職業インタビュー

 夏休みの宿題に「職業インタビュー」なんてのがあるそうだ。
 例によって夏の甲子園が終わった頃、やってなかったと気が付いてインターネットの掲示板で質問してくる人がいる。
 そのときに「私は清宮実業の2年です」とか個人情報にならない程度に身元を明かしてくれればいいのだが、自分についてはまったく口をつぐんだままなので、できれば役に立ちたいと思いながらも、そこまでお人よしではない大多数の人は 「仕事をしていてうれしいと思う時はいつですか?」に対して
「お客さまの笑顔を見た時」と抽象的な答えに終始することになる。

 そもそも質問してくる人はそんなに人のいないところに住んでいるのかね。朝から晩まで、いったい何人の職業人に会っているか自覚したことはないのだろうか。コンビニ店員でも駅員でも警察官でも、ヒマであることが何よりの消防署職員でも、平日日中のショッピングセンターの案内係でも、博物館の学芸員でも、探せば見つかるでしょ。私だって通勤電車の中でボーっとしているときにかわいく質問してくれれば、多少は立ち入ったことでも答えるよ。でもとりあえず制服は着といてくれ。沿線の学校の子と分かればこちらも警戒せずに済む。

 尋ねにくいのかな?ネットで尋ねる方がよほどやりにくいだろうと思うのだが。見ず知らずの人に尋ねるのは一緒。そして最後まで見ず知らずのまま。顔を合わせて問えば、少なくとも終わった時は見ず知らずではなくなるだけましじゃね。
 と思っていたら、見ず知らずではなくて(少なくともこちらは先方の顔とどういう職業かを知っていて)、尋ねると優しく答えてくれることが保証されている職業の人と、その捕まえ方に気が付いた。これならインタビューする子供たちも抵抗がなかろう。
 朝、駅の前でビラ配りをしている議員さんである。さすがに総理、などという大物はなかなかつかまらんが、県会議員、市会議員クラスなら結構いる。現在投票権がない人に対してでもにこやかに熱心に答えてくれる。地元の名士と言ってもいいそこそこ名の通った人へのインタビューだ。通勤電車で隣に座っているオジサマへのインタビューとは違い、宿題としても光るものがあるだろう。
 問題は宿題が一人へのインタビューでは済まされなさそうなことである。つまり複数の政治家を捕まえる必要があるということだ。
 パーティ会場などに行けば確実だが、のんびりと職業インタビュー何ぞやっていたらさすがに顰蹙である。それにパーティ券は安くない。やはり駅前でビラを配っているのを捕まえるのがよかろう。でも、いつ、どこに、だれがいるのか?偶然に頼るには夏休みの残りは少ない。
 ふと気が付いた。そういえば同じ場所で複数の人がかぶってビラを配っていることはない。ということはどこかで縄張りを調整しているはずだ。じゃあ簡単だ。ひとり駅前にいたら、尋ねてみればいいじゃないの。だれが調整しているかってね。そこはあたし出て行ってやるよ。断られたら「そうかぁ。期待してたんだけどな。学校の環境整備を主張しているとこなんか地味でも大事なことに気が付く人だと応援してたんだけど」と残念そうな顔をすればよい。

 せっかく考えたのにうちのガキの学校にそういう宿題はありませんでした。直接職業体験する方に力入れているから不要なのかな。一方分野は別だが「博物館レポート」なんてのがあったので、これは協力してやった。別に学芸員の方にインタビューしたわけではない(してもよかったが、でもマコちゃんはいなかった)。「行ったとこのパンフレットを失くした」なんて騒いでいたので、行きやすくて、小さくて(つまりまとめやすくて)、しかしネームバリューは抜群すぎて先生は文句が言えないところ、に誘導したのだ。
 東京駅から地下続きのビルの中にある「JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク」。名前が長いので省略しよう「東大博物館」。

 その手があったか!と宿題遅れた子が押し掛け、先生も対処に困って翌年からこの宿題が無くなりそうだ、という話は、聞いてない。
 さて政治家のセンセイに群れて回った子供たちがたくさんできてしまったため、翌年から職業インタビューという宿題のなくなる学校は出るだろうか。

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