アインシュタイン方程式< 目次へ >
さて、ようやく真打の登場である。曲った空間の幾何学の創設者であるリーマンは、このような幾何に対応する空間があるかどうかは物理的に検証されるべきだと言った。これに応ずるかのようにアインシュタインはリーマン幾何学を用い、重力を時空の曲りとしてとらえ、重力の源はエネルギー、運動量、圧力であるとしてそれらを見事に数式化する事に成功した。アインシュタインの偉大さは、発想の天才性もさることながら、それを一本の方程式にまとめ上げ、表現した事である。アインシュタイン方程式は、たった一行で非常に美しい形であるが、中味は10元連立2階非線形の偏微分方程式で非常に複雑で、難解な方程式である。
1. ニュートン力学での重力場T
(1) ポテンシャルの定義
ベクトル場Fに対してF=▽φ(=勾配ベクトル)となるスカラー場φが存在する時、φをFに対するポテンシャル関数又は単にポテンシャルという。二つの質点m、M間に働くニュートンの 万有引力の方程式は
G:万有引力定数 r:二つの質点間の距離
重力αは
( 地球では9.8 m/sec2 )
万有引力のポテンシャルφは
◆
・・・・・・・・・・・・・・・ (1)
◆
・・・・・・・・・・・・・・・ (2)
となる。
(2) 重力場の方程式
ニュートン力学に於ける重力場の方程式(=ラプラス・ポアソンの方程式)は次の様なものである。
◆ △φ=▽2φ= φ =4πGρ ρ:質量密度 ・・・・・ (3)
上の式は相対論では、アインシュタイン方程式(9)に相当する。 【上の式の導出】
ガウスの発散の定理を▽φに適用して導く。ガウスの発散の定理は、div▽φ(=▽2φ)のVに於ける体積分は∂Vの法線方向(=n)への▽φの成分の面積分に
等しいというものである。式で表すと
∫▽2φdv=
∫▽φ・n ds
逆に式(3)が与えられた時も、ガウスの発散の定理を適用して式(2)、式(1)を導く事が出来る。▽φは勾配ベクトルでnと方向が一致するから、右辺は ∫▽φ・n ds=|▽φ|∫ds=4πGM ( |▽φ|は勾配ベクトル▽φの大きさで GM/r2 ) M=∫ρdv だから ∫▽φ・n ds=∫4πGρdv ∫▽2φdv=∫4πGρdv 故に ▽2φ=4πGρ 即ち、式(3) が成り立つ。 即ち式(3)の▽2φ=4πGρを上のガウスの発散の式に代入すると ∫▽2φdv=4πG∫ρdv=4πGM ∫▽φ・n ds=▽φ∫ds=4πr2▽φ 上の二つの式より▽φが求まる。(=式(2))それを積分すると式(1)が求まる。 (3) 運動方程式
式(2)より
◆ F=ーm▽φ
・・・・・・・・・・・・・・・ (4)
式(2)は加速度を表しているから、加速度のX方向の成分は ー∂φ/∂X (符号が負なのは、向きが逆(上向き)だからである)、一方加速度のX方向の成分は、Xを時間tで2回微分した量 ∂2X/∂t2 であるから、従って
同様に ,
X→X1 , Y→X2 , Z→X3 にそれぞれ書き換え、一つの式にまとめると
◆ (X i,t),t+φ,i=0 (i=1〜3)
・・・・・・・・・・・ (5)
上の式は相対論では、測地線の方程式に相当する。
2. 一般相対論での重力場
ニュートン力学での重力場の方程式は1.(2)に於ける式(3)であった。一般相対論での重力場も、それと類似したもので、より一般的なものでなければならない。
(1) アインシュタイン方程式
ニュートン理論では重力場の源は質量密度ρだけで、左辺はφに対するX,Y,Zの2階の微分であった。相対論的理論では(2,0)テンソルのストレスーエネルギーテンソルTが重力場の源となり、左辺はφに相当するメトリックを2階微分した、(2,0)テンソルが左辺となる。左辺で、この条件に合致するのはリッチテンソルRαβである事は明らかである。実際
Qαβ=μRαβ+νgαβR+Λgαβ の形をした任意のテンソルは、μ,ν,Λが定数ならば、これらの条件を満足する。未知数μ,νを決めるにはTの発散が0(=エネルギー・運動量の保存)という性質を利用する。Tαβ,β=0であるが、Tαβ;β=0でもある。(∵ 局所慣性系ではクリストッフェル記号が消え、Tαβ;β=0が成り立ち、それはテンソル方程式なので一般の系でも成り立つから)従って Qαβ;β=0 でなければならない。しかもそれは任意のメトリックテンソルについて成り立たなければならない。gαβ;γ=0だから (μRαβ+νgαβR);β=0 である事がわかる。(2,0)テンソルで発散が0のテンソルと言えば「曲った時空」で求めた、「アインシュタイン・テンソル」がある。その式と比べて、上の式が任意のgαβに対して恒等的に成り立つためには、μ=1,ν=-1/2でなければならない。こうして方程式 ◆ Rαβ−gαβR+Λgαβ=κTαβ ・・・・・・・・・・・・・・・ (6) に到達した。これを「アインシュタインの場の方程式」あるいは「一般相対論の場の方程式」という。定数κとΛは未定である。左辺は時空の歪みを表し、右辺は物質の分布や運動を表す。物質が時空の歪みの原因になる又は時空の歪みが物質を生み出すと解釈できる。物質の分布と境界条件を与えたとき、時空のメトリック gαβ10個を定める方程式である。しかしこれは求めようとする gαβについて非線形の偏微分方程式であるから厳密に解くことは難しい。 上の式に於いて、両辺にgαβを掛けて、Rを消し、式を少し簡略化出来る。 gαβRαβ=R ,gαβgαβ=4で 、 gαβTαβ=Tと置くと Rー2R+4Λ=κT ⇒ R=ーκT+4Λ Rをアインシュタイン方程式に代入して整理すると(定数κは(3)で求める) ◆ Rαβ=κ(Tαβーg αβT)+Λgαβ ・・・・・・・・・・・・・・・ (7) となる。
Λはアインシュタインを悩ました宇宙項である。1915年当時、宇宙は静的なものだと考えられていた。アインシュタイン自身も定常宇宙を信じていた。しかし自らが打ち立てた方程式の解は、宇宙は動的なものであった。悩んだアインシュタインは静的な宇宙にする為、宇宙項を入れた。しかし1929年ハッブルにより宇宙が膨張している事が発見された。アインシュタインは宇宙項を入れた事を非常に悔やんで これを取り外した。しかし最近では宇宙は加速膨張(物質(=エネルギー)の70%を占めるダークエネ ルギーの為 ?)しているようで、やはり宇宙項は必要ではないかと言われている。
(2) ニュートン近似
ニュートン近似とは、下記の三つの条件の下ではニュートン力学は相対論の一部として近似的に成り立つという事である。
@重力場は弱い
式で表すと gαβ=ηαβ+hαβ , hαβ 《 1 A重力場は時間的に変化しない git,t=gi0,0=0 , i=1〜3 B質点の速度は光の速さに比べて十分小さい τ t , , τ:固有時間 上の三つの条件を、τをアフィンパラメーターとして測地線の式に適用すると、測地線の式は +Γi00=0 gii1の条件で、Γi00を計算 すると Γi00=ーg00,i=ー h00,i となる。従って測地線の方程式は ーh00,i=0 他方、ニュートン力学での運動方程式は +φ,i=0であった。両方の式を比べると h00=ー2φ である事は、明らかである。η00=ー1だから、故に ◆ g00=ー(1+2φ) ・・・・・・・・・・・・・・・ (8) となる。これがニュートン近似でのg00の値である。 (3) 定数κの決定
κはアインシュタイン方程式が太陽系に於いて、惑星の運動を正しく記述しなければならない事から求まる。(具体的には弱い重力の場合には(=ニュートン近似)、式(6)がラプラス・ポアソンの式(3)と一致するということから定数κを決定する)。κを(2)の ニ ュートン近似と同じ条件で((2)の@〜B)、又その結果g00= ー(1+2φ) と Γi00=ーg00,i=ー φ,i より、下記の式
でリッチテンソルRαβを求める。クリストッフェル記号はΓi00だけ を計算すればよい。φに関して二次以上の項は無視する。(下記の式で、第二等号の第三と第四
の項は無視する。)
g11=g22=g33=1でその他は0とする。 Rαβ=Rμαμβ=Γμαβ,μー Γμαμ,β+ΓμσμΓσαβ ー ΓμσβΓσαμ 上記の条件で Rαβ を計算すると、R00 だけが有効な値とな る。その値は R00=▽2φ (=4πGρ 式(3)よ り) となる 。 ・・・・・(a) アインシュタイン方程式よりリッチテンソルR00を求める。ニュートン近似の条件Bで τt , , τ:固有時間 であったので、四元速度 の成分は U0=1 , U1=U2=U3=0 従って、ストレスーエネルギーテンソルTの成分は T00=ρ 他は 0 式(7)で、α=β=0 , g00g00 1としてR00を計算すると R00=κT00+Λg00=κρ+Λg00 先に、メトリックから求めたR00(=式(a))と比べると κ=8πG , Λ=0 である事が分かる。故にアインシュタイン方程式は ◆ Rαβ−gαβR=8πGTαβ 又は Rαβ=8πG(TαβーgαβT) ・・・・・・・・・・ (9) となる。上の式はニュートン力学では、式(3)に相当する。
3. 距 離 化 単 位
特殊相対論に於いて、基本定数Cを1とする単位系を選んだが、同じ様に万有引力定数Gも普遍な定数であるから 1=G/C2 と置く事が出来る。従って G=1 となる。この単位系を距離化単位という。SI単位では G=6.673x10-11m3Kg-1S-2 ,
C2=8.988x1016m2S-2 であるから 1=G/C2=7.425x10-28mKg-1 Kg=7.425x10-28m 1=C5/G=3.629x1052JS-1 JS-1=2.756x10-53 (J=ジュール SI単位:m2KgS-2) と単位としてのKgを消去して質量をメートルで測る事が出来る。つまり、1Kgは 7.425x10-28m となる。 【SI単位のS(=秒)又はKgを距離化単位に変換】
距離化単位で計算するとC又はGで掛けたり、割ったりしないでいいので計算が楽であるし、間違いも少ない。
又、質量密度と圧力は距離化単位では次元が同じだから、大小関係が比較し易い。 S=3x108 m , Kg=7.425x10-28 m ★ 例1:SI単位の質量密度 3.34x1010Kg/m3 を距離化単位の /m2に変換 3.34x1010x7.425x10-28 /m2=2.48x10-17 /m2 ★ 例2:SI単位の圧力 1.33x1024 Kg/ms2を距離化単位の /m2に変換 1.33x1024x7.425x10-28x(3x108)-2 /m2=1.10x10-20 /m2 【距離化単位のmをSI単位のS又はKgに変換】
距離化単位のままだと質量等は実感しにくい。その時はSI単位に変換する。
SI単位と距離化単位による値の比較
m=1/(3x108) S , m=1028/7.425 Kg ★ 例1:距離化単位の質量密度 2.48x10-17 /m2 をSI単位の Kg/m3 に変換 距離化単位のm-2をm-2=m・m-3として、最初のmをKgに変換する。 2.48x10-17x1028/7.425Kg・m-3=3.34x1010Kg/m3 ★ 例2:距離化単位の圧力 1.10x10-20 /m2 をSI単位の Kg/ms2 に変換 距離化単位のm-2をm-2=m・m-1・m-2として、最初のmをKgに、三番目のm-2をs-2に変換する。 1.10x10-20x1028/7.425x(3x108)2 Kg/ms2=1.33x1024 Kg/ms2
4. プランク長、時間、質量
自然界において、次元をもった三つの定数 C,G, は基本的なものと考えられている。従ってそれらの定数の組み合わせでmだけの次元をつくると、長さの基本的な単位を与えることになり、それをプランク長さという。 G/C3 で、m2の次元が得られる。従って、その平方根がプランク長になる。
プランク長=(1.055x10-34x6.673x10-11/(2.998x108)3)1/2=1.616x10-35 m 長さと時間の換算式は 1m=10-8/2.998S であるからプランク時間は プランク時間=10-8/2.998x1.616x10-35=5.390x10-44S 長さと重さの換算式は 1m=1028/7.425Kg であるからプランク質量は プランク質量=1028/7.425x1.616x10-35=2.176x10-8Kg プランクエネルギーは E=プランク質量xC2 より プランクエネルギー=2.176x10-8x9x1016=1.96x109Kgm2S-2=1.22x1019Gev ( 1ev=1.6x10-19Kgm2S-2より ) プランク温度は、1ev=1.16x104K(=1/ボルツマン定数:1.38x1014エルグ/度)より プランク温度=1.22x1028x1.16x104=1.42x1032K 上の方法とは別に、次元方程式を作ってその式から求める方法もある。(単位は全てSI単位) 【プランク時期の質量等の物理量の計算式】
物理学に於ける基本的な定数、プランク定数(=1.055x10-34Kgm2s-1)、万有引力定数(G=6.673x10-11Kg-1m3s-2)及び光の速さ(c=2.998x108ms-1)よりプランク質量、プランク時間、プランク長を求める。
、G、cより次元方程式を作り、それを基にプランク質量、プランク時間、プランク長を求める式を作成する。 質量の次元をK、長さの次元をM、時間の次元をSとする。 ・ プランク質量 Pk
Pkの次元方程式は[K]=[(KM2S-1)x(K-1M3S-2)y(MS-1)z]
(KM2S-1: の次元 K-1M3S-2:Gの次元 MS-1:cの次元)
・ プランクエネルギー PE
xーy=1、2x+3y+z=0、−x−2y−z=0 これを解くと x=1/2、y=−1/2、z=1/2 従って、プランク質量Pkを求める式は、Pk=( c/G)1/2=2.18x10-8Kg
プランクエネルギーはプランク質量にc2を掛けた値となる。PE=2.18x10-8xc2=1.96x109Kgm2S-2
・ プランク時間 Ps
evで表すと、1ev=1.6x10-19Kgm2S-2だから、PE=1.22x1028ev=1.22x1019Gev
Psの次元方程式は[S]=[(KM2S-1)x(K-1M3S-2)y(MS-1)z]
xーy=0、2x+3y+z=0、−x−2y−z=1
・ プランク長 Pm
これを解くと x=1/2、y=1/2、z=−5/2 従って、プランク時間Psを求める式は、Ps=( G/c5)1/2=5.39x10-44秒
Pmの次元方程式は[m]=[(KM2S-1)x(K-1M3S-2)y(MS-1)z]
xーy=0、2x+3y+z=1、−x−2y−z=0
これを解くと x=1/2、y=1/2、z=−3/2 従って、プランク長 Pmを求める式は、Pm=( G/c3)1/2=1.62x10-33cm
5. 弱い重力場でのアインシュタイン方程式
弱い重力場でのアインシュタイン方程式を導出する手順は次の様になる。
@近似的ローレンツ変換。
(1)近似的ローレンツ変換Aゲージ変換の式を求める。 Bトレース反転テンソルを定義する。 Cアインシュタインテンソルを線形近似化する。 Dゲージ条件で方程式を簡単化する。 E弱い重力場でのアインシュタイン方程式。
弱い重力場では時空が平坦に近いから、メトリックの成分は
(2)ゲージ変換◆ gαβ=ηαβ+hαβ , |hαβ| ≪ 1 ・・・・・・・・・・・・・・・ (10) であるような座標系の存在する多様体であって、時空の各点で |hαβ| ≪ 1 が成 り立っているものとして定義される。こうした座標系を近似的ローレンツ座標系という。一つの近似的ロ ーレンツ座標系を別の近似的ローレンツ座標系に移す座標変換の一つに、次に述べるゲージ変換がある。アインシュタイン方程式は座標系の選択に何の制限を付けないのであるが、へたに座標系を選ぶと物理的な結果に至るのに必要な 計算量が莫大なものになってしまう。従って一般相対論の問題を解くにあたっては、計算を最も簡単にできる座標系をつくる事である。
ある量に別の量を付け加える操作は丁度、ものさしの尺度を変える事に対応しているので「ゲージ変換」と呼ばれる。ゲージ変換に対して元の方程式が形を変えない時「ゲージ不変性」あるいは「ゲージ対称性」が成り立っているという。
(3)トレース反転テンソル座標の微小変化で、成分が位置(=X0〜X3)の関数であるベクトル ξαによって生成される新しい座標Xα'は Xα'=Xα+ξα(Xβ) の形をしたものである。ξαが |ξα,β|≪1 という意味で微小であるとすると、変換行列 Λα'βは Λα'β=∂Xα'/∂Xβ=δαβ+ξα,β 逆変換行列 Λαβ' は (「付録1:要素が微小な行列の逆行列」を参照) Λαβ'=(Λα'β)-1=δαβーξα,β gα'β'=Λαα'Λββ'(ηαβ+hαβ) を計算する。上の式と ξβ,μ=ηαβξα,μ 及び ξα,μξβ,ν 0 により下記の式が成り立つ。 gα'β'=ηαβ+hαβーξα,βーξβ,α この式から座標変換の影響はhαβを ◆ hαβ → hαβーξα,βーξβ,α ・・・・・・・・・・・・・・・ (11) のように定義し直すことであることが分かる。|ξα,β|が全て小さければ、新しく得られる hαβ も小さく、適切な座標系に留まっていることになるので、ゲージ変換になりうる。この変換をゲージ変換といい、それは式(11)と電磁気学でのゲージ変換が極めて類似している為に使われる名前である。その類似性については付録2:電磁場と重力場の比較を参照。アインシュタイン方程式が座標系に制限を付けないことから、式に於いて任意の微小なベクトルを自由に選んでもよいことになる。以下ではこの自由度を使って、方程式を極めて簡単化することになる。
hαβの添字を操作する。
(4)アインシュタインテンソルの線形近似化hμβ=ημαhαβ , hμν=ηνβhμβ=ημαηνβhαβ , hαβ=hαβ そのトレースを h=hαα で定義する。hαβのトレース反転テンソルを次の様に定義する。 ◆ hαβ=hαβーηαβh ・・・・・・・・・・・・・・・ (12) hαβ のトレースは h=hαα=ηαβhαβ=ηαβhαβーηαβηαβh=hαα−2h=−h ( ∵ ηαβηαβ=4だから ) h=hαα=−h トレース反転テンソルの名前の由来は上の式から来ている。 h=−h を hαβ のトレース反転テンソルの式に代入すると、 hαβ のトレース反転テンソル、hαβ が得られる。 ◆ hαβ=hαβーηαβh ・・・・・・・・・・・・・・・ (13) トレース反転テンソルを定義する事で、アインシュタインテンソルの線形近似式をトレース反転テンソルで表す事が出来る。
リーマン曲率テンソルRαβμν の線形近似式は、式(10)より
(5)ゲージ条件で方程式を簡単化する。◆ Rαβμν=(hαν, βμ+hβμ,ανーhαμ,βνーhβν,αμ ) ・・・・・・・・・ (14) この式は hαβ=ξα,β+ξβ,α ならばゼロで、式(11)のゲージ変換で式の形が変わらないので、ゲージ不変性が成り立っている。 線形近似のアインシュタインテンソルはアインシュタインテンソルを基に生成されるので、当然リッチテンソル、リッチスカラーも線形近似になる。 Rαβμν=gασRσβμν=(ηασ+hασ)Rσβμνであるから Rαβμν=ηασRσβμν+0(h2αβ) 上の式とリッチテンソルの定義式 Rαβ=Rμαμβ より 線形近似のリッチテンソル Rαβ は Rαβ=ημσRσβμν+0(h2αβ) =ημσ(hσβ,αμ+hαμ,σβーhσμ,αβーhαβ,σμ )+0(h2αβ) =(hμβ,αμ+h,μαμ,βーhμμ,αβーh,μαβ,μ )+0(h2αβ) 上の結果とリッチスカラーの定義式 R=ημνRμν より、線形近似のリッチスカラー R は R=ηαβ(hμβ,αμ+h,μαμ,βーhμμ,αβーh,μαβ,μ ) =(hαμ,αμ+h,αμαμーhμ,αμ,αーhα,μα,μ ) =hμν,μνーh,μ,μ ( ∵ hαμ,αμ=h,αμαμ , hμμ=hαα=h だから ) 以上により線形近似のアインシュタインテンソル Gαβ は (途中の詳細な計算過程は付録3:線形近似のアインシュタインテンソルを参照。) Gαβ=Rαβ−ηαβR =[ hμβ,αμ+h,μαμ,βーh,αβーh,μαβ,μーηαβ(hμν,μνーh,μ,μ)] hαβ=hαβーηαβh , hαβ=hαβーηαβh だから Gαβ=ー(h,μαβ,μ+ηαβh,μνμνーh,μαμ,βーh,μβμ,α) hαβ=hαβ , ηαβ=ηαβ だから、添字を上付けにして ◆ Gαβ=ー(hαβ,μ,μ+ηαβhμν,μνーhαμ,β,μーhβμ,α,μ) ・・・・・ (15) となる。
式(15)は hμν,ν=0 とする事が出来れば、非常に簡単になる。4個の自由に決められるゲージ関数 ξα で、この事が出来る事を示す。
(6)弱い重力場でのアインシュタイン方程式◆ hμν,ν=0 ・・・・・・・・・・・・・・・ (16) 上の式をローレンツ・ゲージ条件という。この名前が付けられたのは、やはり電磁気学とのアナロジーである。( 付録4又は付録5を参照 ) ある任意の h(old)μν があって、 h(old)μν,ν≠0 であるとする。この時、式(11)のゲージ変換で、hμν が h(new)μν=h(old)μνーξμ,νーξν,μ +ημνξα,α に変る。h(old)μν,ν=0 の時は、既にゲージ条件を満足しているので、ゲージ関数 ξα は必要ない。 【証明】
h(new)μν=h(old)μνーξμ,νーξν,μ ・・・・・ (a)
以上で【証明】は終わり。上の式の発散は(添え字を上げてνで微分)h(old)μν=h(old)μνーημνh(old) ・・・・・ (b) h(new)μν=h(new)μνーημνh(new) ・・・・・ (c) (a)ー(b)+(c)を計算すると h(new)μν=h(old)μνーξμ,νーξν,μ+ημν(h(old)ーh(new)) ・・・・・ (d) (a)の両辺にημνを掛けると ημνh(new)μν=ημνh(old)μνーημνξμ,νーημνξν,μ h(old)ーh(new)=ξ,μμ+ξμ,μ=2ξα,α 上の式を(d)に代入すると ∴ h(new)μν=h(old)μνーξμ,νーξν,μ +ημνξα,α h(new)μν,ν=h(old)μν,νーξμ,ν,νーξν,μ,ν +(ημνξα,α),ν (ημνξα,α),ν=ημνξα,αν=ξα,μ,α=ξν,μ,ν だから 発散は h(new)μν,ν=h(old)μν,νーξμ,ν,ν となる。h(new)μν,ν=0 となるゲージを求めたい時には、ξμを □ξμ=ξμ,ν,ν=h(old)μν,ν と決めればよい。f=ξμとおく。記号□は4次元のラプラシアンで、ダランベルシャンとか波動作用素といい □f=f,μ,μ=ημνf,μν= f のように表される。方程式 □f=h(old)μν,ν ・・・・・・・・・・・・・・・ (17) は三次元の非斉次の波動方程式で、いかなる h(old)μν,ν に対しても常に解が存在する。従って、任意の hμν をローレンツ・ゲージに変換する f が常に存在する。実際には、この f は唯一つには決まらない。斉次な波動方程式 □ξμ = 0 を満たす任意の ξμ を f に加える事が出来て、その和は □(f+ξμ) = h(old)μν,ν ・・・・・・・・・・・・・・・ (18) を満たし、従ってやはりローレンツ・ゲージを与える。
式(16)のゲージ条件では式(15)の第2、3、4項がゼロになり、弱い重力場でのアインシュタインテンソルは下記の様になる。
◆ Gαβ=ー□hαβ ・・・・・・・・・・・・・・・ (19) Gαβ=8πTαβ より、弱い重力場でのアインシュタイン方程式は ◆ □hαβ=ー16πTαβ ・・・・・・・・・・・・・・・ (20) と表される。この式を線形理論での場の方程式という。
6. ニュートンの重力場U
(1) ニュートンの極限
ニュートンの重力理論が成り立つのは、重力場が十分に弱くて光速度に近い速度にまで加速しない時、つまり |φ|≪1、|V|≪1 の時である。そうした状況では、一般相対論はニュートンの重力理論と同じ結果を与えなければならない。速度が遅いという事は、成分 Tαβが、|T00|≫|T0i|≫|Tij| の関係を満たす事を意味している。従って T00=ρ+0(ρv2)で、Tαβ の他の成分はゼロとなる。式(20)より、|h00|≫|h0i|≫|hij| にもなり、h00 だけが意味をもち、他の成分はゼロとなる( α≠0、β≠0 の時 hαβ=0 )。こうして、主要な“ニュートン”重力場は
□h00=ー16πρ から求まることになる。重力源が速度Vで運動することによってのみ変化する重力場では □=▽2+0(V2▽2) と書ける。従って、方程式は ▽2h00=ー16πρ となる。この式をニュートンの方程式 ▽2φ=4πρ ( 1.の式(3) Gは距離化単位だから1 ) と比べると h00=ー4φ である事が分かる。 hαβ=ηβμh αμ h=hαα=ηαμh αμ=4φ hαβ=hαβー ηαβh であるから h00=h11=h22=h33=ー2φ で、他の成分はゼロとなる。よって弱い重力場での線素の式は ds2=−(1+2φ)dt2+(1ー2φ)(dx2+dy2+dz2) ・・・・・・・・・・・・・・・ (21) になる。このメトリックによって、正しいニュートンの運動の法則が得られる事を「7. 少し曲った時空での物理」で示す。そのメトリックがアインシュタイン方程式から求められることをここで示したのだから、ニュートン重力が一般相対論の極限である事が分かる。
7. 少し曲った時空での物理
弱い重力場の下では(6. ニュートンの重力場Uに於ける式(21))、測地線の方程式からニュートンの運動方程式が導き出せる事を示す。
測地線の方程式でλの代わりにアフィンパラメーターとして を使うと、質量x四元速度=四元運動量となり、質点の運動方程式は
PαPβ,α+ΓβμαPμPα=0 (Pは四元運動量) 質点は非相対論的な速度をもつから、 P0≫Pi , Pi 0 従って P0Pβ,0+Γβ00P0P0=0 Pβ,0=Pβ なので、上の式は P0Pβ+Γβ00(P0)2=0 ---> Pβ+Γβ00P0=0 上の式の第二項の P0 はmに置き換える事が出来るから Pβ+mΓβ00=0 クリストッフェル記号 Γβ00 は Γβ00=gβγ(gγ0,0+gγ0,0ーg00,γ) β≠γ なら gβγ=0 なので Γβ00=gββ(2gβ0,0ーg00,β) β=0の時、運動方程式の時間成分を計算する。
Γ000=g00g00,0=ー (ー2φ),0
β≠0の時、運動方程式の空間成分を計算する。1ー2φ , 2φ(ー2φ),0 0なので Γ000=φ,0+0(φ2)=φ よって運動方程式は P0+mφ=0 P0はこの系での質点のエネルギーだから、これは重力場が時間によらなければエネルギーは保存されることを意味している。この結果はニュートン理論においても正しい。 なお、dτ= dt dt である。
付録1:要素が微小な行列の逆行列
Aはnxn行列で、全ての要素が小さく |Aij| ≪ 1/n であるとし、I を単位行列とする。この時
(I+A)-1=I−A+A2ーA3+A4ー… ・・・・・ (a) である事を次の手順で証明する。
@ n2個の要素について、右辺の級数が絶対収束する。
行列の掛算の定義によりA2は下記の様になる。
A 式(a)の右辺に (I+A) を掛けたものは I に なる。全ての要素がAijの2乗の和になる。従ってAνの行列の全要素(=n 2個)は行列Aの要素をν乗回したものの和になる。 |Aij| ≪ 1/n であるから、ν→∞ とすると、全要素は0に収束する。 【証明】
B=I−A+A2ーA3+A4ー… と置く。ν=mで収束したとする と、Am=0で、Bは
式(a)に於いて、I→δαβ ,A→ξα,βに置き換えるとB=I−A+A2ーA3+…+(−1)m-1Am-1 両辺に (I+A) を掛けると (I+A)B=B+AB=I−A+A2ーA3+…+(−1)m- 1Am-1+A−A2+A3−…−(−1)m-1A m-1+Am = I となる。mが無限大でも上の式は成り立つ。従ってBは (I+A) の逆行列である。 ∴ 式(a)が成り立つ Λαβ'=(Λα'β)-1=δαβーξα,β+0(|ξα,β|2) が成り立つ。
付録2:電磁場と重力場の比較
マックスウェル方程式を特殊相対論的に書くと、スカラーポテンシャルφと三次元ベクトルポテンシャル Aiを
一形式の成分 P0=−φ,Pi=Ai ( =(−φ,A1,A2,A3) )として考える。 電磁場に於けるゲージ変換、ローレンツ・ゲージ条件及び導かれる方程式は付録4、付録5で導かれている、即ち A'=A+▽f , φ'=φー f ・・・・・ ゲージ変換 div A+φ=0 ・・・・・ ローレンツ・ゲージ条件 □φ=ー4πρ , □A=ー4πJ ・・・・・ 導かれる方程式 ゲージ変換の式をテンソル記法で書くと φ → φーf,t , Ai → Ai+f,i ローレンツ・ゲージ条件の式をテンソル記法で書くと div A+φ=0 → ▽iAi+φ=∂Pμ/∂Xμ=Pμ,μ=0 以上、線形化した重力理論と電磁気学との類似点を表にまとめると 電磁場と重力場の比較
付録3:線形近似のアインシュタインテンソル
線形近似化されたアインシュタインテンソルを求めるには、線形近似のリッチテンソルとリッチスカラー
が必要であるが、それは本文で計算したように
Rαβ=(hμβ,αμ+h,μαμ,βーhμμ,αβーh,μαβ,μ )+0(h2αβ) (線形近似のリッチテンソル) R=hμν,μνーh,μ,μ (線形近似のリッチスカラー) となる。以上により線形近似のアインシュタインテンソル Gαβ は Gαβ=Rαβ−ηαβR =[ hμβ,αμ+h,μαμ,βーh,αβーh,μαβ,μーηαβ(hμν,μνーh,μ,μ)] hαβ=hαβーηαβh , hαβ=hαβーηαβh だから 上記の式に於いて、A、C、Dは打ち消しあってゼロになる。 だから、E、F、H、Iは になる。 @の は下記の二つの式より に等しい。 , 以上により、線形近似のアインシュタインテンソルは
付録4:電磁ポテンシャル、ゲージ変換
ポテンシャルというのは、潜在的な可能性があるという意味で、そこに物体が置かれた時初めてエネルギーとして顕在化する物理量の事である。重力場で重力ポテンシャルが存在した様に、電磁場に於いても電磁ポテンシャルという、より基本的な物理量が存在する。
(1) 電磁ポテンシャル
真空中の電場 E と磁場 B に対するマックスウェル方程式は三次元のベクトル記号で書くと
div B=0 ・・・・・ (a) rot E+B=0 ・・・・・ (b) div E=4πρ ・・・・・ (c) rot BーE=4πJ ・・・・・ (d) 単位系はμ0=ε0=C=1,ρは電荷密度で、Jは電流密度。 磁場 B に対応するベクトルポテンシャルを A とする。ベクトル場の回転の発散は0であるので div rot A=0。これと(a)より B=rot A とおける。 ・・・・・ (e) B=rot A を(b)に代入すると rot E+rot(A)=0 rot(E+A)=0 積分定理により、rot(E+A)=0 となるベクトル場 (E+A) は勾配ベクトル場、即ちスカラー場 φ (=スカラーポテンシャル)があって E+A=−▽φ E=−▽φ−A ・・・・・ (f) となる。φ と A をまとめて、電磁ポテンシャルという。 (2) ゲージ変換、ゲージ不変性
微分可能なスカラーな関数を f とし
A'=A+▽f , φ'=φーf を、(e)及び(f)の式に代入すると B=rot(A+▽f)=rot A+rot ▽f=rot A E=−▽(φーf)−(A+▽f)=−▽φ+▽f−A−▽f=−▽φーA この(φ,A)から(φ',A')への変換をゲージ変換といい、無数の(φ,A)を作り出す事が出きる。上の計算で分かる様にゲージ変換に対して元の方程式が形を変えない時(=電場、磁場が変わらない)、ゲージ不変性あるいはゲージ対称性が成り立っているという。 ゲージ不変性が成り立つのは、ベクトル場の発散、回転の演算式 div rot A=0, rot ▽f=0 という性質に基づく。
付録5:マックスウェル方程式の電磁ポテンシャルでの表現
付録4:電磁ポテンシャル、ゲージ変換で計算した様に
div B=0 ――> B=rot A , rot E +B=0 ――> E=−▽φ−A である。 div E=4πρ の式 E に E=−▽φ−A を代入すると div(−▽φ−A)=4πρ ――> −▽2φ−div A=4πρ △φ+div A=ー4πρ となる。 ・・・・・(1) △はラプラシアンといい、△=▽2である。▽はナブラ又はデルといい、▽f=grad f である。 rot BーE=4πJ の式に B=rot A , E=−▽φ−A を代入すると rot(rot A)ー(−▽φ−A)=4πJ rot(rot A)=div Aー▽2A であるから、上の式は div Aー▽2A+▽φ+A=4πJ ――> (△ー)Aー▽(div A+φ)=ー4πJ 上の式は第二項を0にすると、もっと簡単になる。div A+φ=0をローレンツ・ゲージ条件という。ゲージ変換に対して、新しい式が0となるよう、ゲージ関数を決めればローレンツ・ゲージ条件が成り立つ。ローレンツ・ゲージ条件の式に、A=A+▽f,φ=φーfを代入すると(=ゲージ変換) div(A+▽f)+(φーf)=0 ――> div A+div ▽f+φー f =0 div ▽f=△fであるから (△ー)f=−(div A+ φ ) 上の微分方程式を満足する f のもとではローレンツ・ゲージ条件が成り立つ。ローレンツ・ゲージ条件 div A=ーφ を(1)の式に代入すると、(1)は (△ー)φ=ー4πρ 以上をまとめると、マックスウェル方程式を電磁ポテンシャルで表現すると ◆ div B=0 ――> B=rot A ◆ rot E +B=0 ――> E=−▽φ−A ◆ div E=4πρ ――> (△ー)φ=□φ=ー4πρ ◆ rot BーE=4πJ ――> (△ー)A=□A=ー4πJ 記号□は四次元のラプラシアンで、ダランベルシャンという。(□=ー+△)
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