いかにして私たちはこの夏の電力不足を乗り切ったか

 3月11日の東日本大震災は、単に地震のみならず、津波、そして原子力発電所の破壊という未曾有の大災害をもたらせました。そして原子力発電が危険なものであるということが誰の目にも明らかになったことにより、稼働中の原発も次々と停止し、あるいは再稼動できず、日本はいままでにない「電力不足」という問題を経験することとなりました。
 そして計画停電ということで、一時的にではあれ私たちも生まれて初めて「電気のない生活」というのを、この春、体験したわけです。

 次は、電力の消費が多い夏だ!これを乗り切るために、電力会社は火力発電所を再稼動させ、自家発電の電力を買い入れ、電力会社同士余分な電力を融通する協定を結んで供給力を上積みし、消費者側も、クールビズの導入、余分な照明の消灯、工場の土日稼動による電力消費ピークの分散といった対策をとってきました。細かいことですが、一番電力消費の多い時間帯はノートパソコンを電池で動かそう、といった仕組みも作られました。ちなみに私たちが入学時に購入したパソコンは、計測の結果、CPUとディスクをフル稼働させてもバッテリーで4時間以上動作することが分かりました。

 このような努力が実ってか、今年の夏は計画停電も大規模停電も起こすことなく乗り切ることが出来ました。毎時更新される東京電力のTEPCO電気予報も、90%越えの危険な状態は殆ど無く、逆に大雨で水力発電所が停止し、供給不足に陥った東北電力に電気を融通する余裕さえ見せることが出来ました。
 では、具体的に何が良かったのか。夏に電力消費のピークをもたらす主要因のように言われているクーラー使用の自粛が大きかったのではないかと私は考え、それを裏付けるべく調査/分析を行うこととしました。

 まず私は、「気温の高い日は消費電力が大きい。しかし気温が高くなってもクーラーの使用を控えるようになるので、その比例関係はさほど強くなく、去年よりは弱くなっているはずだ」という仮説を立て、それを検証することにしました。
 電力消費量は、東京電力の「でんき予報」から入手することが出来ます。これと私の住む○○市の夏休み期間の最高気温を比較することにしました。
 ただし、休日は工場が操業を控えることにより、電力消費量は減るため、平日とは別に集計しました。

 東京電力で発表されている1時間毎の最大消費電力をMicrosoftExcelに入力し、VBAでプログラムを組んで毎日の最大消費電力を抜き出しました。これと船橋市の最高気温を合わせて日毎の表にしたのが、資料の1と2です。これをグラフにしたのが資料3です。
 グラフはExcelの散布図をつくり、相関についてはExcelのグラフメニューから「近似曲線の追加」を使って線形近似の線を引きました。
 こういったデータを単純化する手法については、次のサイトを参考にさせてもらいました。

 この方法で、電力が正常に供給されていた2010年と今年2011年を比較しました。
 平日の平均最大消費電力は2010年の5,506.9万kWに対して2011年は4,134.1万kW、その差は1,372.8万kWです。一方休日の平均最大消費電力は2010年の4,812.8万kWに対して2011年は3,719.8万kW。その差は1,093万kW工場が一部休日に操業するということから、休日になっても工場は電力を消費し、つまり消費電力の減り方は平日が大きく減るのに対して、休日の減り方はそれほどでもないだろうと予測していましたが、その通りとなりました。

 次に、気温が高くなってもクーラーの使用を控えるので、気温と電力消費量の比例関係は昨年より減るであろう、という仮説ですが、実はそうではないことが判明しました。
 最大電力消費量と最高気温の相関係数は、平日の場合2010年が0.825に対して2011年は0.906と大きくなっていたのです。ひょっとしてクーラーの使用自粛は掛け声倒れに終わったのでは、と心配になりまいた。
 ここで休日の場合を見ました。するとこの心配が裏打ちされる結果となりました。休日は気温に関係なく電力を使う工場や鉄道の影響が減るので、逆に一般家庭でのクーラーに使用する電力の割合が増えるため気温との比例関係は強くなるであろうとの予測をしておりました。確かに、2010年の場合、平日の相関係数が0.825であったのが休日には0.856と3.8%増える結果になっています。しかし2011年の場合、平日の相関係数が0.906であったのに対して休日が0.961と6.1%も増えていたわけです。
 相関係数について言えること、がどんなことなのか聞きかじりでまだまだ分からないことが多いですが、今までのところ「クーラーの使用自粛が節電に占めた貢献は大きくない」ということは言えそうです。

 では、どういうところが節電につながったかということを考えました。するとクーラーに頼っているわけではなく、やはり各家庭でのこまめな消灯、駅や商店の過度な照明の自粛、街灯を暗くするといった地道な積み重ねが大きかったのではないかと思います。
 また、夏休み期間中の最高気温を平均しますと、2010年が32.9度、これは2011年は30.5度と2.4度も低くなっています。これが大きかったのではないかと思いました。

 まだまだ暑い日が続きます。国立環境研究所 熱中症患者速報では8月になっておちついてきたものの、熱中症で担ぎこまれる患者さんが7月中は過去最高のペースになっております。

 暑いときには無理をせず、必要なときにはクーラーをつけるなどして健康管理に留意し、その代わり、こまめな節電を心がけようと思います。そしてそのほうが、実際にエネルギー消費の削減には役立っているのだと分かりました。

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