船頭多くして船、山を目指せば

 武漢肺炎の流行でみなさん「さー、どうしよう」。
 SARS、MARS、さらには豚インフルを経て腹は座っているだろうと思うのだが今までになく浮足立っている。  なにしろ首相からして「北海道知事がやった、ならウチでも」と唐突に小中高の臨時休校を言ってくるのだ。そーゆー場合、派生する問題をどうするかについて考えられた形跡もない。日本の官僚は優秀なんだからせめて豚インフルの時に対処法作ってないのかねえ。
 つまり「よほど想定外の事象」だったということだ。

 そんな浮足立った対応をする傾向は、当然民間企業にもあって。まあ、最初はみなさん「どーしよ、どーしよ」あるいは大阪府知事だったときの橋下さんのように「国が何とかしてくれないと何もできない」と泣き言を(偉そうに)言い始める。あれだけ好き勝手言ってた人間が、どうしてインフルエンザひとつに対応できないかなあ。神戸市はきっちりやったと思うぞ。
 なにはともあれそれでも「先進的な」対応方針を出した企業もある。「時差出勤」「在宅勤務」である。政府が「手洗いうがいの励行」しか言えなかった豚インフルに比べてなんという進歩であろう。というわけで「どうしようどうしよう」してた人間が一斉にそっちを向いた。「時差出勤と在宅勤務だ」。ただしこれは何十年も前から言われていたことで、今更感は強い。そもそもできることだったらとっくに実現しているだろう。というわけでちょっとだけ新しい「分散勤務」が注目されることになった。「サテライトオフィス」という用語が一般的になったのは、豚インフル以後だし。(どこから来た解決策かと思ったら、ブルームバーグあたりみたいね。というのは「スプリット勤務」という言い方をしているのよ。それまで日本で「スプリット勤務」というのは「シフト制」を意味してたの。勤務地を分ける、の意味はブルームバーグのニュースあたりから来ていると見るのが妥当でしょう。)

 さて問題はここからである。「指導的立場にある」人々が一斉に「分散勤務」を提唱し始める。みなさん自分の有能さを見せつけたいのだろうか、隣の人とちょっと違ったことを言いたくなるようだ。かくして「拠点を分ける」だけだったのが「フロアを分ける」「島を分ける」といろんな階層で提案がなされ、期せずして忖度しあう仲になったようで(提出した借り物のアイディアがかぶったというのは、お互いの思いやりを引き出すきっかけとして不自然ではないだろう)、つまり「やたら複雑な分散勤務」が計画されることになったようだ。元ネットワーク設計とかした身としては「どうやってセグメント間を通過させよう〜セキュリティレベルを落とさずに〜印刷あきらめてね」とか言いたくなるが、どうやらそれだけでは終わらないみたいだ。
 通勤ラッシュを避けられるため感染リスクの低い郊外拠点に一人だけでも置くのがよいのではと提案された。その計画が報告され承認される。ところがその人、ほかが罹患した場合の最後の砦だから、誰でもいいというわけではない。慎重につじつまを合わせようとした結果、「通勤時間2時間半」の人が選ばれたり。ないよなあ、あるわけないよなあ、そんなこと。

 それでもブルームバーグとは無縁の(つまり市場系ではない)私の周りは平和である。
 よくある対処しか考えられていない。濃厚接触者と判断されたら休む。そうは言われても本人ピンピンしてるんだから「在宅勤務」はできるなあ。よし、あらかじめ申請書作っといて、該当者となったら他の人に頼んで回覧してもらおう(もちろん関係部には「休むのでなく在宅勤務に切り替える、が手続き的に可能か?」の問い合わせをしている)、などと手続き調べて書類のひな形を作っていると、
・在宅勤務に必要な設定の手順を調べて公開してくれる人がいたり、
・在宅勤務時のWeb会議システムの訓練をやろうと声をかけてくれる人がいたり、
・在宅勤務に関する手続きと今回の対応案の表現の違いを確認して周知してくれる人がいたり、
 いつのまにか役割分担ができて、対応の具体的手順がつくられてきている。
 現場力ってすごいね。

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