SIKIBU秘話(序)〜

        

これは、SIKIBUを始めて作ったときのことを記録したものである。時代はMS−DOSの時代。
IMEもFEPと呼ばれていた時代である。ここに出てくるソフトはもうすでに発売されていないも
のばかりであるので、その点はご了承を。

【SIKIBU作成秘話(序)】
(94年9月 「@nifty」の会議室に掲載したものの抜粋)

 AISOFTのFEPに「WX2」という製品があるのは皆さんもご存じのことでしょう。WX2はその
変換効率もさることながら、柔軟性の高いカスタマイズが人気を支えている大きな点です。私
はこのFEPをATOKと松茸の辞書のコンバートのために購入しました。
 何事も新しい物好きの性格なので、その機能などを探り、またFAISWXというフォーラムを覗く
ようになるうちに、「上級者御用達ツール」の存在を知りました。そのツールに「は行4段動詞」
を登録する機能があることを知り、何とかしてそれを手にいれたいと思っていました。当時、
「上級者・・」は期間限定の商品であったため、その販売時期を逃した私には、手にいれるすべ
もなく、如何ともし難かったのですが、丁度去年の夏ごろでしょうか、追加販売の通知がきたの
です。迷うことなく申し込み、念願叶って手にいれることが出来たのです。(現在では店頭で常
時販売されています。)
 さて、「は行4段動詞」を登録すれば、古文の入力はすべて思うままになると思っていたので
すが、登録作業を進めるうちに不十分な点があること気付き、より完璧な「古文入力辞書」に
するための工夫を考えるようになり、「上級者・・」の機能を使って何とか実用に耐える辞書を作
ることができました。その工夫の過程、登録作業の手順を通して、「WX2」の辞書登録、辞書
作成のことの説明をしたいとおもいます。なにぶん私も1年ほどしか使っていませんので、その
方法が正しいのか自信がありません。詳しいことは、FAISWXで聞いてください。

 【SIKIBU作成秘話(1)】

1、はじめに

 最近はどのFEPでも登録単語をテキストファイルに落とすことができます。WX2の場合は次
のようなフォーマットで出力されます。

   》よみ<TAB>"単語":品詞名

活用しない語はそのまま、活用する語の場合は語幹だけを記述します。

 例 (名詞「丹」・動詞「会う」の場合)
   》あか<TAB>"丹":名詞
   》あ<TAB>"会":あわ行五段

また、自分でこの形式のテキストファイルを作れば、まとめて単語を登録することができます。
これを「一括登録」といいます。


2、動詞の種類

WX2で登録できる動詞には次のものがあります。

【標準】(WX2に標準で付いてくるツールで扱える品詞)
  一段動詞  あわ行五段  か行五段  さ行五段  た行五段
  な行五段  ま行五段  ら行五段  が行五段

【拡張】(「上級者御用達ツール」で扱える動詞)
  ば行五段  さ変動詞  ざ変動詞  ら変動詞
  あわ行五段う音便  は行四段


3、「は行四段動詞」の登録

 念願の「上級者・・」を手にいれましたから「は行四段動詞」をまず登録しました。

 まず、もともと登録されている「あわ行五段動詞」をすべてテキストファイルに抜き出し、品詞
名をエディタの一括変換で「は行四段」に変更しました。

   》あ<TAB>"会":あわ行五段  →  あ<TAB>"会":は行四段

 これを「上級者・・」の拡張一括登録で登録します。これで「は行四段動詞」の登録が完了しま
した。

 このままでも十分ですが、語幹の仮名遣いを旧仮名遣いに修正すれば、完璧です。

   》わづら<TAB>"煩":は行四段

4、「上二段動詞」「下二段動詞」の登録

 「は行四段動詞」を登録できて、うきうきしているのも束の間。古文特有の動詞は外にもある
ことに気が付きました。 そう「上二段」「下二段」の動詞です。そんな動詞は、普通では登録で
きません。「上級者・・」で登録できる品詞にも含まれておりません。 やはり古文専用の辞書は
作れないのかと思っていたある時、ごまかせば何とかなることに気が付きました。それは「一つ
の単語を2つに分けて登録する」ということです。

  上二段動詞「落つ」を例にとって、説明します。

「落つ」は口語では「落ちる」です。単語一覧で見ると「落ち」と登録されています。

   》おち<TAB>"落ち":一段動詞

いま、「落ちる」と「落つ」の二つの活用を比べてみると、こうなります。

語幹未然連用終止連体仮定(已然)命令
落ちるちるちるちれちよ(ちろ)
落つつるつれちよ

違うのは、「終止」「連体」「仮定」の3ヶ所ですね。

 WX2は「落ち」までを語幹として判断し、「終止」「連体」「仮定」「命令」に「る」「れ」「よ」をつけ
る事によって活用させています。
つまり文語にするには、「終止」「連体」「仮定」の語幹が「落つ」であればそれに「る」「れ」をつ
けるので、結果として「落つ」「落つる」「落つれ」という活用が生れるのです。

そう、「落つ」を一段動詞として新たに登録してしまえば問題は解消されるのです。
 
語幹 未然 連用 終止 連体 仮定(已然) 命令
落つ つる つれ つよ

 「未然」「連用」「命令」が変ですが、どうせこんな入力はされませんので、影響はありません。
これでめでたく二段活用の動詞が出来ました。

 WX2に登録されていた「一段動詞」をテキストファイルに抜き出し、次のように修正して一括
登録しました。

   》おち<TAB>"落ち":一段動詞 → おつ<TAB>"落つ":一段動詞

こればかりはエディタの「一括置き換え」というわけにはいきませんので、こつこつと確認しなが
ら置き換えをしました。(疲れた)

 文章を入力しながら、新しく二段動詞を登録する時は、イ段とウ段の両方で登録する必要が
あります。手間がかかりますし、私などは何段だったか自分でも忘れて、30秒ほど考え込むこ
ともしばしばです。(情けなし)


5、「上一段動詞」「下一段動詞」の登録

古文特有の上一段動詞はおよそ十数個、下一段動詞は「蹴る」だけですから、学校で使ってい
る文法のテキストを見ながら普通に一段動詞として登録します。(何等テクニックの必要なし)

これで動詞はすべて登録できました。語幹の仮名遣い、登録されていない固有の動詞を補足
してゆけば完璧に近づきます。


次回は形容詞


 【SIKIBU作成秘話(2)】


    変格活用の動詞

1、お詫び
 前回で、動詞の話は完了したつもりでしたが、変格活用を忘れておりました。今回は、変格
活用の登録についての話をします。


2、動詞活用の変遷。

古語の動詞の活用と、現代語の活用は、次のような対応関係があります。

  古語         現代語

  四段動詞       五段動詞
  上二段動詞      上一段動詞、
  上一段動詞      上一段動詞
  下二段動詞      下一段動詞
  下一段動詞      五段動詞
  か行変格活用     か行変格活用(古語とは少し異なる)
  さ行変格活用     さ行変格活用(古語とは少し異なる)
  な行変格活用     五段動詞
  ら行変格活用     五段動詞


前回は上の5つの説明をしたことになります。今回は下の4つを説明します。


3、「な行変格活用」

「死ぬ」と「往ぬ(いぬ)」の2つだけの活用形です。

         語幹 未然 連用 終止 連体 已然  命令
古語  死ぬ し   な に ぬ ぬる ぬれ ね      
現代語 死ぬ し   な に ぬ ぬ ね ね

「未然」「連用」「終止」「命令」が四段的、「連体」と「已然」が下二段的に活用するのがポイント
の変格活用です。
もうどうすればいいか解りますね。そう「死ぬ」を一段動詞で登録するのです。

  》しぬ<TAB>"死ぬ":一段動詞


5、「か行変格活用」

「来(く)」だけの活用形です。

  語幹 未然 連用 終止 連体 已然 命令
古語     く  こ き く くる くれ こ 
現代語    来る こ き   くる くる くれ こい

問題は「終止」。何とかしようとして登録をした「来」に関してのごみが「SIKIBU03」の中にありま
す。これはほんとにごみなので、
すぐに捨てます。意味はありません。(「連用形+.一段動詞」なんてやつ)

終止だけが問題なので、ずばり「名詞」で登録!(強引すぎますか?)

  》く<TAB>"来":名詞

命令形は無視(不都合ならば、同じく名詞で登録)


4、「さ行変格活用」「ら行変格活用」

さ行変格活用(「す」だけ)

  語幹 未然 連用 終止 連体 已然 命令
古語    す せ し す する すれ せ 
現代語  する  し し する する すれ しろ

ら行変格活用(「あり」「をり」「はべり」「いまそかり」)

  語幹 未然 連用 終止 連体 已然 命令
古語 あり あ ら り り る れ れ
現代語 ある あ ら り る る れ れ

「か変」「さ変」の2つは、実は「SIKIBU03」では何もしてません。実はそのままで変換されるので
す。

「ぱとかーおうとうせず     (変換) パトカー応答せず」
「せんせいのいだいさにけいふくす(変換) 先生の偉大さに敬服す」
「しょくはかんとんにあり    (変換) 食は広東に有り」

ほらね。

多分、口語辞書でもある程度文語表現には対応していますから、文法的に違うはずでも実験
をしてみると変換出来たりします。

まあ助動詞との関係で困ることもあるかもしれませんが、未だ顕在化せず。不都合が生じるよ
うなら教えてください。

あとは単語の補充
「をり」「いまそかり」をら行五段動詞で登録

「SIKIBU」の基本は"ごまかすこと"ですから、仮名表記だけの単語にはあまり頓着しない方針
です。


次回こそ形容詞(もう落ち度はないかな)


 RE:【SIKIBU作成秘話(2)】



先日UPした内容に間違いが在りましたので訂正いたします。


》「か変」「さ変」の2つは、実は「SIKIBU03」では何もしてません。
  「ら変」


》あとは単語の補充
》「をり」「いまそかり」をら行五段動詞で登録
             ら行変格動詞

 せっかく上級者にら変動詞が登録出来るようになっているのに、なぜ使ってないのだろうと不
審に思った方もいらっしゃると思いますが、実は「ら変」については、上級者で登録出来ること
を知らなくて(気が付かなくて)、「ら変」の活用はSIKIBU03ではみんな「ら行五段」で登録してい
ました。(恥ずかしい)
 今後の説明では「ら変型」の活用語の登録は正しく「「ら変」で登録」と説明します。実際の
SIKIBU03の登録内容と違ってしまいますが、ご了承ください。

時間がとれた時に、「ら変」に関する部分を修正したSIKIBU04を作成します。