は我々の仲間を献身的に看病してくれた。彼女を殺すことはできない」というすばらしくもっともな口実ができる。(フィルムを見る限りではうち解けて話をしていたようだしこれはいけるんじゃないのかな?それにしてもストックホルム症候群には早すぎるぞ。)
 劣化ウラン弾の害を訴える絵本のネタを探しに行ったティーンエージャーはちょっと難しい。「彼はイラクの地における合衆国の蛮行を知らしめるためにここに来た。我々の敵でないことが分かった」とかいう理由はつけられるが、残念ながら彼はアラビア語が話せないだろうから、敵でないと判断する根拠に乏しい。
 働き盛りのフリージャーナリストはさらに難しい。何とかしろと言われたら、名誉の殉職だから仕方ないと突き放したい気分である。もし民兵側が「死ぬ前に1本だけ記事を書いてよい。それについてはちゃんと朝日新聞社に届ける」と言ってくれるなら本人も本望だろう。それを載せた週刊朝日の売上げも伸びるだろう。少なくとも私は読む。

 ただし、朝日新聞社ならこの記者を助けることは出来る。「民兵の主張も載せるから釈放してくれ」と言うことは可能である。やむなく武器を取らざるを得なかったイラクの愛国者のど真ん中に行って意見を聞いてきた、それを書く。いい記事になりそうじゃないか。イラクの甘党の男性がアイスクリームを食べて喜んだ記事をよりもよほど有意義だ。(このジャーナリストが以前書いた記事はそういうものだそうだ。)
 ただし心理的抵抗はかなり大きい。テロに屈してテロリストの主張を載せたと誤解される恐れがあるからだ。(だから彼らを初めから民兵と呼んでおかなければならない。これもリスク管理だ。)

 だが、相手がテロリストだとしてもその主張を載せることは悪いことだろうか。そういう意見もあるということを報道することは決して罪ではない。で一部の意見を無視し続けてきたために痛い目にあった経験が朝日新聞社にはあるだろう。赤報隊の一件である。
 ましてや、イラクの人は言いがかりをつけられて国を破壊され、家族や友人を実際に殺されているのだ。とにかく出てってくれ!という気持ちが先に立っても責めることは出来まい。自衛隊は復興のために行った?そうだと認めても、自衛隊がいるおかげでその地域ではテロ(少なくとも破壊活動)の危険が高まり、生活が脅かされているのだ。出てってくれ、とにかく出てってくれ!どうしてもというなら「軍隊でなく建設会社が来てくれ」という主張があってもいいだろう。(自衛隊が軍隊ではないという憲法上の解釈もあるかもしれんが、だとすると自衛隊は彼の地では国営テロリスト集団ということになる。日本をテロ国家と見なされるよりは、自衛隊を軍隊と見なした方がましだ。ちなみにジュネーブ条約上は軍隊として登録されているそうです。)

 人質を取って撤退を迫るという行為は、いくら私でも支持しない。でも彼らはそこまで追いつめられた十分な理由があるのだ。だから話を聞いてやろう。テロだからと門前払いせず、きちんと主張を聞いてやろう。聞いてやるから人質を釈放してくれ。これが言うべき事だと思うのだがどうだろう。
 もし、拉致されたジャーナリストが本物のジャーナリストなら、民兵をそう説得して帰ってきてほしい。自分がみんなの意見を、気持ちを必ず日本のみんなに伝えるから、だから帰してくれと説得してほしい。
 そして日本にいる僕らもその意見に耳を貸す用意があると彼らに伝えよう。これが平和愛好家の使命だ。単に即刻釈放を要求したり、非難したりしただけでは、相手も態度を和らげるわけにはいかないだろう。だって彼らは実際に家族や友人を殺されているのだ。そして彼らを非難する人は、彼らの目から見て殺した側の人間なのだ。

 ところで福田官房長官に聞きたいことが一つだけある。「(自衛隊が)撤退する理由はない」と言われたそうだが、それは「人質くらいじゃ撤退させる理由にならない」ということなのですか?そこを曖昧にしてほしくないなあ。次の選挙まで文句は言わないから。

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