【 当日レンタル半額 】

自己アピールの激しいシールが目に入った、秋の連休。




トラブルボーイ - first -




「(…半額)」
私、の手は自然とそのシールが張られているビデオに手が伸びていた。

秋の休日、部活も久々に休みで、
休みの日ぐらい、別のジャンルを楽しもうとレンタル屋に来たのに、
私が手を伸ばして取ろうとしているのは、

「少林サッカー?」

そう、サッカーだ。頭から離れない、あの試合を見てから。

あの試合とは、韓国で行われたソウル選抜対東京選抜の試合で。
同じ雑司が谷中の郭くんも出て、マジでサッカー好きなサッカー部マネージャーとしては
国境を越えようとも観戦に行かねば…と初の海外旅行に出かけたのだった。

スタジアムでは真っ赤な韓国サポータに囲まれて、それは初めかなり怖かったが
あの白熱した試合のおかげで、いつの間にか一緒になって騒いでいた。

…あぁ、サッカーってなんて素晴らしいんだろう…

と改めて悦に浸ってる、今日この頃なのだ。
しかもその試合で、ソウル選抜を率いていた10番が――

「ねぇ、それ見るの?」
ビデオに手をつけたまま至福の回想に浸っていた私を、その声が引き戻した。

「あ、ああ、すいません」
ぱっと手を離し、身を引きながら声の主を見ると、

「それよりさ、こっちのにしない?」
と、ホラーっぽい表紙のビデオを持っていた。
「…」
ニカっと笑う人懐っこそうな笑顔…

「! ゆ、潤慶!? な、な、な…! なんでこ、こんなとこに!?」
、日本語おかしーよ?」
「そ、そんなことはどうでもよくて!」

李潤慶、ソウル選抜の司令塔。郭くんの従兄弟。
彼は小学校の頃に2年間日本にいて、私は2年間同じクラスだった。
その頃から郭くんはクールビューティを決め込んでいたけど(笑)
潤慶はよく笑って人懐っこくて…この通り郭くんの方が付き合いが長いはずなのに
いまだ郭くんは「くん」付けで、潤慶は呼び捨てだ。
そんな彼が、まさか向こうで司令塔になってるなんて、予想もしてなかった。

「ねぇ、こっちも【当日半額】だからさ」
「そ、そうじゃなくって! どーして潤慶がこんなとこに!?」
「よし、じゃぁ早速借りようね!」

こちらは完璧ムシして、私の手をとりレジに向かう潤慶。
「ね、ねぇ潤慶、だから一体どうして――」
「ぼく、会員証もってないからヨロシクね、
と、私をレジの前に引き出す。…どうやら簡単に口を割る気はないようだ。

「…(しかたない…)」
正直ホラー系って苦手なんだけど、今は言うとおりにする事にした。
どんな理由があったとしても、日本に、私の触れられる距離に潤慶がいることに違いはないのだから。
「(そういえば、潤慶が帰っちゃうってときは、すっごい泣いたよなぁ…)」
潤慶に目をやると、当然だけどあの頃よりずっと大きくなった潤慶がニッコリ笑っていた。




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本当は短編にするつもりだったんですが…続いてしまいました(-_-;)


音楽=Finalia/P's MAT
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