第14話


 

「局中法度かぁ…」
「おや、さんも反対なんですか?」

そう明るい声をかけてきたのは、隊きっての天才剣士、沖田総司だった。

「…沖田さんには必要なさそうですね…」
「あはは、そうなんですよね〜みんな僕みたいだったらこんなもんは考えなくてすんだんだがなって土方さんが言ってました」
「…それはそれで大変な気が…」
「あはははっケホッ」

そうして、彼は少し堰をした。寺田屋以来、調子が悪いらしい。

池田屋の一件は、いろんなことを引き起こした。まず周りがうるさくなった…
これがさらにその周りの人達に広がり、環境が変わり、そして組自身も、
こうして局中法度を作るとか、変わっていくんだな、と思うと、少し…ぞっとした。結末が…どんどん近づいているようで。

「…大丈夫ですか?」
「え?」
「ぼうっとしてるから」
「いえ、ちょっと考え事してしまいました、すいません。というか、沖田さんこそ、大丈夫なんですか?」

彼をみると、頭を手にやって笑った。

「やだなーもう、病人をみるような目、しないでくださいよ。これから仕合おうというのに」
「…仕合う?誰とですか?」
「あなたと」
「…え? 誰が、誰とですか?」
「あなたと、僕が、ですよ」
「…・・・……はぁぁぁぁ!?」

つい、大声を出してしまった…いやでも出さずにはいられないだろう…

「だ、だれがそんなこと決めたんですか!?」
「僕ですが?」
「か、勝手に決めないでください!!」
「いや〜前々からさんの腕で監察においとくのはもったいないって思っていまして、
 是非実力をみせてもらって、良ければ見回りにも参加してもらおうかな〜と」
「…えー」

「なんだ、そのやる気の無い返答は」

その声が聞こえたのは、私の背後…聞き間違えもしない、局中法度を決めた張本人だ。

「土方さん」
、お前の実力を見込んでの誘いだというのに、なんだ、理由があるなら言え」
「…だって、せっかく監察の仕事を覚えて、これからってときに…」
「斉藤さんみたいに両方やったらどうですか」
「そんなむちゃな…あれは斉藤さんだからできていると思いますよ…」

「まーそうですねー。正直なところ、私があなたと仕合ってみたいだけだったりするんですけどね」
「え!?」
「ほぉ…お前にそこまで言わせるとは、も腕をあげたな」
「へんなとこで褒めないでくださいよ…とにかく、嫌ですから! それじゃ!!」
「あっ、さん!」

私は隙をみて逃げ出した…そのあとどんな目にあうか知らずに…

 

…翌日。

 

「おはようございます、さん」
「ん…? おはようございます………って!」

目が覚めると、目の前に彼の笑顔があった、そう、沖田総司の満面の笑顔が。

「な●×△*△ん×○◎!!」
「そんなに驚かなくても〜」
「お、驚きますよ!!」

本当に、びっくりした…人がいたこともそうだが、間近でみると、余計彼の顔の作りの良さがわかった…

「(なんかここの人って結構かっこいい人多いけど、沖田さんって中でも群を抜いているというか…)」
「そんなに隙だらけだと、襲っちゃいますよ?」

カチャ、と刀の音がした…
この音さえしなければ、少女マンガにありげなストーリーの始まりだというのに…

「…寝込みを襲うなら、もう襲われてるでしょう」
「そうですね。あなたって、寝ているときは本当に無防備ですよね。あれだけ腕がたつのに珍しい」
「…寝ているときは襲われない国で育ったので」
「そうなんですか〜僕、この国に生まれてよかったな〜」
「…はぁ」

こんな人と仕合うなんて、ぜったい無理だ…

 

そうして、その場もなんとかやりすごしたけど、1日1度は現れてこの始末で、ついには…

 

 

「あんたさ〜さっさと総ちゃんと試合しなさいよ!」
「え〜…」
「監察の仕事にまで付いてこられちゃ邪魔なのよホント!」

仕事中、山崎さんが、後を歩いてきている沖田さんを指して言った。

「山崎さんから、なんとか諦めるように言ってくれませんか?」
「無理よ、あんたを説得するほうが見込みがあるからこう言ってるんじゃない」
「…はぁ」
「別に負けたら切腹って言ってんじゃないんだし、いーじゃない、ちょっと痛い目にあうだけよ」
「痛い目にあうってわかってて、なんでやらなきゃいけないんですか…」
「痛い目にあうかどうかは、仕合ってみないとわかりませんよ?」

後ろから沖田さんが混ざってきた。

「いいえ、合います。沖田さんだって、こんな始めから負けると思ってる人相手にしてもつまらないですよ」
「…そうかな? さんって、仕合うときは目が変わる人じゃないですか、絶対負けないって」
「…」

図星だった…。だから、余計嫌なのだ、絶対勝てないとわかっていても、頑張って戦って、そして負けてしまう自分が。

「…なんで、沖田さんはそんなに私と勝負したいんですか?」
「なぜって…勝負をしたいからですよ」

愚問だった…
結局それで、半ば山崎さんに強引に進められ、沖田さんと仕合うことになった。

 

 

 

 

「(はぁ…なんでこんなことに…)」

刀を構える沖田さんと、そしてこれを見に来たギャラリーにぐったりした…。

「おう、!すぐに負けんじゃねーぞ!面白くないからな!」
「総司!手ぇ抜くなよ! おめーが瞬殺するほうにかけてんだからな!」

…賭けまでしてるし。

改めて沖田さんの顔をみると、少し笑っていた……怖すぎる。
たぶん、手を抜いたらその気になるまで仕掛けてくるだろう…はぁ…
結局私はどんなに頑張っても本気で戦って、負けるしかないんだ…

 

「はじめ!」

掛け声と同時に、刀がひゅっと飛んできた。

「(速い…)」
「その気になってくれて、嬉しいですよ」

彼は笑いながら、そう言った。

余裕だ…いや、彼は感情とは関係なくよく笑っていたから、そう思わせるだけで、
心のうちでは、次はどの手でいこうか、静やかに狙っているのだろう。
でも…

カンッ

速いし、こちらの動きも読まれている、だが剣がたまに軽い。
こちらが徒手拳だから手を抜いてる…? いやそんなことはあるわけない。
もしかしたら…

「打ち込んでこないです、さん」
「…っそんな簡単に、沖田さんの間合いに入れませんよっ…でもっ」

突いてきた刀に腕の背をあわせ、ぐいっと引いた。

ヒュッ…カキンッ

「…」
「…」

シーンとした、誰もが唖然としていた…誰もが予想しない結果になったのだから。

「はぁ…はぁ…」
「…あはは、負けちゃいましたね」

その言葉に、わっと歓声がわいた。

「すげぇ!すげぇじゃねーか、!」
「いやぁ、さすが僕を負かしただけあるよね。とーぜんの結果だよ!」

みんなは私のことを褒め称えてくれた…
ほんとに偶然、つきに合わせて、その力を利用して刀を飛ばしたのだ…
でも、普通は刀をちゃんとつかんでいれば、そう簡単には飛ばされたりしない…

「(手を抜いた…いやそれはない…だったら…」

その影で、いつの間にか沖田さんは消えていた…

 

汗を流して、着替えて帰り、沖田さんの部屋に向かった…
どう考えても、調子が悪かった、そうとしか理由がでてこない…

「沖田さん、です」

返答が、ない。いないんだろうか…?

「開けます」

一言断って開け入ると、そこにはごろりと横になった沖田さんがいた。

「…」

一瞬、どきりとしたが、よくよく見ると、眠っているようだ。

「…はぁ」

一息ついて、その横に座った。
もし、調子が悪かったとしても、沖田さんは言わないだろう。

「…襲ってこないんですか?」
「!?」

はっと彼の顔をみると、片目が開いていた。

「…起きてたんですか」
「起こされたんですよ、気配で」
「すいません…襲うつもりもなかったので」
「はは…」

そう笑って、彼はむくりと起き上がった。

「僕、弱かったですか?」
「…え?」

冗談かと思ったが、彼の目は真剣だった。

「そんな…弱いだなんて、ありえませんよ」
「でもあなたは僕に勝った。僕の方が弱かったってことです」
「それは…運が良かったからです」
「運、ですか…」
「その、たまに力が弱い、いや弱いというか、少し軽い時があって、
 そのときであれば、刀をなぎ払えると思ったんだです」
「…なるほど…、僕が死ぬ日も近いかもしれませんね」

彼は笑いながら、そう言った、普通に笑いながら。

「な、なに言ってるんですか!!」
「…そうですね。ただ、僕はそう簡単には死なないだろうと思っていたんですが
 刀をにぎり、少しでも隙がある以上、僕も死ぬ可能性があるんだな、と思いまして」
「…はぁ。沖田さんのことです、どうせ死ぬのも悪くないとか思ってるんでしょう」
「もちろん…戦って死ぬのは本望です…僕はそんなに武士というものを意識しませんが、この点については同意しますね」
「そうですか…」

なんだか、ほほえましく思ってしまった。なんてさわやかなんだろうと。

「それにしても…」
「はい」
「あなたって、本当に綺麗ですよね」
「…」

なんでここの人達はこういうことを容易く口にするんだろうか…
いやここの人達ってか数名なんだけど。

「あれ、疑ってますか? でもね、戦っているとき、本当に綺麗だなって。
 武器を使っていないせいか、身体全体の動きがほんとうに隙が無く綺麗なんですよね」
「…はぁ」
「今まで女の人に生まれなくて良かったと思ってましたが、いやぁ〜女の人もいいですね。
 実は戦ってるときは意識してませんでしたが、そういう着物をきていると、やっぱり女の人なんですよね」
「…褒められてるんですよね」
「もちろんです。僕がもし…」

そこで、ぴたりと声がとまった。

「…? なんですか?」
「いえ…なんでもありません」
「?」

そうして、私は部屋をでた。爽やかな人…まるで風のような人だと、そう思った…

 

 

部屋に1人、またごろりと横になった沖田は、ポツリとつぶやいた。

「もし僕が、女の人に惚れることがあれば、きっとあなたのような人でしょうね」

かすかに、自嘲気味の笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 

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沖田さんでした。彼のEDはきゅーんときましたが、同時にびっくりしましたよね(^_^;)
そんなわけで、ちょっと身体のネタとか入れてみましたが…なんだかやっぱり想像できませんでした…

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