Engineering Lab

Chart Thumbnail viewer

流行のiモード503iシリーズの携帯端末では、100ドットx100ドット程度の 画面で株価チャートが表示できます。見た目はちゃちですが、 これだけで、結構実用になっているようです。 このことから考えると、詳細なチャート表示っていうのは、実は あんまり必要でなく、株価の趨勢を認識できる最低限のチャートがあれば 充分なのかもしれません。 とはいっても、パソコンの広大な画面に、100ドットx100ドットのチャートを 1枚だけ表示させてもまぬけなだけなので、テーブル上に複数チャートを表示 できるサムネイル(thumbnail)表示機能を実装してみました。

サムネイル表示の例

使ってみると、相当便利です。、確かにこれだけで十分で、ひょっとしたら メインウインドウ(詳細チャート)は不要かもしれません。 これは、ChartScape/Win1.6.0, ChartScape/Mac2.2.0で実装しました。 でも、サムネイルの実装は容易なんで、半年以内くらいで、どの株ソフトでも 標準の機能になることでしょう。

サムネイル表示に気をよくして、従来のように単一ウインドウに単一チャートを 表示させるだけでなく、もっと多彩な表示方法で情報を提供できないかを 少し検討してみました。 この分野には「情報可視化(Information Visualization)」と呼ばれる研究 カテゴリが存在します。ChartScapeに、情報可視化技術を取り入れよう という次第です。ところで、ChartScapeの語源は、Chart(罫線)+Landscape(眺望) なんで、情報可視化技術を取り入れることにより、文字どおり罫線情報を眺望 できるようにする訳です。

株ソフトでの情報可視化の成功例としては、 StockWeatherをあげることができます。 これは、銘柄を値上り/値下がり率に応じた色のピクセルで表現し、 ピクセルマップで市場の趨勢を概観することができるというものです。

StockWheatherの表示例 http://www.stockweather.co.jp/ より引用

情報可視化は、ここ十数年多くの研究者で精力的に研究が進められていますが、 成果についてはいまいちパッとしません。 「人が考えつかなかった奇抜なアイディアに価値がある」という「のり」の世界で、 実用性や使いやすさについては、考えられていないものがほとんどです。

ソニーの研究所にお勤めの方が、 情報視覚化の研究動向を詳細にまとめておられます。

GUIの原点であるマウスやウインドウのアイディアが生まれたPARCでも、 情報可視化に関する多くの論文が生まれましたが、(あえて「成果が生まれた」 とは言わない)、実際に応用され、我々のパソコンシーンに浸透しているものは 皆無です。そんななかで、株ソフトに応用できそうなアイディアをいくつか 紹介します。(応用できそうではあっても、実際には特許とかの関係があるので、 タダで使えるかまでは調べていませんので悪しからず。)

これらは、 Xerox PARC User Interface Research Group のサイトで、具体的なイメージをつかむことができます。

Document Lens, Table Lensでは、focus+context手法とよばれる方法で、 全体中の位置関係を認識しつつ、注目した情報の詳細表示を実現しています。 Chart Thumbnail viewerにfocus+context手法を適用してみると次のような 機能が実現できるでしょう。

Table Lensの応用:マウスカーソルに追従して拡大

こちらは、特許が出願されていないことが確認できたら実装しても いいですけど。PowerMacG3でも遅いだろうなぁ...(ちなみに、この絵はPhotoshopLE で作成したハメコミ合成です。)

これを見ると、MacOSXのDockの動作を思い出します。MacOSXのDockの場合、 マウスを近づけるとフォーカスはするのですが、フォーカスしたところで、 アイコンが大きくなるだけで、情報量は何もも増えないので、結局使いにくくなる だけで、全く役にも立ちません。Dockは、focus+context手法を適用した 失敗例といえます。

MacOSXのDock

Perspective Wallはけっこう使えそうなメタファです。 Perspective Wallの応用で、すぐ思いつくのは、株価ボードですね。 株価ボードは、市販の株ソフトには必ずといってよいほど搭載されている機能です。 でも、株価ボードって、パソコン上に再現して、それほど有効なもんでしょうか? そもそも、株価ボードは、大画面の適当な表示装置が存在しない時代の遺物であり、 便利でもなんでもない代物です。今だったら200インチの平面ディスプレイで 通常の表示させた方がよっぽど使い勝手がよい訳です。 パソコン上ならなおさらで、株価ボードなんかより、単なるリスト表示の ほうがよっぽど見やすいでしょう。

Chart Thumbnail viewerをPerspective Wallに表示させると、こんなかんじ でしょうか。一見カッコいいんですが、これがスクロールよりも、本当に 便利でしょうか?

Perspective Wallの応用

Perspective Wallの機能は、1999年にMicrosoftが提唱したWindowsの3D拡張である、 クロムエフェクト を彷彿させます。Webページが3面鏡のような立体ウインドウで表示されるやつです。 残念ながらクロムエフェクトは、 開発断念 となってしまいました。Microsoftが開発を断念した理由は、3Dがサクサク動くほど、 当時のパソコンのパフォーマンスがよくなかったからと言われていますが、実は、 Perspective Wallを考案したXeroxから多額の特許料を請求されたからではないかと、 私は想像しています。Bill「あんなくだらんもんに多額の特許料を払うくらいなら いっそのことやめちまえ」(あくまで想像です。)


図はhttp://www.lares.dti.ne.jp/~qog-in/past/chrome.htmlから引用

3D Visual Navigator

Chart Thumbnail viewerは二次元テーブルを使用したものの、実質一次元 配列を折り畳んだだけですが、これだけでもかなり便利です。 では、二次元平面や三次元空間に配置したら、もっと便利になるものでしょうか?

3次元空間を使った可視化技術は、John Cugini, Sharon Laskowski による体系的サーベイ "Design of 3-D Visualization of Search Results: Evolution and Evaluation" があります。ここにある絵を見るだけで、なんかスゴイ 印象は持てますが、実際にこれが使いやすくて役に立つの?と問えば、 「???」となってしまいます。

3Dが本当に使いやすくて役に立つのかを検証するために、3D Visual Navigator を試作してみました。 あまり凝った配置はせずに、単に指標を元に3D空間中にチャートを配置 しただけですけど。この程度なら誰でも容易に思いつくレベルなんで、 何の権利にも抵触しないでしょう。

3D Visual Navigatorへ応用した例

フライスルーにより、空間をナビゲートできます。この例では、

として、配置しました。従って、z軸方向にフライスルーすると、上昇率 が大きい順に銘柄を見ていくことができます。 空間中の左上に位置する銘柄を見つけていけば、割安で放置されていたが、 何かがきっかけで上昇をはじめた銘柄を見つけることができます。 (おっと、「できます」は、まずいですね。「できるかも知れません」の 間違いです。) 見つけた銘柄を、クリックすると、詳細チャートが表示されるんですが、 これは、focus+contextの応用です。

3D Visual Navigatorは、3次元表示のために、 M2GEライブラリ を使用しています。 3D Visual Navigatorのプロトタイプは、ここから ダウウロードできますので、ぜひ使ってみてください。 ただしMacintosh(PPC)専用です。 「こんな情報を3D表示したい」といったアイディアを募集しています。


戻る