バグのおかげで命が助かったかもしれない話

 世話になったゼミの(助)教授が、日銀審議委員になったらしい。すっきりした考えの人であった。端的にそれを顕している説明。「日本の短期金利と長期金利の水準が変わらない理由のは長期国債を1泊2日や2泊3日で売り買いしているので、長期国債金利が短期金利になってしまっているから。」
 「理想的な市場の下では、経済成長率=社会的投資収益率=社会的利子率になるはずだから、現在の国債の金利水準は高すぎる。これは・・・(局地的インフレーション、という概念を作り、バブル崩壊をバブル形成以前に予測)」と説明したら「利子と成長は別だ、GNP100%利子だけで回せるんだよ!まあ、儲けすぎて、これでいいのか、という気持ちはあるのかもしれないけど」と怒鳴られたことあり。正直好きな先生ではなかった。それでもゼミに入れてくれと研究室までお願いに行ったのは、そういうすっきりと考えをまとめる能力が自分にはなかったから。ひょっとして先生も私に影響されてくれたか?バブル崩壊後、先ほどの当方の説を認めてくれたようなことを日経のコラムで書いていた。なんかうれしかった。

 まあ、それなりにつながりや思い入れがあると、同じニュースも別なものに聞こえる。というわけで、ワールドトレードセンターが崩れても、中国の地震で沢山人が死んでも、あまりこたえない私であるが、秋葉原通り魔殺人はさすがにショック。
 やはり暇つぶしに一人で、または友達と歩き回り。一緒にいるのを同僚に目撃されても「あー、パソコン買うのにつき合わされているんだな」と納得してもらえるので、結婚前にニョーボと堂々とデートできた場所でああいうことが起こると、ショックは隠せない。今でも通勤定期、なんのかんのと秋葉原経由にしているのだ。

 確かに最近足が遠のいてはいる。しかし順調にいけば、その日その時間帯に秋葉原にいたかもしれないのだ。土曜日にDELLに注文していたパソコンが届いた。ちょこっと出かけた隙に宅配便が来たせいで、実際に受け取れたのは夜。でもその日のうちにセットアップ完了。無線LANがすんなり通じたのがうれしい。デフラグも終わり、PartitionMagicでシステム領域とデータ領域でパーティションを切ろうとしたら、途中でブルースクリーン。げ!2度と起動しなくなった。システムドライブのドライブレターをロストしたらしい。
 気を取り直して再インストール。ヤレヤレこれで、周辺機器を買いにいけるぞ。久しぶりに秋葉原に出るかなあ。と思ったらサービスパックを当てている最中にブルースクリーン。OSは動いているようだが、ファインダー、じゃなかったエクスプローラーが上がらなくなり、画面は壁紙だけ。修復インストールを試みるも、何かしら問題が生じてまた初めっから。これで秋葉原にはいけなくなった。というわけでPatitionMagicとWindowsはタコ!と文句は言うが、今回に限り、怒る気にはならずにすんだ。

 秋葉原通り魔殺人、ちょっと根が深いかもしれない。それは(池尾先生譲りではないが)シニカルな感想は持つ。トラックで人間を跳ね飛ばすだけなら、一つ前の通りを右折したほうが効果は大きいだろう。やはり下調べが甘い、ひょっとして駅前広場に突っ込む予定だったのか?なら交差点でジグザグ運転はせずに、まっすぐに向かうべきだった、とか。

 今回の犯人、子供や老人といった弱者を狙うのではなく文字通り手当たり次第刺している。弱者を狙わないということはこの人、自分に自信を持っているのではなかろうか。
 この手のニュースで加害者は、会社員であれば「エリート社員」とか肩書きがつくものだ(昔は「美人OL」というのもあった)。さすがに派遣社員だとそれはなじまないので「高校時代の成績は優秀」「スポーツ万能」とか紹介している。優秀だったと言われるのはいつものパターンで特に気にも留めないが、やっている内容を見ると本当に(能力としては)優秀だったのかもしれないと思わせるところはある。
 あれだけの人間にナイフで致命傷を負わせることができただけでもたいしたものかもしれない。服の上から人間って、そうそう切れるものではないぞ。カエサル暗殺のとき、23箇所の傷のうち致命傷はただ1つだったと言われている。ナイフの性能は現代より低かったかもしれないが、でもカエサル暗殺者は実戦経験者だぞ(カエサルもそうだが)。今回の犯人は、一人目の時は何回か突いているようだが、それだけで勘ができたのか二人目からは、一撃で致命傷としている。すごい学習能力だ。逆上してこれだろう?実際にスポーツ万能だったのかもしれないなあ。高校もホントにいいところだったらしい。少なくとも絵がうまい、というのは多くの人が認めることだろう。
 つまり、この犯人、少なくとも能力において他の人より沢山持っていたようだ。平均と比べて、というより、平均よりずっと上で。しかも結構計画的(冷静?)。歩む道によってはひとかどの人間になったかもしれない。
 でもこんな犯罪に走った。しかも計画がそれなりにしっかりしていたことから、精神病だったわけではないとわかる。ならばこの人が犯罪を犯した理由を突き詰めれば、最近起きている理不尽な犯罪がどうして起こったか、ある程度の一般性を持って分析する取っ掛かりになるのじゃないだろうか。分別がなく気が狂っていたから理不尽な犯罪を犯した、では防止策が作れないのだ。
 弱者相手の無差別(実際は弱者を識別して襲っている)通り魔殺人なら、社会が自分からむしりとりやがった、社会に復讐してやる、という太陽にほえろ的動機がなんとなく推測され、社会への漠然とした不満、というありがちな動機に還元され、それは分かるとしても弱者を狙うとは何事だ!と怒りを呼び起こして、という結果に落ち着く。
 でも、高い知性と運動能力に恵まれた人間をそうさせた動機は、漠然とした不満にむしゃくしゃして(対応のしようがなくて)というもので割り切ることはできないと思うのだな。何かそういう方向で爆発させなければならなかった理由があるはずだ。
 というわけで今回、原因究明(心理分析)は徹底してやってほしい。最近の無差別殺人に通ずる、特性が出てくるはずだ。単に「考えが矮小・短絡的」ではなくもう少し別の理由が。なら予防策の打ちようが出てくるんじゃないか?今回の惨劇で唯一何か残りそうなのはここだ。
(オシム監督なら「犯罪から何かを学んだと言ってはいけない。もし学ぶことがあったとすれば、それは犯罪が必要なものになってしまう」と言うのだろうが。原文では「犯罪」が「戦争」。)

 もっとも、この人「萌えにあこがれて、そういう仕事がしたくて、テレビ局やプロダクションに企画書とかを出しているが、ぜんぜん採用されなくて、派遣社員で食いつないでいるけど、そろそろ就職も難しくなる年齢にさしかかってきて、あせったので、萌えなんか無くなってしまえと思って、秋葉原で人を殺そうと思った」などということを言い出すのかもしれないがなあ。

 それにしても思うのですが、どうしてIT情報サイトは、秋葉という地名を名称に入れているものでさえ、これほどの大問題を無視するのでしょうか。自分の報道する範囲ではないから、と割り切っているつもりかもしれませんが、一般ニュースでも時間を組み替えて報道するほどのできごと。これを全く無かったかのように扱うのは編集者の心中留保はどうあれ、異様です。この社会性のなさが、秋葉系情報サイトの間で共有されているというのが、実は、怖い。
 少々の悪意を込めて言うと「秋葉ウォッチャー?自分の愛する街で、人が殺されても知らんフリみたいよ。まあ愛してないのかもしれないけど。関係ないけど加藤君も秋葉ウォッチャーのつもりだったかもね。」

 自分も花でも供えに行こう。献花台がいっぱいになったというのが、少しは救いなんだわ。私の場合は、コンサートのチラシでも作るかな。アランフェス協奏曲尽くし、なんてどうだろう。元々クラシックのギター協奏曲で、それをギタリスト、ジム=ホールがジャスのスタンダードにして、それにインスパイアされたピアニスト、チック=コリアが「スペイン」という曲を作って、これまたスタンダートになって、ラリー=コリエルが「元祖アンプラグト」でスティーブ=カーンとギターDUO。この広がりを、一晩のステージで追うの。どう?スティーブ=カーンは参加してくれるかも。Dr.スランプとかペンギン村、なんて曲も作っているから(嫌な言い方だが追悼コンサートとすると)馳せ参じてくれるかも。最後はカーンと山下和仁が競演、なんてことになると涙が出るほどうれしいんだが(コリエル&ディ・メオラのライブ・アンダー・ザ・スカイはテレビで見て全身鳥肌)。
 さて、この企画武藤さんに気に入ってもらえただろうか?(これ、英語に訳すと仮定法過去完了、受身の疑問文という普通は考えられない文型になるんだね。)

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