これでいいのか日本語入力システム (2003年5月)
「キーボードの欠陥」で日本語キーボードの使いにくさを書いたが、それ以上に文章の入力効率を左右するのが日本語入力システム「IME」だ。多少のハードウェアの不備も、優秀なソフトウェアを用いれば改善できるはずだ。しかし逆に使い難くしているのが、Windows
XPの「IME2002」だ。それも、古いIME98より格段に性能が落ちている。
日本語入力の使いやすさは、日本のIT化の推進を左右する問題であり、もっと議論されるべきものだが、Webや雑誌などでもあまり話題になっていないようだ。問題の多くは、【バグの多さ】と【使いにくさ】に集約される。そこでIME2002の問題点や改善法を検討してみた。
なお、ナチュラル・インプット・モードは使ったことが無いので、スタンダード・モード"Microsoft
IME Standard 2002 Ver.8.1"についての話である。また、筆者Muleはカナ入力を常用している。
この記事を書くに当たって色々と調べたのだが、設定を変える度に動作が変わってしまうなど、あまりにも奇妙な動作をする場合があり、記述にいくつか勘違いや間違いがあるかも知れないけど、そのへんはご容赦を。たったこれだけの記事なので数日で書けるはずだったのに、何十回も書き直して、何ヶ月もかかってしまった。
- 1.IME2002の不具合/問題点
- IME2002には以下のような大量の問題点が存在している。""は僕のWindows
XP環境での不具合(バグ?)で、環境によっては再現しない可能性もある。
- 「言語バー」の、入力モードなどの表示が消えてしまう
- これは50%くらいの確率で起こる。盲滅法に入力してみるまで入力モードの確認ができないので、とても困っている。このバグはIMEとしては致命的だ。このために、打ち間違いがIME98よりとてつもなく増えている。
(※
盲滅法の「盲」が「めくら」の読みで入力できない。IMEの辞書まで言葉狩りすることが、障害者への配慮なのか?)
- Internet
Explorerのページ内検索でIMEが無効になる
- これは私の環境では「常に」発生する。全く漢字入力ができないので、日本語の文字列の検索ができない(別の入力エリアで漢字入力し、カット&ペーストして使っている)。検索以外にも、Webのアンケートや買い物のページでも住所や氏名の入力エリアでたびたび漢字入力ができないページがあり、円滑に商品を購入することもできない。
マイクロソフトが自社で開発した、最もよく使われるアプリケーションでIMEが使えないようにして、危険がいっぱいのネットでの買い物を敬遠するようにしてくれているなんて、粋な計らいだなあ。
- キーのカスタマイズの説明がでたらめ
- キーの設定を変更して使いやすくできるのは良いが、「機能選択」のダイアログボックスにある50個くらいの設定項目の、名称や説明文のかなりの項が実際の動作と一致していない。同名の項目もいくつもあって、とても設定に苦労する。
たとえば、「入力/変換済み文字なし」の列にある次のような設定項目では(カッコ内は説明文)、
半英固定(半角英数入力モードに切り替え):半角英数とひらがなのトグルになっている
半角(半角に変換):半角英数入力モードに切り替えとなる
直接入力(直接入力モードに切り替えます):全角と直接入力モードとのトグルとなっている
全英固定(全角英数入力モードに切り替え):「ひらがな・全角英字・半角英字のトグル」という、目的不明で名付けようのない妙な動作をする
…など、名称・説明・プレビュー(動作の例示)・実動作の四者が整合していない項がいくつもある。
また、「ひらがな」キーと「変換」キーに同じ「ひらがなキー」の機能を割り当てたら、「ひらがな」キーではIMEオフからIMEオンのモードになるけど、「変換」キーではIMEオンになっていないとモードが変わらない。同一の機能なのにキーによって動作が異なるというわかりにくさだ(どうやら「ひらがな」キーだけは、何も設定しなくても必ずIMEオンになるようだ)。
キーの設定変更の部分は特に、まるで開発途中のソフトのような完成度の低さだ。完成後に一度でもテストを行っていれば、絶対にこんな状態ではありえないはずだが。日本語を読めない外国人が製造して、日本人が一度もテストを行わずに出荷しているのだろうか。こんな商品を”日本語Windows”と称するなんて、もうほとんど詐欺である。
- 辞書の学習機能が変
- たとえばこの文章を入力中に、「項目」という単語を何度も入力しているが、何回目かに突然「江目」などと変換されてしまう。この間別のソフトを使っているわけでもないのにもかかわらずだ。これほど目茶苦茶な学習をするIMEは前代未聞だ。学習機能にとんでもないバグがあるとしか考えられない。
- 候補と実際の字のデザインが違う
- "…"という記号は、変換中の候補一覧には""と表示されるので、いつも"…"を探すのに苦労する。そういう記号は他にも"●","□"などいくつも存在する。わざわざ違うデザインの字を表示するという方が難しいだろうに、あえてそういう困難に挑戦する開発者には感心させられる。
- 半角カナの直接入力モードになることがある
- ごく稀にしか発生しないが、こうなってしまうとPCを再起動するまで英数文字が直接入力できなくなる。キーをでたらめに何十個もたたいた時に発生するようで、再現不能なので詳しくは追求できていない。本来、半角カナを直接入力するモードは無いはずだが、隠しコマンドか何かなのだろうか?
他にも、モード表示では間違いなく「ひらがな」モードになっているのに英字しか入力できず、ひらがなキーを何度押しても直らない、なんてことがたびたび発生する。
- 言語バーのCAPS,KANAの状態表示が極端に小さい
- 自社で「アクセシビリティーを重視せよ」とガイドラインまで作っておきながら、極端に小さいボタンで視認性もクリックのしやすさも最悪な上に、「カナ」を「KANA」と表記するなど、高齢者・障害者への配慮のカケラも無い秀逸なデザインだ。なんたって、TVのパソコン講座で「この小さくて押しにくいKANAボタンをクリックしてください」と指導していたくらいで、教育講座からもお墨付きの使い辛さだ。情報格差(digital
divide)の拡大にも役立つこと間違いなし!
- 設定値の保存/読み込み機能が無い
- Windows XPのCD-ROMにせっかく新設された「ファイルと設定の転送」機能でも、IMEの設定情報だけは対象外となっている(しかもそのことが明言されてない)。日本語版独自の機能は含まれないという、手抜き仕事の見事な見本だ。
RegCometを利用すれば同一構成の同一OSへは復元できる(ちょっとCM)が、他のバージョンのIMEや別ユーザー、別PCへは移行できるとは限らないので、やはりWindowsに標準で備わっているべきだろう。
PCを買い換えた時に別PCへ設定値の移行ができないのに、カスタマイズ機能だけいくら充実していても全く無意味でしょ。
- IME98にはあった「直接入力のときにIMEツールバーを隠す」の機能がない
- これができると直接入力か漢字入力かが判別しやすく、入力効率がかなり良くなるのに、無くなってしまい困っている。
マイクロソフトのサポート技術情報には、「IME2002の言語バーはテキストサービスによって提供されているため機能を無くした」というような意味不明の理由が書いてある。わざと部外者には意味がわからない説明をするところに開発者の”逃げ”を感じる。マイクロソフトの言う「バージョンアップ」「より便利になりました」とは、開発者にとってより便利になることらしい。
- 名称が英語
- 日本語入力システムなのに名称が"IME"だし、設定ダイアログボックスでのIMEの方式の名称は"Natural
Input"だの"IME Standard"だの、高齢者にも子供にも読めない英語表記だ。
名称が英語だと、日本語入力できないInternet
ExplorerでもIMEの情報が検索できる。あっそうか、そのために英語の名称にしたのか。
- IMEのアップデートができない
- マイクロソフトのサイトで「IME2002」をキーワードにして検索すると、検索結果として80項ほどが表示される。しかし、上記の不具合のほとんどは報告すらされてないのも不可解だ。
検索結果のどれが問題点や不具合の報告なのか判然としないが、どうもパッチらしいものが見あたらない。「ダウンロード」のサイトで検索しても、IME2002用のパッチは「無し」となっている。Officeとセットでのパッチはあるようだが、Officeユーザー以外はアップデートできないし、Windows
XPのSP1は容量が大きい上に致命的なバグの噂が絶えないので適用できない。IME98にはなかった不具合がこれだけ増殖しているのに、単独の修正パッチを提供しないなんて、マイクロソフト製品ではいつものことだけどね。
- 2.IMEの使い勝手改善のアイデア
- バグは論外としても、現在のIMEはきちんと使い勝手を研究して設計されているとはとても言いがたい。こうすればもう少し使いやすくなるのに、と思っていることを列挙してみた。
- 各文字種モードへの直接移行キー
- キーの入力モードは、全角ひらがな、全角カタカナ、全角英数(大小文字)、半角カタカナ、半角英数(大小文字)の7通りなわけだが、それぞれのモードの切替がトグルだったりモード移行だったり、半角英数には直接入力と間接入力モードがあったりと、どうも未整理でわかりづらい。
トグルではなくモード移行ならば、モードの表示を見なくても打ち間違いが減るはずだ。つまり各々のモードへ直接移行できるキーを数個用意すればすっきりするんじゃないだろうか。英大文字はシフトで済ませ、カタカナは常に変換入力するならば、ひらがな・全角英数・半角英数の
3個あればいいだろう。
「各文字種モードへの直接移行キー」の実現
- 文字カーソルの色と形で区別
- そもそも、キーを打ったらどの文字が出てくるかを確認するために、文字カーソル(キャレット)の位置とIMEの言語バーの間(ブラインドタッチができない大多数の人は、さらにキーボードも)を絶えず視線を移動させなければならないというのは、効率性からも健康上も非常に問題のある仕様だ。
文字カーソル自体の色や形で入力モードを表示するのが、打ち間違いを防ぐのに最も有効だと思われる。マイクロソフト製品にも、上書きと挿入のモードを文字カーソルの形状で区別しているものがあるんだから、それがわかりやすいことはわかっているはずだ。
たとえば、
ひらがな・カタカナ・英数字の区別 =
青・緑・赤の色別
全角・半角 = 文字カーソルの幅を変える
挿入・上書き = 上書き時は"■"、挿入時は""というように、文字カーソルの高さを変える(Delphiのエディタにもそういうモードがあるくらいなので、実用性は証明されている)
…というように、IMEかWindows自体に組み込めば解決するはずだ。
文字カーソル自体の色じゃなくても、文字カーソルの近くに入力モードが表示されてもよいだろう(下記第4項フリーソフトで実現されている)。
- 言語バーの改善
- せめて言語バーの状態表示を改善してほしい。大きさや色の変更、デザイン変更など、もっと融通性があってもいいはず。
入力モードの確認は、視野の端にチラッと見えているだけのものを識別すべきものなので、小さなウィンドウ内に"あ"とか"A"とか表示されているより、色や形が変化する方が識別しやすいはずだ。
大きさを今の数倍まで拡大できるよう設定できて、入力モードが色分けなどで一目でわかるよう、たとえば
ってな感じに変化すれば、使い勝手は劇的に良くなると思う。形も丸・六角形などに変えるともっとわかりやすいかも。
- キーボードの改良
- キーボードに入力モードを示すランプ(LED)を追加して示す。多くの初心者(に限らず)はキーボードを見て打つので、「ひらがな/カタカナ/英数字」「全角/半角」などのランプがあってもいいはず。ランプじゃなくて上図のような入力モード表示がカラー液晶で表示されたら最高だね。CPUクロックや筐体内温度を本体に液晶表示するPCがあるんだから、まんざら絵空事でもないと思うんだけどな。
- 音の活用
- 昔のパソコンに、英字とカナのモードを違う音で知らせてくれる機種があったらしい。打鍵時に音程や音の長さを変えて音で入力モードを示すのも意外と便利かも。
- 変換候補一覧の改良
- 漢字の変換候補一覧で、候補が何十個もある時に9個ずつしか表示されないのも、意味不明な仕様だ。特に「きごう」などの読みでは何百個も候補があり、目的の文字を捜すのに一苦労だ。50〜100個単位で表示するオプションがあってもいいのでは?
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- ★
入力モードの通知法などは、設定で上記のいくつかの方法を併用できるようになっていれば、障害者や高齢者にもずっと使いやすいパソコンになるに違いない。障害者や高齢者に使いやすいPCは、それ以外の人にも使いやすいのは当然である。
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- 3.設定変更による操作性の向上
- こうした使いにくさを少しでも回避すべく、悪戦苦闘の結果たどりついた僕の工夫を紹介しておく。
- 言語バーを画面左上隅に配置
- モニタは視線が少し下を向くように設置するのが健康上良いと言われるが、そうすると画面上部が最も目に入りやすい位置になるので、タスクバーに入れて画面右下に表示されるより見やすい。
ただし、常にキーボードを見て打鍵する人は、画面下部の方がキーボードに近くて良いかも。
- 言語バーには「入力モード」だけ表示する
- 画面左上に横長の言語バーはちょっと邪魔になるので、最小限の項目だけ表示する。こんな感じ: (本当はCAPS,KANAの表示も不要だが、消せない)
- 「直接入力」の活用
- 標準では設定されてないが、キー設定のカスタマイズに「直接入力」という項目がある。これを使えば、IMEオンのまま英数字を直接入力でき、ひらがなキーで漢字変換の入力もできるので、IMEをオフにする場面はあまり無くなる。「無変換」キーなどに「直接入力」を割り当てればよい。
IMEオフから全角英数に直接切り替えるキーは無いが、IMEオンだとできる(英数キーなどの設定を「全角英数」に変更)ので便利。
- 文章入力時のマウスカーソル(Iビーム)の変更
- IMEとは関係ないけど、Iビームの規定値
""
を、自分でデザインした ""
(サイズを大きく、色付き)に変更したら、とてもカーソルが見つけやすくなって便利だ。っていうか、本来のIビームが見つけにく過ぎると思うんだけど。
- 4.キー入力の補助ツール
- 僕が使わせてもらっているフリーソフトを紹介しておこう(作者の方々に感謝します)。
- AltIME (CHOMBOさん作)
- キー入力の補助ツールだが、現在はEscと半角/全角の入れ替えだけに使用している。
- IME
Watcher (TAKUBONさん作)
- 文字カーソルの近くに、IMEのオン/オフ、かな/英字のシフト状態を表示してくれる素敵なソフト。特にIME2002では、上述したようにこれらがまともに表示されないので、必需品と言ってもいいくらいだ。上記第2項に書いたような、入力モードの表示に関して僕が必要としている機能の大部分を提供してくれるので、これがあればIME2002の言語バーは必要なさそうだ。
★ 総論
パソコンの日本語入力機能は、DOS時代から十数年、Windows
3.1の頃からでも10年も経っているのに、「使いやすさ」についてはいっこうに進歩していないどころか、退化しつつあるようにさえみえる。この進歩の速いPC業界で10年も進歩しないパーツが存在するなんて、まさに現代の奇跡だね。
全体的に、英語版のWindowsに日本語入力機能をとってつけたように付加しただけ、という印象が強い。DOS時代以来の旧態依然としたマン・マシンインターフェイスをそのまま何の疑問も持たずに踏襲しているという感じがする。人間工学的な調査・研究の上に開発されたようすがあまり無いのは、とても問題だ。
「ワープロ」という商品がほとんど製造中止になって、やむなくパソコンに買い換えた人も多い。ところがWindowsの日本語入力効率はワープロ専用機とは大きな差がある。Windowsパソコンを日本語ワープロとしてとらえた場合、欠陥商品と言ってさしつかえないレベルだ。このお粗末な状況をメーカーはどう説明する気だろうか。かつて富士通がOASISワープロでやったように、大胆にキー配列を変えてでも「こんなに入力効率が向上します」という主張をするメーカーよ、出てこい!
IMEメーカーも、変換効率のごくわずかな向上や、辞書機能・方言変換などの機能拡張をする前に、基本機能の見直し、操作性向上、バグつぶしに力を入れてもらいたいものだ。
IMEの改良は必ずしもマイクロソフトがやらなくても、他社のIMEでも実現できるはずだ。しかし残念ながら、他社といっても事実上ATOKしかなくなってしまったようだ。それに、ATOKのWebページにはそういう使い勝手の説明はないし、見たところマイクロソフトのIMEと大同小異のようで、試用版も無い。これでは無料のマイクロソフトIMEの利用者が新規に購入してまで乗り換えることは難しいだろう。
これだけ問題山積なのに、マイクロソフト以外がIME市場から続々撤退してしまっては、改善される望みは極めて薄そうだ。
日本語入力機能が万人に使いやすいかどうかは、日本社会のIT化に大きく関わっているはずだ。つまりIMEに日本の未来がかかっていると言っても過言ではないと思うけど、こんな情けないIMEに日本の未来をかけるなんて自殺行為でしょ。この文章を書いていて、本気で日本の将来が心配になってきたよ。
最後に、声を大にして言いたい : もっと楽に日本語入力したいっ!!
参考:IMEの専門サイト → Maniac-IME