キーボードのキー配列(歴史)

  キーボードのキー配列の歴史について、解説します。

                            [2005.05.24]
                            [2005.07.18 更新 ]( → 注記


 

QWERY配列


   ┌─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┐
   │  
   └┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
    │   
    └┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┘
     │    
     └─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┘
 

 この配列は、英語入力の標準的なキー配列だ。日本語キーボード(JIS)もこの配列に従っている。
 ただし、この配列は、打ちにくいことで有名だ。そこで、人々は不思議に思う。「何でこんな打ちにくい配列なんだ?」と。そこで、次の説が出た。
 「わざわざ打ちにくくしたんだ。キーボードの印字棒がぶつからないように。というのは、打ちやすいと、あまりにも速く印字棒が動くので、印字棒がぶつかってしまうからだ」
 これは、私は当初は疑問に思ったが、根拠があるようだ。というのは、異なる金属棒が、タイプライター内部で、ほぼ同じ位置に来ることがあるからだ。すると、衝突する危険がある。
 ( → Open ブログ のコメント。「by エンドウ at 2005年07月06日」の記述。)

  このコメントを引用すると、次の通り。
 印字棒(タイプバー)は絡まりはしませんが、輻輳して抜き差しならない状態にはなります。
 タイプバーは先っぽに活字があり、もう片方の端は熊手様に束ねられています。キーをタイプすると、束ねられた方を支点としてバーが起き上がって紙をタイプし、その後もとの場所に戻る様な仕組みになっています。
 バーが戻りきらないうちに別の文字をタイプすると、そのバーも印字箇所をめがけて突っ込みますので、バー同士が衝突・接触して動かなくなることはあります。

 さて。それはそれとして、「わざわざ打ちにくくした」という説には、問題がある。次の理由があるからだ。


  QWERTYでは「TY」「TH」「ER」は打ちやすいように配置されている。

   ( → 参考サイト1参考サイト2 の記述による。)

 なるほど、その通り。理屈から言えば、そうだ。
 というわけで、「わざと打ちにくくした」という俗説は、どうやら正しくない。
 では、何が正しいか? 「中段では DFGHJKL という並びがあるが、これはアルファベット順だ。だから、アルファベット順に基づいていたのだろう」という推察がある。(参考サイト1 の姉妹ページにある。 → 該当ページ

 このページの記述にヒントを得て、さらに発想を展開して、私なりにまとめてみた。すると、次のように推察できる。

 まず、最初にあったのは、次の配列であっただろう。

  《 初期 》


   ┌─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┐
   │          
   └┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
    │   
    └┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┘
     │         
     └─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┘
 

 これを左から見ると、ほぼアルファベット順になっている。つまりこれは、「A」〜「M」までを、キーボードの中段付近に、単純に並べただけだ。
 これが基本となる。

 このうち、青字部分は、QWERTYと共通する。だから、そのまま維持してよい。

 残り(上図の空欄に相当する文字)は、 次の三グループだ。
   上段:Q W R T Y U O P
   中段:S
   下段:Z X V N
 これらを、どう配列するか? 次の二通りによる。
 (1) 左手薬指のBは、頻度が低いので、Sに交換する。
   つまり、Sはの位置に置く。Bだけは交換される。
 (2) 残りの「 Q W R T Y U O P」と「 Z X V N 」は、「打ちやすさ」の順で決める。
   ・ 頻度の高い「 R T Y U O 」と 「 N 」は、打ちやすいところに置く。
   ・ 頻度の低い「 Q W 」と「 P 」と「 Z X V 」は、打ちにくいところに置く。

 まとめ。
 「QWERTY配列は、わざと打ちにくくした配列ではない。基本的には、アルファベット順に基づいた配列である。中段は、それで決めた。ただし、部分的に、アルファベット順からはずれる配列にしたところもある。その部分(上段・下段)では、打ちやすさを考慮して、配列した」
 合理的に考えれば、こう考えるしかあるまい。

 ( ※ なぜ QWERTY配列は打ちにくいのか? 実は、それは、当然だ。当初はブラインドタッチ[タッチメソッド・タッチタイピング]などはなくて、片手一本指打法または両手一本指打法のどちらかしかなかったからだ。今でも、この方法で打つ人は多い。ありもしないブラインドタッチのための配列など、もともと考慮するはずがなかったのだ。これが正解。「わざわざ打ちにくくした」というのは、不正解。上記の参考サイト2 を参照。)
 ( ※ ついでに言えば、ケータイの配列だって、親指一本打法を前提とした配列だ。これを「ブラインドタッチを考慮していない」と批判するのはおかしいし、「わざわざ五本指用には打ちにくくしてある」と批判するのもおかしい。)



 注記

 ここまで記したあとで、新たな情報を得た。そこで、ここまでに述べた話では、「N」に関する記述をいくらか修正してある。さらに、追加となる話もあるので、以下で述べよう。

 新たな情報というのは、前述の「参考ページ」で記したサイトの作者から、ブログ上で連絡を受けたものだ。( → Open ブログ 07月05日
 それによると、初期の QWERTY配列は、現在のものとは、少し違っていたという。 ( → 安岡氏のページ [pdf] 。)

 これによると、キーボードの中段は、現状と初期とで、次のように違う。

    現状    ASDFGHJKL
    初期    ASDFGHJKL

 つまり、現在の  になっている箇所は、初期の QWERTY配列では M であったのだ。
 さて。そうだとすれば、ここまで私の述べた説は、一挙に瓦解してしまうだろうか? いや、そうではない。逆に、補強される。

 よく考えてみよう。初期の QWERTY配列では、この位置に、Mがあった。とすれば、その分、アルファベット順になっている文字が一つ増えたことになるのだ。

   FGHJKL

 このうち、 に着目しよう。現在の配列では、Mはここではないのだが、初期の QWERTY配列では、Mはここにある。その分、アルファベット順である度合いが高まる。
 とすれば、「アルファベット順で並べた」という説は、いっそう、信頼度を増す。「原型となる配列(初期の配列)では、たまたまここに M が置かれた」という偶然は、確率的に非常に小さいからだ。
 私が「アルファベット順」という説を出したとき、「初期にはMもアルファベット順だった」とは見なさなかった。(現状に従うと、ほぼアルファベット順に準じるが、完全なアルファベット順の位置ではないはずだった。)
 ところが、初期の配列を見ると、「Mはまさしく、完全なアルファベット順の位置にあった」と判明したわけだ。初期の配列は、想像以上に、「アルファベット順」で構想されていたわけだ。
( ※ その後、何らかの事情により、配置を換えたらしいが。それはまた別の話。)

 結局、初期の QWERTY配列は、アルファベット順にかなり忠実に配列されたのだろう。

 ただし、26文字すべてがアルファベット順だったわけではなかった。
 特に、上段と中段と下段とに区別するときに、一定の配慮をした。すなわち、よく使う文字である「アルファベットの最初の方」を、中段に配置した。その後、残りの分を、適当に、打ちやすさで並べたのだろう。つまり、
  ・ 中段は、アルファベット順で
  ・ 上段と下段は、打ちやすさで
 というふうに、二重の基準で、配列されたわけだ。

 これに対して、その二重の基準を見抜けないで、ただ一つの基準があると仮定すると、どんな基準も適合しない。そこで、「基準などはなかった。まったくのデタラメに並べた」と結論する人が多い。
 人々は、いわば、隠された規則が見えなかったのだ。……ここには、一種の「暗号」があったのだが、その「暗号」を解くカギを、これまでの人々は見出せなかったのだ。「カギは一つだけだ」と信じていたがゆえに。




 後日記 ( 2010-02-05 )

 QWERTY配列は、初期の試作品から、ほぼこの配列である。Mだけは位置が違うが。( → 出典[pdf])
 ただし、そのまた原型となる配列も、推定できる。私は次のものが原型だったと推定する。

   原型配列?


   ┌─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┬─┐
   │  
   └┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┐
    │  
    └┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┴┬┘
     │     
     └─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┴─┘
 

 QWERTY 配列と異なるのは、ピンク色の文字の部分である。
 上段には、次の順序が見られる。(一部は塗りつぶした。)

       Q ■ ■ R S T U

 下段には、次の順序が見られる。(一部は塗りつぶした。)

       V X Y Z

 つまり、上段も下段も、アルファベット順がいっそう成立する。これが原型であったはずだ。
 そして、この原型配列をもとにして、ピンク色の文字だけをいくらか移動させた。それでも、青色の部分だけは、そのまま残った。……そういうふうにしてできたのが、現在の QWERTY 配列であろう。

 つまり、原型配列を元にして考えれば、QWERTY 配列はどう決められたかもわかる。
  ・ 最初は、アルファベット順にもとづく「原型配列」を採用した。
  ・ その原型配列を打ちやすくするために少し修正した。
 こうしてできたものが QWERTY 配列だったのだろう。
 その意味で、 QWERTY 配列は、かなり合理的に決められた配列だったと言える。決して「デタラメな配列」ではないし、「わざと打ちにくくした配列」でもない。当時の人が、それなりに頭を絞って、合理的に決めた配列なのだ。

( ※ ただし、ブラインドタッチのためには適していない。それは当然である。当時は「ブラインドタッチ」なんていう入力法は存在しなかったからだ。当然、片手一本指または両手二本指で打つことを前提とした配列であったはずだ。前述の通り。)
( ※ なお、どうして原型配列があったと推定できるかというと、青色の部分がそのまま QWERTY 配列で保たれているからだ。そのことは決して偶然ではありえない。)




 付録

 QWERTY配列は、世界共通の標準配列ではない。英語圏だけの配列だ。
 仏語圏では「Q」と「A」、および、「W」と「Z」を交換した「AZERTY配列」が使われ、独語圏では「Z」と「Y」を交換した「QWERTZ配列」が使われる。
 詳しくは  → 参考サイト3

 なお、OEA配列では、仏語や独語で、独自のキー配列を使う必要はない。なぜなら、仏語でよく使うQ(QU)や、独語でよく使うZは、特に打ちにくい位置にあるわけではないからだ。
 一方、Dvorak配列では、仏語でよく使うQ(QU)や、独語でよく使うZは、かなり打ちにくい位置にある。独語や仏語には向いていない。

 さらに言えば、日本語との相性もある。OEA配列は、英語よりも日本語に最適である。一方、Dvorak配列は、日本語には向いていない。左手の人差し指がやたらと酷使されて、疲れてしまうのだ。そのため、Dvorak-JP のような修正版が提案され、こちらを使う人が多い。しかし、そうなると、日本語と英語とで、異なる配列を使うことになる。Dvorak と Dvorak-JP とは、よく似ているが、はっきりと異なる配列である。二つの配列を覚えるとなると、脳の負担は大きくなる。上級者にはいいが、初心者にはまったく向いていない。
 実を言うと、Dvorak-JP は複雑な規則があり、初心者が覚えるのはまず不可能だ。他にも日本語用途の Dvorak 改良版がいくつもあり、いずれも方言のようにたくさんある。
 要するに、QWERTY であれ、 Dvorak であれ、英語以外の用途も考えるなら、方言のような配列をいくつも覚える必要がある。一方、OEA配列なら、英語も仏語も独語も日本語も、全部まとめて、一通りを覚えるだけでいい。(各言語に限定される特殊な記号は別だが。たとえばウムラウトのある母音。)

 [ 付記 ]
 OEAは、良いことずくめのように思えるかもしれないが、そうではない。実は、「英語を高速に入力する」という点では、Dvorak よりもいくらか劣る。
 Dvorak は「英語の高速入力」に特化した配列である。
 OEAは、「高速入力」よりも「低疲労」を理念とした配列だ。そのため、「高速」はいくらか犠牲にされている。また、「脳の負担を減らす」のを理念としており、各国語を一つの配列で済ませようとしている。その分、「英語の高速入力」という点では、Dvorak にいくらか劣る。(QWERTY よりはずっと優れるが。)
 Dvorak の愛好者は「OEAは英語の高速入力の点では劣る」と指摘することがある。それはその通り。もともと、求めるものが異なるのだから、仕方ない。

 ( ※ OEAでは、よく使う文字が並んでいることが多い。そのせいで、一つの指で続けて連続的に打鍵しなくてはならないので、速度が低下するハメになる。とはいえ、これは、疲労を高めることにはならない。たとえば、OEAで「CH」と打つと、人差し指を続けて二回打鍵することになる。とはいえ、ここでは、「C」と打ったあと、その指をホームポジションに戻してから「H」と打つだけだ。二回打鍵するが、指を移動する回数は、実質的には「C」の一回だけだ。なぜなら、次の「H」はホームポジションにあるから、指を移動することにはならないからだ。……こういうふうに、OEAでは、指の移動量を減らすことを、最優先にしている。つまり、疲れないことを、最優先にしている。その分、速度は遅くなるが。……ただし、短時間ならともかく、長時間打つなら、疲れない方が最終的には速くなるだろう。ウサギとカメのようなものだ。疲れる配列は、途中に休みが必要なので、最終的には遅くなる。)
 ( ※ 具体的に示そう。Dvorak では、「WR」や「BL」のような文字を高速で打てるが、指は非常に疲れてしまう。試してみると、すぐにわかる。また、日本語版では特にひどくて、左手人差し指ばかりが極端に疲れてしまう。この件は、前述。)



  このページの作者

      氏 名    南堂久史
      メール    nando@js2.so-net.ne.jp

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