政治家は冷静になれる人を

 冷酷ではない。冷静だ。冷酷は無関心をも含むが、冷静は関心は持っていなければならない。一般庶民がどうなろうと無関心に「国益」を掲げて全体最適化を図る冷酷さも戦争が始まったら必要かもしれないが、普通はそういう事態を回避するのが政治家の役割である。
 ようするに「冷酷に」ならねばならぬシチュエーションになってしまったら、それは既に(民主主義の)政治家としては失格なのだ。

 かといって従来政策のリミットを無視して「異次元の金融緩和」なんてことをやっていればいいわけでもない。
 バブルの後始末に「公的資金の導入」とかやっていた時に主張したが「日銀を政府の銀行としている状態が本来は変だから(日銀券は日銀に還流した途端通貨でなくなる)、市中銀行を政府の銀行(みずほが東京都の指定金融機関であるように)とすれば流動性は供給できる。これでスキームを変えて実体経済に影響を与えぬまま問題を収束することができる。〜こういうのを「異次元」と呼んでほしいのだが。〜というわけで今回の提案、年金の運用において株式の比率を高めて買い支えた結果5兆円の損失ですって?そんなに株価が大事なら「公開市場操作を株式市場を通じて行う」という異次元の施策を取ってはどうだろう。これ、バランスが取れそうなのだが。え、日銀がナンピン買いしてるってか?そうだね。レーガノミクス終了後、外国為替をナンピン買い(まー似たようなもんだ)してトヨタ自動車以上の大儲けをしたという実績はある。

 閑話休題。今回の熊本地震で安倍首相は「人数の投入」をして対策しているように見せかけている。自衛隊だけで2万5千人体勢、ですか。しかしなぜか効率が悪い。
 マスコミ各社は前回の教訓が生かされなかった、といつもと同じことを騒いでいればいいが、いやあ、教訓は生かされていると思うよ。だからほかの自治体からおむつや生理用品といった従来は気が付かず不足しがちだった支援物資が提供されている。
 だから今うまく行ってないとして、例えば東日本大震災と「どこが違ったのか」を分析すればその理由がはっきりする。そして嫌なことに「どこが違うのか」を声に出して言えないことにある。マスコミに叩かれるからだ。だからうまく行かない理由が説明できない。改善も遅れるわけだ。

 じゃあ、どこが違うのか。叩かれることを恐れなければすぐに思いつく。
・東日本大震災の時、動けない人は既に津波にさらわれて、避難所までたどり着いたのは動ける人だけだった。
・東日本大震災の時、過疎地域であっても避難民は高台に集合済みで誘導に効率が良かった。
 今回は動けない人が分散して住居にいるままである。だから探しにくく、動かしにくいのだ。冷静に考えればすぐにわかる。(冷酷に考えるなら、安倍首相が一度「捜索は日没まで」と言ったように、切り捨てる。)

 ところが津波の後の東北を視察した閣僚が「ゴーストタウン」と言うと辞任に追い込むのがこの国のマスコミである。人がいない町をそれ以外どう表現しろというのだ。だから政治家は現状を「正しく把握」することさえ許されない。把握して言葉にすると辞任に追い込まれた例があるのだからその場しのぎの対応を指示するしかなくなる。更に表現に気を遣わなくていいように「(食物の)数字、(投入した人の)数字」を述べる。とても政治家とは言えない。国民を引っ張っていこうという感じではないからね。結局は目的が達成できなくても「やることはやった。うまくいかなかったのは結果であって当方の責任ではない」と言うしかなくなる。こんな状態だから「いるかどうかわからない人を、その数倍〜数百倍の人数をかけて(危険にさらして)探す」という選択肢をとるしかない(南阿蘇村で連絡の取れない8名を陸上自衛隊1千人態勢で捜索)。他に優先事項があったとしてもだ。
 被災地に2万5千人移動させることを考えるなら、恐らく最適解は2万人の体重に当たる支援物資を届けて、5千人の捜索隊を投入する。そして体の弱った人2万人を県外に移送する、に近いものになるだろう。

 東日本大震災時は「追加の捜索は屋根の上に人がいないか確認」で済むから効率が良かったのだ。ところで自衛隊の制服を目立ちやすいようにショッキングピンクにするという私の提案、そろそろ採用してくれませんかね。

 随分ネガティブなことばかり言ってきたな。東北の場合はもう一つ頼れるタイプの人々がいたのだ。避難所の仕事を任せられる部隊があちこちにまとまってくれていたのだ。
 先生と生徒、である。「A組は避難所の区割りのポスター作り、B組は新しく来た人の誘導、C組はトラックが来たから積み下ろしにかかって。」実際に見たわけではないが、どんなに頼もしかったことだろう。

 私の支援意識がどっかずれているらしいことは自覚している。
 取引先のホテルが毛布の入れ替えをするらしい。→もらってきて難民キャンプに送りましょう。
 パソコンをあちこちの部署が導入しておまけでついてきたNifty-Serveのスターターパックを捨てている。→海外拠点に送りましょう。(日本語の情報が手に入る手段として当時パソコン通信は海外でのニーズが高かった。しかしスターターパックの不足でIDがとれず、ということがあったらしい。)
 間違ってはないと思うのだが、なぜかいつも却下される。

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