手八丁の自由研究

 自由研究の嫌な点は、夏休みにとってつけたような課題であるところだ。
 「常日頃から疑問に思っていることを夏休みを利用して調べてみましょう」などという趣旨で日常的に指導していればそう困ることもなかろう。んでもって「寒天培地を利用した細菌の培養」なんて研究パターンをガイドとして提示しておくと皆さんやりやすい。

 同じ寒天培地を利用したものであっても、お医者さんになりたいという子どもと、剣道部の部員とクラリネットの奏者では全く別のものになるからね。基本的なやり方を教えておくと自分の興味からそちらにどう持って行くかを考えるようになる。(その代り、寒天培地の作り方を検索して、作って、培養して、終わり、なんてPoorな研究は許されなくなる。)

 うちの子が医者になりたい、なんて言って来れば、寒天培地のシャーレで指の細菌を培養した後、その上にブランデーと焼酎とビールと日本酒とブルーチーズを乗っけて変化をみる。時代劇で傷口に焼酎を吹くなんてシーンがあって、たぶん殺菌なのだろうが、それに効果があるか実験させてみるのである。これは大変なことなのだぞ。リスターが消毒を発表したのが1867年。つまり明治維新前年だ。日本はそれ以前に消毒法を発見、普及させていたということになるのだ。ブランデー、焼酎と蒸留酒に殺菌効果が認められれば、リスター以前に西洋でも消毒法が使われていたのではと想像することができる。もし使われてないとするとなぜ日本だけで・・・焼酎って安いよね。庶民レベルで蒸留酒を楽しめていた日本は世界有数の広い酒文化を持っていたのではないか、なんて言葉でレポートを締めることができる。ちなみにビールと日本酒は比較実験。蒸留酒でない場合どうかなってことで、ブルーチーズはつまみです。これはお父さんの楽しみ・・・だけでそんなことするか。ブルーチーズに含まれているのは「アオカビ」。そう、ペニシリンの原型がどう働くかをみたいのだ。

 剣道部員だったら、あれ、防具、カビるらしいね。どの部分にどのカビが生えるのか培養して調べる。種類が分かれば、カビ防止の対策が取れるかもしれない。実用的でしょ。部活で皆さん参考にするのではないかな。

 クラリネット吹いていたら、リードについた細菌を培養します。寒天培地にリードと指をなすりつけて比較するのよ。え、リードってこんなに汚いの!!って分かって、今度は吹奏楽部員の総スカンを食うかも。

 なので吹奏楽部ならこんなのどうかな。かの「響け!ユーフォニアム」の名場面、高坂さんと中世古先輩のトランペットソロオーディション。あれ、パソコンに取り込んでエンベロープを見るとまるで違うのだな。中世古先輩は上手だけど、エンベロープのコントロールがうまく行かなくてようするに最初は音が大きいけど息が苦しくなるにつれてじわじわ音量が下がってゆく。高坂さんは絞るところは絞り、後半でも盛り上げるところは音が大きくなり、最後のビブラートもはっきりしていて粒がそろっている。それを見た後で、トランペット隊員が各自同じフレーズを吹いて調べるのだ。図を並べて分析すると結構「なるほど」感があるのではないかな。また放送部に友達がいれば録音設備を使わせてもらえるかもしれない。ならば複数演奏者、複数楽器でシャッフルして、録音。結果をパソコンに取り込みスペクトログラムで分析する。それで演奏者、楽器の差が声紋のように測定できるか見てみたい。同じ部で毎日聞いていればたとえ練習のロングトーンの音でもだれかわかる、ってことらしいから、測定結果に出ることは十分期待できる。これは金管楽器が絶対有利。マウスピースだけ、で音を出すという楽器本体の影響が殆どない奏者だけの音が録れるからね。実は私が見てみたいのだ。木管だと、当たりのリードとはずれのリードの差が測定できるか、なんて観点でみると面白そうだね。中学生の自由研究のはずが、指導に来ているOBが感心して「コピーさせて」なんて頼みに来たりして。

 さて、ここで「自由研究」の次の問題が出てくる。なぜか「個人」単位の研究が前提となっているようなのだ。上のような研究結果が出たら参加した人は、放送部を含めて言いたいだろう「みんなでやったんだから各々について自由研究と認めてくれ」。こういう場合の扱いがしっかりしていない限り、そこそこ規模があって、個人ではできない面白いものは自由研究の対象とならない。

 確かにフリーライダーになりたがる人はいるだろう。反射神経の実験ということで10分ばかし被験者をやってくれた友達を「共同研究者」に加えてそいつの宿題でもあるよ、として提出するのはしっくりこないところもあろう。だからといって「共同研究は前提としておりません」はないと思うのだ。
 私が今中学生だったら、デジカメを気球で飛ばして宇宙からの写真を撮る、なんて記事を見て自分もやりたいと思うだろう。が、それはあまりにも大規模。だからできることから始めたい。まずはパラシュートにデジカメをつけて、渡り廊下から落とし、リモコンでシャッターを押し、写真を撮ってみる。この実験のためには地上でデジカメをキャッチしてくれる友達が必要だ。
 研究結果として出せるものは、まずは同じ重さの石で実験してどのくらいの大きさのパラシュートが必要かと実験したレポート。何枚かの今までに撮れなかったアングルの写真、いつかこれを宇宙に飛ばしたい、という希望を書いたまとめ。些細なものだ。がこれって僕と、手伝ってくれた友達の共同研究として出していいよね。一番の成果物は、おそらくこんなしょーもない実験を友達と一生懸命やったという思い出だろうから。ドローンじゃない、パラシュートだからいいのだ。原理は同じだ。いつか宇宙から。

 自由研究をやる手は自分一人の2本とは限らない。(なのでタイトルが「手八丁の自由研究」になった。)これでもいいでしょ。先生。夏休みの一日、友達と一緒に知恵と汗を絞って実験したという思い出が最高の成果だ、というの、分かってもらえませんか?

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