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 a-b柱の座標

 「四次元半正多胞体」のページで「4次元正(m1, m2)柱」という名称で出ていたものである。
 三次元には正多角柱があり、さらに四次元方向に一単位走査しても半正多胞体ができる。しかし、そのような1+3の構成ではなく、四次元では2+2の構成が可能である。このページで話題にするa-b柱がそれで、角柱のドーナツが超球面上で絡んでいるように見える、面白い四次元立体である。発見者は日本人である、とのことである。

 本論に入る前に、四次元超球面(超球面自体は三次元)上で2つのトーラス(円環、つまりドーナツ形のこと)が直交しながら噛み合うイメージを訓練しておこう。

 

 左の図は、超球面(x2+y2+z2+u2 = 1)の三次元ユークリッド空間への平射図法による投影である。楕円は三次元内の単位円のつもりである。図の中央の原点が超北極(0, 0, 0, 1)で、上の青とシアン(青緑)の交点が北極(0, 0, 1, 0)、右の緑と黄色の交点が超赤道上赤道上の経度90度の点(0, 1, 0, 0)で、左下の赤とマゼンタ(赤紫)の交点が超赤道上赤道上の経度0度の点(1, 0, 0, 0)である。南極(0, 0, -1, 0)は下の青とシアンの交点だが、超南極(0, 0, 0, -1)は方向不定の無限遠にあって、見ることはできない。
 赤はX軸で、超球面上のy=0, z=0の線である。同様に、緑はY軸でz=0, x=0、青はZ軸でx=0, y=0である。黄色の円は超球面上のz=0, u=0の線、シアンの円はx=0, u=0、マゼンタの円はy=0, u=0である。
 右の図は、(元の四次元空間内の)xy平面を回転中心として四次元空間内で30度回転させ、平射図法地図に投影したものである。左の図では座標軸に重なっていた赤線と緑線が、大きな円になって見える。これはもともと超球面上では円なのであって、左図ではたまたま直線に投影されたのであった。たとえて言えば、地球の赤道は大円であるが、たいていの地図では直線に投影される、ということである。円の大小も地図投影の結果であり、もともとは6本のすべての線は超球面上の大円である。
 右図をじっと見ると、緑とマゼンタの線は離れているが絡んでいて、直交する位置にある。赤とシアンも同様である。黄色と青は相変わらず単位円と直線であるのだが、これも絡んだ円の特別な場合と言える。
 緑とマゼンタの線を膨らませて、細いドーナツをイメージしてみよう。さらに同じ速度で膨らませて、ついに側面がぴったりくっっいたとイメージしてみよう。これが三次元に対応物のない、四次元独特の超球面上のトーラスである。回転し続けると、地図上ではトーラスが反転してしまうのだが、これは慣れていない人にはイメージ困難であろう。右図を反対方向に回転させたら、緑や赤の円が反対方向に閉じるのを考え、その途中で直線になる(つまり左図)場合にトーラスがどうなるかと考えると、少々助けになると思う。

 イメージの準備はできた。a-b柱の多角形の角数をmとnで表す。例として、5-7柱を考える。正七角柱が5個、正五角柱が7個、超球面上で円環状となり絡んでいる。
 何はともあれ、最初の正7角柱をイメージしてみよう。


5-7柱 (部分)

 上図は5-7柱になるように、正7角柱の大きさを調整している。白丸等は座標軸との交点である。白の線が曲がっているように見えるのは錯覚ではなく、これは四次元の原点から超球面に投影したので辺や面が少々膨らみ、さらに平らな三次元空間に地図投影した結果である。もちろん、正7角柱の辺や面は四次元空間内でも直線であり、平らな面である。
 左手前のかなり変形した五角形の元は正五角形で、正五角柱の「蓋」である。

 座標計算には、橙色の矢印の先の点を算出すればよい。他の点は回転操作で導出できるからである。まず、地図上で一つの正七角柱の(立体の)中心を原点(0, 0, 0)におき、側面の正方形の境界の辺を地図のXY平面に、辺の中点をX軸上に配置する。もし、5-7柱が構成できたとすると、地図上の(1, 0, 0)の点(ピンク色の丸)に正五角柱の蓋の正五角形(平面図形)の中心が投影されるはずである。
 これらのことから、橙色の矢印の先の点の座標を(a, b, 0, c) (ただし、a2+b2+c2 = 1)と置くと、図の正七角柱の中心は(0, 0, 0, c)、図の正五角形の中心は(a, 0, 0, 0)となる。角度は地図上ではなく、四次元空間上で考える。幸い、適当な平面図を描けば、簡単に計算できる。
 その結果、
  b = 1 / sqrt(1 + 1 / (sin2(π/n)) + 1 / (tan2(π/m)))
  a = b / sin(π/n)
  c = b / tan(π/m)
 であることが分かる。ただし、sqrtは正の平方根、πは円周率、sin2(x)は(sin(x))2を表す。

 次に回転であるが、正七角柱はx=0, z=0の平面を回転軸とする2*π/n度ずつの回転、正五角柱はy=0, u=0の平面を回転軸とする2*π/m度ずつの回転で得られる。結果は下図となる。


5-7柱

 再び、図は5-7柱の正確な図(それは三次元内ではどうやっても無理である)ではなく、超球面上に投影し、さらに平らな三次元空間に地図投影した結果であることを断っておく。
 5個の正七角柱は、中心を通って前後に(緑の直線に沿って)絞り出すような位置にある。地図では急速に広がり、かつ、宙返りしている。7個の正五角柱はかなり変形しているが、マゼンタの円の周りに配置していることが分かる。
 四次元内で回転させると、地図投影は別の印象の図になるだろうが、それはプログラム完成後の楽しみに取っておこう。

● コンウェイ胞の座標

 ここまでくると、コンウェイ胞の座標は一気に理解できる。コンウェイ胞は300個の正四面体と20個の反正五角柱が連結した立体である。頂点は正600胞体の座標がそのまま使えるので、このところ毎回使っている図が、ここでも利用できる。


コンウェイ胞 (大反角柱: Grand Anti-prism)

 この図は、元々正600胞体の頂点座標を把握するための図である。正600胞体の中心から四次元超球面に図形を投影し、さらに平射図法で三次元に投影し、そのXY平面を切り取ったものである。黒い直線がX軸(横)とY軸(縦)で、黒い円は単位円(u=0)である。緑の線は600胞体の辺の投影が、そのまま写像されている場所である。赤い線は、600胞体の表面の正四面体を構成する正三角形(の投影)とXY平面が交差している場所である。したがって、緑と2本の赤で囲まれた三角の部分は、この面の向こうと手前に正四面体が二分されている、その断面である。
 コンウェイ胞を構成するには、まず緑の円か直線に注目する。どれを採用しても良いのだが、ここではX軸上左の円(少々濃い緑の円)を選んでみた。この線が、10個の反正五角柱によるトーラスの中心を貫く円である。この円が、他の緑の線と交わる点には、それぞれ20個の正四面体が集まっていて、その表面は正二十面体を構成している。正二十面体は、上下の正五角錐の帽子を取ると反正五角柱になる。帽子を切り取るための補助線を灰色で示した。この線は、XY平面と反正五角柱の正五角形が垂直に交差している場所である。
 図では、マゼンタの濃淡で示したのが、10個の反正五角柱である。他の10個の反正五角柱は、シアンの色で塗った場所にある。図とは垂直方向にトーラスになっていることがイメージできると思う。白は残りの300個の正四面体に対応する。
 コンウェイ氏はこの図形の発見に大変な努力をなさったらしい。しかし、ひとたび発見されてしまえば、理解するのは簡単である。

2002年9月27日 岡田好一