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神様……

〜Whiteday in SELECTION〜


(神様……)  彼は、神に祈ったことなどなかった。
それでも、今日ばかりは頼ってもいい、そう思える。
彼は綺麗にラッピングされたお返しを持ち――

 彼女の部屋を、ノックした。

          ◆

 正太は、姉のためにクッキーを焼いたところだった。
それは丁寧にリボンをかけ、近くで見ていた鳴海を微笑ませる。
「お上手ですね」
 勝美のときとは違い、全く危険なこともない。
手伝うのにも、彼女は安心していた。
 因みに……先月のバレンタイン前、
勝美がキッチンに立ったときの戦歴を紹介しよう。

   運転手:調理中、異臭で倒れる。
   執事:怪しげな爆発に巻き込まれる。
   鳴海:試食に付き合わされる。

(あの時は、死ぬかと思った……)
 人間なかなか死ねないことを、身をもって体験した鳴海である。

「たっだいま〜」
 明るい声が聞こえてきた。
「おねえちゃんのこえだ!」
 数分前に包み終わったそのお返しを手に、
正太は姉のいる玄関へと走っていった。

 その一幕を見ながら、自然と笑ってしまう鳴海だった。

          ◆

「やあ〜♪」
 静かな夕暮れ時。
 占い師は瞑想して、能力を高めていたが――
その伸ばした声に、ぴくりと目を開けた。
「……何よ」
 邪魔された、不快だ、ということを示す声音。
目も完全に、入ってきた人物を睨んでいる。
「いや、これといって話すことはないんだけ――」
「なら、邪魔しないで」
 瞑想を中断せざるを得ないということに、
理由がないというのは彼女にとって許し難かった。
再び目を閉じる……。
 いつも情けなく自分を非難する声は、聞こえない。
不審に思って目を開ける。
 ABM店長の姿は既になく、
占いに使う台の上に、小さな箱が置かれているだけだった。
「………………?」
 恐る恐るそれに顔を近付け、疑問符を浮かべる。
その、いかにもな包装紙は……。
 本人が目の前にいるならば、ぽいと後ろに投げ捨てようものだが。
「……まあ、いいか」
 それを手にすると、占い師は箱を大切そうにしまった。

          ◆

「……………………………………」
 いつも以上に、月岡は考え込んでいた。
そう、その事実は普段より多い『……』からも見て取れる。
 彼が悩んでいるのは、たった一つ。
 ホワイトデーのお返しだ。

 真由がくれたチョコレートは、美味だった。
それも、手作りで。
手間が掛かっているとおぼしきチョコはハート形で、
しかもピンクのチョコレートで『LOVE』とか書いてあるものだから。
こっそり、隠れて食べようと思っていた。
 しかし、それは不可能だった。
 部屋に持ち帰って食べようとするも、
それと一対一で向き合う度胸がなく、
待合のスペースでチョコをかじったのだ。
そこで、最悪なことが起きた。
『おや、何ですかそれは?』
 チョコレートを隠す隙を与えず現れたのは、
あの皮肉屋、ハウンドだった。
驚きのあまりむせかえると、彼は悪気も感じていないように謝った。
『チョコレートですか。いいですねえ。
……その、文字は?』
 最も見付かりたくない人間に見付かってしまい、
しかも指摘されたくないところを指摘され、
月岡はI.F.発動しようかと本気で思った。

 この間真由を訪ねたとき、彼女の部屋にはぬいぐるみがあった。
それはどうやら、静原のお返しのようで。
誰が買ったのかと月岡は訝ったが、口には出さなかった。
 ため息をつきながら、何も持たず真由の部屋へと入る。
 ――駄目だ、今日はもう14日だ。
 そう感じていたが、真由は嬉しそうに駆け寄ってきた。
「月岡さん!」
 彼女の笑顔が、心なしか平常よりも明るく見える。
 真由の頭を撫でながら、
今日は何処へ連れて行ってやろうか、
そう考える月岡だった。

          ◆

(正気か、俺?)
 彼は、自分のしていることを恥ずかしく感じるようになってきた。
勢いでお礼の品を買ったはいいが……。
渡す相手が相手だ。
 首を振り、折角買ったのだからと思い直す。
その決意が変わらないよう、素早く移動した。

(神様……)
 彼は、神に祈ったことなどなかった。
それでも、今日ばかりは頼ってもいい、そう思える。
彼は綺麗にラッピングされたお返しを持ち――

 彼女の部屋を、ノックした。

「…………はい」
 現れたのは、西川絆。
冷たい視線が、アーサーを捉えている。
 怖じ気づきそうになったが、彼は何とか踏みとどまる。
「えっと……その……あー、なんだ」
「……何?」
 用がないなら帰れ、と今にも言い出しそうな雰囲気だ。
 アーサーはままよ、と持っていたものを絆に差し出す。
「…………え……?」
「だから、そのっ、………………
チョコ、うまかった。
その礼だ、そんだけ!」
 それだけ言い切ると、彼は脱兎のごとく駆け出す。
振り返りもしなかった。
 数秒間、予想外のことに呆然としていた絆だったが――
 はさんであるカードの、宛名を見た。
 『西川 絆さま』

「…………汚い字」

 口元をゆるめてそれだけ呟くと、
贈り物を手に、彼女は部屋の中へと戻った。



     後書き

 去年書いたバレンタイン話の続きのつもりで書きました。
前回出たキャラがいなかったり、その逆がいたりと、
今回は多少の変化はありますがほのぼの度アップです。
 真由のチョコにはハウンドの差し金で、
「シスコン」と書いてあるというAzami氏の説も魅力的だったのですが、
意味も分からず「LOVE」と書いてあるというネタを採用。
 そして今回青春で賞は、アーサーに決定。
でも絆さんは手厳しいです。

                                坂上 葵
                          2005/02/21 0:02 AM