こどもに絵本を読んでいたときのはなし

 絵本を読んでもらうときに、いろいろとツッコミを入れるのを聞かされていたせいか、うちの下のガキ(4歳)、川へ洗濯に行ったおばあさんに「洗濯物はどうしたんだあ」。
 確かに大きな桃を抱えて帰る限り、同時に洗濯物を持つのは難しい。

 一瞬、末恐ろしくなったが、切れの良かったはずの上の子も最近はアホになってきたのでそうたいしたことも起こるまい。上のガキは粘りが無さ過ぎる。なんでもひらめきで解決してきたので、長時間考える習慣がないのだ。こんな事象を当方は「ウォーズマン効果」と勝手に名づけている。往年のマンガ「キン肉マン」に出てくるウォーズマンから取ったのだが、どんな敵も30分以内に倒してきたウォーズマンはいつの間にか30分以上戦えないよう自己をプログラミングしてしまった、という故事にちなんだものだ。

 上のガキ、最近はピアノの先生の意向で作曲に手を染めており、いつもにもましてボーっとしている。一般に女性は作曲が得意ではないが、うちのガキも同じらしい(クララ=シューマンの電気は愛読しているが)。ピアノの前で、とりあえず今までに作ったフレーズの断片を繰り返すだけでは、インスピレーションは沸いてこないと思うぞ。テンポを変えるとか、符割を変えるとか、あるいは適当に変奏するとかすればなんか違うかもしれないが。ああのんべんだらりとしていてはね。はっきり言って指導もよくない。ヤマハのオリジナルコンサートに出品するつもりのようだが、ハ長調は多いからイ長調にして、などと言っているところを見ると、自身の見栄もあるのだろう。正直感心しないが(教えるほうもインスピレーションなさそうだし)、うちのガキ、拍節の感覚が無いので、その練習だと思って何も言わずやらせている。
 まあ、最初の反応はよかったのよ。作曲を、と言われて「モーツァルトやベートーベンの時代ならできたけど、今はできない」と返答。なんか小学校4年生のときの自分を思い出した。(もっとも、適当に即興で歌って「すぐにできるけど、なんかモーツァルトっぽいから嫌だ」と続けはしなかったが。)最初に作ったフレーズも、4小節ほど無調を保ったメロディーだったり、中々の冴えは見せた。でもそれを発展させられる指導者は滅多にいないものだ。
 なわけで、作曲と称してピアノの前でボーっとしているのを見てだんだんイライラしてきた。崖の上のポニョなんか聞いてみろ、シューマン「愉しき農夫」の露骨な改作だぞ。作曲ってもっと気楽にやってもいい、とおだてても効果なし。
 だからといって「ドビュッシーは自分では東洋風と思って印象派の音楽を作ったけど、なんかちがうでしょ。だからこちらは日本のメロディーから曲を作って、印象派のスタイルを借りてまとめるの」と言うわけにもいかない。(作ったフレーズの断片を聞くと、そういう方針でまとめると何とかなりそうだ。)仕方なく、ラヴェルやドビュッシーの曲を流す時間を増やして、こういう曲の始め方もあるのだとインプットしている(つもりである)。

 閑話休題。昔話への突っ込みの話であった。最近はまったのが、アリババと40人のどろぼう。IT関係のビジネス書に使ってもよさそうな話だ。まずは有名な「開け!ゴマ」音声認識によるセキュリティドア、声紋までは確認しないようだがなかなかのハイテクである。
 ただし、盗賊の長はリーダーの資質はイマイチのようだ。
 それなりに部下には恵まれたようだ。どうやら「開けゴマ」の岩戸を知っている人間がもう一人いるようだ、とかしらは気がついた。それだけの情報を元にアリババの家を見つけ出したという能力はすばらしいと思う。ところがこれほどの部下を本人のせいとは言えない「想定外の事象」の責任を取らせて殺してしまう。(この部下はアリババの家の戸に印をつけて帰ってきたが、なんじゃこの印は?とリスクに気がついたモルジアナが、ほかの家の戸にも同じ印をつけた、結果盗賊はアリババの家を特定できなくなった。配慮不足といえばそれまでだが、この部下の責任ではないと思う。)

 こういう罰し方をすると、部下は異常に従順になる。その結果が全滅を招いた。なにしろ、つぼの中に熱い油を流し込まれるという想定外の非常事態が生じたにもかかわらず、現場で判断しての対処を一切しなかったのだ。普通なら「気がつかれた!」とみな壷から出て、暴れるなり逃げるなりするところだろう。しかし、かしらに殺されてはたまらんと命令どおり静かにして、結局そのまま死んでいったのである。(それでも熱い油を流し込まれた部下は、断末魔の悲鳴を上げたはずだが、聞こえている他の部下は、そのまま待機している。)
 現場に一切の裁量権を与えていないなら、自分が傍にいて指揮を執るべきであるが、実際には一人別室でもてなしを受けている。これでは全滅した部下は浮かばれない。

 盗賊のかしら、音声認識システムをその時代に構築したことで分かるように、技術者としては優秀だったかもしれないが、それ以外は問題が多い。当初はリーダーシップの問題かと思ったが、この人の発想に流れているものをまとめると、「自分が期待したこと以外は、認めない。あったら人のせいにする」という考え方をする人だということになる。
 まあ、盗賊の頭は頭のいい人みたいなので、他人が自分の攻撃に対処してこないだろうという慢心を持っているのはありうることである。が、想定外のことが起こった場合、すぐに部下のせいにして殺してしまうところは、幼児っぽい、ということで性格異常と判断したほうがよさそうだ。攻撃対象が剣を持って踊っていても特に身構えてないようだし。

 盗賊のかしら、もうひとつ怠ったことがある。後継者育成である。手下はいても弟子はとらなかったようで、おかげで音声認識システムは後代に伝わらなかった。もし伝わっていれば、現在のセキュリティシステムはきわめて強固になり、わたしの仕事も若干は楽になっていたはずである。残念だ。


 むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
 おそろしい書き出しだ。昔はおじいさんとおばあさんが「あるところに」しか住んでいなかったほど稀であったのだろう。ではなぜ稀か。そのおじいさんとおばあさんにはこどもがいない。つまり、子供がいた場合、口減らしで姥捨て山に送られたということではないのか。最近そんな気がしてきた。
 ここで姥捨て山に連れて行かれるのは、孫ができた頃、と仮定すると素直におじいさん、おばあさんが喜んだのもうなずける。老人になってから授かった子であれば、自分たちは天寿をまっとうできそうだ。これが当時の成人の潜在的だが一般的な願いだったのかな。
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