「いいモン持ってるな」

「…え?」


出会いは、給湯室だった。





コーヒーカップ





「…!」

は、振り返ったとたん、そこに立っていた異様な井手達の男に奇声をあげた。

「だっだれか!! 来て!!!」
「お、おい…コネコちゃん、落ち着けよ」
「こ、こねこ!? ち、近づかないでください…! 誰か! 助けて!!」
「ま、待て…」


!!」


緊迫する給湯室。
そこに飛び込んできたのは、局きっての天才、御剣怜侍だった。


「あ、御剣さん! 不審者が!!」
「・・・」
「・・・・・・」

見合わせる男二人。

「・・・御剣さん?」
「お前もつくづく苦労人だな…御剣」
「・・・…今月の査定も楽しみにしておくことだ…」




不審者扱いしていた男が検事であることを説明されたは、ひたすら謝った。


「す、すいません…わ、わたし全然知らなくて…」
「局員で俺を知らないとは…とんだコネコちゃんだが、まぁ天才様の事務局員なら仕方ないか」
「はぁ…ほんとにすいません」
「いいってことよ…そのコーヒーカップに免じて、な」
「…え?」

ゴドーという検事が指さした方向には、先ほどが洗ったコーヒーカップがあった。

「これに免じて…?」
「これは君のカップかい?」
「…ええ…お父さんの、形見…なんですが」
「…そうかい」
「実はアンティークだったりするんですか!?」

興奮するに、ゴドーは首を振る。

「いや、そういう意味じゃない…形だ」
「…カタチ?」
「淵が広いカップは、味をシャープにする。かつその厚み、コーヒーのもつ本来の苦味を忠実に表現してくれる…なかなかの一品だぜ」
「へぇ〜…知りませんでした」
「そうかい…あんたの親父さんは、違いがわかる男だったんだろうな」
「ふふ…ありがとうございます」
「それに埃をかぶせることなく、愛用するコネコちゃん…君もなかなかの女さ」
「あ、はは…」
「…?」

はあいまいな笑みを浮かべた。その様子に首をかしげるゴドーに、口を開く。



「実は…私紅茶党なんですよね…」



「!!! つまり、これで紅茶しか飲んでいないと?」
「は、はい…」
「それはコネコちゃん…もったいない話だ。どうだい、俺が淹れてやろうか」
「え…でも…」
「君の親父さんの味を再現できるかはわからないが…そこそこ自信はある。さぁ、おいで」


ゴドーはコーヒーカップをそっと手にすると、もう片方の手での肩をだき、自分の部屋へと導いた。





<数分後>





コーヒーの芳しい香りが漂う部屋で、はコーヒーの入った自分のカップを渡された。

「どーぞ」
「…はい」

そっとカップに口をつける瞬間まで、はどうしようかと考えていた。

(なんだかわざわざ淹れてもらっちゃったし…ここは美味しいって言わないと失礼よね…)


しかし、そんな思いは、口をつけた途端にふっとんだ。





「…!!!」
「…どうだい?」



独特のほろ苦さが、口内を満たす…気がつけば、はホロリと涙を零していた。


「コネコちゃん…」
「…おんなじです…小さい頃の、お父さんのコーヒーと」


無論、はこのカップでコーヒーを飲んでみたことはあったが、どうも酸味が強く、敬遠していた。
しかし今日のは違う…幼い日、父親の机からコーヒーを盗み飲んだ記憶が、味と共に蘇えった。


「すごい…どうやって淹れたんですか? 教えてください!」
「フフ…どうやら目覚めたようだね。でも、そう簡単には教えられないな」
「え…」

ゴドーの言葉に、見るからに落胆する。その様子をみて、ゴドーは気まずそうに笑う。


「いつでも飲みにおいで…そう、言いたかったんだ」
「…! はい!」

晴れやかに笑ったに、ゴドーは満足そうに頷いた。








その日以来、ゴドーの部屋を行き来するの姿が見られるようになった。

その様子をみて、局内の人間は噂するのだった…これはまた一波乱ありそうだぞ、と。
その背後で、クツクツと笑う御剣の存在を知らずに。

















[ End..? ]








カップによる味の違い…私は全くしらなかったんですが、あるらしいですよ。
主人公の設定は、Mr.Offenderと同じで、局に入り、試験にとおり、無事事務員になってまもなく、といったかんじです。

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