さて、突然ですが、ピアノの鍵盤を見てください。無かったら想像してください。フルサイズのピアノなら白鍵・黒鍵ふくめて88個も鍵があります。
ここから無作為に音を選んで作曲しようとしても、とてもじゃないが聴けたものにはなりません(あるいは現代音楽にはなりえるかもしれませんが・・・)。
そこで、音選びにある程度の「制約」をもうけます。それが「音階」です。
「音階(おんかい)」とはその曲中(ここでは転調は考えません)で使う音を並べたものです。かの「ドレミファソラシド」というのは「ドを主音にした自然長音階」という立派な音階です。
たとえば、この「ドレミファソラシド」という音階を使った曲では「ド#」や「ラ♭」などは基本的には使われません。
音階を決めるとその曲の「雰囲気」が決まります。単純に言うと長音階なら明るく、短音階なら悲しげ、琉球音階なら沖縄風、といった感じです。
さて、早速音階を紹介したいところですがそのまえに音階の各音の「役割」を見てみましょう。
ここでは「ドレミファソラシド」を例に挙げて説明します。
ド |
第1音・主音(しゅおん) |
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一番核となる音、安定する音で、曲の始め、終わりはたいていこの音です。 |
レ |
第2音・上主音(じょうしゅおん) |
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主音の上だから上主音。主音と中音をつなぐ。 |
ミ |
第3音・中音(ちゅうおん ) |
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主音と属音の真ん中だから中音。音階の性格を決める。とても重要。 |
ファ |
第4音・下属音(かぞくおん) |
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主音・属音に次いで音階の中核を成す。主音の4度上だが、主音の5度下ともいえる。 下の属音だから下属音。 |
ソ |
第4音・属音(ぞくおん) |
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主音に次いで重要な音。柱みたいなもの。 |
ラ |
第6音・下中音(かちゅうおん) |
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下属音と主音の真ん中だから下中音。中音ほどではないが音階の性格を決める。 |
シ |
第7音・導音(どうおん) |
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その名のとおり旋律を主音へ導く音。 |
ここまで書いといてなんですが、結構「第~音」という言い方を使うので、下中音とか覚えなくていいかも(笑)。
ただし、「主音」「導音」(あとできれば「属音」「下属音」)という言い方はよく使うので覚えておくこと。
なお、この音階各音の役割は、以下で紹介する「7音音階(7つの音で構成された音階)」についてのもので、琉球音階などの「5音音階」にはそのままでは当てはまりません。
それでは実際に音階を見ていきましょう。
1つめは「自然長音階(しぜんちょうおんかい)」です。「ドレミファソラシド」ですね。
弾いてみるとわかりますが、なんだか悩みのない小学校低学年のような(?)響きがしますね。
音程関係を見てみると、主音からの音程が、長2度・長3度・完全4度・完全5度・長6度・長7度となっています。
すべて長~か、完全~ですね。長音階と呼ばれるゆえんです。
ちなみに自然長音階は英語では natural major scale あるいは単純に major scale とも呼びます。ギタリスト諸氏にはこちらの呼び方のがなじみ深いですかね。
(ところで長音階といえば「明るい、軽い」イメージですが、もちろん長音階を使った曲で非常に叙情的な作品も多くあります)
次は「自然短音階(しぜんたんおんかい)」です。
いきなり3つもフラットが付いてますね。
弾いてみると、なんだか悲しげな目になります。え、なりません?(笑)
主音からの音程関係は、長2度・短3度・完全4度・完全5度・短6度・短7度。
完全~以外はほとんど短~ですね。自然長音階にくらべると変な感じがしますが、増・減音程はないため、不快な響きにはなっていないはずです。
英語では natural minor scale あるいは単に minor scale とよびます。
なお、ここではドを主音とした音階を挙げていますが、ラを主音とする自然短音階は「ラシドレミファソ」となり、黒鍵を使わずに弾けます。
さて、ここで自然長音階を思い出して下さい。
自然長音階では導音(シ)と主音(ド)の間の音程は半音になってますね。
このように、導音と主音との間の音程は半音と決まっています。全音(半音2コ)以上はなれると主音を導くはたらきを無くしてしまいます。
で、自然短音階を見てください。第7音はシ♭で、主音のドとは全音(半音2コ)離れています。これでは導音とは言えません(単に第7音と呼びます)。
これではいかんというわけで、第7音を半音上げてちゃんとした導音にしたのが、この「和声短音階(わせいたんおんかい)」です。
ようは
自然短音階の第7音を半音上げただけです。
弾いてみましょう・・・うーん、なんだかオリエンタルな響きですね。
自然長音階も自然短音階も隣り合う音の音程は、すべて短2度(半音1コ)か長2度(半音2コ)だったのですが、和声短音階では第6音(ラ♭)と第7音(シ)の間の音程が増2度(半音3コ)になっています。
この音程の開きがオリエンタルな響きを生んでるわけですね。
まあ、これはこれで悪くないんですが、ちょっとキャラクターが強すぎて、使い勝手が悪いですね。そこで次の「旋律短音階」が生まれるわけです。
で、普通いわゆるクラシックではメロディは旋律短音階を使うわけですが、
和音(コード)を弾くにはこの和声短音階を使います。だからこの音階は「和声」と呼ばれるのです。
なお「和声」とは「和音のつながり」ぐらいの意味です。
英語では harmonic minor と呼びます。ネオクラシック系ギタリスト御用達ですね。
ラを主音とした和声短音階は「ラシドレミファソ#」となります。
和声短音階のオリエンタルな響きを解消したのが、この「旋律短音階(せんりつたんおんかい)」です。
第6音も半音上げることによって、第6音と第7音の間の音程を長2度にしたわけです。
そして、旋律的短音階の大きな特徴は
「上行形(じょうこうけい)と下行形(かこうけい)が異なる」という点です。
音が上がっていくときは上行形を使い、下がっていくときは下行形を使います。
(上行するときには導音が必要だが、下行するときには不要、という理由かららしい)
ややこしいですが、試しに弾いてみると、すごくクラシックぽい響きがします。
いわゆるクラシック音楽では、短音階でメロディ(旋律)をつくるときに、この音階を使います。よって「旋律」短音階と呼ばれます。
英語では melodic minor と呼びます。
ラを主音とした旋律短音階は「ラシドレミファ#ソ#(上行)ソファミレドシラ(下行)」となります。
さて和声短音階は、はからずもオリエンタルな響きをもっていましたね。
それを長音階に応用したのが「和声長音階(わせいちょうおんかい)」です。
自然長音階の第6音を半音下げただけですね。
で、「和声」ってついてるから、長音階を使う曲は和音をこれで弾くのかというと、そういうわけではありません。
そもそも和声短音階は導音をつくる為につくられたものなので、もともと導音のある長音階には作る必要ないんですよね。
とまあそういうわけなんで、この和声長音階。あんま使いません(笑)。あるいは私気づいてないだけか・・・。
英語では harmonic major と呼びます。でもポピュラー音楽で使うのかな~?
また、なぜか和声長音階は molldur(モルドゥワー)というドイツ名が、通りがいいらしい。
さらに実用性の低そうな「旋律長音階(せんりつちょうおんかい)」も一応紹介しておきます。
上行は普通の自然長音階ですね。
下行は第6音と第7音を半音下げています。
第3音以外は旋律短音階とまったく同じですね。
う~ん、使いづらそう(苦笑)。
英語では melodic major と呼びます。使わんやろな~。
音階の紹介はここで1段落つきます。ここで「階名(かいめい)」というのを紹介します。
この譜例は「ソを主音とする自然長音階」です。
(※普通は調号をつけますがややこしくなるので省略)
普通ならこれを読むとき「ソラシドレミファ#」と読みますよね。
ところがこれを
「ドレミファソラシ」と読んでしまうのが階名の考え方です。
つまり、音階の第1音のことを常に「ド」、第2音のことを常に「レ」・・・第7音のことを常に「シ」と呼ぶわけです。
階名にはイタリア音名(ドレミファソラシド)をそのまま使います。英語音名などは階名としては使いません。
なお、音名としてのドを「固定ド」、階名としてのドを「移動ド」と呼ぶことがあります。
さて、ここでは長音階を例にして説明しましたが、短音階の場合はどうなるでしょう?
・・・実は知りません。私の読んだ楽典には載ってなかったので。
ただ、
ある音楽ものの映画のなかで、
ト短調の曲の「ソラシ♭レ・・・」というメロディを、映画の登場人物が「ドレミソ・・・」と言っていたので、短音階でも「ドレミファソラシド」を使うのかも。
階名を使うと主音をどの音にしても、同じように読むことが出来ます。
便利だとは思うんですが、相手も階名を理解していないと、さっぱり通じないので、私はあまり使っていません。
このサイトでも、特別断らない限り階名は使いません。「ドレミ」がでてきたら音名だと思ってください。
主音に依存しない言い方をしたい場合は、多少煩雑でも「主音」とか「第1音」などという呼び方をします。
一応これで、いわゆるクラシックで使われる音階を全部紹介したことになります。
(正確には他に半音階というのがあるのですが、ややこしいので省略します)
とはいえ実際に使うのは自然長音階と自然・和声・旋律短音階がほとんどで、和声・旋律長音階は忘れてもらって結構です。
あと、ポピュラー音楽では和声・旋律短音階も使わないことが多いように思います(旋律にも和音にも自然短音階を使う)。